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3章 学園中等部~
3-16 思い出すのもほどほどにしつつ
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‥‥‥柊木有栖、それが私の前世の名前。
わたしが落ちた場所にいた少年の不思議な薬で思い出したのは良いのだが…‥‥前世のわたしは何もなかった。
「‥‥どういうことなのかしら、アリスちゃん?」
「お母様、今口にした通りのことです。わたしには肉体も何もなく、ただ単純に‥‥‥電子上の存在だったのです」
王城内の、今世の私にとっては慣れ親しんだ中庭。
謁見室から場所を移し、落ち着いて話せるようにお母様が使用人たちに命じて用意してくれたお茶会の場で、わたしはゆっくりとそう説明をし始める。
そう、こうやってゆっくりとお茶を飲む肉体は、前世のわたしにはなかったのだ。
「電子上って…‥‥何かこう、AIとかそう言うのだったの?」
「ええ、そうよ。わたしの前世の正式名称は『医療介護特化AIシステム』だったからね」
【キュル?AIってなーに?】
「簡単に言うと、ゴーレムの頭脳みたいなものかな」
【んー?わからない。不思議な人、ってことなの?」
「そういうことになるわね‥‥‥いえ、私から言わせてもらうのであれば、貴女の方が圧倒的に不思議なんだけれども」
‥‥‥うん、そもそも前世には、こんなモンスターの美女もいなかった。
AIがこの世界で知られていないから不思議に思われるのは分かるけど、わたしからして見たらあなたの方がすごい不思議だからね?
そもそも、AIとしてゲームなどもやったことはあるけど、その中に出るような人に出会うなんて、誰が想像できたのかしら?
まぁ、そこでもちもちとお茶菓子を食べつつ、少年に口元を拭かれている彼女のことは置いておいて、前世のわたしの話に戻そう。
とにもかくにも前世の私はただのAIであり、人の思考に近い物を持っていたが人には有らず、電子の存在。
ありとあらゆる介護施設を担うだけの能力を持ち、とある介護施設内で与えられた介護機器を操作して対象となった介護者の介護を行い、そこそこの仕事をしていた日々ではあったが‥‥‥ある日、その生活に変化があった。
それは、とある少女の介護を任された時だった。
少女は親せきをたらいまわしにされたようで、施設に預けられたときには既に心が荒んでおり、死人のような目をしていた。
けれども、これでも私は介護用AIであり、介護する相手の事を思って行動するのは当然で、少女のためにどうにかできないかと動き、徐々に心を開いてもらった。
まぁ、やる手段には少々出しては不味そうなものもあったというべきか、その才能があったのかいらぬものも少女に開花させてしまったのだが…‥‥それでも、彼女の目に生きる光が戻っていた。
そしてある日、彼女はわたしと話している中で、ふとある事を尋ねてきた。
「‥‥‥たわいもない、友人とするかのような会話。でも、少女の友はわたししかいなかったようだが‥‥‥ある事を言ったのだ」
わたしをどう呼べばいいのか、最近悩み始めたという悩み事。
介護用AIとしての正式な名称や型番号などがあるとは言え…‥‥それでも、長くて言いづらい。
だからこそ、この際ちょっと思いついた名前になってほしいと言われ、わたしは受け入れた。
その名前が、柊木有栖‥‥‥少女が思いついた、たった一つの名前。
生きる活力が戻る中で、わたしとのふれあいでだんだん情が移ったようで…‥‥少女の名字もありつつ、名前を貰ったのである。
ただの介護用AIに、人のような名前を付けるのはどうなのか。
そう思ったが、少女は笑って家族のように接してくれるからこそ、家族として名前が欲しかったんだよと言い、それ以上わたしから言うことは無かった。
けれども、何故だか不思議なことに、わたしは少女から名前を貰ったことが嬉しく想えたのだ。
‥‥‥それからの毎日は、今までとは違った感覚を味わった。
名前を貰ったことで、たがいに名を呼び合い、笑いあい、語り合う。
