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中編

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‥‥‥人間の赤子と言うのは、成長が早いのだろうか。

 いや、成長が早いのは良い事だ。弱いままでは、喰われるだろうし、強くなってもらわねば人間どもを皆殺しにできるような猛者に育て上げることができない。

 なら、この現状で良いはずなのだが‥‥‥


「よいしょ!!ししょー!!ボルケーノドラゴンの肉、狩れましたよー!!焼肉、作りましょー!」
「ししょー!!メタルゥナァスライム、ドロドロになりましたー!これで新しい武器が作れますー!!」
「うるさいと言っていた、自称魔の森の王キングフェンリル、剃りましたー!!冬に向けての良い毛皮になりますよー!!」

「そ、そうか。ならそれぞれ、処理してほしい」
「はい!!」

 まだ幼い人間の子供、ジャックは元気に返事をして、意気揚々と本日の獲物たちをそれぞれ処理するために運んでいく。

 強大なドラゴンの身体を部位ごとにさばききり、溶解した金属を火傷することなく容器へ移し、皮をはいで滑なめしていく様は、既に手慣れたものだろう。



 うん、人間どもへの恐怖と混沌を振りまくために、強くしようと思って育てたけど‥‥‥どうしよう、ちょっとやり過ぎたのかもしれない。いや、ちょっとどころかかなりヤヴァイ感じに育ってないかな?


 そもそも人間の子育てなんてものは、最初の乳のみ以外は良く知らないし、だったらこの森で生き抜くためにも強い獲物を狩り、その血肉を己のものにして取り込んでいけと教えはしたのだが、足りないからってどんどん好きに狩らせてしまったのも悪かったのだろう。

 2歳にしてシカを狩り、熊を投げ飛ばす。小さな子供が自分より大きなものに挑み、圧勝する。

 5歳にして私よりもはるかに強い土蜘蛛を引き裂き、湖の主の龍を千切り投げ飛ばす。主亡き後はただの湖になったが、何やら強い魚を作るための養殖に手を出したようで、かつての湖よりも混沌と化した生態系すら作っている。

 そして8歳の今は、ドラゴンやフェンリルなども狩りまくっているのだが…普通、そんなやすやすと狩れないからね?ジャック、お前は何をどうしたらそんな滅茶苦茶に育つんだ?


「あ、そういえばししょー!人間共を消し飛ばすための、新しい魔法や武術、武器などを作ました!先日はちょっとだけしか、湖が蒸発しないものでしたが、今度のは自信作で、山を消し飛ばせます!!後で見てくださいねー!!」
「そ、そうか、でもこの辺りの山は最近ほぼなくなったはずだが‥‥‥」
「大丈夫です!新しい土魔法なども修得できたので、実験用の大きな山を幾つも生み出せますからね!!」

 ぐっとこぶしを握り、自信満々そうな笑顔でそう言いきるジャック。

 こうやって見ると無邪気な子供にしか見えないのだが、やっていることがどう考えても人外の領域に入り込んでいるだろう。魔物のやれる領域すら、超えてないかな?。

 もしかしてこの子、本気を出せば人間どころかこの世の生きとし生けるもの、全てを消し飛ばしかねない?



 人間を滅ぼす者として育て上げるためにも、滅びる要因が自分達の生み出したものなら良いかなと思い、人間の師弟関係とやらを参考にして、子供を育てても子供とはせずに弟子という形にはめこみ、色々と私が持てる全てを伝授してしっかりと強くなってもらうはずだったのに、想像の斜め上を突き進む成長をしてしまった。

 というか、ちょっとだけしか蒸発しなかった湖に関しては、結構大きなものだったのに、瞬時に湖底まで干上がるどころか溶解するレベルだったんだが。山を消し飛ばすのはちょっと威力が落ちているのか、それともよりいけない方向へ進めてしまったのか、どっちなのだろうか。あ、山を生み出す魔法を‥‥‥雲、突き破っているなぁ。




