アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.6.0 ~揺らぎと蕩けと混ざる世界~

ver.6.0-13 黒+

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 ジュエライツベアーの元となった、宝石獣が粘菌のようなもの。
 何か大事なものが無いから不完全な状態とは言え、それでもレイドボスとしての力があるのならば、脅威な存在として変わらないだろう。

 攻撃が通用しにくかった宝石獣のままの形態よりも、この世界の理と混ざりあった今ならばまだ攻めやすいのもあってか、他のプレイヤーたちの攻撃が通るのだが…

【ジョジョボ、グマァァァァア!!】
ドバァァゥゥゥゥ!!

「単眼モンスターお約束の一つと言って良い、目からビームがやっべぇぇぇ!!」
「物理的な攻撃も重いし、結構きついだろコレ!?」

 一発だけの発射ではなく、ガトリング砲やパルスレーザーのごとく連射してきたり、少々ためてからの極太なレーザーなど、使い分けている様子。
 しかも、元になったのが熊のモンスターゆえか、物理的な腕や足、巨体を生かした攻撃も中々強く、吹っ飛ばされてそのままHPが尽きてしまう人も出ている様子。

「一つにまとまったことで、一気に倒せるチャンスともいえるけど…」
【ガウガウガウウウウウウ!!結構、大変!!】

 テイムモンスターたちも総出撃しているが、リンが漏らした言葉のように、苦戦しているのは間違いないだろう。
 耐性や硬さは元の宝石獣よりはランクが下がったようで攻撃が通用しやすくなっても、タフさがその分倍増しているのかHPの減少量がやや渋い。

 デバフをかけまくったりしているが、それでも決め手に欠ける。
 レイドボスだからこそ、レイドバトルとしてこの場に集うプレイヤーたちが協力して攻撃しているので、普段よりも手数が多いはずだが、大きな一手が踏み出せない。

 うかつにやれば、あのレーザー砲にやられかねないし…

「耐性が下がったとはいえ、光を扱う敵だからか光学兵器の類も効果が見込めないか…グレイ号はそのまま、実弾、ニガ団子で攻撃だな」

 遠距離からの魔導戦艦による砲撃の援護があるとはいえ、本領を発揮できない様子。
 他の人たちも攻撃を仕掛けるが、このしぶとさには辟易するだろう。


 でも、ここであきらめるわけにも引くわけにもいかない。
 この地はモフモフの楽園であり、ここで僕らが敗北すれば失われ、他の場所に移転して営業再開が出来たとしても、この化け物がいるのであれば安心はできない。

「…仕方が無いか、ここは切り札…黒き女神の力を使うべきか?」

 大勢が入り混じっているので、正体ばれするリスクはあるだろう。
 なので出来る限り使わないようにしたかったが…この様子だと、そんなことも言ってられないかもしれない。

「コユキ、猛吹雪!!マリー、毒の煙!!ルト、大放電!!シア、ミサイルストーム!!同時攻撃と目くらましようの煙幕代わりに頼むよ!!」
【ユキユッキ了解!!】
【シャゲェェ!!全力噴射!!】
【ギャベェェェビリビリアタァァク!!】
【セット完了!!全弾放出!!】

 ド派手かつ広範囲の攻撃になるが、派手な分他の人からは姿が見えにくくなる。
 それを逆手にとって身を隠すための囮となってもらい、バレないように少し離れたところで身を女神へと転じさせる。

「黒き女神第一形態カオススタイル…いや、第二形態カオススタイルを飛ばして第三形態アビススタイル!!」
「いきなり第三形態の力を使うの!?」
「なんとなく、ここに残したら今後の憂いになりそうだから、根絶するためにね!!」

 厄介事の香りが漂う相手だからこそ、全力をもって叩き潰す。
 これまでの経験上、下手に余力を残していたら、さらなる厄介ごとになったということがあるからこそ、これで殲滅を目指すのだ。



 マリーたちのド派手な攻撃によって生み出された爆炎から飛び出し、黒衣のドレスを身に纏った黒き女神がジュエライツベアーへ襲いかかる。


 目くらましの猛攻だったはずだが、女神の気配を悟ったのかジュエライツベアーは素早い反応速度で迎撃を試みる。

【ジュボジョボグマァァァァ!!】

 大きく目を見開き、本日最大の極太の光線が発射された。
 溜める時間がかなり短いようだが、それでも威力は相当のものだろう。
 まともなプレイヤーならば、この攻撃によって一撃で消し炭になってしまうだろうが…女神ならば、関係ない。


ドォォォォォン!!


