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いざ、魔法屋へ……

#28 メイドは静かに動くのデス

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SIDEシアン

「ふぅ、今日はどの依頼を受けようかな?」

 この都市アルバスにある魔法ギルドにて、今日も僕は魔法屋としての金銭稼ぎのために依頼を選んでいた。

 魔法屋になってまだひと月ほどではあるが、稼ぎは今のところ悪くない。

 冒険者と呼ばれるような人たちはモンスターの討伐などで一気に金銭を稼げるようだけど、別に現状底まで必要という訳でもないので、こうやってゆっくりと稼げるような職業に就けたのは良い事だろう。


【あ、シアン、これらはなかなか面白そうですよ】
「ん?どれだ?」

 と、ハクロが依頼の貼られている掲示板から、何枚か依頼の紙を持って来た。


「ふむ、『水が出なくなった井戸の水補給、もしくは新規井戸の製作依頼』か……」
「ああ、こちらの方がご主人様にとっていいかもしれまセン」
「ん?ワゼ、その依頼は?」
「『魔力耐久テスト素材のテスター』デス。魔法で調理をしている人が、調理器具の耐久性を高めるために鍛冶屋に依頼して作ったようですが、いまいち信頼性が分からないそうデスネ」
「その耐久性のテストを、他人にやってもらって安全などを確認してもらうってことか…‥‥それはそれで面白そうだね」


 魔法屋としての依頼は、主に人々の生活の手助けであり、中々ユニークなものが多い。

 手品モドキのようなことをしてほしいとか、畑仕事で一気に作業する必要のある部分を補うとか、水不足の地域に赴いて水を供給するなど、それなりに魔法が必要な事が多いのである。

 一応、さっきの依頼にもあった井戸掘りなどには専門の人もいるらしいが、それは魔法で作業してできた井戸の調整をしたりなど、後から別で頼み込んでやったりするそうである。

 まぁ、何もかも魔法でやってしまうと困る人も増えるだろうからね…‥‥そのあたりは調整しているのだろう。



 何にせよ、今日やるとする依頼を考えるならば…‥‥

「やっぱり井戸掘りの方かな?ワゼ、一応ちょっと聞いてみるけど、地下水脈の探知とかって出来たりする?」
「可能な事は可能デス。とは言え、現地に赴かないといけまセン」
【探知できるって時点で、色々とおかしいようにも思えますけれどね…‥‥】

 ワゼの言葉にハクロが苦笑いを浮かべるが、まぁ、ワゼの機能はまだ分からないところがあったので、こうやってあてずっぽうに尋ねてみて把握してみたかっただけだったりするし、そうならば都合がよい。

 とりあえず、今日の僕らが受ける依頼として、井戸堀りのものを受けるのであった。

……あれ?でもワゼが水脈を探知できるってことは、もしかして鉱脈とかも可能だったりするのかな?ちょっと気になるけれども……まぁ、それはまた別の機会にでもするかな。



――――――――――――――――――――――
SIDEワゼ


……シアンが受けた井戸掘りの依頼。

 その依頼のある場所へ向けて、馬車を動かしていたワゼだったが、ふとあることに気が付いた。

(…‥‥また・・ですカ)

 

 都市にて、あの何やら純粋かつ初心っぽい一団がハクロの方を観察し、記録していたことは把握していた。

 あれは特に有害という事でもなく、知ったところで恥ずかしいのはハクロだけで、ご主人様であるシアンには害がないため放置をしていたのだが…‥‥それとは違う何者かが追跡していることに、彼女は気が付いたのである。

 それも、今日が初めてではなく、大体この都市に来て2週間目辺りで感じ取ってきたものだ。

 害意を与える様な者ではなく、観察のようだが…‥‥その気配はどう考えても普通の者ではない。

 何者かの依頼を受けて、偵察などをしているようにも思えるが…‥‥おそらくは、表のものではなく、裏社会などにある…‥‥わかりやすく言えば暗部とか、間諜など、そういった類の者たちであろう。




