アルケディア・オンライン ～のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです～

Ver.F ～終わりと始まり、そして次へ～

ver.F-5 現実と混じるからこその利点で

―――現実世界から、生身の肉体もやってこれるようになったアルケディア・オンラインの世界。

　それはもはや仮想現実としての部分が成り立っているのかどうかという議論が来そうだが、生身があるからこその利点が一つある。

「…ふはぁ…お風呂、めちゃくちゃ広いのに浸かれるのは良いなぁ…」

　カポーンっと、音を立てて、良い湯加減の湯船につかりながらハルは…アバーターの肉体ではなく、正規のルートで生身の肉体でやってきたハルはそうつぶやく。


　ここは妖精郷…黒き女神の神域の中の、造船城内に作られた特別な湯舟。
　女神の力はすでにないとはいえ、女神そのものがこの世界から消え失せたわけではなく、ここがまだしっかりと神域となっている。

　その中で湧き出すこのお風呂は、わざわざ増設したものだが…理由がしっかりとある。



　基本的に、オンラインの世界はアバターのほうが都合が良い。
　生身と違ってレベルやスキル、称号などでしっかりと動きやすくなった肉体なため、生身よりも気軽に動きやすい。

　だがしかし、こういう娯楽面…食事や風呂等、よりしっかりと五感をもって体感をするのであれば、生身のほうが良かったりするのだ。

　オンラインのシステム上、アップデートを繰り返したことでだいぶ生身と大差ないほどになっているのだが…それでも、こういう部分では生身で退官したほうが良い。
　VRMMOのシステムでそういう気分になったとしても、しっかりと素肌で感じ取る方が都合が良いのは、面白いところである。

　

　そういう理由もあってか、生体移動として生身も肉体も行き来できるようになった今、実はその手の楽しみの場所が増えていたりするのだ。
　海水浴場、温泉施設、現実世界では得られない食材を使ったグルメなど…娯楽関係のほうの発展もめまぐるしいところがあるだろう。



「そんな理由のために、正規の方法で来たけど…やっぱりいいなぁ、広いお風呂…現実世界でもこう足を大きく伸ばせる場所って、温泉施設とかに限られるからなぁ…」

　現実では厳しい環境も、アバター越しではなく生身で感じ取れるというのも素晴らしく思える。

　まぁ、正規の方法…きちんとした手続きを踏んで列車に乗ってきているが、やろうと思えばグレイ号やその姉妹艦を利用した現実世界とオンライン世界を行き来する手法が使えないわけでもない。

『ところで主様、広いお風呂をお望みであれば、自宅を改造してできますヨ？』
「そこ、ロロ言わなくていい。現実ではできないような湯船も、ここで生身で味わえるから良いんだよ」

　現実世界の風呂場の改造ぐらい、海賊船から宇宙戦艦にまで魔改造をして見せた使用人にとってはお茶の子さいさいだろうが、ろくでもない改造がこっそりと施される可能性もだって否定できない。

　牛乳ぶろや紅茶ぶろなどの類ならまだしも、入ったら性別が変わるような湯を用意されかねない。
　下手すると女神になる以上の異形になる可能性もあるだろう。

　だからこそ、こっちの湯舟の施設に関しては、きちんとした業者を通して…妖精郷の風呂場職人経由で用意してもらったので、大丈夫のはずである。

　ついでに言えば、こんなものも…




ポンッ
「…妖精の姿でも、ゆったりと浸かれる花の湯舟…これもありだなぁ…」

　妖精郷だけに、妖精向けの風呂も造れるのはありだ…これはこれでアバターのほうでもなれるが、生身の妖精の肉体でと言うのも面白いものだろう。

　ゆったりと湯船につかりつつ、羽を伸ばすようにして休むのであった…









…一方で、ミーちゃんことミントもまた、ある状況に陥っていた。

「…うっそでしょ、吸血界隈の人が真ともに乗れるの」
「そうよ～皆こっちのほうも過ごしやすいな～って」

　あちこちの裏界隈の者たちもまた、このオンラインの世界に訪れていた。

　現実世界では過ごしにくいところもあるが…こういう場所だからこそ、日の光を堂々と浴びれるものもいるのだ。

「ああ、光が気持ちい、アバターではない生身の肉体で輝くお日様のもとで、天にのぼる気持ちがぁぁぁ‥‥」
サラサラサラサラ…
「ちょっと！？日光に耐性が無い人が灰と化していっているんだけど！！急いで日陰日陰ぇぇぇぇ！！」

…穏やかに過ごせる場所を得たとしても、適した生育環境かどうかはまた別の話であった。