転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波

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2章 学園初等部~

2-39 知らず内に蝕み続け

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‥‥‥フキマリア聖国の面倒な派閥争い及び襲撃からしばらく経ち、ようやくというか事態は沈静化の方へ向かい始めたようだ。

 寮の掲示板の方にて、新たに張り出されたお知らせがその事を物語っていた。

「‥‥‥戦争終了のお知らせと、内乱のお知らせか。3ヵ国が帝国に敗戦したのは分かるが、聖国の方で内乱が起きたのか」
「いいんじゃねぇの?あんな国結構面倒だったしな」
「ああ、いらない勧誘だとか、色々とバカみたいなことも言ったりしてたからな」
「それに、領内の教会に勝手に居ついてお布施を強制するとか、信仰はフキマリア教だけだとか、煩く叫んでいたしなぁ」

 3ヵ国からの戦争は終わったようで、堂々と宣戦布告をしてきた以上、敗戦後はしっかりと賠償金とか領土の分割、あるいは属国化などが確定状態。

 そしてついでのように、知らせの中に聖国の内乱の情報が載っていたのであった。

「内乱かぁ‥‥‥まぁ、それぞれ争えばそうなる未来は見えていたよね」
【キュルゥ、自滅、勝手にしているの?】

 ハクロがそう口にしたが、その通りだろう。

 僕らを狙っての穏健・強行・過激の3派閥がひしめき合っていたようだが、狙いが同じであれば自分たちの利益を増やそうとして互いに潰し合う可能性も見えていた。

 邪魔だからどかそうとしてどかし返され、またやり返せばやり返される‥‥‥延々とした鼬ごっこと言うべきか、僕らを狙うだけであればまだしも、自分達さえよければいいというような思考のもとで動けば、他者がいらなくなるのだろう。

 ゆえに、牽制し合っていたところで暴力による排除が始まり、どうやら勝手に殴り合いをし始めたようであった。

 一応、帝国によるやり返しの工作などもしているようだが‥‥‥この様子だと、遅かれ早かれ勝手に自滅していた可能性はあったかもしれない。

 なお、過激派の件に関しては結局動きを見なかったような気がするのだが、知らないうちに自滅して拠点諸共吹っ飛んだらしいという話は、王城の方から聞いていたりする。‥‥‥やっぱり馬鹿だったのか?


 
 とにもかくにも、その派閥争いが表面化したせいで内乱状態となり、フキマリア聖国では現在その対応に追われているようだ。

 しかも、普段からのフキマリア教の教徒とか神官が好き勝手やっていたこともあるせいで国民たちの不満が非常に高まっていたらしく、前世の宗教改革のようなことも起きているらしい。

 まぁ、それがどうなろうとも、僕らには関わるつもりはない。

 何を信じようが、どの様に動こうかはその人の勝手であるのだが‥‥‥‥それを無理やり押し付けようとすることは、やってはいけないことだからね。無理やりな時点でまず、信じる対象を信仰しないような気がするが‥‥‥自滅する道を自ら建設していたのだろう。

「何にしても、最後まで油断できないけどね。窮鼠猫を噛むってことわざもあるし‥‥‥完全につぶれるまでは待つしかないか」

‥‥‥人というのは、窮地に立つほどどのような行動を起こすのかが分からない。

 何もできずに消えれば楽だが、それでも思いがけない行動で一発逆転を狙ってくる可能性もあるし‥‥‥聖国という名もありながらも、呪いとかに関しての分野も長けているそうなので、その手で来る可能性も否定できない。

 何にしても、嫌な予感とは当たるものではあるが‥‥できる限り、対策を取っておくべきだと思うのであった。

【キュルゥ、何もせずに、潰れて欲しい。私も狙われているけど、アルスも狙うのは、やめてほしい】

 ぎゅっと僕を抱きしめ、そう口にするハクロ。

 同意するし、僕としてはハクロが狙われて欲しくないんだよなぁ‥‥‥‥しぶとく生き延びないで、さっさと潰れて欲しい物である‥‥‥‥

「‥‥‥ところでハクロ、今日もまた護身術などを学ぶために授業に混ざるの?」
【キュル。アルスのために、ちょっとは鍛える!守る手段、増えればそれだけ役に立つ!】

 こぶしを握り締めて、やる気満々な姿を見せるのは良いけど、ほどほどにね。最近、教師陣からハクロもちょっと教師側に立ってみたほうが良いのではないかという話が来ているからね。

‥‥‥教師になるハクロねぇ。絵にはなるのかもしれないけど、それはそれでどうなのか。というかまず、彼女が人に教えることができるのだろうか。

 でも、僕が授業を受けている間の時間つぶしにはなるだろうし、先生になってくれたらそれはそれで、彼女の授業を受けることができるのかも?でもどんな授業展開になるのか、皆目見当がつかない。

【ならないよ。だって、教師になったら、アルスとの時間減る。一緒の時間、多い方が良い、キュル!】
「それもそうか」
 
 ちょっと教師になった姿のハクロも見たかったような気がするが…‥‥彼女がそう言うのであれば、それで良いか。










‥‥‥とは言え、現在虫の息状態と化しているフキマリア聖国は、まだ辛うじて持ちこたえていた。

 3ヵ国の弱みを握っての宣戦布告の陽動も意味をなさなくなり、各派閥の潰し合いで争いが過激化し、自滅していき、帝国からの工作員などの投入によってあちこちでうまくいかなくなり、国民が反発を始めて宗教改革やそもそも信徒から抜け出したりする動きが増加したとはいえ‥‥‥それでもまだ、なんとか立っていたのだ。

