転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波

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3章 学園中等部~

小話 間諜仮面会合/そしてその頃

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‥‥‥深夜、人々が静かに眠る中、とある邸の中で各地の間諜や密偵の者達が各々の正体がバレないように、仮面をつけてそこで開かれていた会合に出席していた。

 何処かの貴族や商人なども混ざってはいるが…‥‥より正確に言うのであれば、ハクロファンクラブの会員の者達であり、そのクラブの中で出来たグループの中で、代表として選ばれた者たちが出席をしているのである。

 そう、今宵はファンクラブの開く、仮面会合の時。

 各々主が異なったり身分が違えども、この場ではファンクラブの者として平等であり、情報交換を行うための重要な場。

 事情によって見にくかったり、得にくかったり、何かと不便なことがあり人達も集うことが可能であり、どれだけ深入りしているのかを実感することができる場でもあった。

「にしても、最近聞いた話ではあったが‥‥‥どうやら、白き蜘蛛の姫が魔法を扱えるようになったという話が合ったな」
「ああ、聞いているぞ。なんでもある日突然使える様になったとか‥‥‥話題に事欠きませんな」
「それでいて、魔法の授業に入り始め、鍛練しているそうだ」

 そして本日の場で一番話題になったのは、ハクロに関する最近の出来事。

 なんでも、癒すだけではなく様々な魔法が扱えるようになったという話が入ってきており、その近況報告に皆耳を傾ける。

「一応、教員の方々でも快く指導を担当してくれる方が付いたそうですが‥‥‥」
「情報だと、単純な魔力量だけで言えば人をしのぎ、簡単な魔法は既に修得済み。後は基礎を徹底的に学びつつも、後々複雑な魔法を学ぶ意欲もあるようです」
「ふむ‥‥‥そうだとすると、彼女の意欲に答えられるような教員が欲しい所だがどうなっているのだろうか」
「この件は他国の魔法に精通した会員内で口論となるほど白熱した件になっているようです」

 ハクロへの魔法の教え方に関して、ファンクラブ内で起きる争い。

 人とはまた違うところもあるだろうが、それでもけなげにアルスのためにという理由で、自己研鑽に励む彼女に協力したいのは同じ気持ちらしい。

 ただ、それとこれとは別と言うべきか、自分ならよりうまく教えられると意気込む人が出てきてしまったらしく、協力したいからこそぶつかってもしまうのだろう。


「とはいえ、大丈夫だとは思うがな。魔法馬鹿も多いが、それでもファンクラブとして入会している者であれば、引き際もわきまえているはずだ」
「それと同時に、持てる人脈を生かして、密かに自分たち以上の方々に協力できないかとしている人もいるようだ」
「何にしても、彼女が魔法をうまくなるのもまた面白そうですなぁ」

 激突しているところがあっても、それでもファンクラブに入った者であり、彼女が争いを好まないのを知っているからこそ、知られざる場所で有ろうとも引き際を見極める。

 悲しませないためにも、その笑顔を守るために、心意気は同じなのだ。

「それはそうとして、その件に関してまた問題も浮上してきてますな」
「ああ、留学生たちはきちんと接し方も理解しているようですが…‥‥他国の方々には、未だにやらかしかねない者がいるのも仕方がないだろう」
「教育の仕方が違うのもあるが、そうする周囲の環境以外にも本人の資質などもあり、難しい所ですねぇ」

 一つ何かが起きれば、また別の問題が出来上がってくる。

 潰しても潰しても出てくる問題はいたちごっこのようで嫌気もさして来そうになるが…‥‥それでも、ハクロの事を思うと、その輝く純粋さを失いたくはなく、諦めるという選択肢を選ぶことは無い。

「何にしても、重大そうな問題児などが接触しないように、こちらからも手を回す必要があるな」
「話に挙がっている家の内、いくつかは繋がりがあり‥‥‥こちらから圧力をかける事もできるはずだ」
「その他にも、むしろ敵対しているところへ手を貸すというのもありか」
「はたまたは、教育係になるような者を送り込んでしまうのも手か」

 いろいろな手段が出つつも、面倒な話は聞きたいものではない。

 あちこちである程度解決策が出されてきたところで自然とハクロに関する話へと切り替わり、時間が来たところで会合が解散される。

 各々が新しい情報を手に入れつつ、志をしっかりと確認し合い、今後の動向なども踏まえつつも、何か面倒事が起きないように細心の注意を払って、彼女へ魔の手が及ばないように、密かに動くのであった…‥‥

「堂々とできないが、それでも守りたいという思いは同じだろう」
「好意は抱けども、彼女の想いを尊重する気持ちは同じだろう」
「美しき花が咲けば、寄り付こうとする害虫を排除したいと思うのは同じだろう」
「「「だからこそ、想いを確認し合い、その心を元に動かねばいけないのである」」」








‥‥‥そして、そんな会合が開かれていた一方、月明かりが窓から寮内を照らしていた。

 今宵は雲一つもない快晴の空模様ではあるが、その分少し冷え込みはする。

 暑くなる時期までまだ時間がかかるので布団はそれなりに厚さはあるのだが、それでも肌寒さゆえに温かさを寝ながら人は求めるだろう。

 ゆえに、ここで起きているのも、その行動の一つではあるが…‥‥

【キュルゥ‥‥‥これ、寒くなる。アルス、冷えちゃダメ】
「すぅ‥‥」

 夜中にふと、寒さで目を覚ましてしまったハクロ。

 本日は枕として小さくなる薬を飲んでいたのだが、この冷え込みに気が付き、アルスが寒くなる可能性を考え、素早くもう一枚冬用に用意していた予備の布団を糸で引っ張り出し、被せていた。

