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力の差

#56 かませ犬デス

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SIDEシアン

 ギルド長との会話から1時間後、予定通り問題児もとい調子乗りバカもとい、色々と厄介らしい冒険者たちが招集され、冒険者ギルドの所有する模擬戦嬢とやらに姿を見せていた。

「デルタリアンさん、これで全部ですか?」
「ふむ……いや、数名ほどいないようであります。しょうがないので、最後通牒を突きつけてあるので、この時点で剥奪決定で有りますな」

 冒険者登録を剥奪される人が既に数名決まったが、とりあえず集まった人たちを僕らは見てみた。


 一見問題無さそうな人もいれば、別件で問題がありそうな見た目の人もいる。

 何にしても、これら全員に今から模擬戦で力を見せ、色々と注意喚起となればいいのだが…‥‥ここで問題をやらかせば、冒険者登録剥奪もあるようだ。

 念のためにデルタリアンさんが真面目にそのことを説明すると、何人かは青ざめるが、やはりふてぶてしいというか、鼻で笑う人もいた。

 デルタリアンさんじゃなくても、たしかにこういう人たちであれば追放したくなるよね。


……なんとなくそう思う中、その集められた冒険者の中の一人が、ハクロを見て表情を変えたことに、僕は気が付かなかった。






「では、これより都市アルバスから来ていただいた魔法屋シアンとその使い魔に対して、模擬戦を行う。その実力が大したことがないと思うような物であれば、挑んでみよ」

 説明が終わり、デルタリアンさんがそう告げると、ほとんどの冒険者が挙手した。

 手を上げないのは、これで負けたら何かがあるかもしれないと思う人や、もしくはこれで実力を見た方が良いと思う人たちであろう。

 模擬戦を行うとした人たちは、僕らの実力を疑うか、もしくは単なる戦闘バカの可能性があるが‥‥


「ではまず、冒険者ゲルグからとする!」


 最初の模擬戦の相手としては、ゲルグと名乗る、全身鎧で固めた、盾を構えた戦士のような人であった。

「ふあはっ!!こんな若造に負けるわけがないだろうが!!しかも魔法だけでやるとしても、この魔鉄壁のゲルグ様にかなうわけがないだろう!!」

 自信満々のようだが‥‥‥それでも、一応威勢だけではなさそうだ。

 構えている大きな盾で魔法を防ぎきり、攻めてくるタイプなのだろう。

「それでは、両者構えて…‥‥始め!!」


 デルタリアンさんの合図とともに、僕らは動き出した。

「さぁ!!この盾を突破できるモノならしてみやがれ!!」

 自信満々に、ゲルグがそう叫び、盾を堂々と構える。

 ここは横から回り込んで攻めてもいいが、正面からこう堂々と来るような相手であるならば、ここはまともにやったほうが良さそうだ。‥‥‥舐め切っていて、油断しているようなこういう相手こそ楽そうだしね。

「じゃぁ、お言葉に甘えて『ライトカノン』!!」


 ぐっと足を固定し、反動に負けないようにハクロに支えてもらいつつ、真正面からあの都市に出たアンデッドに対しての魔法をぶちかます。

 威力自体はほぼ同じだが、命中させる盾に合わせて範囲を狭めているので、少しだけ高いかもしれない。

「ふんす!!そんな光の魔法なんぞ受けきっ、」

ドッガァァァァァァァァン!!バッギィィン!!
「っで、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


……受けきる前に、盾が粉砕され、ゲルグは光の中に飲み込まれた。

 それはそれは、見事なかませ犬状態であった‥‥‥‥

「って、やり過ぎちゃった?」
「いえ、大丈夫かと思われマス。精々アンデッド用の光魔法でしたので、人間相手にはさほど効果はないかと…‥‥言いたいデス」
「最後の一言で不安になったんだけど」



 ワゼの言葉に少々不安になりつつ、命中して爆ぜて発生した土煙が晴れると、そこには地面に大の字で倒れ込んだゲルグの姿があった。

 ぷすぷすと煙を上げてはいるが、砕けた鎧が身を守っていたようで、何とか全身丸焦げは免れたらしい。

「‥‥‥お、おおおぅ……い、生きているのか。命って素晴らしい……ぐふぅ」

 ぶるぶると体を震わせ、命がある事を喜び、そしてゲルグはそのまま気を失った。

「ゲルグ戦闘不能!!よってこの勝負、魔法屋シアンの勝利!!…‥‥だが、救護班急げ!!」

 デルタリアンさんの言葉に、万が一のためにスタンバイしていたらしい救護班がゲルグを担架に乗せ、運んでいった。

 一応、今回使用したのはあくまでもアンデッド用の光の魔法だったがゆえに、人の命は奪わなかったようだ。

 ただ、これがもしも人間に対しても有効な状態の光魔法であれば…‥‥


 その可能性を想像すると、どうやら他の冒険者たちも想像してしまったようで、顔を青ざめさせる。

「お、おれは辞退するぞ!!」
「あああ、あんなのに勝てるわけがないだろ!!」
「自信家の馬鹿盾とは言え、あいつの盾を粉砕してしまうなんて、無茶苦茶だぁ!!」

 先ほどまで、ゲルグ同様舐めていた人たちは、我先にと慌てて逃げようとする。

 だが、そうは問屋が卸さなかった。


「いや、だめだ。ここに来て、模擬戦に参加するともしてしまったからな。ここで逃亡しようとする辺り、その勇気のなさは冒険者にはふさわしくない。あのゲルグは良い実験台ゲフンゲフン、良い例となっただろう?ここで逃亡するのであれば、冒険者登録を剥奪及び、他の全ギルドにも連絡をして追放。二度と稼ぐことができなくなるが‥‥‥それでもいいのか?」

 デルタリアンさんの言葉に、もはや青色を通り越して土気色、白色、灰色と化す冒険者たち。

 進んでも地獄、逃げても地獄…‥‥前門の虎後門の狼ならぬ、前門の魔法後門の登録剥奪となれば、どうしようもないのだろう。


 と言うかそもそも、ここに集められた冒険者たち自体が、問題になっていた人が多いので、ここで病院送りになろうが剥奪しようが、ギルドに損は特にない。

 一応、この模擬戦で先ほどの問いかけにて挙手せず、試合を見るだけの人達はまだ大丈夫らしいが‥‥‥彼らも顔を青ざめさせているあたり、また後で何かありそうなのは目に見えている。

 何にしても、まだまだ模擬戦は終わらなそうであった‥‥‥‥


「と言っても、何発もあの魔法を撃つとマンネリ化しそうなんだが‥‥」
「ん?ならば他の属性で同じぐらいの魔法を扱っても問題はないぞ?」
「火とか水とか氷、電気、闇などでもいいのですか?」
「ああ、そうだ。‥‥‥って、ずいぶん使える幅が広いな」
「「「「「光よりも殺傷性が高そうなんだがぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」

 とりあえず、光の魔法以外の実験もとい練習もできそうならば、僕にとっても損はないな。

 冒険者たちが悲鳴を上げているようだが、ここはひとつ、攻撃魔法の練習としますかね。



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