転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波

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5章 高等部~そして卒業まで

5-4 大人は大人で悩まされるが

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‥‥‥誰もが寝静まる深夜、ホーホーッと大きなフクロウが学園の寮の上に巣をつくりながら、鳴いていた。

【ホホ―ッツ、ようやく今晩の寝床が出来上がったですなぁ】

 ふぅっとひと息を吐きつつ、巣の中に体を置く巨大フクロウことフック。

 いい出来具合に満足しつつも、フクロウなのに夜だから寝ようかと思っていたところで‥‥‥ふと、ある気配に気が付いた。

【ん?この気配は‥‥‥ホホ―ッツ、強気姉さん、何のようでごぜぇやすかぁ?】
「その呼び方違う、私ハクロ。あるいはアルスのお嫁さん、キュル」

 フクロウの言葉に対して不服そうに答えるのは、翼を広げて舞い降りてきたハクロ。

「庇護って知らないけど、間違えるのなら、私守らないよ?」
【すんません!!本気ですんません強気姉さん、いや、ハクロさん!!】
「キュル、そこまで盛大に土下座しなくても良いんだけど…‥‥」

 軽く冗談のつもりで言ったはずだが、瞬時に土下座したフックにハクロは目を丸くして驚かされた。

 

 何にしても今晩、何も理由が無くて訪れたわけではない。

「ねぇ、私は単純に、あなたに聞きたいことがあって来ただけなの」
【ホホ―ッツ!!あっしに答えられることならばなんなりと!!】

 見事な三下チンピラ風な雰囲気を纏わせるフックではあるが、巨大なフクロウが翼の生えた女性に土下座をする光景は中々シュールなものだろう。

 土下座ポーズを落ち着いてもらいつつ、ちょっと昼間に聞き損ねていたことに関して、彼女はわざわざここにやって来たのだ。

「‥‥‥『星々が輝く夜空よ、星の明かりは我が子であり、照らす大いなる月はその母である。母の光は子を導き、そして力を与え、輝かせよう。星の明かりは、モンスターの命の火。輝く火は地上に落ち、そしてまた空へ帰る』‥‥‥この話、聞いたことが無い?」
【ホホ?ふぅーむ…‥‥その話、どこできいたのでごぜぇやすか?あっしの知る文に繋がっているようで、ちょっと違う感じがするでやすなぁ】
「どこで知ったの?」
【あっしのひいひいひいひいひい…‥‥爺さんか婆さんか、どちらかは不明でやすが、ご先祖様のあたりから伝わっているという昔話に近いのでごぜえやすよ】

 その言葉を聞き、ハクロは確信する。

 いや、そもそもこんな巨大怪鳥が人の言葉を話している時点で十分疑っていたのだが‥‥‥それでも、とあることが同じだということを分かったのだ。

「その話、多分私のご先祖様の方でもやっているらしいの。とあるスライムの賢者さんが話してくれて、ソレと別の方で話を見つけて…‥‥知っている先祖が、もしかして人間に作られた存在じゃないかって話があるの」

‥‥‥少々前の話になるが、とある賢者スライムから聞いた話と、あるダンジョンの奥で見つかった日記を見た時の話である。

 なにやらどこかの国で、かなりの大昔にモンスターを兵器化する実験をしており、その過程の最中で人の言葉を理解するモンスターが産まれていたこと。

 既に大昔すぎるので話自体は廃れていたのだが、ご先祖様がその作られたモンスターであるのならば、他にもいたという話があった。

 その聞いた当時はいたのか、ご先祖様はそんなことをしていたのかという程度の認識ではあったが、本日の話す巨大フクロウのフックを見て、彼もまたもしかすると同類というか親戚のような者かもしれないと思い、彼女は問いかけてみたくなったのだ。

【ホホホ―ッツ!?初耳でごぜぇやすがな!?あっしのご先祖様の話は‥あ、いや、もしかするとこれはそうなのでございやすのかねぇ?】
「何?どういうことなの、キュル?」
【あっしの話し方でやんすが、この口調は先祖代々伝えらて矯正されたものでごぜぇやすのよ。あっしの子供時代は、もっとワイルドな感じだったのでごぜぇやす】


…‥‥フックの話によれば、彼の三下風小物なチンピラのように感じさせる口調は、先祖代々矯正されてきたものらしい。

 何でそんな話方をするのかと言えば、そのご先祖様の時から伝わる話があるのだろか。

【明らかにアホそうな話し方をすれば、どんな人も呆れてダメなモンスターかもしれないと思うだろうという事で、こんな口調になっているのでごぜいぇやすよぅ。まぁ、もう染みついたので直しようもないけれども、特に不自由もないので文句はないのでごぜぇやすがね。もしかすると、その人に作られたかもしれないご先祖様はその事で人を嫌いになって、関わりにくいような口調を伝えたのかもしれないでごぜぇやすなぁ】