 真正面からぶつかりつつ、黒き女神の体がさらに黒い光を放ちはじめ、光線を押し返すように突き進む。
 自身の攻撃を喰らい続けているはずなのに、まったく聞いていないようなそぶりにジュエライツベアーは驚愕するが、攻撃の手を緩めることはできない。

 このまま何もしなかったら、瞬時に距離を詰められて葬り去られるだろう。
 だからこそ、光線を放ち続けるのだが、それでもせいぜい寿命がほんの少しだけ延長されるだけ。

【ジョ、ジョボグマァァァァァァ!?】

 迫りくる明確な恐怖の存在。
 怯えの表情を浮かべるも、慈悲は与えられない。


 単眼の光線を突き進み、ジュエライツベアー迫った黒き女神。
 そのまま右手を振りかぶり、重い一撃をその眼球へ叩きこむ。


ドッゴォォォォォォォォォン!!
【ジョボォォォォォォォォォォ!!】
「…叩き割れないか」

 宝石のようになっていた単眼だったが、殴った感触では硬い石のような感覚は無い。
 いうのであればぐにょりとしたスライムを叩いた感覚があり、潰れたアンパンのようになって叩き割れなかった。

 粘菌のようなものと説明を受けていたが…宝石獣状態のときは固いものだった。
 しかし、ジュエライツベアーになったことで構造に変化でも出たのか、柔らかく、衝撃を吸収されたような感触さえある。


 けれども、流石に眼球への一撃故か痛みは相当なものだったようで、巨体を大きくのけぞり悶え苦しむジュエライツベアー。
 じたばたと暴れるたびにその重量で大地が揺れるが、弱った隙を逃すプレイヤーたちではない。

「うぉぉぉぉ!!いきなり黒き女神様が現れたぁぁぁ!!」
「それも大事だが、今の一撃で宝石の化け物に相当なダメージを与えたぞ!!」
「女神様の一撃を無駄にするなぁぁ!!全力でやっちまえぇぇぇぇ!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 女神の出現に驚かされるものが多かったが、化け物がひるんでいる今こそ、攻めに転じる時だろう。
 モフに癒されに来たはずのプレイヤーたちばかりだったとはいえ、その分鍛え抜かれた者も多く、隙さえできしまえば実力を発揮できるものは多い。

 たった一撃の拳、ただそれだけで生まれた隙により、プレイヤーたちが一斉にジュエライツベアーへ次々と押し寄せ、群がり、攻撃を行う。
 さながら大きな獲物を襲う軍隊蟻のごとく、狙われた哀れな獲物のように断末魔を上げていくジュエライツベアー。

 このまま倒しきれるかと思った…その時だった。

【ジョボグママ、ジョボォォォォォォ!!】
ポーーーーン!!

「うお!?目玉が分離した!?」
「どこかのグロイことで有名な白玉団子のボスキャラかよ!?」

 顔面から潰れたアンパンのようになっていた目玉が飛び出し、分離する。
 てかてかと輝き、そのまま宙へ登っていく。

 勢いで発射されたというよりも、自らの意志で抜け出したようだ。
 見れば、ジュエライツベアーからは宝石のような輝きが失われており、寄生していた宝石獣が全てあの潰れたボールのような状態の目玉だったものに集まって逃げ出す道を選択したようだ。


「とはいえ、逃すわけもないけどね」

 放置しておけば、また第二、第三の宝石獣による寄生生物が爆誕し、被害が生じるのは目に見えている。
 だからこそ、ここで潰す。


 黒き女神が構え、莫大なエネルギーを放出して撃ち落とそうとした…その時だった。


キラリ!!

「ん?」


 ふと、上昇中の潰れ目玉の進行方向に何か、輝くものが見えた。
 こう、目玉とは違う色合いのような…ほのかに明るい、色合いというか…

「…あれは…ピンクダイヤ?」

 女神となったことで視力も向上しているのか、目視がしやすい。
 現実世界でまだあるはずのダイヤのようだが、一体なぜこの場所に来ているのか。

 いや、現実世界に突然出てきたことを考えると、その逆があってもおかしくはない。

 そして今、ここに来たことで何だったのか、すぐに理解する。

「まさか、あれが宝石獣たちの大事な部分…心臓部とかコアとか、そういう類だったのか」


 大事なものが抜け落ちていた、宝石獣たち。
 その分析結果を聞いて気になっていたが、ピンクダイヤを見て直感的に理解する。

 ならば、このまま合体して完全体宝石獣とでもいうものになるかと思ったが…そうはならなかった。


 確かに、アレは宝石獣たちの何か大事なものだったのだろう。
 ぐにょりと、潰れた目玉になっていた宝石獣たちが蠢き、取り込もうとするような動きでピンクダイヤに迫る。

 しかし、その思惑は外れ、急にピンクダイヤのほうが軌道を変えてまっすぐに突き進み始め…


―――油断していた。
 宝石獣たちが何かを取り込んで寄生することが出来るならば、その大事な部分も同じことが出来る可能性が高い。

 しかも、その能力は有象無象の集合体となった宝石獣たちよりも高い可能性もあったが…まさか、女神の反応速度を超えて、接近するとは思わなかった。

 気が付いた時には目の前にダイヤがあるかと思えば、瞬時にスライムのように伸び広がり、黒き女神を…









―――バグンッ!!
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