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力の差

閑話 花壇兼畑の管理人(?)デス

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SIDEドーラ

‥‥‥シアンたちが首都内にいるその頃、ハルディアの森の中にある畑にて、ドーラはある仕事をしていた。

【シャゲ、シャゲ、シャゲェ♪】

 適当に歌いながら、畑と花壇の水やりのために、いくつもの水が入ったバケツを運び、まんべんなく振りまいていた。

 何処からドーラが来たのか、シアンたちは分からない。

 ただ、この場所に住み着く代わりに管理を受け持ってくれるようなので、置いているのだ。


 その扱いには文句はなく、それにこの花壇や畑の土壌は質が良いので、ドーラとしても良い場所であった。

【フシャゲ~】

 全部に水をまき終え、ふぅっと汗をぬぐうドーラ。

 見た目が大きな食虫植物でありながらも、どうやら汗はかくらしい。

 とりあえず、残しておいた水入りバケツを持って、自身にも水をやるのであった。


【シャゲッ】

 水を浴びてさっぱりした後、花壇にある自分の定位置へ向かい、土の中に根をうずめる。

 根っこを抜いて歩行することも可能なのだが、やはりこうやって埋まっている方が心地いいのだ。


【シシャゲェェェ~】

 まんべんなく根から土壌の養分を吸い、この頃暑くなってきた陽射しで光合成を行い、リラックスをしていたその時であった。


【ガウッ!ガウッ!!】
【ガガウウ!!】

【シャゲッ?】

 ふと、ここではそう聞かないような声が聞こえ、何かと思いドーラが振り返って見れば、そこには2頭の子狼がいた。

 片方の毛並みは白く、もう片方は薄い緑色と、どことなく見たことがあるような色合いである。

【シャゲェ?‥‥‥シャシャゲッツ】

 少し考え、そしてその正体をドーラは思いつき、手のような葉っぱでぽんっと打った。


 その子狼、実は狼ではなく、フェンリルである。

 この銛に住まうフェンリル一家の子供たちであるとドーラは理解したのだ。

 でも、確かまだ他にも数がいたはずだし、そもそも母親フェンリルのロイヤルの姿がない。

【シャシャゲェ?シャシャッゲ?】

 ひとまずは、ドーラはその子フェンリルたちに訪ねてみることにしたのであった。



【ガウウッ、ガウッ、ガウウ!】
【シャ~ゲェ~、シャシゲゲゲゲ】
【ガウン!】

 カクカクシカジカと身振り手振りも交えて尋ねてみれば、どうやらちょっと訳があったらしい。

 今、フェンリル一家の住みかに、母親の方の祖父がやってきているのだというのだ。

 孫に甘いお爺ちゃんというような感じだが、父親フェンリルことポチには厳しいらしい。


 そして今日は、その祖父と遊んでかくれんぼし、ここに迷い込んでしまったそうなのだ。

【ガウッガウッ!!】
【ガウウッ!】
【シャシャゲェ…‥‥シャーゲェ】

 事情を聴き、ドーラはなるほどと納得した。


【シャ?シャシャゲゲッ?】

 そこでふと、今もなお継続中なのかとドーラが問いかけると、子フェンリルたちは肯定して頷いた。

 それはつまり‥‥‥‥



ズシン……ズシン‥

 聞こえてくるのは、重みがあるような足音。

 木々がざわめき、空気が少しづつ重くなる。

【シャゲッ!】

 だだだっと子フェンリルたちを伴い、向かって見れば…‥‥そこには、非常に大きなフェンリルがいた。

 ロイヤルやポチといったフェンリルに比べると、体格は2倍、いや10倍はあるだろう。

 鋭い牙があり、毛並みは真っ赤に燃える様な真紅な美しさがあるが、いくつか大きな傷跡が目立つ。

 顔にも大きな切り傷があり、隻眼となっているようだが、それがまたすごい威圧感を生み出していた。


【‥‥‥ほぅ、孫たちよ、ここに隠れておったのか】
【ガウッ!】
【ガウウ!!】

 …‥‥その言葉には非常に重い威圧感があったが、子フェンリルたちは何のそのと、平気なそぶりで元気いっぱいに答えた。

【シャゲェ…‥‥】

 だが、ドーラの方は余裕がなく、少しだけここに来たことを後悔するほど、緊張していた。

【ぬ?‥‥‥なぜここに、貴様・・がいるのだ?】

 その真紅のフェンリルはドーラを見ると、鋭い目を向けるのであった…‥‥









【‥‥‥なるほど、貴様は貴様であって、貴様ではないという訳か】
【シャゲェッ、シャゲシャゲッ、シャシャゲェッ!!】

 とりあえず、子フェンリルたちにじゃれつかれながらも、その真紅のフェンリルはドーラの事情を聴き、確認してドーラはそうだと肯定した。

‥‥‥実はドーラは、いや、ドーラであってドーラではない・・・・・・・・・・・・・・存在は、一度この目の前のフェンリルと対峙した時があるのだ。

 それにはいろいろな事情が絡むのだが、少なくとも今のドーラでは初対面でもありながらも、その情報は持っていたのである。

【どうりでまだその姿であり、そしてこの森へ来るとはな…‥‥いや、だがあの娘と出来損ないロイヤルとポチの結界を通過できたという事は、害はないという事か。むしろ…‥‥】

 そう言いつつ、その真紅のフェンリルは家の方へ顔を向ける。


【‥‥‥なるほど、この家の主の魔力に惹かれ、そしてその庇護下に置かれ、影響を受けているのか】

 ふっと笑うように口をゆがめる真紅のフェンリル。

【だが、貴様のような奴がそうなるとは…‥‥いや、貴様であって貴様ではないというややこしさはあるが、今回は大丈夫という事か…‥‥】
【ガウッガウッ?】
【ガガガウッ?】
【おお、済まないな。そろそろまた遊んでほしいのかのぅ】

 子フェンリルたちの声に、真紅のフェンリルははっと気が付き、笑いながらそう口にする。


【ふむ、孫たちと遊ぶのが残っているし、今の貴様とは交えなくても良さそうだ。‥‥‥そもそも、貴様の上に、いや、その家の主と戦闘になるのも不味そうだしな】


 そう言い、真紅のフェンリルは子フェンリルたちを背中に乗せ、森の奥へ歩んでいく。

【シャゲェッ…‥シャゲッ】

 去っていくことで、漏れ出ていた威圧感が失せていき、ドーラは汗をぬぐい直す。

 とりあえず、何事もなくてよかったと、安堵の息を吐くのであった。


【‥‥‥っと、そう言えば、忘れていたのぅ】
 
 と、ふと何かを思い出したかのように、真紅のフェンリルが振り返り、ドーラに問いかける。

【貴様は知らぬか?我が娘へ手を出したあの馬鹿者が、今どこにいるのかをな?】
【シャゲェ?…‥‥シャシャゲッツ、シャーゲーッ】
【ふむ、森の外へ出向き、都市アルバスの停留所にて留守番状態らしいと?しかも、自由に動けているはずらしいと‥‥‥そういう事か】

 ドーラの説明を受け、真紅のフェンリルは理解したらしい。

【ならば、後で帰ってきた時に、あの馬鹿者にはゆっくりと話さねばなぁ…‥‥】

 そう言いながら、その真紅のフェンリルは森の奥へ姿を消すのであった。



‥‥‥後でポチがどうなるのか、その言葉で何となく察したドーラ。

 とは言え、自分にはやる事もないし、関係ない事なので、どうでもいいかと思うのであった。
 
 まぁ、せめてもの助けとして、薬草でも育てて手渡すぐらいしかないだろう…‥‥
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