アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.6.0 ~揺らぎと蕩けと混ざる世界~

ver.6.0-9 輝く獣

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…人は、欲望に流されるもの。
 耐えて逃れることが出来るものたちもいるとはいえ、自らの欲望に対して素直に行動してしまい、結果として欲望に飲まれるものたちもいるだろう。

 わかりやすいけどあの方向はダメだろうという例えでは、変態もとい欲望戦隊がその最たるものとしてあげられることが多い。

 まぁ、アレは極論だとして、人類全員がアレと同類の状態になったらそれこそ世界の終わりになるとして、多少の欲望というのは逃れにくいものであるのだ。

 そう、今まさに僕らも彼らを笑えないというか、欲望に身を沈め…




モッフゥゥゥ!!
「あのー、お客様方。そろそろ30分経過しますが、延長しますでしょうか?延長30分で1000ALかかりますが…」
「「延長、決定で」」
「まいどあり~」

 
「…即答しちゃったけど、そこそこの値段だよね」
「でも、これには負けるよね…欲望の海に溺れてしまったというか」
「「癒しのモフの海は…相当ヤバいと…」」

 僕らは今、欲望に身を流され…もふもふの海に沈み込んでいた。
 いや、正確に言えば海ではなく、これはこのカフェ名物の『カイザーケセランパセラン』の体毛であり、他にも多くの客が沈みこんでいるのが見えるだろう。


 そう、ここはモフモフに特化した動物カフェの一つ…『ケセランパセランカフェ』。
 数多くの癒し系動物カフェが立ち並ぶ惑星『幻獣飽和惑星モフストン』にて、動物カフェを営むプレイヤーたちの手によって作られたカフェの一つ。

 ケセランパセランというわりと話だけは耳にするような、毛玉のモンスターがいるカフェであり、その中の人気ナンバー1の大きな毛玉、カイザーケセランパセランにしまわれているのであった。



 モフの海に溺れてしまえ、という紹介文に偽りはなかったようで、その毛が物凄くもっふもふで、少し触れるだけでも勢いよく沈み込む。
 しかし、毛の中に空気が蓄えられているせいなのか溺れることはなく、むしろ逃れがたいモフモフにつづまれてしまうのだ。

「事前に調べてきたとはいえ…百聞は一見に如かず、事実はしっかり己の身で確認すると想像以上だ…」
「人を駄目にするクッションとか聞くけど、似たような感じで何者であろうとも駄目になっちゃうかも~」

 欲望の中でも緩めの方だが、誘惑の度合いとしては強力だろう。
 少なくとも、このモフモフに抗うのは厳しいか。


 しいていうのであれば、人気ナンバー1のモフゆえに独占しきることもできず、制限時間も存在しているため、ずっとモフモフし続けることが出来ないのが、離れるための救いとなりうるか…



 とりあえず、このモフモフに癒されているのは良いことだろう。
 モフの海というのはそれだけでも十分価値があるものだ。

 それに、これで時間が切れても他のもあるようで…マンネリ化を防ぐために、他の触り心地も用意されているようだ。

 それらを制覇してみようかなと、新たな欲望が生み出されようとしていた…その時だった。



―――ひやぁぁぁぁ!!
――どっしゃぇぇぇ!!やべぇぇぇ!!

「ん?」

 ふと、耳に入ってきたのは何かの悲鳴。
 ドタバタとしているというか、余裕が無いというか…カフェの外のほうで、何か騒動が起こっているようだ。

「なんだなんだ?」
「何かやけに騒がしいな」
「連続出勤30日がようやく断ち切れて、癒されに来ている中でうるさくしないでほしいな」
「んー、何があったんだろうか…?」

 外の騒ぎに気が付いたのか、あちこちでモフに沈んでいた人たちも浮上してくる。
 モフの中の癒しの空間にいたいが、だんだんうるさくなってきたので現実に引き戻されてしまったというべきだろうか。あとさらっと、転職を進めたほうが良いような人が混ざっていた気がする。

 ガタガタと地面が揺れ始め、地響きも聞こえてくる。
 何かヤバいものがやってきているようで、自然と臨戦態勢へと切り替わっていく。


「何か起きているようだ!!お客様の安全を優先に、全員、緊急防御態勢!!」
【【【ケセケセオアセラァァン!!】】】

 スタッフの人の合図とともに、ケセランパセランたちが客を店の奥の方に移動させ、それぞれのサイズが大きくなって防御態勢を取り始める。
 緊急事態に備えての訓練がされているのかその手際は良く、強靭なモフの壁が生まれる。

そして、その時が来て…



ドガァァァン!!

 店の壁が爆散するも、破片が客に飛んでくることはなかった。
 ケセランパセランたちの毛の中に吸い込まれるように埋もれていく。

 その背中から様子を見るのは厳しかったが…隙間から覗けたのは、大きな何かだった。

 それは一見、何かしらの動物の類に見えるだろう。
 だがしかし、一致するものが無いというより、何か様々なものが混ざったような化け物の姿をしており、宝石のように輝く表面を持っていた。

「な、何だありゃ…」

『『『ジョルゾゲェェェェェッ!!』』』

 モンスターのような咆哮を…違う、響くような、直接頭の中に向かって叫ぶような声を上げる化け物…たち。
 一体や二体ではなく複数、大小さまざまなサイズが存在しているものだ。

 そんな化け物たちが今、凶悪な唸り声をあげ、襲い掛かってくるのであった…
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