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2章 学園初等部~

2-37 良い事を行っているつもりでも

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「‥‥‥まぁ、来るだろうとは思っていたけど、予想通りだったか」
【キュルゥ】

 学園の寮に届いた、僕宛の一通の手紙。

 差出人は伏字になっており不明ではあるのだが‥‥‥何か仕込みがあるのではないかと警戒しつつ、ハクロの糸で離れた場所から開封して安全を確かめながら内容を読めば‥‥‥どうやら、相手が動いたようだ。


「聖国の穏健派という人たちかな?話し合いを求めるようだけど…‥‥どう考えても怪しいよね」
【キュルゥ、悪意、それしか見えない】

 手紙を読みつつも、警戒した表情をしながらハクロはそう答える。

 内容に関しては簡潔に、話し合いを求めるだけのもので、できれば指定された日時と場所に来て欲しいというのだが‥‥‥その場所は、この帝都内のとある飲食店内。

 先日の強硬派の一件を知っていないはずもないだろうし、わざわざ警戒態勢の帝都内に自ら乗り込んで話し合いをする気なのか…‥‥

「‥‥‥そもそも、まずこれが穏健派からとは限らないか。罠の可能性もあるしね」

 穏健派と偽った過激派や強硬派とやらの可能性もあり、胡散臭さがあふれ出している。

 指定された店に行って、前の襲撃者たちが使っていた人避けとかされたらそれはそれで厄介だし、どっちにしても行く気は起きない。

「それに、結局のところと僕とハクロ狙いの争いのようなものらしいし、穏健派といっても絶対にろくでもない者にしか思えないな」
【キュルキュル】

 うんうんとハクロが同意しながら頷く。

 今さら穏やかにどうにかしようという派閥だとしても、この様子じゃろくでもなしにしか見えない。

 でも、逆に言えばどう動くのかという情報とかは分かりそうだし…‥‥

「…‥‥念のために、王城に報告してみるか」

 まずは独断で動く前に、きちんと大人の意見を聞くことにするのであった。

 まぁ、そもそも僕今10歳で子供の身だし、何かありそうならまずは大人に頼るのが一番いいからね。

「また襲撃されても困るし、話し合いに見せかけた脅迫とかだと困るからなぁ‥‥‥」

 でも、考えたら脅迫とかは無いような気がしなくもない。人質に取るような家族とかはいないわけだし、言うのであればハクロぐらいだけど彼女と一緒に狙っているならば意味ないし…‥‥あれ?そう考えるとその手段も僕たちには効果は無いのでは?







 なんやかんやとしながらも、王城に報告し、対策会議を開いてもらった後に行くことが決り、指定日時となったその場所に向かえば…‥‥案の定というか、普段ならば活気のある飲食店内は人気が無く、その代わりに僕らを待っていたらしい集団がいた。

「おお、これはこれは、わざわざお越しいただけて幸いでございます。わたくしめは、フキマリア教に仕えております、第3神官のヅッツと申します」

…‥‥見た感じでは恰幅のいいおっさんがにこにこと笑って名乗って来たが、警戒は怠らない。

 軽く挨拶を交わし、席に着く。


「‥‥‥それで、手紙の内容を見ましたが、僕らに何の用事でしょう。わざわざ話すことがあるとは思えないのですが」
「いえ、あるのでございます。ああ、その前に一つ謝罪をしなければいけませんね」
「謝罪?」
「ええ、ええ。わたくしめらが仕えているフキマリア教。その教徒の一部が勝手に暴走して拉致を目論んでいた情報は、こちらにも入ってきております。我らがフキマリア教は確かに信者を獲得したいのですが、力ずくで入信していただいても意味がない事を、我々は知っているのでございます」

 どうやら先日の襲撃騒動を知っているようで、ぺこぺこと頭を下げながらそう話すヅッツという神官。

 その他にいたオッサンの付添人というか側近的な人たちも同様に頭を下げている。

 なんというか、聞いていたイメージだと身勝手な人が多そうではあったが…‥‥こうやって謝ることができる人がいるのか。

【‥‥‥キュル、アルス、これ、心からじゃないよ】
「‥‥‥だよね」

 とはいえハクロが思いっきり疑わしそうな目をしながらそう耳に告げてきたが‥‥‥まぁ、そうだろうなとは思う。

 頭を下げた謝るだけなら警察が、いや、この世界ならば衛兵とかそう言う人たちがいらないのだが、この様子だとそこまで重く見ているような気がしない。

 今は単なるご機嫌取りのようにわざと腰を低くしているというのが、ひしひしと伝わってくるのである。

 これが本当に心からならばまだ良いのだが…‥‥生憎、こちとら酷い家で育ったからね。わりとその目とかを見ればどういう人なのかはわかるんだよ。

 ついでに、男爵家次期当主言う事で、その授業も後学期から取り始めて習っていたが、貴族の世界では目の中にどういう想いを抱いているのかを見抜く技術も必要らしいので、一応学んでいる途中だが‥‥‥彼らの目の中を見れば、真っ黒な欲望が渦巻いている。

