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2章 学園初等部~

2-31 どこかでやられようとも関係ないと言い張りたい

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「ぎゃああああああああああああ!!」

…‥‥エルスタン帝国から離れた、砂漠の国デザイトリア共和国。

 その共和国内のとある屋敷内で、突然大きな悲鳴が響き渡った。

 何事かと、その屋敷の主が悲鳴の元へいち早く駆けつけて見れば、誰かが倒れていた。

 ただし、まともに倒れたとかではなく、全身が密度が怖ろしく濃い黒い靄でおおわれており、その全容がはっきりとしなくなっていた。

「‥‥‥なるほど、ただの呪い返しか」

 異様な光景とも言えたのだが…‥‥その光景を見るだけで、何が起きたのか主はすぐに理解し、興味を失う。

 もともと貸していただけのものにすぎないとある呪いに関してのものであり、自分に降りかかるわけではない。

 解呪されたことによってかけていた呪いが何十倍にもなって帰ってきたようだが、我が身に起きたわけではなく、呪いを担当していた術者に降りかかっただけなのだ。

「まぁ、呪術師の生命が絶たれるだけならば問題あるまい。証拠もないように、処分しておけ」
「はっ」

 悲鳴に駆け付けていた使用人たちにその主は言いつけ、念のために他へ害を及ばさないように、呪い返しをうけた呪術師を屋敷の外へ運ばせていく。

 最近、この国内での王制を戻したい者たちが動き出したの見て、資金稼ぎも兼ねてやったことだが‥‥‥それでも、証拠を残さないようにするためにはこうやって処分したほうが手っ取り早いのだ。

「それにしても、単純ながらも解呪が不可能に近い呪いを解呪か…‥。聖国の方で確認してもらい、絶対に解呪できないというお墨付きだったはずだが、それを解呪するとはな。誰がやったのかは不明だが、調べておくべきか」

 そう思い、呪術師の命と引き換えに、その主は気になる情報に興味を示すのであった‥‥‥‥












「…‥‥なるほど、そう言うことがありましたか。ご心配をかけてすいませんでした、父上、母上」
「いや、謝ることはない。皇帝である前に、お前の父だからな」
「そうよ。わたくしとしても、こうやって目覚めてくれたことの方が嬉しいわ。親を置いて先に逝くのはやめてほしいものね」

 エルスタン帝国の王城内の中庭にて、親子水入らずの祝いの席が設けられていた。

 そこに集うのは、本日の政務は後に残している皇帝と同じく他の仕事を残す正妃、そして先日運ばれてきたが、ようやく目覚めてくれた第1皇子ルガだけである。

 かくかくしかじかと呪いを受け手から今日に至るまでの話を受け、ルガは自分のせいで心配させたと言って謝るが、皇帝たちは謝る必要はないと答えた。

 帝国のトップの立場にいるとはいえ、それでも親であることは変わりなく、我が子が大事であり、その無事が確保されたのであればそれだけでも良いのだ。

 念のために他の皇子や皇女のほうにも既に連絡はしており、返答は後日来るのだが、こちらでも第1皇子の容態の回復に喜ぶ手紙が来た事から、ある程度の帝位継承争いはあるとは言え、家族仲は良好と言えるのであった。

「しかし、デザイトリア共和国での王権を戻そうと動く者たちが活発化か‥‥‥情勢が落ち着くまでは、一旦留学を取りやめ、帝国の学園の方に通うか?おそらくはひと月とかそのぐらいにはなるが‥‥‥」
「そこまでしなくても大丈夫です、父上。今回の事は、このわたしの実力が及ばずに傷を受け、呪いを受けただけの事…‥自身の実力にどこかでおごりがあったが故の油断が引き起こしたことですからね」

 使用人たちが用意してくれた紅茶を飲みつつ、皇帝の言葉にそう答えるルガ。

 彼としては今回の件は自分の実力が及ばなかったからだと思っているようで、次こそはどうにかしたいと思っているようである。

 世の中そう容易く、次に対しての対応は出来なかったりするが、それを成し遂げるだけの力はある。

 とはいえ、一人の親としては皇帝も正妃も心配にはなるのだ。

「そうか‥‥‥なら、数日後には再び共和国へ戻る馬車を用意するが、護衛の数は増やしておこう。ついでに、間諜も数名ほど付け、日ごろの情報収集体制をしっかりと強化しておけ」
「わかりました。ありがたく利用させてもらいます」

