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3章 学園中等部~

3-2 単純に遊ぶだけではないと悟り

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‥‥‥中等部になると、初等部とはまた違った授業になるものが多い。

 というのも、精神・肉体の成長を考慮すると可能になることが多くなり、だからこそその分、やれる範囲の引き上げが行われるのだ。

 一応学園なので、安全に対する配慮もしっかりと行われるが、それでもやれることが増える分勢いに乗ってしまう人も多い。

 それに、この歳になれば体が一気に成長したりして、力が他の人たちよりも強くなったりすることにより一時的に天狗のような気分になる人も出てしまうのだが‥‥‥‥


ばぎぃ!!ごぎぃ!ばぎゃっ!!
「「「どわぁぁぁぁあ!?」」」
【‥‥‥‥】

 剣術の授業内で、複数人の持っていた木刀が一度にへし折られ、彼らは腰を抜かしてしまう。

 初等部の時からこの授業を受けており、中等部になってから入った者たちに対して実力差で思いっきり自慢していたようだが、その強さを他の者を伸ばすのに活かすのではなくおごり、増長したことから教員による判断で、彼女が呼ばれた。

 そして、彼女を相手にして武器を持っていたことで舐めていたようだが‥‥‥残念ながら、そう容易く倒せるような者でもない。

【キュル‥‥人、いじめちゃダメ!調子に乗り過ぎちゃダメ!その強さ、もっと別のことに活かすほうがいい!!】
「「「本当にすいません!!」」」

 びしぃっと、安全のために自分の糸で鎧を作り、着用しているハクロの言葉に対して、敗北した者たちは即座に土下座をして許しを請う。

「すいません、ハクロさん。こいつらの増長を止めていただいて」
【キュル、これも、授業の一環。やらかす人、見張って、止めるのも仕事】
「ハクロ結構かっこよかったじゃん」
【キュルル♪】

 教員の言葉に対してしっかりと答えていたのに、ぼくがそう口にこぼした瞬間に、素早くぼくの側に寄ってきたハクロ。

【アルス、見てた?私、ちゃんと仕事したよ!】
「見てたよ。というか、意外な実力であったというか‥‥‥‥『特別へし折り顧問』って役柄がどういうのか、よくわかったしね」
【キュルゥ♪褒めて褒めて♪】

 頭を撫でながらそう言えば、気持ちよさそうに鳴くハクロ。




‥‥‥そう、この中等部の時期から、僕の授業中でもハクロは他へ遊びに行くのではなく、きちんとした学園内での役職を貰って働いていた。
 
 その役職名は『特別へし折り顧問』。初等部からあがり、精神的に何かと増長し、問題を起こしそうな人が出た場合に実力差を見せ付け、その精神を一旦折ってやり直させる役職である。

 何かと手先も器用であり、モンスターであるからこそ人よりも強く、それでいて優しく手加減もだんだん覚えているので、ちょうどいい具合に止める方法を彼女は学んでいた。

 だからこそ、教員たちとの話し合いでその役職を貰い、こうやって時々出てくる将来的なやらかし屋を見つけ次第、教員の要請によって動き、へし折る働きをするのだ。

 なお、万が一にも備えて彼女の体には糸で作った特製の鎧で身を守っていたりする。

 彼女の糸って鉄より強度があるし、束ねればさらに強くなるからね。とはいえちょっと厚い服になるだけでいま一つ気分的には乗らなかったようなので、金属光沢を持たせる薬で染色していたりする。


 何にしても、ただこうやって自信を粉々に粉砕するだけでは無かったりする。

 これまでの授業に混ざった経験からか、ある程度のアドバイスもできるようになっているようで、相手の自信を粉砕したところで良かったところは褒め、今回悪かった点をしっかりと告げていく。

 単純に他人を見下すようになった人をいさめるだけで合って、より圧倒的な力で蹂躙するわけではないからね。叱りつつも伸ばせそうなところは伸ばすのだ。

‥‥‥ちなみにだが、ハクロがこの役職を背負って1週間ほど経過したが、評判はいい。

 調子に乗っていても上には上がいる事を理解した生徒が多く、だからこそより高みへ登ろうと初心に帰って真面目に研鑽する人が増えたそうだ。

 中には、そのハクロからのへし折りを期待してわざとやっているらしい人も出ているらしいが‥‥‥うん、流石に人の性癖までは治しようがないのでどうしようもないだろう。でもなんかいやらしい目で見たら、薬で爆撃するか。


 

 とにもかくにも、ハクロはハクロなりに授業を受けつつ(?)、僕の方も授業を受けていく。

 薬草学の方は難しい実験へと入り始め、次期当主となるので貴族の作法の授業なども受け、なおかつ彼女を守れるように武術系統の授業を取る。


「ついでに、王城の方へ卸す薬も作らなきゃいけないし…‥‥まだまだ大変だよぉ」
【キュル、私も、疲れたよぉ】

 休み時間に、彼女にくっ付いて互いに癒される時間が増えたような気がしなくもない…‥‥うん、慣れて行けばだいぶ楽にはなるかもしれないけど、まだ時間はかかりそうである。







 ハクロの背にアルスが乗って互いに力を抜いて脱力し合っている丁度その頃。
 
 学園の一室では、とある集まりが出来上がっていた。

「‥‥‥ふむ、話には聞いていたが‥‥‥こうやって見ると、中々強そうだな」
「わが国でも見ないような美女ではあるが、強さも兼ね備えているとはな」
「それに、彼女の主に対する想いなども深そうだが…‥‥」

‥‥‥中等部にあがる中で、学園にも新しい風は吹く。

 他国からの留学生たちが入ってきており、この帝国内の学園の様子を見つつ‥‥‥国に少しずつだが入ってくる情報で聞いた内容を、実際に目にして彼らは学ぶのだ。

 国が違えども、ココでの驚きは皆同じである。

「しかし、人型でなおかつ意思疎通可能、種族名からも癒しの力ありか‥‥‥‥欲しいな」
「だが無理じゃないか?自国ならともかく、いや、それでも無理だろうが」

 モンスターではあるが、外見も内面も美しい相手であれば、欲したくなるだろう。

 けれども、様子を見る限りでは求めても応じてくれない可能性の方が高い。

「くっ付いていないというか、あれで健全な付き合いというか…‥‥それはそれで驚きだな」
「愚兄がいれば、無理やり狙うだろうが…‥‥愚かな手段に出て自滅する未来しか見えないのは何故だろうか」
「まぁ良いか。とりあえずは、こちらはこちらで目で見る事は出来たし…‥‥こうやって見ると、争いの種になりかねない危険性を秘めているのが分かるからな」

 求めたくとも求めきれず、ならばその美しさを守ってあげたい。

 そもそも他国からの留学生たちは、そこで問題を起こさないように帝国内でしっかりと審査されており、ここに集まっている者たちは問題がないのだが‥‥‥だからこそ、物事をより正確に捉え、不味くなる可能性も見つけ出していく。

「何にしても、帝国内に咲いた白い花のような人だ。いや、モンスターだが…‥‥その輝きが枯れてはいけない」
「裏の方で動く動きもあるだろうが、自国での面倒なことから解放してくれる癒しのためならば、惜しくも無いか」
「ああ、こちらはこちらで、友好的にしつつ見守っていくか…‥‥」

‥‥‥何気ない、美しい一輪の花。

 けれども、その美しさを狙う害虫は多くあり、何時襲われるのかが分からない。

 だからこそ、その美しさを守るために協力し合うことにして、密かに国を越えた友情などが深まっていくのであった……
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