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3章 学園中等部~

3-7 新しい変化と伴う影

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‥‥‥初めて魔法を扱ったものの、消費の仕方が経験不足だったがゆえに魔力が枯渇して気絶したハクロ。

 一時間ほどで目を覚ましたのは良いのだが、何で彼女が急に魔法を扱えるようになったのかが疑問であった。

 まぁ、脱皮によって何かの変化が起きるというのは、既に経験済みとは言え…‥‥そもそも、魔法とは何なのかという話からしたほうが良いのかもしれない。

 その前に、まずは彼女の体の変化についてなど、調べてもらうのが先であった。

「…‥‥どうですかね、ドマドン所長」
「ふむ‥‥‥調べたところ、魔石の場所が少し移動しているようじゃな」
【キュル?魔石?】

 どのような影響が出ているのがか不明のため、魔法の使用を一旦禁止させ、本日は日帰りで往復できるほどになったモンスター研究所に訪れ、彼女の状態を調べてもらっていた。

 事前に手紙で連絡しておきつつ、研究所で調べてもらっていたのだが…‥‥精密検査の結果によれば、ハクロの体内の魔石に変化が見られたそうである。

「うむ。モンスターが動くための心臓でもあり、死した後に残ると魔道具の動力にもできるもので‥‥‥まぁ、正確に言えば心臓は心臓であり、魔石はまた別の動力でもあるのじゃがそのあたりの詳しいのはややこしいので置いておくとして、検査したところ、その位置が移動しておったわい」

 いろいろと調べた結果が載った紙を見ながら、この研究所の所長であるドマドン所長はそうつぶやく。

「というか普通じゃと、魔石が体の中を動くと分かりやすそうなものなのじゃが…‥‥そんな感覚はなかったのじゃな?」
【キュル。全然、お腹とか、痛くならなかったよ?】
「そうじゃな‥‥‥とすると、魔石の感触自体はモンスターには分かりにくいのかもしれぬ可能性が出てきたのじゃが…‥‥とにもかくにも、場所が移動してるようじゃ。前までは、蜘蛛部分の背中側の中央の方に魔石の反応があったのじゃが、今回の検査によるとここに移っているようじゃ」

 そう言いながらドマドン所長が指さしたのは、人型部分のハクロの胸元。

【キュ?この中に入ったの?】
「正確に言うと、たわわな胸の中ではなく、その後ろじゃ。人ならば心臓がある部分に、魔石が移動しているのじゃよ」

 普通はモンスターの体内の魔石が勝手に移動することは無く、生涯ずっとその場にあるものである。

 そしてモンスターは同種族内ならば魔石の存在する箇所は変わらないそうで、種族的にはだいぶ変わっていそうなハクロでも蜘蛛のモンスターとしては魔石が有る位置は他の蜘蛛のモンスターの位置と同じだったらしい。

 だがしかし今回、彼女のその魔石の位置が移動しており、どうやら人型部分で人間で言う所の心臓部に魔石が移動していたそうだ。

「恐らくじゃがそれによって、体内の魔力バランスが変化し、魔法が扱えるようになったのじゃろうな。癒す力に関しても、僅かながら向上してもいるようじゃ」

 その移動によって、ハクロは人が使うような魔法も扱えるようになったらしい。

 ついでにというか、彼女の周囲を癒す力なども効果が向上しているらしく、全身の魔力の流れに変化が出来たからこそ起きたともいえるようである。

「移動原因などは詳しくわからぬ。じゃが、魔法を扱えると言っても、モンスターの扱う範囲ともまた違うようじゃな」



‥‥‥魔法というのは、主に魔力によって引き起こされる事象である。

 火を起こすのもその魔力を燃焼させたり、水を生み出すのも魔力自体を水に変え、組み合わせによってはさらに異なる事象も引き起こせる。

 けれども、魔力はこの世界の生物であればだれもが持っていたとしても、全員が自由自在に魔法を扱いまくれるとかいう訳ではない。

 よくある異世界物だと、ほほいっと気楽に派手な攻撃魔法などを扱える人が多いと思いがちだが、この世界の常人であれば精々暖炉に着火させたり、飲み水が欲しい時の手段に用いたりする程度の地味なものぐらいが一般的である。

