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何をやらかしてくれるのでしょうか

#142 前日とかって目が冴えるのデス

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SIDEファイス

…‥‥都市アルバスのとある宿屋の中、その人物は室内でワインを飲んでいた。

「ふぅ‥‥‥いよいよ明日か」

 彼、いや、彼女なのか、その中性的な見た目ではどのような言い方かわからない人物、ファイスはそうつぶやく。

 以前、ハルディアの森でであった人物へ手紙を送り、再び相まみえようとする予定を控え、ちょっとばかり目が冴えて眠れないのである。


「ああ、義体なのに睡眠欲求があり、けれども眠れない地獄をなんというのかねぇ?スアーン」
「いや、俺ーっちに言われても、答えようがないのだが」

 同室に泊めた、護衛代わりの青年、スアーンに対してファイスはそう問いかけたが、意味は無かった。

「と言うか、初対面時のあのうねうねと蠢く姿はな何だったんだよ‥‥‥‥劇的に変わり過ぎているんだが」
「いやだなぁ、あれはわたしの持つ義体の一つの姿なんだよ。とは言え、この義体の製作者とはまた違うけれどね」
「というと?」
「この義体はとある錬金術師製なんだけど、あの義体はちょっとばかり言いようがないとある人……いや、違うな、人でもなければモンスターでもなく、かと言って……まぁ、とりあえずおぞましき何かしらの物体によって製作されたお気に入りの義体ってことで良いか」
「何かしらって何だよ…‥‥」

 色々とツッコミを入れたいが、どうしようもないのを彼は理解していた。

 攫われ、働かされ、色々と話を聞かない様な面倒さを見せられていたからだ。

‥‥‥逆らって逃亡したいが、元のいたところへ戻るにはまだまだ尽くさないとダメなようだし、面倒だとしてもあきらめるわけにはいかない。

 はぁっと溜息を吐きつつ、苦労人臭を漂わせながら、ファイスの長々とした暇つぶしの話に、嫌々付き合うしかないのであった‥‥‥‥




―――――――――――――――――――
SIDEシアン

「…‥‥なんか眠れないな」

 ファイスという得体の知れな相手との再会を明日に控える前夜、僕はなぜか目が冴えていた。

 遠足を楽しみにして眠れなくなる子供でもないし、そもそも楽しみと言う訳ではない。

 なんというか、緊張しているような感覚がする。



 寝不足で挑むのは不味いとは思うが、眠れないものはしょうがない。

「あ、というかこのままだとハクロ来るかも?」

 ふと、話題を切り替えて頭の中を整理して眠ろうと試みる中、僕はそのことに気が付いた。

 
 まだまだ続くハクロの捕食本能。

 ワゼの見立てでは、おそらくあと2,3日ほどで収まる可能性があれども、いまだにがぶりと甘噛みをしてくるハクロ。

 夜中はこうして別室で寝ていても、いつの間にか侵入し、朝に目覚めると彼女が変わった体勢で甘噛みをする姿を拝む羽目になったが…‥‥もしかすると、今夜もまた侵入してくるかもしれない。

 寝ている時ならばともかく、こうして起きている時に、寝ながらハクロがやってきたらドキドキしそうである。

「何にしても、毎朝こられてもなぁ‥‥‥」

 ハクロの容姿は美女だ。

 下半身の蜘蛛部分があるとは言え、それすらも己の特長として生かせるような、生きた芸術作品のような彼女が毎朝横で甘噛みしながらも寝ている姿は、少々扇情的である。

 僕だって男だし、我慢している時があるが‥‥‥‥踏み出しにくい感覚があった。


 いや、告白もしているし、恋人のような者なので次の段階というか、先へ進むこともできるのだろうけれども…‥‥寝ている彼女に対して襲うのは、何か違うような気がするのだ。

【そういうものなのでしょうか?】
「まぁ、しっかりと互に意識がある方がムード的にも…‥‥ん?」

 あれ、おかしいな?今、ハクロの声が聞こえたような。


 声が横からしたので、そちらを向いて見たが誰もいない。

 空耳かと思い、改めて天井方面へ顔を向け直せば…‥‥そこにハクロの顔があった。

「!?」

 正直言って、心臓に悪い。

 音もなく、どこからともなく侵入してきたこの気配遮断‥‥‥‥本当にいつものハクロなのか、疑いたい。

「というか、何その服装!?」

 むしろ、彼女の着ている衣服が、いつもの寝間着ではないことに僕はツッコミを入れた。


 彼女の衣服は清楚なものが多かったはずだが、今夜の装いは違う。

 勝負服というべき様な妖艶なものに仕立て上げられており、様々な部位が強調され、それでいて彼女本来の美しさを損なうような真似はしない…‥‥見る人が見れば、おそらくボンっと赤い花を咲かせる恐るべき扇情兵器というような姿であった。

