上 下
603 / 718
Ver.6.0 ~揺らぎと蕩けと混ざる世界~

ver.6.0-17 どこかの騒動はここにでも

しおりを挟む
…月の一部が壊れて修復中なことは、隠されている模様。
 しっかりと代わりのものが置かれ、数日経過してもバレる気配はない。

 まぁ、修復自体もそう長くかかるものではないそうで、すぐに月は綺麗に直るらしい。
 同じような崩壊が起きないように、内部に色々と強化改造を施すらしいが、そんなにまじまじと中身のほうを見る機会なんてものは無いだろうし、気にしなくていいだろう。


 今はそんなことよりも、現実の方の…しっかりと、会社での業務に集中すべきだ。


「しかし、もうすぐで納期に余裕をもって出せると思っていたのに…」
「まさかの、根幹部分の方の仕様変更のお知らせが来た上に」
「そこの修正をすると、次から次へと問題が出てくるとは」
「「「やるまえにもっと早く、言ってほしかったぁぁぁあ!!」」」

 思わず泣き叫ぶ同僚たちだが、その気持ちは他の社員たちも同じだろう。
 うん、こちらとしても嘆きたくなるというか、これが悲しい現実である。

 できればこういう作業もロロに任せたくなるが、現実の会社員としての作業。
 流石にそんなことはせずに、自力で向き合わなければいけないのだが、それでも理不尽さは極まれない。

 いくらホワイトな働きの会社だとしても、周囲に影響を受けるのは避けられず、こういうことも本当にたまにあるのが厳しいところ。
 解決したくとも、大事な部分とかが直しにくいというのは、難しい問題だろう。


「とりあえず、この辺りはどうにか終わったようだが…そっちはどうだー」
「なんとか、出来たぞ。テストを繰りかえしたが、問題ない」
「よし、次はこっちだ」
「うわぁ、こっちもこっちでずぶずぶだ…」

 嘆いていても仕方が無いので真面目に取り組んでいくのだが、人手が少々足りない気がする。

 流石にちょっときついし…さっき使用人を使わないといったけど、自分の力だけならいいよね。




 仕事をしている中で、こっそりとトイレの個室へと移動する。
 前の妖精の時の経験で、周囲への警戒を怠らずに確認をしてから携帯を取り出す。

「会社のネットに私用携帯はNGだけど、会社用の携帯なら…黒き女神、特殊形態のエレクトロニック・デストラクションへと…」

 ばちっとした音と共に、他の形態とは異なる電子世界用の黒き女神の力を行使する。
 とはいえ物理的に離れると不味いので、中身だけ…女神の力を指先から流し込むようにして動かす。
 例えるならば、

 会社の携帯から、ネット内へ。
 ハッキングに似ているが…悪いことに使うのではない。

 女神の力のうち、この特殊形態はネットならではの強さを誇る力がある。
 プログラミング言語だろうと何だろうと、ネットに関係するものならばどれでも対応可能。

 ゆえに、現在会社内でのプログラム関係も閲覧し、改善を施すことが可能であり…流石に全員分をやるとそれこそ大騒ぎになってしまうので、申し訳ないが自分の部分だけ少し手を加える。

 少し作業量を減らすことが出来れば、他の人の手伝いもしやすいし…このぐらいならそこまで負担もかかるまい。
 

 ささっと動かし、手早く終える。
 女神の力で物理的に葬ることが多かったが、こればかりは他の女神の力でもやれないこと。
 限定的な場面しか役に立たないが、こういうのが一番力の使い方としては平和的なものだと…

(…ん?なんだ、これ)

 もう終えて、後はさっさとトイレから出て仕事場へ戻ろうとした時だった。
 ふと、何か視線のようなものを感じたのである。

 現実ではなく、電子の世界の中で…誰も、いないはずなのに。

 何かと思って、周囲への感知を強めてみたが、すぐにその気配は失せた。


「何だったんだ、今の…?」

 一瞬の出来事とはいえ、確かにいたはず。
 それなのに、瞬時にいなくなるとはどういうことなのか。

 気になりはするが、ここで確かめるすべはない。
 後で、ロロに頼んで…違う。

「ここだ!!」

 瞬時に特殊形態から、第一形態カオススタイルへ身を転じ、現実世界のほうで後方に体を捻って手を突っ込む。

ずぶん!

 女神の勘が冴えていたようで、何もないはずの場所に突っ込む感触があった。
 
 流石に無策の状態で突っ込んだら不味いのは理解しているので、女神の力を覆ってガードしており、何か感触があっても侵食されるようなことはない。
 それに、この感覚は前のピンクダイヤに近いが…アレとは別の、悪意のようなものがある。

 青白い汁のようなものが見えるが、ピンクじゃなくて青い何かがいるのだろうか。

「アレと同じように何か取り込もうとしたようだけど、残念だったね。対策済みだよ」

 同じようなもので、同様の技が使える可能性はある。
 そう考えて警戒しつつ、第一形態の時に身に纏う黒い靄を動かし、見えない相手を内側から貫いて拘束する。

 ここ最近は第三形態を扱っていたが、第一形態の靄も色々と変えられるので使い勝手も良く、今回のように相手を拘束する手段にも利用できるのだ。
 外からではなく、内側から無理やりだが…それでも固めて動けなくさせる。

 相手の抵抗を一切できないようにしたうえで、もう片方の空いた手で携帯を操作し、ロロに回収のお願いをするために電話をかけるのであった…



「もしもし、ロロ。すぐに来れるかな?」
【大丈夫ですが、何があり…ふむ、大体察しまシタ。すぐに、向かいマス】

…説明せずとも、彼女は状況を理解したようだ。
 ここで滅しても良かったけど、あの宝石獣に関してどういうものか、より詳しく分析するための材料として使えそうだからなぁ…しっかりと、利用させてもらおう。

 あと、出来れば早く来てほしい。トイレで長時間拘束されたら、ちょっと社会的な部分で不味い。


しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...