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王族とは何なのか

#107 月夜に咲く赤き花なのデス

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SIDEシアン

……月の光が差し込み、辺りが暗くなる中、僕らはあの強盗共が言っていた指定の場所とやらで待っていた。

 強盗達が馬車を奪ってくるなどの話があったので、僕ら自身が強盗の不利をする必要性から、馬車の機能を応用し、僕らの姿を強盗に似せさせる。


 しばらく待っていると、別の馬車が向こう側から現れ、僕らの近くに停車し、誰かが下りてきた。

 そうやら件の依頼主のようだが……まだその背後に色々といそうな気配も知る。

「‥‥‥ハクロ、これから芝居を打つことになるけれども、我慢できる?」
【できますよ。‥‥‥まぁ、いざとなれば全力で逃亡してみせましょう】

 ぐっとこぶしを握り、自信満々に答えるハクロ。

 ひとまずは、ここに来るまでに考えた作戦を実行しますか‥‥‥‥いざとなったら、強力な魔法をぶち込む用意はしておこうかな。



――――――――――――――――――
SIDE愚か者


……完全に辺りが闇に包まれる中、その屋敷の中は明かりが灯されており、その主は今か今かと待っていた。

 そして、窓の外を見降ろし、ようやくやってきたその馬車の明かりを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ようやく来たか……」






「旦那様、ご所望のモノがようやく届きました」
「おお、でかしたぞ」

 わざわざ邸の外に出て、馬車から降りる彼の配下の言葉に、その人物は不気味な笑みを浮かべた。

「では、さっさと見せろ」
「はっ、おい、降りてこい」

 配下の者がそう口にすると、馬車からその人物……いや、モンスターが大人しく降りてきた。


 足は自由にしているが、そう簡単には逃げ出せないように両手を強靭な鉄の縄で縛り上げられている。

 眼の方は場所を見られないように目隠しをしてもいらっているが、それでも美しい美貌を持つのだと、隠し切れない気品がそこにあった。


「おお、これが美しいと噂されていたアラクネか…‥‥しかし、非常におとなしいな」
「ええ、旦那様の言いつけ通りに、最近裏で得る事が出来た、特殊な薬品を素早く注入してありますからね。モンスターに対して、強い効力を発揮する用で、今はまだ自我が無い、言いなり人形のような状態でございます」
「ぐふふふ、できれば抵抗などがあるとそれはそれで面白かったのだが‥‥‥まぁ、むしろ大人しいこの状態の方が却ってよかったのかもしれぬな。通常のアラクネではないとはいえ、その残虐性などが発揮されなければ、大丈夫だろう」

 ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、ひとまず馬車もその配下の者も下がらせ、その人物は縄を引いてアラクネを連れて行く。

 屋敷の中に入り、自室にある戸棚を動かして、仕掛けを作動させて地下への階段を出現させる。

 

 コツコツと一段ずつ丁寧に降りて、たどり着いたのは地下の隠し部屋であった。

 そこには多種多様な道具もあれば剥製などが並べられており、まるで博物館のように飾られていた。


「ふふふ、ここへのコレクションが増えるのもいいが‥‥‥まぁ、今は味わうのを優先し飽きたら剥製として、そこへ飾ってやろう」

 自我がなく、言いなりになっている物だと思いつつも、そう口にする。


 そのまま真っ直ぐ進むと、また隠し扉があり、開閉して奥の部屋へと進む。

 その部屋は一つのベッドだけがあり、最近利用されたらしい形跡が残りつつ、その人物はアラクネをその上に乗せた。

「さぁ、では今からゆっくりと味わうが‥‥覚悟はできておるな?いや、自我がないのであればそもそもできていないか」

 わかっていることなのに、ついついそう尋ねる自分に何か面白さでも感じたのか、その人物が思わず苦笑を漏らした……その瞬間であった。


【‥‥ええ、その通り、覚悟なんてしていませんよ】
「‥何?」

 返答があるまいと思っていたアラクネが発した言葉に、思わずその人物はぎょっと目を向けた。

【大体、この程度で私を捕らえたなどと思うなど、片腹痛いのですよ!!いえ、そもそも私の貞操はあなたのような屑に捧げるものではないのです!!】
「なっ!?どういう訳だ、自我はまだないはずで、」
【答える義理ってものはありませんよぉぉぉぉ!!】

