兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波

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公爵令嬢視点:やってくれましたね馬鹿王子様!!

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「ブルタニア・フォン・アシュリー公爵令嬢!!お前の非道なふるまいにもう我慢ならない!!ゆえに、俺はこの愛しのジョン・フォン・チッビィン男爵令嬢と婚約し、お前とは婚約破棄だぁぁぁ!!」

 モッチ王国の国立学園の卒業式会場にて、第1王子であるモッチ・フォン・ホーアナの発言に、その場に居た全員が固まった。


 いや、驚愕しすぎたと言うのもあるが…‥‥少なくとも、その巻き込まれた婚約者であり、婚約破棄を言い渡されたわたくしと同じぐらい、驚愕しているだろう。

 そして、皆の心はおそらく一つ。

『いきなりなにをやってくれてんのこの馬鹿王子は!?』と。




 失礼いたしました、わたくし婚約破棄を宣言されたブルタニア公爵家の令嬢、アシュリーですが……実は、前世の知識があったがゆえに、このような事になることは予想していました。

 元は日本という国に住んていた、そこでもある企業の令嬢でしたが‥‥‥‥ストーカーによって、命を奪われたのです。


 いや、あれ本当に悔しい‥‥‥‥存在も分かっていたし、立件できるだけの証拠も集め、友人たちにも協力してもらい、いよいよ訴える時が来たぞということに…‥‥まさか麻薬か何かをやってらっしゃって、血走った目で大暴れされた挙句に、頭をつかんでそのまま叩きつけられ、あの世へ送られてしまうとはね!!



 ですが、運命と言うのは残酷なものです。

 何か見覚えのある場所に転生し、前世の記憶があったのですが、それを活かして楽しくやっているうちに気が付きました。

 あ、これ悪役令嬢だ。と。


 前世の乙女ゲーム‥‥‥確か、その中にありました。

 そこで、このアシュリーですが、何と極悪非道な令嬢としてヒロインをこれでもか、これでもか、としつこいぐらいに苛め抜き、最終的には婚約破棄をされたあとに、無駄にスタイルがよかったので、処刑寸前に男たちの慰み者にされるというエンドを迎える‥‥‥‥嫌すぎますよね!?



 というわけで、そんなことになりたくないわたくしが出した結論としては、ヒロインに全く手出しをせずに、自分がやりたいように生きればいいとしました。


 そこで、まずは婚約破棄されても良いように、ある程度私の地位を固めることにしました。

 公爵家の領地視察をし、どこをどう改善すればいいか前世の知識も生かし、そして今世の無駄に賢い頭を活かして発展のための意見をお父様に言って、実行してもらう事から始めたのですが‥‥‥‥これが思いのほか大当たりでした。

 麦の品種改良、交通網の整備、働き手の確保、孤児院などに積極的に訪れて将来を担う若者たちの育成‥‥‥その他いろいろやったおかげで、我が公爵家は栄えまくりました。


 そして案の定というか、その手腕に目を付けた王家が、第1王子とわたくしとの婚約を王命でいれ、お父様は王家とのつながりに喜びましたが‥‥‥‥わたくしとしては、少々複雑な気分でした。

 
 婚約破棄される可能性があっても、もしかしたらまともな人であり、思いとどまらせることができるかもしれないと思えたからです。


 ですが、初めて顔を合わせたときに、その想いはダイナマイトで爆破されました。



‥‥‥‥ダメダメすぎないか、この王子?

 勉学は苦手、そもそも遊び惚け、下町に出れば女の子に声をかけ、成績をごまかすように教師たちに圧力をかける。

 いやまぁ、正そうとしたのですが、嫌らしい目で見られたので、もう放置で良いかと思いました。

 矯正しようにも、不可能なレベルの天性の屑でしたからね。



 



 何にせよ、婚約破棄が来る可能性が高かったので、公爵家の侍女をフル動員して、色々とわたくしが有利になるようにしました。

 その最中に、婚約者の弟である第2王子の配下の人とちょっともめたので、この機会にですから顔を合わせて見たのですが…‥‥本当にあの王子の弟なのかと疑いたいほど、まともでした。

 いや、むしろ比較する方が失礼か‥‥‥‥こちらの方が顔も良いし、ちょっと幼げで可愛いし……あら?わたくしってショタ好きでしたっけ?第2王子様としては気にしていないようですが、巷ではちょっとかわいい系でしたけれどね。


 しかも性格も良いし、あの王子なんかよりも数百倍は絶対優良物件だよね?


 なんであの乙女ゲームに出ていなかったの?あ、そうか、表に普段出ないから、登場する機会がなかったのか。





 何せよ、色々と良い話しもできました、好感が持てましたね‥‥‥‥婚約破棄されて、令嬢として傷ついても、あの子とは良い関係を持っておきたいなぁ…‥‥ただね、マルゲリータさんでしたっけ?あの人が思いのほか恐ろしい顔で見てきましたけど、もしかして王子に好意を持っているのでしょうか?







 とりあえず、現在に至るわけなのですが、目の前の屑婚約者とその婚約者の座になるという淫乱男爵令嬢……ゲームでは純粋なヒロインでしたのに、なぜか男たちに声をかけまくる淫乱と化していましたが、その方たちが言うには、わたくしがいじめをしていたという事です。


 いや、そんな無駄なことに時間を割くぐらいならさ、勉学に励むよ?