【後は、魔法で…‥‥んー、でも無理かも】

 布団を一枚追加するだけでも十分なのだろうが、できればあと一押し欲しい所。

 なので、ここ最近の魔法の鍛錬で会得した魔法の数々を使ってみようかと思ったが、ちょうど良いのがすぐに思いつかない。手っ取り早いのは火の魔法だが、魔力の消費が激しすぎる。

 そこで、どうするべきかしばし考え、小さくなる薬の予備がある事を確認し、元に戻る薬を服用して元のサイズへ戻った。

 そしてそのまま、自身の体をベッドに乗り上げ、蜘蛛の背中部分にアルスを乗せる。

【‥‥‥これで、十分】

 そっと起こさないように気を使いつつ、ふわもこな毛に沈みこむ様子を見て、彼女はそうつぶやいた。

 枕にもなるが、ベッドにもなる自身の蜘蛛の体。

 都合が良く、これならばアルスの体温をハクロ自身も感じ取ることができ、安心感をどちらにもたらせる一石二鳥の方法であった。

【キュルル‥‥‥アルス、温かい。私も温かい。一緒に、眠れる‥‥‥】

 ふわぁっと欠伸を出し、ハクロは再び寝ようとする。

 っと、そこでアルスの寝顔を見て何か思いついた。

【‥‥‥】

 柔らかい身体なのでアルスの方に体を捻りつつ、そっとアルスの顔に自身の顔を近づける。

 前に、研究所で過ごしていた際にアルスに質問してごまかされ、所長の方に話を聞いたとあることがあったのだが…‥‥こういう時なら、やっても問題ないのではないのかもしれない。

 そもそもやる相手を選ぶようなこともあるらしいが、アルスならば良いし、むしろやってあげたい。

【それに、これで温かいけど…‥‥体の中まで温かいとは、限らない。ちょっと、送るのもいいかも?】

 起こさないように寝ている呼吸に合わせて自身の呼吸も変え、温かい吐息が吐けているかどうか確認しておく。

 肌寒さを感じさせても、体の中に温かい空気があれば、大丈夫だと思い、口を近づける。


‥‥‥けれどもそこで、彼女は気が付く。

【‥‥‥キュルルル?あれ?】

 ただ近づけて、温かい息を吹き込むだけなのに、何となくだが自身の心臓がドキドキしているような、そんな感覚がある。

 結構前に、プールの場でアルスの息が自分よりも続かない時は、やってあげれば済む話かと軽く想っていたのだが…‥‥どういう訳か、いざこうやって見ようと思うと、何故か胸がどきどきして緊張するのだ。

【んー、口、付けるだけ。なのに、何でこうもドキドキするの?】

 胸元に移った魔石の影響なのか、それとも自身のわからない何かの違いか。

 いや、こういう感覚は悪くはないとはわかるのだが…‥‥なぜこうも、近づこうと思って緊張してしまうのかがわからない。
 
 この行為に関してはドマドン所長に尋ねて色々聞いて、どういう意味で行うのかなども聞いて内容を理解したつもりではあったが…‥‥何かこう、自身の理解の仕方で変化があったのかもしれない。

【‥‥‥なら、ちょっとつけるだけ、それで十分】

 温かい息を吹き込むのは諦め、今はこのドキドキの原因を探求したい心の方が動き、まずはアルスの口に触れてみる。

 そっと指をあてて、柔らかさなども確認して‥‥‥‥体をひねっているこの姿勢ではやりにくいと思い、起こさないようにしつつ持ち上げる。

【キュルゥ…‥‥‥】

 頬が熱くなるような、何でこんな気分になるのかが不思議だが、それでもやってあげたいというような気持を抱く。

 そしてそっと自分の顔を近づけ‥‥‥



ちゅっ
―――ドクン

【‥‥‥?】

 なんとなく、何か胸元でドキドキとは別の脈音が聞こえたような気がしたが、何なのかはわからない。

 けれども、この行為をやった後には、ようやくドキドキが落ち着き、平常な状態へ戻ったことを確認した。

【‥‥‥次、アルス起きている時、できないかな?】

 寝ている今でやっても、意味が無いような気がしてきた。

 しかしながら、この行為を行うと自分がドキドキしたことから、もしかするとアルスの方はより大きくドキドキと緊張するのかもしれない可能性があり、次回はまだ先になるかもしれないと思う。



‥‥‥でも、こうやって交えたのは何処か気持ち良くもあり、気が楽になったような気もする。

 むしろ、活力が湧いたというか、寝にくくなったというべきか‥‥‥

【キュルルゥ‥‥‥眠いはずなのに、なんか冴える‥‥‥‥】

 アルスを自身の体に寝かせつつも、平常になったはずの心が先ほどの行為を思い出すと何故か高揚するせいで、寝付きにくくなってしまうのであった。






「ハクロ、おはよう‥‥‥ってどうしたの?なんで水球を頭に被せて寝ているんだよ」
【キュゴボボ‥‥ちょっと、頭冷やしてた。冷たいと、寝やすかったの】

‥‥‥ごまかしはしたが、なぜこうしてしまうのかがわからない。

 ただ、いつかはきちんとアルスに話そうとハクロは心に決めるのであった。

 なお、何かと事情があってここで見るだけのファンクラブの会合に出れなかった人たちは、この現場を目撃してしまい、貴重な瞬間の目撃をしてまったことで、他の会員たちから色々と言われてしまうのは、また別のお話である。

「寝ている間だったけど、ハクロちゃん思いきったことやるなぁ」
「これが起きている時に、互いに同意有りならもっと良かったのだが…‥‥でも、一歩彼女の中で前進したかもしれんな」
「赤飯炊くか?めでたい事は赤い飯を炊くのが良いという風習が、こちらの所属部隊にはあるからな」
「んー、でもまだまだだしなぁ…‥‥難しい所だなぁ」

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