 思わずその人物が問いかけたが、言い終わる前にアラクネはそう叫び、ブチィっと強靭な縄をちぎって、そのままの勢いで目隠しも外す。


 その表情は意志が強く、目には強い光が宿っており、薬で自我が奪われている状態ではないことをはっきりと示していた。

 何が起きたのか、その人物は理解しようとしたが‥‥‥その前に、アラクネの手が素早く動く。


【喰らいなさい!!群れの長からかつて習った、直伝必殺技『糸爆殺』!!】

 そう言うが早いが、素早く糸の塊のようなものが形成され、そのままぶぉんと振りかぶられた。



……アラクネの糸と言うのは、かなりの強度を誇る。

 鉄よりも固く、鋭く、軽く、それでいて攻撃手段として武器に加工されると馬鹿みたいな威力も誇るのだ。

 そして、今回形成された武器の形状は、トゲ付きの鉄球である。

 重さが足りないと思われるかもしれないが、それは速度と見た目に寄らないモンスターとしてのアラクネのパワーが上乗せされ、そこから導き出される破壊力は…‥‥



どっごぶっちゅぅぅぅん!!
「ぎやぁぁぁああああああああああああああああああああああ!?」

 強烈な衝撃が、自身の急所にはしり、その人物は思わず悲鳴を上げる。

 腹の中からついでに形成されたその衝撃波が押し上げられ、激しい嘔吐感を伴いつつ、ぶつかったその勢いそのままに体が宙に浮かび上がり、そして地面に叩きつけられた。

 気絶したいほどではあるが、激しすぎる痛み故に気絶すら許されない。


 かろうじて己の痛みの場所を見れば、赤く染まって、その惨状をまざまざとあらわしていた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」