 穏健派だとしても穏やかなふりをした皮を被っているだけというのが、よくわかる。

 そのため、形だけでの謝罪を受け入れつつ、警戒しながら話を進める。

 どうやら穏健派の人達曰く、今回の強硬派の動きはある程度分かっていたが、流石に帝国に喧嘩を売るような真似はしたくなく、動かないようにどうにかしようとしていたらしい。

 だがしかし、そうすることもできずに今回の事が起き、帝国内へ向かうのは危険になったのだが…‥‥それでも向かわないという選択肢は無かった。

 というのも…‥‥

「わたくしめらの情報では、どうやらあなた様方は不思議な力がある様子。その力をぜひとも我がフキマリア教で活かしてもらいたいのです。ですが、その前にその力を無理やり取り込もうとした者たちがいたせいで‥‥‥勧誘しづらくなる前に、こうして謝罪しに参ったのでございます」

 わざわざ説明してくれているのはありがたいが、話し方が胡散臭さを溢れ出している。

 丁寧語のつもりなんだろうけれども、どことなく無理した丁寧さというか、普段は絶対に使う気は無いような話し方をしているせいなのか、声色もどことなく硬い。

「それでは、謝罪もしたことですし、今回の話はこれだけですが‥‥‥その前に一つ、良いでしょうか?」
「何がですか?」
「いえ、わたくし共がお仕えしているフキマリア教をまずは軽く知ってもらえないかと。ああ、いきなり入信してもらうとかではなく、教義を少しだけ話せないかなと‥‥‥」
「‥‥‥いえ、別に良いです。謝罪だけであれば、これでもういいかと」

 謝罪も終えたところで勧誘前に知ってもらううつもりなのか、何かと話そうとしていたが切り上げさせる。

 無理に話を長くすればそれこそ相手が色々と出てくるだろうし、本性とかも垣間見えるだろうが‥‥‥謝罪したいだけであれば、これで十分なのだ。

「そうでございますか‥‥‥では、残念ですが今日はここで引き下がらせてもらいましょう。わたくし共も無理に勧誘する気もないですし、本日の謝罪を受けとっていただけただけでも満足でございます。ああ、わざわざお時間を取らせてしまったのもなんですし‥‥‥こちらをせめてもの詫びの品としてどうぞ」
「これは?」
「フキマリア聖国名物『フキマリアチップス』でございます。聖国内で採れたじゃがっぽという野菜をお菓子にして、幅広く皆様の舌を楽しませることを目的としたものでございます」

 要は前世のポテトチップスみたいなものらしいが‥‥‥どういう訳か塩っぽい味ではなく甘いお菓子になっているものらしい。

 ポテトチップスが甘いとはこれいかにとは思うが、まぁ、詫びの品なら受け取っておくか。すぐに食べる前にまずは調べて持った方が良いだろうけれどね。

 そして店外に出たところで互いに別れを告げ、僕らはその場を後にして‥‥‥‥







「‥‥‥別れたふりをして、帝都外までの行動をしっかり観察するけど‥‥‥ハクロ、気配を消すぞ」
【キュル!】

 物音を立てずに、そっと僕らはヅッツ神官含む集団の後を、そっと追いかけることにした。

 帝都外までちょっと、様子見をしようと思ったのである。

 一応周囲には王城から派遣された間諜たちもいるようだが、僕らも一応自分で見聞きをしたい。

 気配を消すのは素人だが、そこは薬でハクロは小さく、僕は変身薬で小動物になり、そっとバレないように追跡した。

 見れば、帝都外までの道のりは彼らが何か魔道具を使ったのか人気は無く、集団が誰もいない道を歩くだけの様子。

 けれども、よく見れば彼らの表情は…‥‥ニコニコと穏やかな笑みを浮かべていたと事は打って変わって、物凄く不機嫌そうな表情になっていた。

「‥‥‥ちっ、強硬派の馬鹿どもめ。帝国の警戒を引き上げてどうする気だと言いたいぞ」
「まぁまぁ、ヅッツ様。とりあえず彼らに謝罪をしてフキマリア教への不信感を取り除けたようで、何よりではないでございますか」
「ああ、それは良いのだが…‥‥あんな若造とモンスターごときに頭を下げるなんぞ、内心腹が煮えくり返っていたわい!!」

