転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波

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2章 学園初等部~

2-17 特に困るようなことは無かったと思いたい

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‥‥‥まさかまさかの、正妃様の転生者という話。

 そしてついでのごとく、僕もまた転生者であることがバレた。

「‥‥‥まぁ、普通はそう言うことを話せないわよね。ココとは違う世界の記憶があるなんて話したら、普通の人が聞いたら頭がおかしい人だと思われるもの」
「それもそうですね」

 紅茶を飲みながら、苦笑するような顔で言ってくる正妃様。

 確かに普通に人にそう話したとしても、信じてもらえない可能性は大きいが‥‥‥どうやら今ので僕が転生者であることがバレてしまったようだ。

「そもそもねぇ、あなたの場合おかしいところがあったもの。だからこそ、転生者じゃないかと思って、カマをかけたのよね」
「えっと、どこがおかしかったのでしょうか?」
「さっき、話の中で言ったわよね?あなたたちのことを調べていたって。その中で興味深い報告として‥‥‥何やら妙な薬を自由自在に精製しているっていうのがあったのよねぇ」

 そこからでしたか…‥‥


 詳しく聞いてみたところ、実は王城から皇帝の目ともいえる間諜たちが僕らを常に監視していたようで、その動きを逐一報告していたらしい。

 それに寮の自室であっても実は密かに見ており…‥‥そこで、僕の薬の精製を目撃した間諜が報告済みだったそうだ。プライバシーの侵害とかはどうなのかと言いたいが、相手は上の権力者なので何も言えない。

「何もない所に、ぱっと現れる摩訶不思議な薬。その報告を聞いて、わたくしのような特異な能力を持つ転生者じゃないかって疑いを持ったのよねぇ」

 なお、正妃様が転生者であることは、既に皇帝陛下やその家族にも打ち明けているらしい。

 まぁ、そもそも瞬間移動という特殊な能力を持っている時点でただ者ではないと思われていたらしく、案外すんなりと受け入れられたようだ。

「あ、転移者の線も考えていたけれども、あなたの産まれてからの経歴を調べて、きちんとこの世界での出生を確認したので、それは無いと判断したわ。そして、この場でちょっと確かめたのよ。驚かせて、ごめんね」
「正妃様が謝ることは無いです。そもそも僕がついうっかりそのカマにかかってしまっただけですし‥‥‥」

 というか、思いっきりかかっていた。

 うん、我ながらちょっと情けなくレベルというか、あっけなさすぎるというか…‥‥もう少しきちんと判断すべきだっただろう。もうちょっと警戒心とか鍛えないとだめだよなぁ‥‥

【キュルルゥ?】
「あ、いや、慰めなくても良いよハクロ」

 あははっと乾いた笑いが出そうになっていたところで、ハクロが僕の様子に何か感じたのか、そっと撫でようとしていた。

 でも、心配しなくてもいいというか、自分のマヌケさに気が付いただけなんだよね。




 とはいえ、僕が転生者であることに関して問題は無いらしい。

 というのも、これまでの転生者の記録はあるらしく、歴代の転生者たちには大きな問題を起こすような人はあまりいなかったそうなのだ。「あまり」なので例外はあるかもしれないけれどね。

「皇帝の妃という立場だからこそ、転生者と思えるような人を探ったのだけれども、大体は何かしらの偉業を残していたのよね。例えば、今の帝国の食文化も、過去に転生者が伝えた者が多いみたいなの」

 ただし、それはあくまでも食文化だとかそう言う類での話。

 科学技術なども伝わってきそうなものなのに、それらが発達していないのは…‥‥

「基本的に、この世界とは一部の法則が異なり、魔法が存在しているからこそ科学の代わりになる部分が多いから難しかったり、それに‥‥‥ちょっと聞いてみるけど、あなたは一人で何か大掛かりな機械が作成できるかしら?」
「えっと‥‥‥できませんね」

 よくある異世界転生物であれば、何かとそう言う類を作り上げて発展をさせていくものが多いだろう。

 でも、現実を見れば一般人が原材料があってもそこから何か機械を作り上げることは出来ない。

 水車に風車、馬車のスプリングとかのようなものならともかく、複雑すぎるものはそれこそ専門家が必要だけど、そう都合良い専門家が転生してこないのだ。


 ゆえに、この世界の食文化などは発達しても、科学技術などはその弊害や魔法による代用などで補えてしまうために、そこまで進むことは無かったらしい。

 今でも地道に生活を良くしようと研究している人たちもいるようなので、将来的にはもっと便利な生活が送れるかもしれないけれどね。


「後は単純に、前世の自分自身についての記憶があやふやなせいで、専門的な知識が抜けている可能性もあるのよね。わたくしだって、前世があってそこで生きて暮らしていたという記憶はあるのに、どういう人だったのか思い出せないのよ」
「ああ、僕も同じです」

 基本的な常識だとか物は分かるけど、前世の自分がどの様な人物であったのかが分からない。

 転生したという記憶ははっきりしているのになぁ…‥‥そのあたりはあの神とやらが関与しているのかな?



