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5章 高等部~そして卒業まで

5-5 そしてゆっくり忍びはじめ

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‥‥‥巨大フクロウのフックが学園へ来て数日。

 特に何かをしでかすわけでもなく、学園の寮の上に巣をつくりつつそこで気楽に過ごしているらしい。

 迷惑をかける事もないし、熊っぽいモンスターを狩って来るけれども肉片を食い散らかすこともなく、何か汚れたらきちんと掃除を行う心がけを持っていた。

【だって汚い場所で喰いたくもないのでごぜぇやすよ。だから掃除は欠かせなないのでございやす】
「そういうものなのか?」

 何にしても清潔なのは良いので、気にすることは無いだろう。

 問題だとするならば、ここへ来る際に持ってきた土産物に関してだろうか、







「それで本日呼び出しを受けたのですが‥‥‥何かあったのでしょうか」
「何があったというか、何を持ってこられていたというか‥‥‥心当たりはあるよな?目をこっちに向けないか」
「‥‥‥いえいえ、心当たりはありません」
「キュルル、アルスに無いので私にもありません」
「夫婦そろって目を思いっきりそらしているのだが」

 休日となった今日、王城に呼び出しを受けて謁見室へ案内され、そこで皇帝に問いかけられていた。

 他の臣下が周囲に見当たらないのだが、一応不用心とかそういう事ではなく、僕らを信頼してのようであるが‥‥‥うん、思いっきりこれは問題ごとを押しつけてしまったことがバレた感じがするなぁ。


「‥‥まぁ、良いだろう。ココへ呼び出したのは先日、そちらの庇護下に入ったという大きなフクロウが献上してきたことに関してのものだ」

 不敬罪などに問われることは無かったのだが、さっさと話すために皇帝はそう口を開いた。

「献上してきたもの?‥ああ、あの輝く木の実でしょうか?」
「そうだ。最初こそはただ輝くだけの木の実だと思い込みたかったのだが、これまでの事例を考えるとただの木の実ではないのは当然でな、念のために専門家を呼んで確認をしていたのだ」

 そう言いながら皇帝が懐から取り出したのは、フックが持ってきていた土産物の輝く木の実野一つであり、腐ったりすることは無くみずみずしいままの状態であった。

「それで調べたところ…‥案の定というかとんでもない物だったぞ」
「といいますと?」
「『延命の木の実』と、想像以上に単純な名前だが、その効果は想像以上のものだ」

―――――
『延命の木の実』
数十年、いや、数百年に一度しか姿を見せないと言われるような、幻の木の実。
一個食べるとピッタリ百年寿命が延び、しかも老化も同時に遅れており、若い身体のまま過ごすことが出来るとされている。
ただし、人間の身体では一つしか食することはできず、それ以上食べると爆発四散してしまうらしい。
―――――

 ‥‥‥ピッタリ百年だけとはいえ、人間の寿命を考えると長生きが出来る代物。

 流石に不老不死には届かないが、それでも普通の為政者であれば治める期間を延ばしたいがゆえに争ってでも確保したい代物のようで、過去には延命の木の実を巡って戦争を起こした国の例もあるらしい。

「流石に我が国では、長期政権は腐敗の元になりかねないという事で、ある程度の任期が決められているがゆえに必要性は無いだろう。だが‥‥‥これが他国に流れていたらどうなっていたと思う?」

 ぽんぽんっと木の実を軽く上に投げては受け止めつつ、厳しい目を向ける皇帝。

 その目線は思いっきり叱っている親のようなものなのだが…‥‥うん、何とも言えない。

「‥どう考えても、ねらって争いを起こそうと考える輩が出ますね」
「出ますね、処ではないだろう。それもかなり大量にだが…‥‥もってきた怪鳥は良いとして、国にこれを思いっきり献上という建前で押し付けようとしているのが問題だと言いたいのだ」

 このエルスタン帝国だからこそ、寿命を延命しようとしてまで地位に欲する人はほとんどいないだろう。

 だがしかし、他国が詳細を知ったのであれば、自身の楽しめる時を伸ばしたいものがいれば確実に狙ってくるのは目に見えている。

 相手が例え強大な帝国であったとしても、寿命を延ばせれば何処かで隙を見つけることが出来るかもしれないと考える輩も出るだろうし、そもそも一個ではなく多数あるのならば、他と協力して攻めてきてもおかしくはない。

 大戦乱を引き起こし書けないもめごとの種に対して、国に押し付けようとしたことに皇帝を怒らせてしまったらしい。


「とはいえ…‥アルスよ、そちらのこれまでの功績や、先日の表彰の件もあり、表立って罰することは無い。そもそもそのような事をすれば、いざとなるとこの国を出ていくということも考えられるからな。しかし、責任をしっかりと感じて欲しく、何も罰することが無いのは流石に無理だ」

 木の実を懐に仕舞い直し、皇帝は僕らのもとへ近寄る。

「‥‥そこでだ、今回の件の戒めも兼ねて、命じさせてもらおう」
「何をですか」
「争いの元になりかねない木の実だが…‥‥そもそも、流通量やその姿を現す頻度の少なさ、その効果故に狙う輩がいるのだ。であれば、その問題点を解決できるのであれば、争いも回避できるだろう」
「キュル‥つまり?」
「この木の実を元にして、ある程度抑えたものを品種改良し、市場へ流せ。少しばかり劣化したものだというもので、オリジナルが全くないということを示せば、ある程度の買い占めなどは予想できるとはいえ、それでも物凄く争う種になる確率はぐっと下がるからな」
「‥‥‥分かりました」


‥‥‥面倒ごとを国へ押し付けようとしたかったけれども、流石に限度というものがあったようだ。

 断る事も考えたが、そもそもフックに木の実をここに献上させるようにしたのは僕らだし、何も責任を負わないのは流石に無責任すぎるだろう。

 なので、仕方がなくも多少は自業自得だと納得しつつ、皇帝からの命令を受けるのであった…‥‥

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