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3章 学園中等部~

3-18 それは嵐のように

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【キュルゥ…‥‥これとこれ、ちょっとください】
「あいよっ!ハクロちゃん、せっかくだしサービスだよ!」
【ありがとうございます】

‥‥‥帝都内の商店街。

 本日は平日ゆえに学園内でアルスは過ごしていたが、ハクロは今、そこで一人買い物をしていた。

 普段はアルスと一緒の姿を見ている人々としては、このように一人で過ごす彼女は珍しくも思える。

 休日であれば仲睦まじく、それでいてハクロがアルスの側を離れることはそうそう見ることは無いのだが‥‥‥不思議に思った者が問いかければ、その回答に納得する。

 すなわち、「アルスへのプレゼント作り」だと。
 
 普段はぴったりと寄りそうも、たまには密かに作ってあげたい。

 話では、ちょっと色々と対抗したくなるような相手が出ており、その相手に対して手を下すとかはせずに、しっかりと自分と言う存在をアルスに認識させるためにも、手作りで秘密裏にやってあげたい。

 まぁ、どことなく寂しそうな顔をしていたので、そんな思いを抱かせるぐらいなら原因となっているアルスを殴らせろと言いたくなるものが多くもいたが、それは彼女の望む事ではないだろう。

 むしろ、アルスに害をなせばハクロの方が傷つき、悲しませることになってしまうだろう。


 そのため、この話を聞き、だったら飛び切りものを作ってあげれば良いと話が広まり、密かに支援の輪が広がっていたりもした。

 具体的には、彼女の行く先々の店にファンクラブの者たちが先取りして品物を用意し、どの様にすれば相手がより喜ぶのか、僅かだけどアドバイスをしたり、より良い品々を仕入れておく。

 とはいえ、情報を得ていてもやはりアルスの事を良く知るのはハクロ自身であり、彼女が一生懸命やるのであれば、余計な手を出さないほうがいいだろう。

 だからこそ、皆は温かく彼女を見守り、密かな支援に留めていたのだが‥‥‥‥それでも、悪意と言うものはどこから出てくるのかはわからないものである‥‥‥‥








「‥‥おかしいな?ハクロ見なかった?」
「見てないけど…‥‥彼女いないのかしら?」
「昼食には戻って来るって、約束していたんだけどね」

 学園の食堂にて、ハクロが戻ってくるのを待っているところで、アリス皇女が近くにやってきた。

 留学先からなんやかんやでここにしばらく滞在するとはいえ、相手は同じ転生者。

 いや、転生元が人間ではないとはいえ、それでも何かと話が合うのは面白い。

 なので、こうやって来るのは別に良いのだが‥‥‥‥今日はそんな事よりも、お昼時もそろそろ中ごろに差し掛かるのに、ハクロが来ないのが気になる。

 あと皇女様、その手に盛った大量の書物、なにかと変な絵面の表紙になってないかな?確かそれ、学園内の一部女子生徒たちで賑わう書籍コーナーの‥‥いや、それ以上深く突っ込むこともないし、口にも出すまい。。

 趣味と言うのは人それぞれであり、こういうのは分かる人だけが分かり合えばいいだけの話でもあり、好きにしてもらえばいいのである。なお、ハクロには嵌らせないように近寄らせなかったけど、そもそも理解できなかったらしい。勧めた皇女様が残念そうにしていたのは気のせいだと思いたい。

 それはともかくとして、ハクロはここ最近何かをしているようで、今日もどこかに一人で出かけていたけど、昼食時には戻ってくると言っていたはずである。

 彼女が僕との約束を破る事も無いだろうし、遅いのが気になるのだが‥‥‥‥

「‥何かあったのかな?」

 

 学園外へ出て行ったはずだが、変なことにでも巻き込まれたのだろうか?

