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7章 死がふたりを分かつまで

7-9 理想の生活というのは、案外いつの間にか手に入れている

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…‥‥時間の流れというのは、年をとればとるほど結構早く感じるらしい。

 分かりやすい例とすれば、小学生時代は一日が滅茶苦茶長いのに、大人になったら一年がほんの数カ月程度にしか感じていなかったようなことがあげられるだろう。

 とは言え、一日一日を濃密に過ごしていると短くは感じられない。遊んでいるとあっという間だけどあと5分を待つと考えると長いと感じる方が例えとしては適切だったか?


「でも、やっぱり早く感じているのかな?ハクロ、今日で何回目の結婚記念日だっけ」
「キュル、確か…‥‥584回目だったよ・・・・・・・・
「そうだよね。今ふと思って数え直してみたけれども、いつの間にか相当な年月が経っていたね」

 結婚記念日の祝いとして用意している中で、ふと何となく疑問に思って考え直してみたら、いつの間にか500年以上が経過していた。

 うん、自分の寿命って今どうなっているんだろう…‥‥人間の寿命って色々やっても確か120歳前後ぐらいって話を昔聞いた覚えがあるんだけれども、それを軽く突破しているじゃん。

 その事に気が付き、僕は今さらだが月日の経過に驚いていた。






‥‥‥ジークにローズ、その後に生まれたアレイシアにマリーにジャック、ハルドラ、その他大勢の息子や娘たちも大きく成長して、僕らは隠居生活を送っていた。

 家督はもう譲って、領内に残していたハクロとの出会った森の中でのんびりとした生活を送っていたが、いささか俗世から離れた田舎だったゆえに、年月の経過に疎くなっていたようである。

 まぁ、年に数回はこの結婚記念日や領内や国で決まっている祝日などで孫やひ孫たちがやって来て一緒に過ごすようにしているのだが、それでも気が付くと長い年月が経過していた。


「もうちょっと早く気が付くべきだったけれども、ハクロはまだ分かる気がするけれども、僕の方が何でこんなに寿命が延びているのかなぁ?」
「キュルル、それ確かに不思議かも。でも、アルスと一緒に過ごせているから、良い事なの」

 もうすぐ来るひ孫やその孫の孫の‥‥‥その他来る僕らの一族が来る前に、軽く掃除もしながらハクロはそう答える。

 そう言えば、子供が産まれなくなったのも確か100年ほど前だったし、その時点で普通は気が付くべきだったのだろう。なんかこう、悪意とかを感じるようなことが無いせいでちょっとばかり常識が消えてきた気がしなくもない。

「ふぅ、掃除終わった。あとは子供たち、孫たち、ひ孫にその孫、皆来るのを待つだけだよ!」
「そうか。事前に聞いていた時間だと、確かあと一時間ほどだから暇つぶしに軽く散歩しようか」
「キュル、良いかも」

 
 森の中に建てた、隠居用の一軒家からで、気楽に散歩をし始める。


「アルスとの散歩、散歩♪お気軽でかつ、楽しい散歩♪」

 そう口ずさみながらハクロと一緒に歩きつつ、僕はこの長い年月の中で起きていたことを思い出す。

 帝国自体はまだまだ存続中であり、そのせいで歴史の授業が増えてより覚えることが多くなって子供たちが暗記に嘆いていたりしたっけ。

 それに、この領内も今もなお発展し続けており、世俗を離れているこの森の外はだいぶ近代化が進んでいたりする。魔道具による街灯で夜も明るかったりするが、領内の月見祭りでは消灯され、昔ながらのものは続いているのだ。なお、フックはすでに代替わりで孫の雛が代わりに開催を宣言していたりする。

 
「って、あんまり変わるようなことも無いかな‥‥‥今日も明日ものんびりと過ごせているからなぁ」

 学生時代で一生分の想像が詰まっていたというべきか、今の隠居生活中に大きな事件はない。
 
 まぁ、時たま新しい国などで帝国を狙って戦争を仕掛けてきたりするらしいが、潰されてまた新しい国へと生まれ変わったりしている。

 後は、ハクロのファンクラブなるものが孫やひ孫にもついて少々分裂しつつも変わっていないし、どこぞ他の第2皇子がスライムと結婚してドロドロになり合っているとか、所長亡き後研究所ではまだ研究が続いていて、新種が連続で発見される程度ぐらいか。

「いや、一部おかしいような‥‥‥うん、気にしないことにするか」
「キュル?何かおかしいのあった?」
「何でもない。ちょっとばかり昔を思い出していただけだよ」

 ツッコミどころのあることは他にも色々とあるが、気が付けば散歩も終わって、後は皆が揃うまでちょっとだけ休憩するぐらいか。

 隠居後の住みかのこだわりとして、縁側を用意していたのでそこに一緒に腰を掛け、お茶を飲んでゆったりとした時間を過ごす。

 ああ、隠居しているとはいっても完全に使用人がいないとかはないようで、こちらにも孫やひ孫の時にお世話になったメイドの一族が配属されていたりする。二人でゆったりとした時間を過ごすことに気を使ってか、気配も悟らせないのがちょっと怖いけどね。


「それにしても、のんびりと隠居出来て、時々孫たちも来て、穏やかに過ごせる日々かぁ‥‥‥考えたら今が理想の生活だよね」
「アルスと一緒な生活、私にとって幸せ。アルスがより幸せに過ごせているのなら、私もこの生活が理想と言って良いのかも」

 肩を寄せて茶を飲んで息を吐きつつ、穏やかに流れる時間をじっくりと味わう。

 理想の老後生活というか‥‥‥いや、実はまだ容姿的には20代前半ぐらいなので隠居生活という方が正しいが、それでもこの生活が非常に嬉しい。

 しかしこの成長ペースだと、老人になる養子まで後どのぐらいかかるやら‥‥‥500年でようやくこれって頃は、まだ千年は生きそうな気がして先が見えない。


「‥‥‥考えても仕方がないか。今はこうやって過ごせるのが、一番の幸せだよね」
「キュル、幸せ♪」

 寄り添いつつ、聞こえて来たひ孫やその孫たちの声で玄関へ向かう。

 この生活がいつまで続くのかは先が見えないが、それでもこの幸せな時がずっと続いて欲しいと僕はそう願うのであった‥‥‥‥




「…‥‥でも、ひ孫たちからもらう祝いの品、そろそろ地下倉庫が満室なんだよね」
「それ、結構問題。新しいの作りたいけど、月日の積み重ねはここで凄い出ているの」

‥‥‥生活を願う前に、まずは増築を相談するか。この森、表面上は昔から変わっていないけれども、実は地下の方は蟻の巣のように凄いことになっているんだよね。ここでまず年月の流れに気が付けよ自分。



 
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