【わ、ワゼさんが今晩はこれを着て、向かう方が良いって言ったんですよ!!】

 体全体を赤らめつつ、ハクロは説明した。



 ハクロの捕食本能が続く可能性として挙げられるのが、彼女の欲求不満。

 いや、ストレスなどではなく、性的な意味での不満であると、ワゼは仮説を立てたらしい。

 いや、ツッコミどころがいくつかありそうだが…‥‥アラクネという種族を考えるのであれば、元々男を襲うような種族でもあるので、間違っていないようにも思える。

 相手を捕食する行為も、考えてみれば、相手が自身から逃げ出せるだけの力があるかどうかを見極める様な行為でもあるのだし、力の強い雄とかを捕えるために必要なモノなのだろう。

 そしてハクロの場合は‥‥相手がいるからこそ発言した本能であり、相手を喰らわないようにと考えて、こうなってしまったのだろう。



【で、そう考えるのであれば、本能を収めるために…‥‥シアンと行為したほうが良いと言われ、初めてならばああしたほうが良い、これを着たほうが良いなどと色々されて…‥‥色々言いくるめられて、今に至るのです】

 説明をし終えると同時に、ハクロは僕の肩をつかんで顔を近づける。

【‥‥‥シアン、色々とワゼさんに私は言いくるめられたような形ですが、何時かは来るであろうこれには文句はありません。でも、これだけは一つ間違っていないこととして…‥‥】

 そっと耳元へ口をやり、ハクロは言葉を続けた。

【…‥‥愛してますよ、シアン。なので、貴方からも私に…‥‥】


 普段の彼女では聞けない様な、甘い甘い感情を載せた言葉。

 ぺろっと舐め上げられ、いたずらっ子のように微笑みつつ、真剣なまなざしで見つめてくる。

 相応の覚悟もしているような表情だが…‥‥そこまで、真剣な瞳はねぇ…‥‥


「‥‥‥ハクロ、僕から言わせてもらうけれど…‥‥僕も、君を愛しているよ。でもね‥‥‥」

 全身が押しつけられ、そのどことなく漂う甘い香りや、柔らかさ、温かさが僕の理性を思いっきり蝕む。


 ぐっと彼女の肩を僕は掴み、力強く、それでいて怪我をさせないようにやさしく加減し、逆に押し倒す。

【えっと、シアン…‥‥これは】
「…‥‥覚悟ができているのは分かっているよ。でもね」

―――――押し倒されるのは、君の方だよ。



…‥‥据え膳食わぬは男の恥、というよりも部屋に入って来てから思いっきり漂わせる甘い雰囲気。

 喰われる側に回る?いや、それではない。喰らう側に僕は回るのだ。

 普段は守りにあれども、いざとなれば攻めに出る。

 守る事は攻めよりも難しく、ならばその守りが攻めになった時にどうなるのかは‥‥‥‥予想するに容易いだろう。


「それじゃ、ハクロ…‥‥今晩は楽しもうか」
【あの、シアン、なんか私今すごい嫌な予感、いえ、良い予感とも言えますが、そのちょっと】
「問答無用」

…‥‥後に、ハクロは語る。

 珍しく自分から攻めていたと思っていたら、いつの間にか逆転されていたと。
 
 油断大敵とはこの事か、いや、意味は違うだろう。


 
 何にしてもこの日、契は結ばれた。

 押した本人たちは流石にこの逆転される様子を記録することは無かったが、少なくとも変えようのない上下関係を見たような気がしたのであった…‥‥



「うわぁ、ハクロさん捕食者モドキから哀れな被食者へ…‥‥流石に、ちょっとやる気を出させるために夜食に色々混ぜたのですが、やはりちょっとやそっとではご主人様に逆らえなかったようですネ…‥‥」
【シャゲェ…‥‥シャゲ】
「ちょっと遅いタイミングでしたが…‥‥まぁ、これならば眠気もぶっ飛ぶでしょうし、たぶん大丈夫でしょウ。ハクロさんの足腰が立つかは不安ですが…‥‥おお、なんかすごいデス」
 
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