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Ver.6.0 ~揺らぎと蕩けと混ざる世界~
ver.6.1-97 踏み入るのは怪しき小物で
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…案の定というべきか、その日のうちに嗅ぎつけた記者たちがいたようだ。
虫詰め送りつけ事件と言うのは、この平和な日常の中で中々遭遇しない、妙な嫌がらせの類ゆえに、ニュースのネタとしてはありなのだろう。
目ざとい記者はこうも早く事件の臭いを嗅ぎつけ…
「どうも、初めまして。週刊ドスポップの記者見入と申します~」
「あれ?前にも同じような名前の方が取材に来られたことがありますが」
「ああ、アレは親戚でして、自分はまた違うものです」
「…やっぱり記者の嗅覚って怖いなぁ。一日も経たないうちにやってくるとは」
「一応、営業妨害の類で捜査中とはいえ、それでも早いな…」
「どこかで見ていたんじゃないか、と思えるのが怖いよね」
受付にて、早速やってきた記者に対する応対を見ながら、春やその同僚たちは話す。
まださほど時間が経過していないのに、早々にやってきた記者の姿。
別に取材に来られて困るわけはないのだが、それでも嗅覚の凄まじさに驚愕させられるだろう。
「ほうほう、蟲だらけ…今時、そんな低レベルなものが」
「低レベルと言っても、かなりみっちり蟲が詰まっているのは、恐怖しかないですって」
「それもそうだよなぁ…小さいときはまだ割と平気だったのに、大人になるとアレは怖い」
「いや、数が多い時点で子供でもきついって」
取材が進み、色々と話されていくが、そこでふと春は気が付く。
記者の目線だが、受付に目を向けているわけではなく…時折周囲を見ているのだ。
ここでのスクープ以外にも、この会社内で他にネタが無いのかと探しているのだろうか。
貪欲な記者根性は、それはそれで感嘆に値するだろうが…何だろうか、この違和感。
(…何でだろうなぁ、こんなこと、そんなに気にしたこともなかったはずなのに)
自身の生活に関わるようなことか?
いや、この会社で起きた事件を取材されに来ただけで、妙なものはないはず。
それでもなぜか、何となく嫌な物しか感じないのは何故なのだろうか。
そうこうしている間にも記者の取材は済み、どうやらさっそく記事にまとめるらしい。
アルケディア・オンラインの運営会社との提携は相当な話題になったが、この程度のニュースならば、そこまでのものではないが…それでも、平和な日常へのちょっとしたスパイスとして、振りかけたのだろう。
「ようやく帰ったが…さて、どうまとまるのやら」
ゴシップ雑誌の一つの記者らしいので、面白おかしく書かれる可能性もあるが、蟲が届けられた程度でどこまで漏れるのか。
業務妨害の疑いを犯人にかけられるが、そこからさらにどうするのか…それはそれで、面白い気がしなくも…
「ん?…あれ…?」
考え込む中、ふと春はあることに気が付いた。
記者が立ち去った後、何も残されていないかと思ったが、どうやらペンをうっかり忘れていったようだ。
「おいおい、あの人これを忘れていったよ」
「後で連絡しようか。まぁ、このぐらいだったらそのまま放置しそうだが…」
同僚たちも気が付き、連絡を入れるが、すぐにつながらない様子。
そのまま一時忘れ物保管庫へ運ばれたが…なんとなく、変な気配がするだろう。
そのため、本日の営業終了後…春はそれを確認してみた。
他の同僚たちはさっさと残業せずに定時で帰っており、すでに人気はない。
そのため、特に問題もなく触れてみて…眉を顰める。
「これって…」
「…さてと、少しだけとはいえまずは、これで探れたらいいがどうだろうかな」
…その晩、取材に来ていた記者…見入漬内は、パソコンを開き、本日の内容を確認していた。
取材で得た内容…ではなく、密かにおいてきた盗聴器から得られた音声の確認のためにだ。
この取材の隙に、忘れ物のふりをして車内に置き去りにして…保管庫に保管されるとはいえ、相当広い範囲の音声を拾える、ペンに仕込んだ特殊な盗聴器からの音声データを見るために。
記者としての技術を積み重ねつつ、ちょっとばかり裏との取引にも顔を出していたおかげで、そこそこの出費だったとはいえ、割と良い性能のものを購入できていたのである。
そもそも、今回の事件自体も…漬内が仕込んだもの。
捨て駒レベルのどうでもいい輩を利用して、起こした事件であり、これを口実にして社内に盗聴器を置き去りにして情報を集めるために、やったことなのだ。
まぁ、初日であるため大した情報は得られないだろうと思っていたが…そこから拾えた音声に、あるものが入っていた。
『---盗聴器、か。あの人が付け狙われていたのかはともかく、合って良いものじゃない…よね』
「!?」
聞こえてきたのは若い男の声だが、仕掛けに気が付かれたらしい。
そのままぐしゃっと音が聞こえ、盗聴器からのデータが途絶えていた。
「…おいおい、マジかよ。まさかしょっぱなからバレるとは」
安直な作戦だったとはいえ、バレるのが早すぎる。
確かにあれば周囲から音を拾えるだけ拾えるが、雑音も少々多く、それなりの安物としての性能もあったとはいえ、簡単にはバレないはずのもの。
それなのに、あっという間に破壊されるとは思わなかったが…同時に、ふとワクワクし始めた自分がいることにも気が付いた。
「この程度のものだったとはいえ、あっさりとバレるか…見抜くだけの奴がいる時点で、それ相応の秘密がすでに社内にある可能性も出てきたぞ…」
踏み込めば、かなり不味いものなのかもしれない。
