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Ver.F ~終わりと始まり、そして次へ~

ver.F-7 道はいずこに続いて

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―――オンラインの世界と現実が行き来できるようになってしばらく時間が経過した。

 様々な問題が出てきたり、私利私欲に塗れた輩も出たりはしたが、それらも地道に対処されていく。


 そして何よりも、大きな話題だったとはいえ、それが「当たり前」のようになってくればいちいち出すようなこともなく、自然に日常に紛れ込んでいくもので…


「いつの間にか本数も増えて、移住できずとも納得するようになって、なおかつあちこちの開拓がより一層進むけれども…ここは、そんなに変わらないね」
「そりゃそうじゃろ、お主らプレイヤーとやらが主に出向くのは新しい場所…ここも、ある程度はにぎわった時があるとはいえ、新しい物好きなお主らはすぐに別物へ飛びついて、平穏な状態になってそのまま放置されているような物じゃからなぁ」

 大樹が生い茂る中、久しぶりに向かった大樹の村…きちんとこの村の長を務めあげているのじゃロリレティアこと諸悪の根源とハルたちは久しぶりに再会した。

「今何か、おかしな感じの並びをしなかったかのぅ?」
「気のせいだよ」

 なお、のじゃロリの妹のレティアは不在で、こちらは現在各惑星の放浪の旅をしているらしく、週一ぐらいでお土産を持って帰ってくるらしい。

「しかし、そんなさびれた場所へ今更お主たちが来るとはな…一体どういう風の吹き回しじゃよ。もしや、また女体化スキルでも習得しに来たのか?」
「そんなわけない。せっかくこちとら、女神のスキルが分かれてまともなボディになったから、また変なスキルのきっかけになるようなものを受け取る気はないって」
「ふむ、残念じゃな。せっかくじゃからこちらの『ミミック化』や『トレント化』などのスキルも用意しておったのに…」
「どこの誰が、異世界転生モンスターになるようなスキルを手に入れるとでも?」
「でも、ロマンはあるじゃろ?」

 否定しづらいが、今はそんな話をしに来たのではない。
 珍しく、真面目な方面での話を…いや、普段から不真面目過ぎるのはのじゃロリの方だが、今はそんなことはどうでもいい。

「単刀直入に、用件を伝えるね。のじゃロリ含むここの村人って、ほとんどエルフだよね?」
「む?間違ってはおらぬな。正確に言えばエルフ8割、他他所からの移住による別種族2割じゃが」
「うん、それも良いとして…イメージ的にエルフって、木々のこととかに関してのプロフェッショナルなイメージがあるけれども、実際そこはどう?フォレストガーディアンとか、あの鏡面のほうアティがつかうフォレストデストロイヤー等、木に関することに関してはかなり優れているよね?」
「もちろんじゃよ。誰がこの大樹の村を日々、整備しているとでも思うのじゃ。森もまた生き物であり、誰かが手入れをして清き循環を保たねば、腐るからのぅ」
「そこで、お願いしたいんだけど…今度、ちょっとこっちの都合で現実世界で、勤めている会社で環境にやさしい活動を行うことになって…その活動の中で、このオンラインの世界を利用した植林活動を行うことになったんだよ」


 現実世界とは違う、オンラインの世界を利用した試み。
 絶滅危惧種を一時的にこちらへ連れて行き、適切な環境の星で育てることで繁殖させて戻すプロジェクトや、将来的に枯渇する資源の代わりになるものを探すためのプロジェクトなどがあちこちで行われていると聞く。


 その中で今回、ハルの勤めている会社は環境貢献活動として植林活動を決め…オンラインの世界である程度の苗を育て、現実世界へもっていこうという企画が立ち上がったのだ。

 現実世界でも苗を育てる環境はあるが、オンラインの世界だからこそ、害虫などがいない場所を探してより多くの植林用の木々を育てることができ…そのための、このオンライン世界でのアドバイザーとして雇えないか相談しに来たのである。

「ほぅ?別にかまわぬが、お主が直接こちらに来るとは思わなかったのぅ。他に誰か、会社とやらに務めているもので、動いて良さそうなものなのじゃが…」
「それがまぁ…色々あってね、その企画の中でこのオンラインで育てる側のほうの規格の一部を任されることになったんだよ。あの時、パーを出していれば…」
「…じゃんけんで決めてないのかのぅ?」
「いや、殴り合い」
「物騒な決め方なんじゃが!?何、お主の会社パワハラだとかそんなもので決めておるのかの!?」

 いや、パワハラの類は無い。
 現実世界のほうで、本来その企画を担当する人はいたことはいたのだが…先日とある場所で交通事故が起き、当事者同士での殴り合いに発展している現場に遭遇してしまい、その人が巻き添えになって入院する羽目になったのだ。

より正確に言えば、手を前に出せば防げる拳だったのを、思わず避けてしまったことで後方にいた担当者に直撃したので…責任を感じて請け負うことにしたのである、

 ちなみに、その殴り合いの現場は、担当者が殴り倒された後、紅い何かが素早く通り過ぎ、気が付いた時には全身手足が物理的に縛られた状態で収まったので、問題はない。



「それはともかくとして、だからこそこの企画をしっかりやろうと思って、オンラインの世界での木々の育成に詳しそうな人を講師で呼べたらなと思って、尋ねに来たんだよ」
「なるほどのぅ…事情は分かった。別に良いじゃろう。木々の育成に関しては、村の者で教え方が旨いものが何名かいるから、出すとしよう」
「ありがとう」
「だが、ただではやらぬ。対価としてはそうじゃな…今度、現実世界のほうに観光に行きたいのじゃが、そこでの案内をしてくれぬか?」

 ただではなく、条件付きなのはわかっている。
 でも、現実世界のほうに観光となると…それがNPCならば、対応できるのかどうかも疑問になるだろう。

「…いや、まず現実のほうに向かえるの?」
「うむ。過去に何かとやっていたのもあって、許可は既にもらっておる。それに、例が無いわけでもないのじゃろう?」

 既に実例として、前妖精女王だとか、その類は出ており、最近だとNPCからの特別クエスト的なものとして現実への観光案内もあるようだ。

 現実と仮想現実がこうやって交差してくると、その境目がかなりおぼろげになると思うが…そもそもの話、ここは既に仮想現実の枠組みから抜け出しているのではないか。


「まぁ、難しい話はまた別の機会に考えるとして…そのぐらいなら良いよ」
「ならば、成立じゃな。当日を楽しみにしているのじゃ」

 話し合いも無事に終わり、ひとまずは人員調整などの真面目な話へと切り替えるのであった…


「…ところでじゃが、例のやつらは現実にもいるのか?」
「例の…ああ、もしかしてあの欲望戦隊?最近こっちじゃ見ないけど、現実にもしっかりいるはずだよ」
「むぅ、そやつらへの対策もしておかねばのぅ」
「あ、そのあたりは安心して。心強い見張りのものが、現実にも出てきたからね」

…というか、最優先で抑え込むために出てきたような気がしなくもない。

 オンラインのアバターとは違う、現実の肉体。
 それでも、重度の変態共はその壁すらぶち破るような動きができるのは想像できているからこそ、それを抑え込める実力者が優先して現実世界へやってきてもおかしくはなかったのだから…
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