 大抵は魔道具でどうにかできることもあり、その魔道具の動力源は魔石でも代用できるので、そうそう扱う機会はないのだ。

 それでも、魔法を使って鍛練する人はいるようで、大規模な魔法が扱える人は国のお抱え魔導士として就職したりもするらしい。それが良くある異世界物のド派手な魔法を扱う人が付く職業とも言えるだろう。

「とはいえのぅ、魔力で扱える魔法にも、適性があるのじゃよ。人間であれば、大抵の適性は存在しており特に貴重すぎるというのは無いようなのじゃが…‥‥研究によると、モンスターはそううまくはいかぬようじゃ」

 何か一つだけの適正しかないとかそう言うのはなく、人間であればだれもがありとあらゆるものに適性はあったりするらしい。

 だがしかし、モンスターに至っては適性の有無がはっきりと存在するらしい。


「暮らしている環境などが影響するらしいがのぅ。森の中で暮らすようなものであれば、火事が起きぬように火は扱えぬし、水の中に住まう者であれば感電の予防でもない限り雷は扱えぬ。それに、種族ごとの弱点とも言うべきものもあるようじゃし、大抵はその面で使えぬものが必ずあるはずなのじゃ」

 ハクロの場合は、人型があるとは言え、元が蜘蛛のモンスター。

 蜘蛛のモンスターにも、ソーサラータラテクトにマジックスパイダーなどの魔法を扱える類は存在する。

 けれども、蜘蛛の糸自体は頑丈だが、防火し切れなかったり、体が燃えやすかったりするので火の魔法は蜘蛛のモンスター全般には使えないそうだ。まぁ、中には自ら火災現場へ突撃し、体を熱で破裂させて子供をまき散らす蜘蛛のモンスターもいると聞くのだが‥‥‥‥

「とにもかくにも、ハクロ、お主も蜘蛛のモンスターならば、普通は火の魔法が使えぬのじゃ。けれども、火の玉を生み出せたのじゃろう?」
【キュル‥‥‥使った。燃えるもの】

 彼女が初めて使ったのは、燃え盛る火の玉の魔法。

 そこまで大きくはないものの、的に当てれば見事に炎上させていた。

 だが、それは普通の蜘蛛のモンスターが扱えない代物であり…‥‥扱えること自体が異例のことなのだ。

「ふむ、どうやら蜘蛛とはまた違う魔法も扱えるようになったというべきか‥‥‥じゃが、どうやらその分、他の魔法よりも魔力の消費が激しいようじゃ」

 元々扱えないはずの火の魔法を扱えるようになったので、その代償が発生しているらしい。

 例えるのであれば、通常の魔法で消費される魔力がコップ一杯の水であれば、火の魔法であればプールよりもはるかに多くの魔力を使ってしまうようである。

「使えぬものを使えるようにした代わりに反動を大きくしたようじゃが、未熟ゆえに調節も合わず、より多くの量が出たのじゃろうな。今後、火の魔法は本当に必要な時以外は使ってはいけないのぅ」

 その他の魔法であれば、訓練次第でどうにかなるとしても、火の魔法だけは消費量が異常なほどに激しくて、どうにもならないようだ。

「その代わりに、他の魔法の消費量は少ないようじゃな。まぁ、鍛え上げれば、もしかすると国一番の魔導士とかにも勝てる程になるかもしれぬ」
「それ程なのでしょうか?」
「うむ。単純な魔力量を見るだけであれば、常人を凌駕しているようじゃからな。元々がモンスターゆえに人離れをしているのもあるのじゃろうけれど、やりようによっては国お抱えの初のモンスター魔導士にもなれるかもしれぬぞ。魔法少女ハクロちゃん、ってのもできるかもしれぬのぅ」
【んー‥‥‥なる気はないよ。私、アルスと一緒が良い。それなったら、一緒の時間減りそうで、嫌!】
「ま、本人がそう言うのであればそれで良いじゃろう。とは言え、きちんと魔法の扱い方の勉強はさせたほうが良いのじゃ。毎度ぶっ倒れては困るじゃろうし、そこは学園の教員で良い奴を探し、しっかりと基礎を鍛えておくのが一番いいかもしれぬのぅ」

 とにもかくにも、現状彼女が魔法を扱えるようになった理由は脱皮にあるのだろうけれども、何をどうしてそんな変化が起きたのかまでは不明である。

 魔石の体内移動自体もこれまでには無かったことであり、非常に珍しいので出来ればもう少し経過観察をここで行いたいそうだが‥‥‥生憎僕の方は学生の身だし、ここにずっといるわけにもいかない。また夏季休暇の時にでも、より詳しく調べてもらえばいいだろう。