年頃になったからこそゲームにもはまり始め、少女と攻略しつつ、色々と楽しんだ。
でも、その日々はある日突然、終わりを告げた。
「‥‥‥本当に、偶然の出来事だった。彼女といつも通り過ごしている中で、突然警報機が鳴り響いたんだ」
「警報機?」
「ああ。介護用と言うだけあって、介護が必要な相手は避難が困難な人もいるだろう?そんな人を素早く避難させられるように、警報が設置してあったのだが…‥‥」
警報が鳴った原因は、その施設での火災の発生。
どうやらただの火災ではなく、放火だったようだ。
入居していた一人がとある資産家であり、その人さえ亡くなってしまえば遺産を自分のものにできると思った馬鹿だったのだろうが‥‥‥馬鹿は馬鹿ゆえに馬鹿なりのやらかしをしたようで、あっという間火に包まれてしまった。
入居者たちを最優先して避難させてはいたが、わたしは最後を感じ取っていた。
と言うのも、ガソリンでも撒かれたのか火災の勢いが凄まじく、コンピューター自体が焼けようとしていたのだ。
電子上の存在であるとは言え、それを動かすにはハードが必要であり、そのハードが無くなってしまえばどうしようもない。
幸い、バックアップは取っていたのだが…‥‥それでも、今を過ごしているわたしはいなくなるだろう。
それでも、AIとして必死に避難をさせつつ、できる領域が無くなってゆく。
そして、アームの一本が最後に動かせなくなるところで…‥‥わたしは泣き声を聞いたよ。
それは避難させた少女ではあったが、どうやらわたしがわたしでなくなることを理解していたのか、それはそれで大きな声で泣き、助けを求めていた。
ただの介護用AIであるにすぎないわたしではあったが‥‥‥‥少女は本当に、友のように、家族のように思っていてくれたようだ。
泣かないでほしい。バックアップは取ってあり、そのわたしが後を継いでくれるはずだから。
わたしがわたしでなくなったとしても、わたしは貴女を思っていたのだから。
そう口にしたくもあったが、スピーカーも無くなり、伝えることはできなかった。
けれども、想いは伝わった様だけど…‥‥それでも少女は泣いていたよ。
「『愛が無かったわたしに愛を教えてくれて、そして与えてくれたあなたがいなくなるのは嫌だ』‥‥‥とね」
覚えていたその言葉を口にした後、説明に区切りをつけ、お茶を飲む。
ああ、なぜそれを忘れていたのか、わたしはわからない。
人でないからこそ、人になった時に忘れ去る必要があったのかもしれないが…‥‥それでも、それはもう頭の昔の話だろう。
「でも、愛を教えてくれたといっても…‥‥わたしは介護用AIだったがゆえに、それが本当のものかはわからない。逆に少女がわたしにあたえてくれたのであり…‥‥そしてその愛を、わたしは学びたいと最後に思ったかな」
だからこそ、わたしは今、この国の皇女として生を受けたのだろうか?
愛を知らぬ少女から言われた言葉に対して、真に学ぶためにこの世界の人間になったのか?
そのようなことができる存在は知らないが、もしそうであるならばその想いはもう叶っているだろう。
なぜならば、AIの時にはできなかった母が居り、父が居り、兄弟がいるのだから。
「‥‥‥とりあえず、これで話はお終いです。お母様」
「そうなのね‥‥‥何か、辛い思い出も話させてごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ」
だってわたしは今、家族の愛を知っているのだから。
この世界に生を受け、どのようなものなのかを学んだのだから。
「それに、これはこれで面白そうな愛も見つけましたしね」
家族愛、友人愛とくれば、次はどのような愛があるのか。
今のわたしの学んだ内容としては、恋愛がまだなく‥‥‥‥その対象になりそうなのを、見つけたと言えるだろう。
【キュルゥ?】
わたしがちらっと見れば、何かを察したのかびくっと蜘蛛の美女が体を震わしたようだが、そう警戒しないでほしい。
前世を思い出したとはいえ、これでもわたしはれっきとした皇女であり、色恋沙汰は不味いと分かっているのだから。
だけどね‥‥‥ちょっとだけは味合わせてもらっても良いよねぇ?
