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2章 学園初等部~

2-8 出来ればもっと年齢が上がってからが良かった

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…‥‥皇帝との謁見。

 それは、謁見する者にとってはこの国を治める皇帝を間近に見ることができる機会。

 その機会を活かして繋がりを持とうとしたり、あるいは今の皇帝を見てこの国の将来を予想したり、はたまたは国のために意見を直訴する機会にもなる。

 とはいえ、毎日謁見可能という訳でもなく、謁見に関しては前もって連絡をしなければいけない。

 基本的にこの帝国では議会が政治を担っているところも多いのだが、政治だけを行うのではなく、その他にも皇帝は様々なところに手を出しているからこそ、多忙なのだ。

 孤児院の慰問に、他国へ直接出向いての協定、晩餐会への出席など、政治以外にも精力的に動くのだが、これも国のためを思えばの事らしい。




 そして今、僕らは謁見しているのだが…‥‥何せ、ハクロを伴うとはいえ、彼女はモンスターでもある。

 手続きを経ているからこそ、安全性はある程度立証されているはずだが、それでも警戒するに越したことはないそうで、謁見の間の中には皇帝を守るかのように、近衛兵たちなどが配備されていたのだが…‥‥そんな彼らの目は今、ハクロに奪われていた。


「‥‥‥本日の謁見をさせていただきます、アルス・フォン・ヘルズと、ハクロです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
【キュルゥ】

 跪いて頭を下げて礼をすると、ハクロも一緒に礼をする。

 ただし、彼女の場合は蜘蛛の足のせいで動作が少し違うので、今回の謁見のために作り上げた白いドレスの裾を持ち上げ、華やかに礼を取った。

 綺麗に花や鳥の絵が刺繍されているが、染める方法を模索中なので白き衣。

 でも、つややかな蜘蛛の糸のおかげなのか、光の当て方によって見え方に変化が起き、見る位置によっては刺繍された動植物が動いているようにも見えるだろう。

 そして彼女の美しさも相まって、まるで彼女そのものが一つの春の季節を運ぶ精のように見えてしまう。

 だがしかし、今回の謁見のために対策しまくっていたとはいえ…‥‥ちょっとこれはどうなのかと問いたい。

「ふむ、そう堅苦しくなるな、アルスよ。今回はただ単に、そのモンスターを余が直接目で見て判断を下すだけであるからな。‥‥‥ただ、兵士たちよ、目を奪われて動けなくなっているのは困るぞ」
「は、はっ!!」

 皇帝陛下の指摘に対して、びくぅっと兵士たちは体を震わせて返答した。

 図星だったというか、何というか‥‥‥気合いを入れてハクロを綺麗にし過ぎたせいで、どうも全員が彼女の美しさに見惚れてしまっていたようだ。

 まぁ、化粧などは不慣れなのですっぴんで、露出を控えた清楚なドレスを着せているはずなのだが…‥‥どうも似合いすぎるというのも考えものらしい。


「しかし、兵士たちが見惚れるのも無理は無いな…‥‥これが、話にあった蜘蛛のモンスターというが‥‥‥うむ、何とも美しい物だな。一晩の相手にでも誘いたくはなるが…‥‥まぁ、余には妻がいるので誘う事もないだろう」

 流石皇帝というか、他の人達程美しさに魅了はされずに、平常心を保っているらしい。

 噂ではかなりの愛妻家でもあるようで、夫婦仲が良い事でも有名らしく、ハクロを見てもその愛は揺るがないようだ。



 その事に内心感心しつつも、手続きとして謁見をさせられているが…‥‥皇帝が玉座から立って、僕らの元へ近づいて来た。

「なるほど、ここまで来ても襲わずに大人しくいるのか‥‥‥」
【キュルゥ】

 そうだよ、というように口を洩らしつつ、ハクロが皇帝の方に顔向ける。

「人の容姿を生やす、蜘蛛のモンスター…よく躾けられているというよりも、この様子だと元々持つ性質なのだろう」

 色々と周囲を回って歩き、ハクロを観察する皇帝陛下。

 その目は何かと見定めているようであるが、邪な物を感じさせず、しっかり皇帝として見る目のようだ。


「‥‥‥ああ、これならば問題はないだろう。共に寮内で過ごす許可や、学園内を行く許可をしよう。ただしアルスよ、彼女に対しての責任は、きちんととるように」
「はっ」

 案外あっさりと皇帝陛下に許可をもらえたが、流石に権力者相手だとまだまだ緊張しており、内心ドキドキしぱなっしだったりする。

 なので、許可をもらったあとは周知のための手続きなども必要だが、ひとまずは大きな問題を乗り越えたようであった。


 そして、このまま出来ればそそくさと退室して、緊張から解放されたいと思っていたのだが‥‥‥

「だが、まだ退出をするな。少し話がある」
「話、ですか?」
「そうだ。…‥‥アルス、お主が来るよりも前に、とある結果が出てしまったからな。それは、ヘルズ男爵家についての調査についてだ」