 とにもかくにも、前世がある者同士として何かと話は盛り上がった。

 前世の自分が分からなくとも、その生きていた時代について話し合うこともできたが‥‥‥少し、驚くべきこともあった。

「‥‥‥時代を考慮すると、僕の方が10年ほど先ですね」
「そうよねぇ。転生したらわたくしの方が先に生まれているのに、その前世はこちらの方が古いみたいね」

 時間のずれなども見つかったが、それは気にしなくてもいいのかもしれない。

 でもまぁ、何かと話せる人が出来たのは良いだろう。

「っと、そういえばかなり長くなってましたけど…‥‥そろそろ休憩も終わって、会議室に戻らないといけません」

 話していると時間を忘れそうになるが、今はあくまでも休憩中。

 本日城に呼ばれた要件は、あの父とかのことであり、まだ話は終わってないのだ。


「あら、それは残念ね。でも、だいぶ楽しめたし良かったわ」

 そう言いながら正妃様が指を鳴らせば、どこからともなく使用人たちがさっそうと現れ、あっという間にお茶会の場が片付けられていった。

「では、ここで一旦終わりましょう。前世がある者同士の話に関しては、また今度正式なお茶会で聞きたいわねぇ」

 ふふふっとにこやかに笑いつつ、正妃様はそのままその場を去ろうとしたところで‥‥‥ふと、何かを思い出したのか足を止めた。

「あら、そう言えば忘れていたけれども、あなたの転生した際に貰ったのは薬の精製能力で良いのよね?」
「え?あ、はい、そうですが」
「その薬って、何でもできるのかしら?}
「いくつか制限が合って、永続的な物とかは無理なのですが‥‥‥何か欲しいのでしょうか?」
「ええ、そうよ。夫がね、最近会議などで問題をよく聞くせいで、胃痛だとか頭痛がするとか言ってて‥‥‥それによく効く薬が欲しいのよね。それで、都合が良ければいくつか作ってくれないかしら?」
「はい、そのぐらいでしたらお安い御用です」

 頭痛薬に胃薬ならば、簡単に生成できる。

 元を絶たないと意味が無いような気がするが、まぁ皇帝陛下って国をしっかりと納める人なだけに、人一倍苦労しているのだろうし、それを軽減させてあげたいだろう。

 そう思い、良く効く薬を想像して‥‥‥手の中に精製した。

「こちらの薬をどうぞ。効果を頭痛と胃痛に対応させつつ、ついでに疲労回復も見込める物にしています」
「これを飲ませればいいのかしら?毒性とか副作用は?」
「それは無いはずです。そもそも、毒なんてあったらそれこそ首をぶった切られかねませんし‥‥‥」

 この国のトップに毒を盛れば、それこそ僕の命が危うくなる。

 そんなことをやる気もないし、やるのであればその手の専門家のところへ行ってほしい。‥‥‥毒殺の専門家とかっているのかな?

 とにもかくにも、薬を念のために数本ほど余分に作成して渡し、後日に効果が見られれば定期的な購入の契約をしたいという事で手紙でその連絡をするという約束を交わし、その場で分かれるのであった‥‥‥

「さてと、後は会議室での話の続きかぁ‥‥‥うわぁ、ちょっと気が重いなぁ」
【キュルルゥ】








‥‥‥その日の夜。報告すべてが終わりつつも、皇帝は疲れ切っていた。

 アルスの家族に関しての調査結果が酷すぎたというべきか‥‥‥叩いてホコリが出るどころかそれ以上の余罪。

 今でこそもうすでに血縁が無いとされる元夫人や元兄たちとやらに関してもあり過ぎて、処分の複雑化が必要そうだったのである。

「ああ‥‥‥悩めば悩むほど頭が痛い。彼は良い子なのだが、よくこんな家庭で真っ直ぐ育ったな‥‥‥転生者とやらは、全員そうなのだろうか?」
「いえ、そうではないはずよ。環境によっては道を誤った人もいるらしいもの。それにしても、そこまでいたいなら‥‥‥これを試してみるかしら?」

 そう言いながら正妃が皇帝に手渡したのは、昼間に貰った薬である。

「貰えたのか?」
「ええ、効果が確認でき次第、契約して定期購入をするとも約束したし、とりあえず試しに飲んでみて」
「ふむ、どれどれ‥‥‥」

 瓶のふたを開け、ごくごくと一気に飲む皇帝。

 そして中身が空っぽになり、少し待ったところで‥‥‥効果が表れる。

「お?お?おおおおおおおおおおおお!?」
 
 ぶわぁぁっと毛が逆立つというか、気合いが入ってむきぃっとマッスルポーズを思わずとる皇帝。

「これはすごい!!すごいぞ!!長年の頭痛や胃痛、ついでに最近疲れていた精神に活力がみなぎるようで、見る見る間に癒していくのだが!?」
「あらあら、すごい効能ねぇ」

 前世の記憶からなんとなく某猿とかになる戦士の変貌のような印象を抱きつつも、効果の凄さに正妃は驚く。

「なら、依存しないようにいくつか必要な時だけに取っておくけれども、定期購入の契約などを後で結んでもいいかしら?」
「ああ、そうしたほうがいいだろう!!これはすごいぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 むはーっと言うように気合いが入って活力がみなぎる皇帝。

 その元気の良さに嬉しく思いながら、依存しないように見張りつつ、定期的な購入を検討し始める正妃であった。



‥‥‥なお、後日。皇帝のその驚きの変化に臣下たちが詰め寄り、自分達もどうにか欲しいという事で、正妃経由で毎月の購入が決定するのであった。

 一人一人が個別に押し掛けると、ソレはソレで一人の少年に迷惑が掛かり過ぎると判断したからである。

 そしてついでに、その契約による毎月の購入額のおかしい桁数を見て、アルスが驚きすぎてぶっ倒れたのも言うまでもない。

「…‥‥上層部の人達ってどれだけ疲れているんだよ!?」
【キュルルゥ?】
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