「何だろう、今寒気がしたような」
‥‥‥そう言えば、前世のあの少女も言っていたっけ。わたしは基本的に人のためになるよなことはするけど‥‥‥
「ねぇ、有栖。なんで恋愛ゲームの対戦もので、悪役の方を選ぶの?」
「‥‥‥なんとなく、面白いからです」
と、まぁそんな会話をしていたけど…‥‥ねぇ、今なら思いっきり、人の体があるし、楽しめそうですよね。
ある程度はわきまえるが、AI時代には無かった直接体感できそうなものを逃す気はない。
と言うか、学習意欲は前世から存在しており、記憶を思い出す前でも密かに恋愛ものの小説を愛読書にしていたりもする。
「‥‥‥アリスちゃん、ほどほどにね?」
「わかってますよ、お母様」
不安そうな顔で言わなくても、わかっていますから。
そう、精々ちょっと、面白そうな関係を素早く判断したので、後押しをしてあげるだけですよ‥‥‥‥ふふふふふふふふふ‥‥‥
わたしが落ちた場所にいた少年の不思議な薬で思い出したのは良いのだが…‥‥前世のわたしは何もなかった。
「‥‥どういうことなのかしら、アリスちゃん?」
「お母様、今口にした通りのことです。わたしには肉体も何もなく、ただ単純に‥‥‥電子上の存在だったのです」
王城内の、今世の私にとっては慣れ親しんだ中庭。
謁見室から場所を移し、落ち着いて話せるようにお母様が使用人たちに命じて用意してくれたお茶会の場で、わたしはゆっくりとそう説明をし始める。
そう、こうやってゆっくりとお茶を飲む肉体は、前世のわたしにはなかったのだ。
「電子上って…‥‥何かこう、AIとかそう言うのだったの?」
「ええ、そうよ。わたしの前世の正式名称は『医療介護特化AIシステム』だったからね」
【キュル?AIってなーに?】
「簡単に言うと、ゴーレムの頭脳みたいなものかな」
【んー?わからない。不思議な人、ってことなの?」
「そういうことになるわね‥‥‥いえ、私から言わせてもらうのであれば、貴女の方が圧倒的に不思議なんだけれども」
‥‥‥うん、そもそも前世には、こんなモンスターの美女もいなかった。
AIがこの世界で知られていないから不思議に思われるのは分かるけど、わたしからして見たらあなたの方がすごい不思議だからね?
そもそも、AIとしてゲームなどもやったことはあるけど、その中に出るような人に出会うなんて、誰が想像できたのかしら?
まぁ、そこでもちもちとお茶菓子を食べつつ、少年に口元を拭かれている彼女のことは置いておいて、前世のわたしの話に戻そう。
とにもかくにも前世の私はただのAIであり、人の思考に近い物を持っていたが人には有らず、電子の存在。
ありとあらゆる介護施設を担うだけの能力を持ち、とある介護施設内で与えられた介護機器を操作して対象となった介護者の介護を行い、そこそこの仕事をしていた日々ではあったが‥‥‥ある日、その生活に変化があった。
それは、とある少女の介護を任された時だった。
少女は親せきをたらいまわしにされたようで、施設に預けられたときには既に心が荒んでおり、死人のような目をしていた。
けれども、これでも私は介護用AIであり、介護する相手の事を思って行動するのは当然で、少女のためにどうにかできないかと動き、徐々に心を開いてもらった。
まぁ、やる手段には少々出しては不味そうなものもあったというべきか、その才能があったのかいらぬものも少女に開花させてしまったのだが…‥‥それでも、彼女の目に生きる光が戻っていた。
そしてある日、彼女はわたしと話している中で、ふとある事を尋ねてきた。
「‥‥‥たわいもない、友人とするかのような会話。でも、少女の友はわたししかいなかったようだが‥‥‥ある事を言ったのだ」
わたしをどう呼べばいいのか、最近悩み始めたという悩み事。
介護用AIとしての正式な名称や型番号などがあるとは言え…‥‥それでも、長くて言いづらい。
だからこそ、この際ちょっと思いついた名前になってほしいと言われ、わたしは受け入れた。
その名前が、柊木有栖‥‥‥少女が思いついた、たった一つの名前。
生きる活力が戻る中で、わたしとのふれあいでだんだん情が移ったようで…‥‥少女の名字もありつつ、名前を貰ったのである。
ただの介護用AIに、人のような名前を付けるのはどうなのか。
そう思ったが、少女は笑って家族のように接してくれるからこそ、家族として名前が欲しかったんだよと言い、それ以上わたしから言うことは無かった。
けれども、何故だか不思議なことに、わたしは少女から名前を貰ったことが嬉しく想えたのだ。
‥‥‥それからの毎日は、今までとは違った感覚を味わった。
名前を貰ったことで、たがいに名を呼び合い、笑いあい、語り合う。
年頃になったからこそゲームにもはまり始め、少女と攻略しつつ、色々と楽しんだ。
でも、その日々はある日突然、終わりを告げた。
「‥‥‥本当に、偶然の出来事だった。彼女といつも通り過ごしている中で、突然警報機が鳴り響いたんだ」
