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5章 高等部~そして卒業まで

5-15 単純だけれども深く考えると

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‥‥‥そもそも、エルスタン帝国の守りは非常に硬いはずである。

 というか今まで変なものがそれなりに出て来たからこそ、その都度対策を組み立て、抜けられてはそれを上回る防御を固めていた。

 それは帝国の学園も例外ではなく、ある程度衛兵や警備員などが見回っているはずなのだが…‥‥


「‥‥‥キュルル、花瓶3回落下、落とし穴23個、飛んで来た矢、吹矢、薬の類‥‥‥アルス、何者かに狙われてない?」
「地味ながらも執拗な行為が、こうも続くとはね‥‥‥」

 ふぅっと自室でひと息を吐きつつ、精神的に疲れている僕を癒すためか、膝枕をしてくれているハクロの言葉にそう返答する。

 今日一日だけで、何かと多くの小さな嫌がらせというか、下手すると暗殺とかそう言う疑いを抱くしかないような行為を僕らは受けて続けていたのである。

 いや、正確に言うのであれば僕らではなく僕個人を狙ったものだろう。ハクロよりも僕の方に集中していたという印象を抱いたからね。

「んー、でも私の糸に感知無し、他の人にも目撃出来ていない‥‥‥どうなっているの?」

 首をかしげるハクロだが、その回答を導けない。

 ハクロの糸での感知能力は優れているはずだし、学園の警備自体も緩くもないし、人の目がないことは無い。

 それなのに、どういう訳か今日一日に起きた様々な出来事はどれもこれもすべての目をかいくぐるかのように起こされており、ギリギリまで気が付きにくいものばかりだったのだ。


「魔道具か何かで姿も気配も消しているか、あるいはもっと違う何かか…‥‥何にしても、気が抜けないな」

 ギリギリのところでハクロが全部叩き落したり魔法で燃やし尽くすこともしたのだが、それでも流石に限度はある。

 というか、四六時中気を張るのも大変だからね…‥‥気が抜けないのは大きな精神的な負担になるのだ。

「後は、風呂場に行きたいけど‥‥‥往路がなぁ」

 流石に学園の風呂場では一緒に入っていないのだが、今日のことを考えると風呂場でも何か仕掛けれていてもおかしくない可能性がある。

 いやまぁ、そこはハクロが入ってくればいいんじゃと言うような人がいるかもしれないけど、考えてほしい。絶世の美女が男湯に入って来るって、ある意味地獄である。普通は悲鳴を上げる側なのに悲鳴を上げさせる側になりかねない。

 
 ひと汗を流したいのに流しにくいし、本当に面倒‥‥‥‥あの夢の中で出会った謎の植物、今日の回答を持ってきてくれないだろうか。


「しょうがない、今日は小さくなっての湯船でさっぱりしようかな。ハクロ、念のために誰も入ってこないように周囲の隙間も徹底的に糸で固めてくれない?」
「わかったよ。アルスと一緒に入りたいけれど、何かあると困るし、元のサイズのままで守る!」

 小さくなる薬での湯船も久しぶりだけど、こういう時に入る気は無かったなぁ。出来ればもうちょっとゆったりした時に入りたい。

 というか、この地味な嫌がらせのような手はいつまで続くんだろうか。

 そう思うと、気が重くなってくるのであった‥‥‥‥

「キュルルゥ、でも私も、本当は一緒に入りたい…‥‥アルス、ゆっくりできないの分かるけど、狙う人、許せない‥‥‥」
「なら、この問題が解決したら一緒に入る?先日別の貴族家の領地で温泉宿が開いたっていう噂も聞いたし、そこに行こうか」
「本当!?アルスと一緒に入れるなら、やる気十分!!今もばっちり、守る!!」

…‥‥混浴とは限らないけれどね。まぁ、気持ちを落ち込ませずに笑ってくれた方が今の状況だと一番良いかな。











‥‥‥アルスが周囲を警戒しつつも自室の中で湯船に浸かっていた丁度その頃。

 ハクロファンクラブの者たちは集結しており、本日起きていた出来事について監視を続けながら話し合っていた。

「‥‥‥どう考えても、これは彼を狙っているね。ハクロちゃんを狙うのではなく、そっちに来たか」
「何が目的なのか、というのはまだつかみ切っていないが‥‥‥先日捕まえたやつから情報は引き出したか?」
「いや、駄目だ。下っ端だったというのもあるのだろうが、解析したところ暗示のようなもので引き出せないようになっているようだ。暗示というよりも、魔法による制約や呪いによる規制などの類という方が近いかもしれない」

 その言葉を聞き、集まっていた者たちは嫌な予感を強く感じ始める。

「そもそも、学園内に不審者が入り込まないように警備がされているはずだが…‥‥相手は何故、その警備の網を抜けているのだろうか」
「内通者の疑いも考えたが、それは無いようだ。そもそも既に身辺の警備に関しては強固なファンクラブの者たちで密かに固めているからこそ、狙うような馬鹿ははじけているはずなのだ」
「となると、何かの魔道具か魔法か、あるいはもっと別物で潜り抜けてやってきていると考えるべきか‥‥‥そこまで考えると、色々な相手が想定できるな」
「一国の主、遠方の未知の部族、未だ全容をつかめぬ邪神の類を信仰する集団‥‥‥可能性としては、後者が一番高いだろう」

 色々な調査を行い、様々な危険物をファンクラブはある程度把握していた。

 誰がどの様にして脅威になるのか確認しつつ、それが万が一的に回ってきたらと考えての対策を練っているのだが、十分ではないと思っている。

 だからこそ、徹底的にやっていきたいのだが…‥‥それでもまだまだ相手の方が上手なこともあって、完全に掌握し切れず対策が不十分になる箇所もあるのだ。

「とりあえず今は、警戒態勢を三倍以上にして特殊警備班を出動させるべきだ。彼女の方にも負担がかかる結果になっているからな」
「解析班の活動力も高め、積極的に状況の調査も深めよう。手を抜かずに、最初から全力で狩る勢いでやるしかないのだ!!」

 力説し、全員がその言葉にうなずく。

 手を抜くような真似があっては、万が一があった時に悔やんでも悔やみきれない。

 だからこそ、ここは一気に攻める時だと彼らは理解しつつ、至らぬところも高めてどうにかしようと勢いをつけていく。

 そしてそのとばっちりで小さな悪党すらも駆逐されゆくのだが、それは彼らにとってどうでもいい副産物なのであった…‥‥

「そう言えばなのだが、精神的な干渉らしいデータもあったぞ。ハクロちゃんの方にはまったく効き目はないのだが、どうやら彼の方に干渉するような輩がいるらしい」
「洗脳、呪い系統か?」
「いや、そうでもないようだが…‥‥よくわからぬな」

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