 色々とツッコミどころが増えすぎて、私は現在自由にさせ過ぎたことを後悔している。

 でも今さら止めようが無いし、しっかりと世に送り出せば後は見ることも無いから心配はさほど無いと思いたいなぁ。しかし、この子が人間を滅ぼしつくしたらやることが無くなって、下手するとこの世界そのものを消し飛ばす破壊神になる可能性が着実に出来上がっているかもしれない。

 私、どうすればいいのだろうか。


「ししょー?どうしましたか、そんなに悩んで?」
「いえ、何でもないわ。そう、ちょっと疲れただけよ」
「んー、だったらこの間作ったししょー直伝、疲労回復薬をどうぞ」
「ありがとう。‥‥‥あら?これ、この間教えたものとはちょっと違うわね?味が甘くて飲みやすくなっているわ」
「森の奥緒法にいる、クイーンビー一家を殲滅したので、その蜂蜜を使ったんです。栄養価も高いはずなので、味も良くなりつつ、しっかり元気になるはずですよー!」

 クイーンビー一家って確か、熊並みに大きな蜂の魔物の群れだったかな?過去に、人間の国ひとつを落としたと言われるような集団で、それを殲滅したってことはこの子はすでに十分すぎるほどの滅ぼす力を‥‥‥うん、考えないほうが良いわね。


 そう、世の中考えないほうが良い事もあるのかもしれない。ちょっとした思い付きで育てていたつもりが、いつの間にか、魔物すら超えるヤヴァイ怪物になっていたなんて事実を私は見ないことにするのだ。

 まぁ、人間たちを殲滅する目的としては順調に達成までの道のりを歩めているのだけれども‥‥‥うん、そもそも森から出すべき子なのかしら?出したら出したで、人間を滅ぼすために全世界を何十回も焼き尽くすような真似をしかねない気がして不安しかない。


 そう思いつつも私は見て見ぬふりをし続け、この子を育てていく。ジャックという名をつけ、赤子の時から育てた分、愛着も沸いているのだが‥‥‥どうしよう、この子強くなりすぎて、本気で悩み始めちゃった。

 既に育てるどころか自主的にぐんぐん成長している時点でどうしようもないのだが…‥‥何も考えない方が気が楽かもしれない。そう、世の中どうしようもない事と、才能を秘め過ぎたものがいる事なんて、日常茶飯事だと思いたい。

 決して、自分が世界を破滅させるような化け物を生み出したわけではないと、心に言い聞かせるのであった。



「それにしてもししょー、包帯とって良いんですか?前までずっと身に着けてましたよね?」
「んー、この姿が嫌だから付けていたんだけれども…苦労する汗が多くて、蒸れて嫌になったのよね」
「…‥‥そうですか。でしたら、新しい包帯を用意しましょうか?今度、奥地の方に流れ着くマミーたちの群れがいるそうで、上質な包帯が得られるはずですよー!」
「いや、別に良いわ。私が作る糸で出来る布地のほうが良い物だもの」
「そうですか‥‥‥まぁ、ししょーは包帯が無い方が綺麗ですもんね!」


‥‥‥綺麗、か。言われて悪い気はしないのだが、そんなものなのだろうか?人間の感性と言うのは分からない。

 そもそも自身の人間に近い姿が嫌いで包帯を巻いて隠していたのだが、この子を育てているうちに面倒になって来て外したけれど、無くて良いのかも。

「それと今度、花壇に薬の材料として、マンドラゴラを植えましたよー。蠢く触手が獲物を求めている光景も、良いものですねー」

 うん、分からない。この子の感性がおかしいだけなのかもしれない。

 そしてマンドラゴラ以外にも色々植えてないかな?あれって確か、ケルベロスの生首に巨大怪鳥の手羽先に、カイザースケルトンの骨…‥‥肥料に丁度いいと言ってこの間植えていたような気がするけど、アレを肥料したらもっととんでもない物できあがるような。


 よし、何も私は見なかった。ただこの子が創意工夫をしているだけだと思いたい。

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