…‥‥誰もいないことを良い事に、堂々と愚痴をこぼしているようだが…‥‥スゴイ化けの皮の剥がれようである。

「だがまぁ、小僧というだけあってまだ若いな。謝罪ひとつで終わらせられただけで良いか」
「そうですね。ついでに、不信感をさらに無くすためのお菓子もまた、子供には効果てきめんでしょう」
「ああ、そうだな。まぁ、本当は薬を盛りたかったが…‥‥流石にそれをすれば、帝国の警戒具合を見る限り素早く動くだろうし、できなかったのが残念だ」
 
 貰ったあのお菓子に怪しい薬を盛ろうという発言があったが、どうやらそれは却下されたらしい。

 迂闊にやれば怪しまれるどころか確定的に敵にされ、立場的に不味くなると判断して、そこはいたって普通の聖国土産にしたようだ。

「まぁ、盛っても盛らなくても同じだがな。何しろ、原材料のじゃがっぽ自体が聖国産の改造種‥‥‥軽度の依存性を持たせている。一口でも食べれば弱い欲求が目を覚まし、聖国で売られている情報を聞けば目当てでやって来るだろう」
「薬いらずの、土台崩しに使えるのは楽ですねぇ」

 前言撤回。全然普通じゃなかった。というか、そう言う効果があるのならば、盛ろうとしていた薬は何だったのかという疑問が浮かぶ。

「何にしてもだ、今はまだ穏やかに、あと数回は会えるようにして置け。あの小僧の都合のいい時を狙っておくことで配慮しているように見せかけ、徐々に警戒心を失くさせろ。見た感じでは幼い子供という事だけあって、警戒していても緩めそうだからな」
「ええ、予定調節などが難しいですが…‥‥それでも、強硬派に比べればより勧誘しやすくはなるでしょう」
「とはいえ、強硬派の馬鹿共が動けば台無しになりかねない…‥‥我が国での呪いを解呪する力と、癒しの力を持つモンスターを両方手に入れられる機会を潰されないように、目を見張っておけ。ああ、過激派の方はどうだ?」
「あちらは今、自爆されているようです。攻めようとしていたようですが、そのまえに用意していた火薬の扱いを間違えて吹っ飛んだようで‥‥‥」
「…‥‥何しているんだ、そいつら‥‥‥」

 それは同意する。過激派の人たちが自滅してくのか…‥‥馬鹿すぎない?

「とりあえず、今日はこのまま聖国へ戻るが‥‥‥ああ、道中に娼館があればそこに寄ろう。あのモンスターの方は絶対悪と定めているが、それでもあの容姿は反則だと思えた」
「そうでございますねぇ。まさに絶世に美女と言うべきか、白き蜘蛛の姫と言うべきか‥‥‥ああ、惜しむらくは蜘蛛が下にあるせいで、否応なくモンスターとして認識させられるでしょう」
「だが、癒しの力を持つようであり…‥‥それを分析して奪う事が出来れば、後はどうとでもなる。小僧とセットで勧誘して引き入れた後には、隙を見て楽しませてもらうとしよう。ああ、絶対悪を倒すために、その殻を使わてもらうだけだからなぁ」

‥‥‥うん、聞かないほうが良かったかも。どう考えても最低な会話をしている。

 そしてふとハクロの方を見れば‥‥‥‥今までに見たことが無いような、思いっきり彼らに対して嫌悪している表情をしていた。

【…‥‥嫌、私、アルスのもの。あんな奴らに、好きにされたくない】
 
 ぎゅっと僕の方を抱きしめつつ、そうつぶやくハクロ。

 怖がっているようでもあり、人の醜悪さに対して嫌悪しつつ、ぎっと奴らをにらむ。



…‥‥謝罪しに来たようでありながらも、速攻でその化けの皮を剥がされたヅッツ一味。

 何度か来る様子ではあったが…‥‥これ以上相手をする気はない。

 今の会話なども覚えておきつつ、王城へ報告するために、そしてこれ以上胸糞悪くなりそうな会話を聞く気はないので、僕らはその場を離れるのであった。



【‥‥‥キュル、アルス、離れさせない】
「僕だって、ハクロをあんな奴らに好きにされたくないよ。‥‥‥胸糞悪いというか、いらいらするというか‥‥‥報告を終えた後は、この嫌な気分を忘れるために遊ぼうか」
【キュル♪アルスと遊ぶ、それ楽しい♪】

…‥‥ついでにもふもふしよう。彼女のモフモフで癒されつつ、毛並みを整えて彼女の気分も良くしてあげないとね。自分だけではなく、きちんとハクロの精神も癒さないとなぁ…‥‥

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