 それに、王子の婚約者として王妃教育も受けていたし、そんなやる暇もなかったですよ。


 あと王子に従う愉快な取りまきの人達、あなたたちの親が激怒していますよ。




 そんなこともあり、とりあえずここいらで反論を…‥‥と思っていた、その時でした。



「とにもかくにもだ!!このような非道な行いをしたアシュリー!!貴様とは婚約破棄だ!!幸いなことに、この場には国王である父上もいるし、今すぐにその許可を!!」
「何をやっておるんだこのボンクラ息子がぁぁぁぁっ!!」

……すいません、国王陛下。存在をすっかり忘れていました。

 この婚約破棄現場、卒業式の会場なのですが、親も一緒に出席をしており、国王陛下も例外ではありませんでしたね。

 


 真っ赤に燃えたぎり、その熱で蒸気が溢れているような国王陛下はそのまま飛び掛かり、王子を頭から地面に叩きつけました。

ドゴォォォォォォン!!
「そげばぁぁぁぁぁ!?」


 見事に第1王子は、地面に生える雑草と化しました。

 というか、国王陛下、思いのほかすごい強いですね‥‥‥‥あ、抜けなくなった?










「本当に、兄がやらかしてすいませんでした、ブルタニア・フォン・アシュリー公爵令嬢」
「いえ、もういろいろとこちらでもわかっていたことですので、別に良いですわ」


 物凄く申し訳なさそうな顔で、第2王子のルアン様が謝罪をしてくれました。

 きちんと無罪の証拠や、あの馬鹿王子の所業を短時間で把握されたようですが…‥‥あの馬鹿の弟という立場はすごく大変そうです。





 何しろ、公爵家の令嬢を一方的に王家の人が破棄したからね‥‥‥‥お父様が大激怒しそうでしたが、やらかしたのはあの馬鹿だけなので、何とかなだめられました。


 とはいえ、これからどうしましょうか‥‥‥‥王妃教育も無駄になりそうだけど、傷ついたことを理由に、領地へ引き籠るという手も…‥‥




「兄を地面から抜いたのち、しかるべき処分を下すと国王陛下はおっしゃっていました。この件で傷がつかないように、元から兄との婚約は破棄というよりもなかったことにして、王妃教育のためにかけた時間の代償として、貴女の家の公爵家にできる限りの援助をするようです。また、何か望みがあれば王家として可能な範囲で行うそうですが‥‥‥‥」
(……え?)

 そこでふと、ルアン様の言葉に、わたくしはふと思いつきました。

「……その国王陛下が言っていた望みを叶えてくれると言うのは本当ですか?」




 国王が約束してくれるのであれば、あの馬鹿よりも信頼性があるだろう。

 そして何よりも、望みを叶えてくれるという事は…‥‥

「はい、間違いないと思います。この王家があの兄のせいで再び裏切るような真似をすれば、完全に信頼が失墜するでしょうし、約束を違えることはないと、ここに誓いましょう」


 ルアン様の言葉に、わたくしはしっかりとその誓いを耳にしました。

 そうですね、王妃教育も受けましたし、このまま引き籠っても特はありません。

 あの馬鹿王子よりも…‥‥こっちのルアン様の方が、比較できないほど良いですよね?







「国王陛下、新しい婚約者を第2王子のモッチ・フォン・ルアン様にしていただけないでしょうか?傷ついた乙女で有りましたが、破棄後の話し合いで、ルアン様が見せてくれた誠実さに心を打たれましたので、どうかお願いします!!」
 「し、しかしそなたはあのボンクラ息子のせいでこの王家を嫌って……」
 「いえ、王家そのものは嫌いになっていません。あの第1王子だけを対象として嫌い、王家そのものに嫌悪感を抱いていませんから、どうか約束を違えないように婚約者にしてください!!」


 ならば、ルアン様と婚約すればいい。


 そう結論付けたわたくしは、後日国王様に願い出ました。

 ルアン様は一瞬困ったような顔をしましたが、それでも数年かけて受け入れてくれたのはうれしかったです。


 そして、卒業なされる際に、その場に呼び出されましたが…‥‥あの馬鹿の時は婚約破棄でしたが、ルアン様は婚姻を結ぶことを盛大に発表なさってくれました。


 どうやらわたくしは、バッドエンドを迎えずに、幸せなハッピーエンドを迎えることができたようです…‥‥




「でもマルゲリータさん、貴女も望みたいのであれば、わたくしは反対しませんよ。側室とかも他国の王族とかにありますからね?」
「!?」

 そう言った時に、ルアン様の侍女であったマルゲリータさんが驚いた表情になって、後日ルアン様が他の女性たちに追いかけられ、色々と大変そうになっていた光景は、何処か面白いものでした。

 あ、これもある意味悪役令嬢のような事ですかね?だって、迷惑を人にかけてますからねぇ。



 馬鹿王子と愉快な取りまきたち、男爵令嬢?ああ、あの人たちは…‥‥いえ、語る必要性はないでしょう。

 今はこの、幸せで面白い日常を過ごすことでいっぱいですから。

 そして、早くも新しい命が、この中に生まれているのだから‥‥‥‥
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