 自身の大事なものが爆散して失われたことを、痛み、いや、それすら凌駕するような衝撃で否応なく理解させられ、その人物は思わず後ずさる。

【‥‥自分でやっておいてなんですが、ちょっと強烈すぎますねコレ】

 やった本人、いや本モンスターがそうつぶやいたが、そんな事を気にしている場合ではない。

「こ、この野郎‥‥‥なんてことをしてくれたんだぁぁぁぁ!!」

 激しい痛みから逃れるためか、それとも二度と男としての立場を得られなくなってしまったためか、激しい怒りがその人物を支配する。



……だが、その怒りは一瞬のもの。

「へぇ、でもお前がやろうとしていたことに、いや、今までしてきたことに比べれば、まだ足りない罰なんじゃないかな?」
「っ!!」

 背後から聞こえてきた声に、その人物は悪寒を感じた。

 この部屋に来るまでは確かにこのアラクネと自分だけであったはずなのに、いつの間にかいる気配。

 だが、その気配は人のものであるようで、そうではないなんとも言えないものでもある。

 けれども、一つだけ言えるとすれば…‥‥その声から感じとらされてしまう感情は、もはや自分を人として扱っていないという、冷酷無比なモノであった。

「な、何者だ!!」

 それでもなお、その人物はかろうじて振り向き、後悔した。



 そこにいたのは、人であって人ではない。

 纏うのは、濃密すぎる怒りの感情と、人ならざる者のような膨大な魔力の嵐を纏った青年。


「‥‥‥あ、がっ……っ」

 何かを言おうとしたが、何も言えないその威圧。

 そこでようやく、その人物は悟った。

 自分は決して、手を出してはいけないような相手に手を出してしまったのだと。

 
「ん?何も言えないか…‥‥?まぁ、良いだろう。お前のような汚物の声なんぞ、これ以上聞きたくもない」

 そう言ったかと思うと、目の前のその青年は手をかざし、それを向ける。

「それじゃ、消え失せろ」
「っが、ぐっ、ま、まって」

 自身の命が失われることに恐怖を覚え、抵抗の意志を見せる。

 だが、それはすでに遅く…‥‥



「そいやッサ」
ゴッス!!
「ぶげぴっ!?」

 突然、後頭部から来た衝撃によって、意識を失わされるのであった………



―――――――――――――――――――――――
SIDEシアン


「‥‥‥良し、ナイス奇襲だよワゼ」
「ええ、十分注意がご主人様の方へ向いていましたので、楽に無力化できまシタ」

 ぶっ倒れた黒幕……屋敷の規模などから見て、それなりの貴族らしい男を、背後から強烈な金槌の一撃を浴びせたワゼに対して、僕はそう褒めた。


【どうやらうまくいったようですが…‥‥この後どうしましょうかね?】
「まぁ、ここまで来たらあとは色々とやればいいだろう」

 首を傾げるハクロに対して、そう答える。



……今回、馬車からこの馬鹿者の使者らしき人物が来たところから、この計画は始まっていた。

 まず、ハクロを捕らえたように見せかけ、油断したところで素早く遅い、無力化。

 そしてワゼやミニワゼシスターズの手によって情報を引き出し、ここの位置と大体の使者の動作や話し方を学び、変装し、ここへ出向いたのである。

 あとは、ハクロを拘束しつつ、どうやら使う予定だったらしい薬の使用によって出る症状の演技もしてもらい、隠れながら後から邸の中へ潜入したのだ。

 一応、見張りなどは音もたてずにミニワゼたちで全員無力化し、こっそり跡を付けてきたが‥‥‥こうも仕掛けが多いからこそ、ちょっと追いかけるのは大変であった。

「それじゃ、今から色々とやろうかな」
「ええ、たっぷりと証拠書類や、その他余罪などを引き出しましょウ」

 そして今から、僕らはこの屑男のいた屋敷の家探しを行うことにしたのであった。



 このまま命を奪うのも容易いのだが、ハクロに手を出そうとしたその行為は死で償えるような者でもない。

 短い時間で調べて見ただけでも相当な罪があるようで、ここの隠し部屋へ来るまでにあった博物館のような展示物の中には、人の剥製のようなものまであり、倫理的にも許されないようなものばかりだった。

 ゆえに、慈悲ある死を与えないことにして、法の裁きどころか社会的な死を与えることにしたのである。



 ある程度制圧した後、ゆっくりと探してみたが…‥‥想像以上に出るわ出るわの大盤振る舞い。いや、この言い方は違うかな?

 とにもかくにも、詐欺や横領、暗殺などの証拠など、まっくろくろすけも驚きの真っ黒すぎるものばかりで、思わず社会的な死すらも甘いのではないかと思えるほどである。

「うわぁ、なんかもうコメントしづらいようなものばかりじゃん……」
「思った以上に権力があるようですが…‥‥まぁ、それもこれで終わるでしょウ」

 何にしても、他にも色々と出てきたのでそちらの方が使えそうである。

 


 ひとまずはミニワゼシスターズを通して証拠などをより上の権力者・・・・・王女のミスティアの方へ伝えつつ、僕らは帰ることにした。

 立つ鳥跡を濁さずということで、僕らが来た形跡を残さないようにしつつ、待たせていたポチ馬車に僕らは乗り込む。


 そして、馬車を走らせ、自宅へ向かって疾走させるのであった…‥‥




――――――――――――――――――
SIDEハクロ

……結局、今回の事件は特に手を煩わされるようなことはなかった。

 そう思いつつ、ハクロは寝間着に着替え、自室のハンモックへ身体を載せ、眠りにつく。

 だがそこでふと、彼女はある言葉を思い出した。


 あの時、あの欲望にまみれた屑に対して解き放った彼女自身の言葉。

【私の貞操はあなたのような屑に捧げるものではないのです!!】


 あの言葉は、あの場の勢いとノリで放った言葉ではあるが、彼女自身の本心である。

 でも、それだと一つある事が気になったのだ。



 あの屑に対してであれば、確かに捧げる気はない。

 じゃあ、捧げる事が出来るような相手がいるとすれば誰なのだろうか?


【…‥‥】

 ふと思ったその疑問に対して、今はまだ答えはない。

 けれども、案外近いところにあるのではないかと想像し、何故だか顔が赤くなり、熱くなる。

 何にしても、今はさっさと眠りにつきたかったが、しばし時間がかかってしまうのであった…‥‥



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