 彼女の容姿は美しいし、可愛いし‥‥‥何かこう、変な暴漢でも手を出してきた可能性がある。

 でも、魔法も糸も扱えるし、身体能力も高くいざとなれば素早い逃げ足もあるし…‥‥そんな目に合わないとは思う。むしろ、襲った人たちが犠牲になっている可能性の方が高い。

 もしくは、何処かで買い物に夢中になっているとか?正妃様との薬の取引でお金はあるし、彼女にもそれなりに持たせていたはずだからね。

「ふーん?でもこうも遅いのは珍しいわねぇ…‥‥まさか、誰か親しい人と逢引きしているとか?」
「んー、友人ならそれなりにいるとは聞くけどなぁ…‥‥」

 というか、逢引きって言い方は古いような‥‥‥‥店の人と親しくなっていたりすることは聞くけど、そっちで話が盛り上がっているとかも考えられるか。

 もしくは、僕以外の異性の人と話が盛り上がっているのか‥‥‥‥なんかもやっとするな。




 しかしながら、ここでいくら考えても答えは出ないだろう。

 ハクロ本人が戻ってくればいいのだが‥‥‥‥時間も過ぎるし、不安になって来たので探しに行こうかと思っていた…‥‥その時だった。

「とりあえず、学園外へ探しに行、」

ドッガアアアアアアアアアアアアアアン!!
「「!?」」

 突然響き渡った大きな爆音。

 何事かと生徒たちが驚く中、僕らはその音の方向を見れば、何か破片が飛び散って落下し来ており、異常なほどの煙が立ち上っていた。

「なんだ!?」
「何か、爆発したようだが‥‥‥‥何があったんだ?」

 どこかの馬鹿がテロでも起こしたのかと思ったが、帝国内でそんなことをやろうとする馬鹿はいない。

 と言うかそもそも、前にフキマリア教での一件があったからこそ、帝都内に侵入するような不審者はすぐに取り締まられるように厳しくなっていたはずだが‥‥‥‥そんな中をかいくぐって爆発を起こすのは不可能に近いだろう。

 けれども、爆発だけであれば、やれそうなのを僕は知っている。

 とはいえ、彼女が…‥‥ハクロが大きな魔法をぶっ放したとは思えないし、爆発と言うと基本的に火の魔法でのイメージがあるので、そんな魔力消費の激しすぎるような真似は普通はしないはずだ。

‥‥‥でも、何か嫌な予感がする。

「‥‥ちょっと行ってきます!!」

 ばっと駆けだしながら、僕は素早く変身薬を精製し、一番慣れた鳥に変身する。

 翼を広げて一気に上昇し、急下降して加速する。





 すぐに現場の付近へ近づき、上から見れば、爆発付近は何かと煙が上がっているようだ。

 あちこちが荒れているというか、整備されている帝都内でここまでやられるのは、何か攻撃を撃消えた可能性が高い。

ぽんっ
「っと!!」

 っと、急ごしらえで時間制限も気にしてなかったせいか、薬が切れて元に戻って落下する。

 こういう時にハクロがいれば、彼女なら華麗に僕を載せて着陸してくれるが、今はいない。

 なので、地面にめがけて別の薬を投げつけ、地面そのものを一時的なクッション状にして、軟着陸する。


「あちこちが酷いというか…‥‥この臭いは…‥‥」

 くすぶっている周囲では、何かと騒ぎが起きているらしい。

 煙がすごいが…‥‥よく見れば、倒れている人たちの姿が見える。

 ただ、一般人のようでもなく、着ている衣服から見ると…‥‥どこかの間諜か、あるいは密偵か、黒づくめに灰色づくめなど、どう見ても常人ではない。

 しかも、怪我を負っているようだし、何か情報を持っている可能性がある。

 なにか、すぐに治療薬を精製して手近な人に話を聞く。

「大丈夫ですか!!何があったんですか!!」
「うっ‥‥‥ぐっぅ…‥‥」

 飲み薬タイプではなくかけ薬として怪我した個所に流しつつ、体を起こさせれば気が付いたようだ。

「ば、爆発が‥‥‥」
「いや、それは分かっているのですが、何が爆発したんですか!!」
「わからない‥‥‥ただ、地下から爆発して…‥‥」

‥‥‥地下?