 シアンに何か害を与える気であれば、ワゼは容赦しない。

 今はまだ様子見のようだが、その者たちの裏にいるものがどう動くかはまだ見ていない。

……とは言え、すぐに手を出すような馬鹿な真似はしないだろうとワゼは予測していた。

 なぜならば、都市に来てまだ日が浅いころ、ハクロを狙ってシアンから奪うためにその手の者を雇って来た者たちがいたのだ。

 まぁ、ワゼの前には稚拙なものであり、素早く撃退したが……それだけでは相手は懲りないと思って、その者たちを少々お話をして拳と薬で、裏にいたどこぞやの馬鹿貴族とやらにたどり着いた。

 そして、シアンが眠る真夜中のうちに、フェンリル(夫)を叩き起こしてその者の屋敷へいき、素早く不正やその他もろもろ表に出たら社会的な死につながる物をしかるべきところに投げ込んだ。

 

 後日、その馬鹿貴族は処分が下ったらしく、表に出なくなったようである。

 そのような所業をワゼが行ったことはシアンにバレていないようだが、その手の裏社会には伝わったはずで、迂闊に手出しをしてはいけないと分かってもらったはずだった。




 だがしかし、こうやって偵察してくる者たちの気配があるという事は、また同じような事を考えているやつがいるのか、もしくは別の目的があるはずである。

(…‥‥これは少々、確認する必要がありますカネ)

 内心そう考えつつ、今はまだ動かくべきではないとワゼは思い、目的地までシアンたちをしっかりと安全に届けるために、周囲の警戒を怠らない。

 まぁ、手を出して来たらその時はその時だが…‥‥一応、後で調べておこうと考えるのであった。



「何にせよ、今はひとまず様子見で良さそうデス・・・・」
「ん、ワゼ何か言ったか?」
「いえいえ、何もありまセン」

……そう、相手さえ手出ししてこなければいいのだ。

 されたらされたで、ご主人様のためにも、憂いを残さないように、きちんと徹底すればいい話しなのである…‥‥


――――――――――――――――――
SIDEボラーン王国:王城内

「…‥‥どう考えても、これは自業自得としか考えられぬな」

 そうつぶやき、王城の執務室にて、国王はそうつぶやいた。


 先日、国のある貴族家を処分することになったのだが、少々おかしな点があった。

 いや、確かにその貴族は色々とやらかしているらしいという情報があったのだが、中々尻尾をつかませず、少々悩んでいたのだが…‥‥先日、どういう訳かその貴族家の不正の証拠やその他もろもろバレたら絶対不味いはずのものまで、各所に届いたのだ。

 言い逃れのない絶対的な証拠を得たので、国としてはとりあえず処分をするために、その貴族家に対して不正を見つけようとしていた者たちを派遣し、捕らえた。

 そして家宅捜査の結果、でるわでるわの不正ラッシュで、ついでにつながりのあった者たちまで捕縛し、処分を下せたのだが…‥‥いやにできすぎていたのだ。

 

 まるで、その貴族家の不正の証拠などを見つけたが、表舞台に出ずに国に処分させるかのような状況。

 どう考えても、何者かの手がありそうなのだが…‥‥全然分からない。


……だがしかし、ある情報だけは入っていた。

 その貴族家がごろつきなどを雇い、ある者からとあるものを奪おうとしていたことを。

 そして、そのある者とやらはどうも最近出てきたもののようだが……その者がいる場所は、あのハルディアの森から距離があるとは言え、往復が不可能な距離ではない。



「まさか…‥‥この者が、もしや……」

 フェンリルが言っていた、「魔王かもしれない」者。

 だが、その者が実行したという訳でもなさそうで…‥‥となれば、その配下が勝手に動いたのであろうか。

 何にせよ、今はまだ良く分からないし、迂闊に手を出すこともできない。

 今はただ、静観し、その動向を探るしかなさそうであった………


「…‥‥いやまぁ、国の腐敗した部分を切り落とせるのは良いし、その者が現れたことで、何故かその場所の人の出入りも大きくなっているし、良いことだらけだから気にしない方が良いかもしれないが…‥」

 国を担う王としては、少々もどかしくも感じるが、どうしようもないというむなしい現実しかないのであった。
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