 その言葉に、僕は何やら嫌な予感を覚えた。

 わざわざ男爵家の3男に過ぎない僕をここに呼ぶのはどうかと思っていたのだが…‥‥何やら、ヘルズ男爵家について皇帝陛下は調べており、その結果を告げる目的もあったようだ。

 何かと真っ黒な可能性でも出てきたのかも知れないが、あの借金を背負いそうな父を思い出すと、後ろめたい事をする資金も何も無いように思えてしまうのだが…‥‥



 何にしても話の内容がそれなりに重要なのか、皇帝陛下がぱんっと手を叩くと、謁見室の出入り口の方から次々とお偉いさんと言うべきか、皇帝陛下の重臣たちと思われる人が入って来て、使用人の人達によってあっという間に会議室のようになっていた。

 ドーナッツ状の円形のテーブルが設置され、その周囲には皇帝陛下たちが着席しており、僕らはその中央に設置された椅子に座らされた。



‥‥‥物々しそうな雰囲気が怖い。

 何が起きるのかと内心びくびくしていたが、ハクロが落ち着くようにと僕を抱きしめてきたところで、皇帝陛下が口を開く。

「さてと、出来れば謁見だけで平穏無事に済ませたかったのだが‥‥‥残念ながら、そうもいかなくはなった。そのモンスターと共に生活することに関しては、堂々と公の場に出られるように支援はするのだが‥‥‥その前に、アルス・フォン・ヘルズ。そちらにとっては残酷な真実が出てしまったのだが、少し聞いてくれないだろうか?」
「‥‥‥はい」

 皇帝がそう問いかけてきたが、何やら重々しそうな話に僕は何事があったのかと疑問に思う。

 っと、皇帝陛下の横の席に着席していた重臣が手を叩くと、使用人たちが分厚い書類の束を持って来た。

「‥‥‥まだ幼き身であるが、これは今後のことについて非常に重要な書類だ。分からぬこともあるかもしれぬが、分かる部分だけでも目を通してほしい」

 言われながら、分厚い書類を手渡され、僕はその内容を読んだ。

 一応、子供でもある僕に配慮したようで、難しい文章にはなっていないようだったが…‥‥その内容を理解して僕は驚愕した。


「え‥‥‥!?」

 そこに書かれていたのは、ストーカーかと言いたくなるぐらいに細かく書かれた男爵家の調査用紙。

 家族構成からその生活状態などが書かれていたのだが‥‥‥‥その内容には、目を疑いたくなるものがった。

「あ、兄たちが父と血がつながっていない!?」
「そうだ。この帝国では過去に色々あったために、ありとあらゆる血縁かどうかと判別する方法が存在しているのだが…‥‥そのすべてにおいて、その結果が出ていたのだ」

「さらにだ、それ以外のモノも読みたまえ」
「えっと‥‥‥現在の当主は父だが…‥‥『当主代行』?」
「‥‥‥ああ。そうだ。今のヘルズ男爵家の当主と名乗っておる男…‥‥君の父親だが、正確に言うと当主ではない。本来は、君の亡き母親が当主を務めており、その男はあくまでも当主の代行をしているに過ぎなかったものだ」
「つまりだ、現在の男爵家当主争いだが…‥‥血の繋がりがない兄たちが次期当主の座に就けることはないだろう。なぜならば、本来の次期当主となるのは、アルス・フォン・ヘルズ、君だけだ」
「だが、そうはなっていないことに関してだが‥‥‥‥色々と重い話がある。心して、聞いてもらいたい」


 兄たちと血がつながっていなかっただとか、父が当主代行だったとか、いきなり僕が本来の次期当主だったとか、とんでもない話をこれでもかと投げられ、頭が混乱しそうである。

 けれども、まだ色々と話があるようで、ハクロと一緒に過ごせる許可はもらえても、何やら面倒事を一緒にこの場で片づけるためなのか、知りたくもなかった真実を聞かされそうであった‥‥‥‥

…‥‥謁見だけで終わるかと思ったのに、なんでこうなるの。
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