「警報機?」
「ああ。介護用と言うだけあって、介護が必要な相手は避難が困難な人もいるだろう?そんな人を素早く避難させられるように、警報が設置してあったのだが…‥‥」
警報が鳴った原因は、その施設での火災の発生。
どうやらただの火災ではなく、放火だったようだ。
入居していた一人がとある資産家であり、その人さえ亡くなってしまえば遺産を自分のものにできると思った馬鹿だったのだろうが‥‥‥馬鹿は馬鹿ゆえに馬鹿なりのやらかしをしたようで、あっという間火に包まれてしまった。
入居者たちを最優先して避難させてはいたが、わたしは最後を感じ取っていた。
と言うのも、ガソリンでも撒かれたのか火災の勢いが凄まじく、コンピューター自体が焼けようとしていたのだ。
電子上の存在であるとは言え、それを動かすにはハードが必要であり、そのハードが無くなってしまえばどうしようもない。
幸い、バックアップは取っていたのだが…‥‥それでも、今を過ごしているわたしはいなくなるだろう。
それでも、AIとして必死に避難をさせつつ、できる領域が無くなってゆく。
そして、アームの一本が最後に動かせなくなるところで…‥‥わたしは泣き声を聞いたよ。
それは避難させた少女ではあったが、どうやらわたしがわたしでなくなることを理解していたのか、それはそれで大きな声で泣き、助けを求めていた。
ただの介護用AIであるにすぎないわたしではあったが‥‥‥‥少女は本当に、友のように、家族のように思っていてくれたようだ。
泣かないでほしい。バックアップは取ってあり、そのわたしが後を継いでくれるはずだから。
わたしがわたしでなくなったとしても、わたしは貴女を思っていたのだから。
そう口にしたくもあったが、スピーカーも無くなり、伝えることはできなかった。
けれども、想いは伝わった様だけど…‥‥それでも少女は泣いていたよ。
「『愛が無かったわたしに愛を教えてくれて、そして与えてくれたあなたがいなくなるのは嫌だ』‥‥‥とね」
覚えていたその言葉を口にした後、説明に区切りをつけ、お茶を飲む。
ああ、なぜそれを忘れていたのか、わたしはわからない。
人でないからこそ、人になった時に忘れ去る必要があったのかもしれないが…‥‥それでも、それはもう頭の昔の話だろう。
「でも、愛を教えてくれたといっても…‥‥わたしは介護用AIだったがゆえに、それが本当のものかはわからない。逆に少女がわたしにあたえてくれたのであり…‥‥そしてその愛を、わたしは学びたいと最後に思ったかな」
だからこそ、わたしは今、この国の皇女として生を受けたのだろうか?
愛を知らぬ少女から言われた言葉に対して、真に学ぶためにこの世界の人間になったのか?
そのようなことができる存在は知らないが、もしそうであるならばその想いはもう叶っているだろう。
なぜならば、AIの時にはできなかった母が居り、父が居り、兄弟がいるのだから。
「‥‥‥とりあえず、これで話はお終いです。お母様」
「そうなのね‥‥‥何か、辛い思い出も話させてごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ」
だってわたしは今、家族の愛を知っているのだから。
この世界に生を受け、どのようなものなのかを学んだのだから。
「それに、これはこれで面白そうな愛も見つけましたしね」
家族愛、友人愛とくれば、次はどのような愛があるのか。
今のわたしの学んだ内容としては、恋愛がまだなく‥‥‥‥その対象になりそうなのを、見つけたと言えるだろう。
【キュルゥ?】
わたしがちらっと見れば、何かを察したのかびくっと蜘蛛の美女が体を震わしたようだが、そう警戒しないでほしい。
前世を思い出したとはいえ、これでもわたしはれっきとした皇女であり、色恋沙汰は不味いと分かっているのだから。
だけどね‥‥‥ちょっとだけは味合わせてもらっても良いよねぇ?
「何だろう、今寒気がしたような」
‥‥‥そう言えば、前世のあの少女も言っていたっけ。わたしは基本的に人のためになるよなことはするけど‥‥‥
「ねぇ、有栖。なんで恋愛ゲームの対戦もので、悪役の方を選ぶの?」
「‥‥‥なんとなく、面白いからです」
と、まぁそんな会話をしていたけど…‥‥ねぇ、今なら思いっきり、人の体があるし、楽しめそうですよね。
ある程度はわきまえるが、AI時代には無かった直接体感できそうなものを逃す気はない。
と言うか、学習意欲は前世から存在しており、記憶を思い出す前でも密かに恋愛ものの小説を愛読書にしていたりもする。
「‥‥‥アリスちゃん、ほどほどにね?」
「わかってますよ、お母様」
不安そうな顔で言わなくても、わかっていますから。
そう、精々ちょっと、面白そうな関係を素早く判断したので、後押しをしてあげるだけですよ‥‥‥‥ふふふふふふふふふ‥‥‥
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