 何にしても検査の結果、魔力量もじわじわと増える傾向が見られるそうで、鍛練次第では気絶することも少なく出来るらしい。

 一番良いのは魔法を使わないことだが、せっかく使えるようになったのであれば、ハクロしては使いたいようである。

【アルス守る手段、一つ増える。これ、使える】
「なんとなくじゃが、お主を守りたい気持ちで、自力で増やしたようにも思えるのじゃがなぁ‥‥‥。その想いに応えつつも、負担をかけぬようにアルス、お主も鍛えたほうが良いのじゃ」
「そうします」

 ハクロが守ってくれるのは良いけど、それでも彼女に負担はかけたくはない。

 こうやって魔法を扱えるようになったのも、僕の力がまだまだ及ばないからこそなった可能性もあり、そう考えると僕自身も鍛えたほうが良いのかもしれない。

 そう考えると、守ってくれるためにやってくれたような嬉しさと、男の子として女の子を守りたい立場なのに守られてどうするんだというような複雑な想いを抱くのであった…‥‥‥










「‥‥‥しかしのぅ、本来なら種族的には使えぬはずのものか…‥‥」

 その他色々な簡易検査も終え、アルスたちが帰路についたころ、ドマドン所長は今回のハクロの結果に目を通しながらそうつぶやいた。

 年々強化されているというべきか、全体的な能力の向上が見えていたのだが、今年に入って魔法も扱えるようになるとは、どこに彼女は向かっているのかと問いかけたくなるだろう。

 だがしかし、肝心のハクロ自身が意図し切っていないようでもあるので、予測は出来ないのだが…‥‥それでも、魔法に関しては驚きはした。

「どのように成長するのか、本当に飽きさせはせぬのぅ。しかし、これはこれで問題があるのかもしれぬ」

 普通はその種族では使えないような魔法を、彼女は修得していた。

 例え、消費量が激しすぎるなどの代償があれども、これまでの常識を覆すような真似をしてみせているのである。

 まぁ、そもそも人の姿も持った蜘蛛とか、魔石の体内移動だとか、そのあたりも十分常識を破壊しているとは思う。

 そう考えながらも、今回の検査で出てきたデータに眼を通しつつ、問題になりそうな箇所にチェックを入れていく。

 そして、その件に関しても国に報告は必要であり、国の上層部が胃を痛めまくるだろうなと彼女は思うのであった。


「研究対象にできるのは良いのじゃが、真面目に考える上のお偉い方は大変そうじゃのぅ」
「「「「それをあなたがいいますか!?」」」」

 ついでに、そのドマドン所長のつぶやきに対して、聞いていた職員全員が思いを一つにしてツッコミを入れたのは言うまでもない。

 人という者は、案外自分を客観的に見れていないというべきか、それとも対象に注目しすぎて自分が見えていないだけなのだろうか‥‥‥‥



【キュルルル♪魔法、使って、アルス守る♪糸も使ってがんばるよー♪】
「走りながらご機嫌に歌うね、ハクロ」
【キュル♪使えるのなら、できるだけ使うのが良いもん♪】

 なお、後日魔法を使えるのであれば形から入ってみようと思い、一時期ハクロが小説の挿絵などから魔法使いっぽいみたい目になるような衣服を作製して、『白き蜘蛛の姫』から『白き蜘蛛の魔女』と呼ばれるようになったのは言うまでもない。

 ただ、魔法使いらしい格好といってもそのうち飽きて、いつもの衣服に戻して姫呼びへと戻ったのだが、その魔法使いっぽい格好の姿の写真などがファンクラブ内で非常に価値が高まったのも言うまでもない。

「しかし、魔女と魔法少女と呼ぶ派閥があるのだが、これどっちの方が正しいんだ?」
「精神的には少女、容姿的には魔女‥‥‥悩ましいなぁ」
「どっちでもいいんじゃないかなぁ?ハクロちゃんが可愛ければ、それで良しだよ」
「「それもそうか」」

‥‥‥ついでにだが、一部の女性魔導士もこの話を聞いて触発され、魔法が使える人たちの間でファッションショーが活性化して、容姿の変化に影響を与えたという話もあるらしい。
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