しかし、盗聴器を容易く見つけられたぶん、それだけの技量を持つ輩がいるということは、それなりの情報が隠されている可能性も十分あり得るもの。
その道が地獄に続いているとは知らないが…それでも、興味を引かれた以上、ここからさらに踏み込もうと動き出すのであった…
虫詰め送りつけ事件と言うのは、この平和な日常の中で中々遭遇しない、妙な嫌がらせの類ゆえに、ニュースのネタとしてはありなのだろう。
目ざとい記者はこうも早く事件の臭いを嗅ぎつけ…
「どうも、初めまして。週刊ドスポップの記者見入と申します~」
「あれ?前にも同じような名前の方が取材に来られたことがありますが」
「ああ、アレは親戚でして、自分はまた違うものです」
「…やっぱり記者の嗅覚って怖いなぁ。一日も経たないうちにやってくるとは」
「一応、営業妨害の類で捜査中とはいえ、それでも早いな…」
「どこかで見ていたんじゃないか、と思えるのが怖いよね」
受付にて、早速やってきた記者に対する応対を見ながら、春やその同僚たちは話す。
まださほど時間が経過していないのに、早々にやってきた記者の姿。
別に取材に来られて困るわけはないのだが、それでも嗅覚の凄まじさに驚愕させられるだろう。
「ほうほう、蟲だらけ…今時、そんな低レベルなものが」
「低レベルと言っても、かなりみっちり蟲が詰まっているのは、恐怖しかないですって」
「それもそうだよなぁ…小さいときはまだ割と平気だったのに、大人になるとアレは怖い」
「いや、数が多い時点で子供でもきついって」
取材が進み、色々と話されていくが、そこでふと春は気が付く。
記者の目線だが、受付に目を向けているわけではなく…時折周囲を見ているのだ。
ここでのスクープ以外にも、この会社内で他にネタが無いのかと探しているのだろうか。
貪欲な記者根性は、それはそれで感嘆に値するだろうが…何だろうか、この違和感。
(…何でだろうなぁ、こんなこと、そんなに気にしたこともなかったはずなのに)
自身の生活に関わるようなことか?
いや、この会社で起きた事件を取材されに来ただけで、妙なものはないはず。
それでもなぜか、何となく嫌な物しか感じないのは何故なのだろうか。
そうこうしている間にも記者の取材は済み、どうやらさっそく記事にまとめるらしい。
アルケディア・オンラインの運営会社との提携は相当な話題になったが、この程度のニュースならば、そこまでのものではないが…それでも、平和な日常へのちょっとしたスパイスとして、振りかけたのだろう。
「ようやく帰ったが…さて、どうまとまるのやら」
ゴシップ雑誌の一つの記者らしいので、面白おかしく書かれる可能性もあるが、蟲が届けられた程度でどこまで漏れるのか。
業務妨害の疑いを犯人にかけられるが、そこからさらにどうするのか…それはそれで、面白い気がしなくも…
「ん?…あれ…?」
考え込む中、ふと春はあることに気が付いた。
記者が立ち去った後、何も残されていないかと思ったが、どうやらペンをうっかり忘れていったようだ。
「おいおい、あの人これを忘れていったよ」
「後で連絡しようか。まぁ、このぐらいだったらそのまま放置しそうだが…」
同僚たちも気が付き、連絡を入れるが、すぐにつながらない様子。
そのまま一時忘れ物保管庫へ運ばれたが…なんとなく、変な気配がするだろう。
そのため、本日の営業終了後…春はそれを確認してみた。
他の同僚たちはさっさと残業せずに定時で帰っており、すでに人気はない。
そのため、特に問題もなく触れてみて…眉を顰める。
「これって…」
「…さてと、少しだけとはいえまずは、これで探れたらいいがどうだろうかな」
…その晩、取材に来ていた記者…見入漬内は、パソコンを開き、本日の内容を確認していた。
取材で得た内容…ではなく、密かにおいてきた盗聴器から得られた音声の確認のためにだ。
この取材の隙に、忘れ物のふりをして車内に置き去りにして…保管庫に保管されるとはいえ、相当広い範囲の音声を拾える、ペンに仕込んだ特殊な盗聴器からの音声データを見るために。
記者としての技術を積み重ねつつ、ちょっとばかり裏との取引にも顔を出していたおかげで、そこそこの出費だったとはいえ、割と良い性能のものを購入できていたのである。
そもそも、今回の事件自体も…漬内が仕込んだもの。
捨て駒レベルのどうでもいい輩を利用して、起こした事件であり、これを口実にして社内に盗聴器を置き去りにして情報を集めるために、やったことなのだ。
まぁ、初日であるため大した情報は得られないだろうと思っていたが…そこから拾えた音声に、あるものが入っていた。
『---盗聴器、か。あの人が付け狙われていたのかはともかく、合って良いものじゃない…よね』
「!?」
聞こえてきたのは若い男の声だが、仕掛けに気が付かれたらしい。
そのままぐしゃっと音が聞こえ、盗聴器からのデータが途絶えていた。
「…おいおい、マジかよ。まさかしょっぱなからバレるとは」
安直な作戦だったとはいえ、バレるのが早すぎる。
確かにあれば周囲から音を拾えるだけ拾えるが、雑音も少々多く、それなりの安物としての性能もあったとはいえ、簡単にはバレないはずのもの。
それなのに、あっという間に破壊されるとは思わなかったが…同時に、ふとワクワクし始めた自分がいることにも気が付いた。
「この程度のものだったとはいえ、あっさりとバレるか…見抜くだけの奴がいる時点で、それ相応の秘密がすでに社内にある可能性も出てきたぞ…」
踏み込めば、かなり不味いものなのかもしれない。
しかし、盗聴器を容易く見つけられたぶん、それだけの技量を持つ輩がいるということは、それなりの情報が隠されている可能性も十分あり得るもの。
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