 けれども、潰れるのは時間の問題であることは、上層部にいる者たちは誰もが理解している。

 だからこそ、どうしたものかと考える中でとある結論が導き出され‥‥‥この日、聖国中の教会では、信徒たちが集められていた。


「全信徒及び神官たちも含めて、教会へ収集させるとは‥‥‥なにがあるのだ?」
「今、ただでさえこのフキマリア教最大の危機が迫っているのに、集めることに何の意味があるのだろうか?」

 集められた信徒や、先日アルスと話していたヅッツ神官たちはそう口々につぶやきつつも、教会に集結する。
 フキマリア教の教会は聖国中に設置されており、どれもこれもが大勢が一度に入れるように大きく作られているのだが、こうも人数がまともに揃うと、少し狭かったような気がしなくもない。

 それでも、ここに集められたのは何か理由があるのだろうと思いつつ、しばし待っていると、ふと、集まっていた者のうちの一人が、とある異変に気が付いた。

「ん?なんか焦げ臭くねぇか?」
「え?どれどれ‥‥‥本当だ、何かこう、焼けて‥‥いや、火事じゃねぇか!?」
「「「「ええええええ!?」」」」

 焦げ臭い香り方が漂い始め、ふとその臭いの元を追って見れば、火の手が上がっていた。

 慌てて逃げ出そうとするのだが、扉がいつも何か施錠されており、窓も何もかもが使えない。

「どういうことだ!!早くここからだせぇ!!」
「蒸し焼きにする気か!!いい加減にしろぉぉぉ!!」
「うぉぉぉ!!金などいくらでも出すから、どうにかしてくれぇぇぇ!!」



‥‥‥この世界、魔法があるからこそ火事などに対しての被害はアルスの前世よりは抑えやすかったりする。

 水魔法で冷やしたり、魔法で壁を壊したり、はたまたは魔法が無くとも協力して体当たりをして扉を開けるなどができただろう。

 だがしかし、フキマリア教は今、歪んだ形の信徒たちで構成されているがゆえに、協力してどうにか収めようとする気はない。

 全員自分の命だけを優先させ、我先に逃げようと動くばかりで何もできない。

 何もかもを人任せにしていたせいで、魔法を使う事すらも忘れた上に、まともな判断ができなくなっていたのだ。

 そして、この日、各地の教会で一斉に火の手が上がり、信徒たちの多くが犠牲となった。

 何故、信徒たちが教会に集められたのか。

 何故、急にすべての教会で火の手が上がり、施錠されて犠牲が出たのか。

 その回答は、この国の上層部が知っており…‥情報に関して間諜たちが探りを入れると、あることが浮かび上がってくる。

「これはかなりひどいな‥‥‥狂っている」
「いや、むしろこれでどうにかできると考えているのか?馬鹿なのか、阿保なのか、それともこの世のありとあらゆる愚者を詰め込んだ結果なのか?」
「とにもかくにも、直ぐに報告をしなければ‥‥」

 聖国に潜り込んでいた間諜たちは、その情報を手に持って、それぞれの雇い主の元へ覆い急ぎで戻っていく。

 どれだけ不味い事なのか理解しつつ、守るべきものを守るために。


 
‥‥‥人とは、上がろうと思えば努力や才能次第で可能になるだろう。

 けれども逆に、下がることに関してはそのような事をせずとも楽に下がって…‥‥いや、堕ちていくことができてしまう。

 そして向上するよりも早く下降が可能だが、その分限界もある。

 だがしかし、その限界すらも超えて堕ちる者は存在しており‥‥‥‥聖国の上層部は今、堕ちてはいけないとこまで堕落してしまった。

 ああ、これはもう、取り返しのつかないことだろう。けれども、それは思惑通りにいくものではないだろう。

 でも、そうするよりほかに無いと、淀みまくった思考では他の元へ向かえず…‥‥触れてはいけない領域へ、彼らは手を出してしまった。


「‥‥‥これで、聖国は助かる。いや、この自身のみが助かるのだ!!ははは、あははははははははは!!」

 聖国の最大の神殿の奥深く、その一室は生気が消えうせていた。

 豪勢な造りとは裏腹に辺りは汚れまくっており、争った形跡や赤く残った個所が幾つも見られる。

 そしてその床には、血塗られた魔法陣のようなものが描かれており…‥‥その場所には、この聖国の上層部の一人が立ち、狂ったように笑っていた。

 堕ちたからこそ一線を越え、人とは思えないような笑い声をあげていく。

 そしてそれと同時に血で描かれた陣が輝き始め、上層部の一致で目論んでいたことが今、成功したことを確信する。

「血塗られた研究!!呪術の深い闇の中の秘術!!これさえあれば帝国も、いや、その他の国も何のその、恐れることもない!!ここで今、わたしが世界の王になるのだぁぁぁあぁぁ!!」

 歪んだ欲望は暴走し、もはや何をしたかったのかすらも思い出せない。

 欲望の暴走の行き着く先の一つが、この行為であると言えるのであった‥‥‥‥
 

 
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