アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
480 / 718
Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.1-67 毒の沼地に毒を投げても意味がない

しおりを挟む
…海中からの襲撃に備えて、人為的に生み出された激しい自然の海流防壁、巨大渦潮の群れ。
 側面からの襲撃に備えて、頑強な岩肌に見せかけ内部には分厚い鋼の装甲板が張り巡らされており、周囲には電磁波によって生成されたシールドも纏い、鉄壁の要塞となる。

 さらに、上空からの襲撃にも備えるために張り巡らされた対空迎撃システムを前にして、そう簡単にこの要塞島ハルカンディアに進入できるものはそう相違ないだろう。

 鉄壁の布陣を、いや、鋼鉄すら超えたアダマンタイトやミスリルといったような金属のような豪勢な守りはとてつもない強固さを誇り、来るもの全てを拒める…はずだった。



 だがしかし、どれほど堅牢な作りにしていたとしても、所詮は人の手で作られたものゆえか、人の手で破ることは可能である。
 
 争いの中で攻めに回るのは楽なのだが、守りを固めるには相手の攻めを凌駕するだけの力を持つことが重要であり、それだけの力を用意するのは容易なことではない。

 たとえ、非常に珍しく女神の力を借りることが出来て、その力がそそがれていた場所だとしても…
 




チュドォォォォォォォォォォォォォン!!
ヴー!!ヴー!!ヴー!!
『一点集中攻撃による遠距離攻撃により、第273隔壁損傷!!内部への侵入が確認されました!!』
「…相手のほうが、より上の攻撃力を有していると、やはり守りだけにすると厳しいな」

 光線がほとばしったかと思えば、次の瞬間に要塞島の一角を貫かれ、穴が開いた。
 生体模式型自動修復機能を備えているので数十秒ほどで元の強度を取り戻せるだろうが、そのわずかな間に相手が侵入を試みてくるだろう。

 事前にある程度の想定を立てていたとはいえ、いざこうやって貫かれて侵入されるというのは、恐怖を感じさせられる。
 だが、恐ろしいと思っていても相手にとっては関係なく、むしろこちらの反撃を心待ちにしているかのような気配を濃厚に感じさせられる。

「島内アナウンス!!欲望戦隊に連絡!!相手は予想ルートのG案を使用していることを確認!!至急、変態式迎撃用意を!!」
『こちらレッドレッド、既に向かっている!!』
『イエローより連絡、集合までにあと数秒はかかる』
『コンマ3秒で集結地点へ、ブルー参る!!』
『グリーン、到着を連絡!!』

 相手がどのようにやってくるのか、短い時間だったとはいえ練り上げまくり、想定できた無数の予測のうち、選択されたのはG案だったようだ。
 脅威の能力を持つ相手だとしても、度し難い大変態の能力を兼ね備えたものだとしても、一応は人である存在。

 ならば、守ることはできなくとも、わずかながらでも上回った変態性を持つ者たちであれば、その変態力でカバーすればいい。

 
「事前にある程度の陣形も打ち合わせているが…果たして、やれるのだろうか」

 毒を以て毒を制すように、変態には変態の猛毒を利用しようと考え、ここまで来た。
 
 中三病をストーカーする彼女に、劇薬欲望戦隊は良い薬として作用するだろうか。
 いや、してもらわなければ意味がない。ここまでやっておいて、効果がなかったとなると、シャレにならない。
 最終手段として、要塞島の自爆システムもあるが…

「…それでもやれるのは、あくまでもこのアルケディア・オンラインの世界のみ。現実のほうは別の戦いを待つしかないか…」

 …かけるしかないだろう、友の力に。











「…そう思っているだろうけど、こっちでもなかなか苦戦かぁ…フロンおば、お姉ちゃん、そんなに相手の情報が入手しにくいの?」
「んー、久しぶりに手ごわい相手が出てきたねぇ。これは中々楽しめそうだよ」

 中三病が要塞島でスクリーンに映っている欲望戦隊を応援しながら祈っていたその頃、ハルたちは今、現実の方にてフロンの手を借りていた。

 どこの監獄に収監されようとも脱獄し、例え消されたとしてもなぜか復活を遂げている謎のストーカー。
 運営側の方でもつかみ切れていない何かがあるのか不明だが、それならばより上の人の地下rを借りればいい。

 そう考え、結論としてお婆/お姉ちゃんであるフロンに頼んで、相手の情報を得てもらうことにしていたのだが、思いのほか相当ヤバい相手だったようだ。

「良し、ハルもう少し女神のパワーをその装置に注いでおくれ。出力を上げれば、問題なく突破できるはずだよ」
「まず、女神の力を使う時点で、何かしらのヤバい相手だというのが分かるよな…」

 現実世界での女神の姿は慣れないが、扱うことはできる。
 その力を使って補助を行っていたが、どうも厄介さは相当のもののようだ。


「これまた、恐ろしいものを引いたねぇ、お前の友人は。並の人間ならばいざ知らず、ろくでもないものを引き付ける才能は他者を凌駕しているよ」
「まぁ、中三病さんですし…ろくでもないものを呼ぶのは、天性の才能だとは思う」

 そもそも、あの恐竜女帝を姉に持つ時点で並のものではないとは思う。
 集まってくるテイムモンスターも、ハルに負けず劣らずの強力なものが多いし、何かと悪運も強いといえば強い方なのだが、やることなすこと最悪な方向に向かいやすい。

 ある意味、ハルとはまた違った変な星の下に生まれたのではないかと思えるような人物だったが…その才能は常時開花していたようだ。

「うーん、データ上だと確かに人間なんだけど、中身の真っ黒さはぶっ飛んでいるねぇ。悪意ある変態よりも悪意なしなのに変態神に負けず劣らずの力を持ちつつ、それを自覚して利用しているようだけど…並の人間なら、精神がぶっ壊れているよ」

 色々と情報が集まってきているようだが、おもわずフロンが感嘆するほどのモノ。
 いったい何を中三病さんは呼び寄せてしまったのだと言いたくなるのだが、詳しく知り過ぎると後々自分の似たような目に遭いそうなので、口で禍を呼ばないように黙っておく。

「力だけなら確かに、まだ女神としての経歴が浅いお前よりもあるだろうねぇ…過去データだと匹敵するのは数例ほどで…これはこれで、平和でなまりそうな腕を磨くにはいい機会だよ」

 孫の孫のそのまた孫の…ハルの頼みを聞く祖母の祖母の、色々重ねた末の立場だが、苦労よりも未知のものを知る喜びを久しぶりに味わい、フロンは楽しんでいるようだ。


 現実とオンラインの世界での攻防が同時に行われつつ、少しづつストーカーの正体が明かされ始めようとしているのであった…




『おっぎゃぁぁぁぁ!!ガチでいけないやつだこれぇぇぇ!!』
『くっ、奴の変態力は我々を凌駕するというのか…!!』

「…あ、中継映像で欲望戦隊が物凄いピンチになっているのが見えるな…実力だけならあれはあれで凄いのに、一人で追い詰めるとはどんな相手だよ」

…実質的なダメージを全部背負ってもらっているような感じがする。猛毒欲望戦隊を盛っても飲み干すような劇薬ストーカーか…うん、正面から戦うようなこと、僕らでやらなくてよかったよ。
しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...