 また同様のことがあっても困るし、できれば未然に防ぐようにしたい。

 ゆえに、皇帝は共和国内での動きをさらに迅速に集めるために、皇子に諜報の物を数人ほど付けることを決定したのであった。

「‥‥‥それにしても父上、一つ尋ねてもいいでしょうか?」
「なんだ?」

 共和国へまた戻るための話もしつつも、ふと皇子はある話題を切り出した。

「わたしが受けた呪いは、話だとあの聖国も情報だけで投げ捨てるほどのモノだったようですが‥‥‥解呪ができる程の薬を作った彼らは何者なのでしょうか?」

 解呪後に、用は済んだので後は親子水入らずでという配慮でアルスたちはさっさと退出の許可をもらって帰っていたのだが、何者だろうかと第1皇子は疑問に思っていた。

「ん?お前もしっかりこちらからの手紙を読んでいるだろう。それだけで、分からぬか?」
「手紙‥‥‥そう言えば、退出した彼の横にいた絶世の美女のようでありつつ蜘蛛の体もあった…‥‥もしかして、父上が公表を決定したハクロと言う名のモンスターと、その主となっているアルスという少年でしょうか」
「そうだ」

 留学している皇子たちは、親へ向けての手紙を出したりするが、皇帝もまた子供たちへ向けて帝国であっ話題を手紙に書いて出している。

 そしてその話題の中には、ヘルズ家に関する話題が含まれており、アルスたちについての情報も載せていたのである。

 家の乗っ取りを他国の貴族が企んでいたなど、色々と重要そうな情報でもあるのだが、それを知るのもまた皇族としての務め。

 重要な情報であればしっかりと記録して、いざという時には引き出せるようにしておくのだ。


 なお、その親子間の手紙に関しては徹底的に管理されており、盗難・盗み見を出来ないようにされているので、ある程度の情報管理は出来ていたりする。

「なるほど…‥‥それで、納得がいきました。父上が仕事でだいぶ頭痛などに悩まされていたのに、解消できるほどの薬を作ってもらっているなど印象をそれなりに載せてましたからね。それならば納得です」

 アルスという少年に関しての話であれば、手紙の内容からある程度は把握していた。

 また、正妃である母の話でも何かと重要そうな人物であるという認識もしており、今回の解呪ができたのも当然のことかもしれないと納得ができた。


「将来的にはヘルズ家を継ぐようですが…‥‥それでも薬の売買などの契約はしっかりしておいた方が良いでしょう。よく効くのであれば、逃さないほうが良いと思いますからね。去年あたりの帰郷で、父上が皇族健康診断で胃に穴が空きかけていた時期もありましたからね‥‥‥」
「ああ、あったな…‥‥今はとりあえず改善したがな」

 こうやって穏やかに話しているとはいえ、皇帝としての仕事は溜まっている状態。

 あとで消化をしないといけないのは目に見えているのだが、それでもこうやって無事に呪いから解き放たれ、回復した我が子と話したい親心があるのだ。

「それにしても、実際に目にするとまだ幼い少年に、それに付き添うモンスター…‥‥こうやって目にすると色々とわかりますが…‥‥父上、彼らに関して、特にハクロに関しての情報管理はしっかりしたほうが良いと思いますよ」
「やはりか?」
「ええ。アルスという少年の薬の能力云々はこうやって解呪できたことをみるとそれはそれである程度の統制が必要ですが…‥‥ハクロというモンスターに関しては、聖国の方で色々とうるさく言ってくる恐れがありますからね」
「ああ、あの国はなぁ…‥‥潰したくもあるが、やったところでマイナスにしかならないのがこれまた動きにくくしているからな」

 ルガの言葉に対して、はぁぁっと重い溜息を吐く皇帝。

 エルスタン帝国はそれなりに古い歴史と広大な領地を持つ大国ではあり、他国も気を使っていたりする。とはいえ、そんな事も気にしない羽虫のような国もあるのも、面倒な事である。

 まぁ、羽虫を潰すのは簡単だが、その後にある処理で困る事も多く…‥大きい国とは言え、それでも何かと制限はあるのだ。

「まあ、それは後で考えるとしよう。ある調査を行っているうちに、潰せそうな可能性が見えて来たからな」
「それは喜ばしい事ですね」

 親子そろって面倒に思う国はあるのだが、今はそんなことは考えたくはない。

 解呪して無事にすっきりと目覚めたことに関して、しっかりと喜び合うのであった。



 それから数時間ほど、楽しく談笑し合い、そろそろ仕事を行わねばいけない時間になって来た。

「あとで解呪に関する報奨金を与える予定はあるとして…‥‥そうだな、ルガよ。共和国への馬車の準備は行うが、呪いの事があったとはいえ、長期休暇以外の時期に帝国へ戻って来たのだ。しばらくは養生しておいた方が良いだろうが…‥‥帝国の学園にも、一旦通いなおしておいた方が良いだろう。他国の教育機関との違いや、その他特徴などを比べるいい機会にもなるからな」
「‥‥‥なら、そうさせてもらいましょう」

…‥‥留学を辞めたわけでもないが、また共和国までも戻るための準備にはそれなりの時間は必要である。

 それに、せっかく他国で見聞を広めたのであれば、自国の教育機関を確認し直すのも悪くはない。

 先ほどは情勢が落ち着くまでの時間は長くなりそうなのでやめておいたが、数日程度であれば問題ないだろうし、こちら側にも友人はそれなりにはいる。

 なので、第1皇子は皇帝の言葉に従い、期限付きの学園生活を行うことにするのであった…‥‥
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