 まぁ、無理もないのかもしれない。

 作られた存在かもしれないが、ろくでもない理由で作られたかもしれないと感じ取れたのであれば毛嫌いするだろうし、人と関わりたくないのであれば避ける理由を作るだろう。

 でも、そのようなチンピラ風の話し方はどうなのかと思うのだが…‥‥とにもかくにも、話から考えると、案外親戚のような者同士だったようである。

【っと、そうでごぜえやした。あっしの知る話のほうを知りたかったのでごぜけやすねぇ?大丈夫、ばっちり普通のもので覚えているのでごぜぇやす!!‥‥‥しかし、何で知りたいのでやすか?】
「なんとなく。こういう話、何かこう意味ありそうだもの。全部しっかり聞いて、お母さんから聞いた話の全文、知りたいと思ったの」

 その文章を全部知ればどうなるのかということなどは知らないが、単純に亡き母の話していた内容の全部を知りたいだけである。

 どうやらあちこち違うモンスターたちが持っているようなので、聞ける機会があれば聞いてみたいなと密かに思っており、今回巡って来たのだ。

【なるほど。では、話しましょうや…‥‥‥『光の星よ、闇夜の空よ。そろって夜空を作り上げ、全てを生み出し、そして滅せよ。星々が降り注ぎ・・・・輝く夜空よ、星の明かりは滅亡と再生・・・・・を繰り返す・・・・・我が子であり、照らす大いなる月はその母であ空は父である・・・・・・』っと、このぐらいでごぜぇやすなぁ。色々と足りない分もこれで埋まっているのでごぜぇますか?】
「キュル‥‥‥確かに、ちょっと違うかも」

 以前にスライムから知った話もあったが、それを補うようになっていた。

 まぁ、口伝というのはいい加減な部分であり、人であろうとモンスターであろうと、何かが失伝してしまうのは避けられないだろう。

 けれどもこれで、ある程度のものが見えてきたとハクロは考える。


「つなげると‥‥‥『光の星よ、闇夜の空よ。そろって夜空を作り上げ、全てを生み出し、そして滅せよ。星々が降り注ぎ輝く夜空よ、星の明かりは滅亡と再生を繰り返す我が子であり、照らす大いなる月はその母であり、空は父である。母の光は子を導き、そして力を与え、輝かせよう。星の明かりは、モンスターの命の火。輝く火は地上に落ち、そしてまた空へ帰る』‥‥‥んー、長いけれど、意味がいまいちわからない、キュル。‥お母さんは、何を伝えて来たのかな?」
【あっしでもわからんでやんすよ。あ、でももしかしたら‥‥‥他の奴なら知っているかもしれねぇでごぜぇやすよ】
「本当?」

 内容が何を示しているのかが分からないが、他の者が知っているかもしれない情報をフックはつぶやいた。

【あっしのように、人語を話せるのは数体ほど心当たりがあるのでごぜぇやす。良ければ連絡して、他に知っていないか調べやしょうか?】
「できるの!?」
【ええ、あっしはこう見えても肺活量と声の届く範囲は自負しているでごぜぇやすからな!!変な輩に気が付かれないように、それでいてあっしたちモンスターにしか聞こえない音波を響かせ、連絡可能でごぜぇやすよ!!】

 翼だけど人がグッと指を立てるそぶりを見せ、自信満々に答えるフック。

 出来るのであればやってほしいとも思うのだが、騒ぎになるのは不味いかもしれないとも思う。

「‥‥‥出来れば、目立たずに来れないかな?」
【それは無理かもしれないでごぜぇ‥‥‥あ、いや、出来るかもしれないかも?】
「え?」
【数体のうち一体が、大空を行く巨体でありやすからなぁ。飛べるのであればその上で集合してみるのもありかもしれないでごぜぇやす】

 案を聞きつつ、それで良いのかと思うも、一応相談したほうがいいかもしれないとハクロは考える。

 なので今晩は話を聞くだけ聞いて、朝になったら改めてアルスに話してみようかと考える。

「うん、なら今日はこれで良いかな‥‥‥ありがとう、フクロウさん」
【いやいや、礼を言うのはあっしでやす。そちらの庇護からなら、安全を確保できそうで‥‥‥ううっつ、あの粘着質な視線がないのは、本当に嬉しいのでごぜぇやすよぉ!!】
「‥気持ち、分かるかも」

 少々前に起きた面倒事と似ているようで、同情するハクロ。

 何にしても互いに別れの挨拶をした後、彼女はすぐにアルスとの部屋に舞い戻った。



「キュル‥‥‥ご先祖様の話、気になる。私の親戚かもしれないし、どういう人がいるのか、もっと調べたいからね‥‥‥」

 すやすやと眠るアルスの横にちゃっかり入り込み、ぎゅっと抱きしめて今はアルスと一緒に寝る事を感じ取ろうという方へ思考を切り替える。

 自分が挙式を挙げる未来があるのはいいけれども、話を聞くとそういう場には知り合いや親戚を招くものらしいので、だったら親戚筋といえるような人たちも紹介できないかなと密かに考えているのだ。

 とにもかくにも、今はゆっくりと眠気に襲われて、アルスと一緒に寝息を立てはじめるのであった…‥‥


「ふふふ、アルスとの式、皆いるのかも‥‥‥出来ればお母さんも、一緒に出席してほしかったなぁ‥‥‥」

‥‥‥ギガマザータラテクトと推測される母親が、仮に生きていたとしても挙式会場に入れるのかという疑問は考えないでおく。
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