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いざ、魔法屋へ……

#17 第1次馬車改良デス

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SIDEシアン

……馬車の振動の激しさや、過重負荷などによる酷い車酔いから一夜明け、僕は回復して元気になった。

「『アクアスプラッシュ』!!」

 久しぶりと言うか、ワゼが来て以降使う機会がなかった魔法を試し打ちしつつ、この間の都市ブリジットで買った野菜の種を使って作った庭の畑に、水魔法でまんべんなく水やりを行う。

 攻撃性はほとんどなく、スプリンクラーのような魔法だが、中々庭仕事には便利だ。


「ふぅ、魔法を使っても疲れはないし、気持ち悪くもないし、完全に回復したな」
【‥‥でも、周囲の確認をしてほしかったですね】
「あ」

 振り向けば、にこにことしつつ、こめかみにピシッと小さな青筋を浮かべた、びしょ濡れのハクロがいたのであった。

……あ~、この魔法は周囲一帯にまんべんなく水を捲けるうえに、使用者は濡れないけれども、それ以外は濡らしちゃうのか…‥‥いや、本当にごめん。

 ちょっと待って、糸で少しずつ体の自由を奪わないで。え?なんか怖いんだけど…‥‥






 とにもかくにも、ハクロが機嫌を悪くしたのでなんとか謝りつつも、馬車の改良を行っているワゼのもとへ、僕は向かった。

「ワゼ、馬車の改良はどうだ?」
「ええ、まだ改良は済んでいませんが、おそらくはこれで大丈夫なはずデス」


 ふぅっと、汗をかいていないけれども、拭うようなしぐさをしつつ、スパナのような形状をしていた腕を変形させ、いつもの手にワゼは戻した。

「本当は、こういうのは専門職の方がいれば良いのでしょうネ。私でもそれなりにできますが、本分は戦闘と家事なのでちょっと微妙デス」
「そういうものなのか?」
「ハイ。とはいえ、一応なんとかなりそうデス」

 そもそもワゼは技術者とかではなく、メイドゴーレム。

 馬車の製造など、その手の事は彼女の領域ではないらしいが、それでもこなせるのだからすごいところ。

「あれ?そう言えばフェンリル(夫)は?」
「今は馬車を動かせないので、一時帰宅となっておりマス」

 まぁ、馬車の改良が終わるまで、出番はないし、別に良いかもしれない。

 何にせよ、ワゼだけでは大変そうなので、僕も手伝いつつ、ハクロもやって来て皆で一緒に改良を進めていくのであった。


【ふぎぎぎぎ…‥‥物凄く、この部品が曲げにくいですよ!!】
「でも曲げれているよね?僕は無理なんだけど……どうなっているの?」
(……アラクネって、糸で自分を持ち上げたりするときがあるので、案外筋力は見た目以上にあるのデス。でも、黙っておいたほうが面白そうですし、言わないでおきましょウ)


――――――――――――――――――――
SIDE騎士団長&魔導士長


 山が吹き飛んだ事件の元凶について、国王の命令によって、騎士団長と魔導士長は互に組んで、調査に当たる事をさせられることになった。

「畜生、なぜこいつと一緒に組まされることになったのやら…‥」
「ああん!?それはこっちのセリフだぞ、この脳筋馬鹿野郎?」
「はぁ?何を言うか魔法馬鹿野郎?」

 互いにバチバチと火花を散らしながらも、国王からの命令なので逆らえない。

 というか、ここで国王の命令に逆らって、単独で行動したばあい、相手の付け入るスキが出来てしまうという考えと、この機会に自分の方が上だという事を見せつけようという想いが奇跡的に重なり合い、空中分解することなく、嫌々ながらも協力はしていた。


「しかし、いくら聞き込みなどをしても、山吹き飛ばしの犯人は不明か‥‥‥」
「はん、まぁ分かっていたことだがな。今でさえ分からないことなのに、人々に聞いても有益な情報は得にくいに決まっているだろうが」
「ああ?だったら、どうしろと?」
「知らん」
「‥‥‥‥ほぅ、何も考えていないのに、自信満々に馬鹿にしてきたのか?よし、表出て決着を付けようか」
「ああ、良いだろうな。この際、一気にぶつかってやろうか?」


 ばちぃっつ!!っと火花が飛び散り、まさに一触即発となりかけていた…‥‥その時であった。


「ん?」
「どうした?魔法馬鹿?」
「誰が馬鹿だ!!‥‥‥いや、そんなことよりもあれを見ろ」

 魔導士長が指さした方向を、騎士団長が見てみれば‥‥‥ある集団が街道を歩いていた。


「あの肥え太った豚みたいな男たちは…‥確か、隣国の神官どもだったか?」
「ああ、教養がないのか、ご丁寧に衣服に古代語で『豚肉予備軍』となぜか書かれているのに分かっていない奴らだったな…だが、何故ここにいるんだ?」
「確か、隣国との交流会の予定はあったが、まだ先だったはずだ」
「となると、何かの使節団か?…‥‥いや、あるいは…‥‥」


 そこでふと、魔導士長はある可能性を思いついた。

「‥‥‥タイミングと良い、もしかすると奴らは何か知っている可能性があるな。後を付ければ、自然と答えにたどり着くのではなかろうか?」
「なるほど…‥‥」

 一時休戦し、互にうなずき合って、彼らは豚肉予備運もとい隣国の神官たちらしき人物の後をこっそりと付けていった。



‥‥この判断が凶と出るか、吉と出るか。それはまだ、分からないのであった‥‥‥‥

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