 回復し切ってないようだが、指をさしてくれた方を見れば、大きな煙が昇っている場所。

 そしてその下の方に向けており、眼を凝らしてみれば地面の上ではなく下の方から‥‥‥穴が空いて、そこから煙が出ているようだ。

「何者かが、地下から帝都に…‥‥流石にそこは予想外だったが、どうやらファンクラブに所属してないどこかの‥‥‥手駒が‥」
「ファンクラブって、なんの‥‥‥いや、そもそもそれでなぜ」
「それが分かれば‥‥‥いや、明かか。奴らは‥‥‥ハクロちゃんを‥‥‥」
「‥‥‥ハクロを!?」


 何とか辛うじて話してくれたのは、どうやらあの爆発は地下から急に起きたらしい。

 そしてその現場の上には、ちょうど買い物袋を背負って帰る途中だったハクロがいたらしく‥‥‥周囲にいたその他の人たちと一緒に、ふっ飛ばされたらしい。

 とはいえ、ハクロの場合常人とは違ってモンスターであり、臨機応変に何とか捻って着地。

 そして爆発したところから何者かが這い上がって来たのを見て、直感的に何かを感じたのか糸を出して拘束しようとしたそうだ。

 だがしかし、相手の方は先に準備していたのか、ハクロの初動がある前に素早く動き、矢を次々と放ったそうだ。

 そうやすやすと当たらないようにハクロは回避したようだが‥‥‥その一瞬のスキを突き、出てきた奴らの仲間が背後に回って、ぼんっと再び何か爆発を起こし、煙を捲いた。

 不意打ちゆえに対応しきれずにその煙をハクロは吸ってしまい‥‥それでも何とかこらえたようだが、数十秒ほどで意識を失ったそうだ。

 そしてそのままその者たちはハクロを手早く拘束して運ぼうとしていたが、そうは問屋は卸さないと言わんばかりに、彼女のファンクラブとかいうものたちが次々に現れて徹底抗戦したらしい。


‥‥‥でも、ファンクラブのの者たちは間諜とか密偵だとか諜報だとか、紛れて任務をこなすのが得意な人は多くいたようだが、相手の方が戦闘に特化していたようで、あっと言う間に全滅。

 そして煙で騒ぎが起きている間に、そのままハクロ諸共穴に飛び込み、姿を消したようである。

「‥‥‥‥ハクロを、連れ去ったのか…‥‥でも、何のために」

 正直言って、目的が何なのかはわからない。

 いや、美しい容姿とか珍しいものとかそう言う事で考えるのであれば、色々とあり過ぎて正確なものがわからない。

 ただ一つ、はっきりしているのは、かなり鍛錬しているというか整えられた者たちが地下から侵入してきてハクロをさらったという事だろう。

「‥‥‥」

 今すぐにでも穴に飛び込んでそのまま後を追いかけたいが、生憎ながらどのぐらいなのか見当もつかないし、多少の無茶ができようとも一人では無理がある。

 周囲には怪我人もいて放置はできないし、この場合国が動くだろうし…‥‥それでも、直ぐに僕が動けるという訳でもない。

「‥‥くそぉおおおおお!!」

 なんというか、言いようのない憤りが出て、思わずそう叫んでしまう。

 大事な家族を、彼女を、ハクロを連れ去られ、直ぐに行動に移そうにもやれることが多いわけでもない。

 何しろ、チートのような薬の精製能力があるとは言え僕自身が超人じみたものでもないし、ある程度の護身術などを授業で習ったとはいえ、実践でまだ扱えるとも限らない。

 とにもかくにも、沸き上がる怒りを収めつつ、今できる事を精いっぱい考え、行動に移し始める。

 何者がハクロをさらったかは知らないが、時間をかければそれだけ不味い事になりそうなのは容易に想像できる。

 だからこそ、素早く彼女を助け出すためにも‥‥‥‥ここはもう、全力でやれることをやるしかない。

 そう心で理解していながらも、ハクロを連れ去られたその悲しみと怒りに、気持ちのぶつけどころがない憤りに体を震わせるのであった‥‥‥‥
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