アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.1-43 こんな状況の中にでも

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…まさかまさかの、現実世界。
 それも、普通に辿り着くには難しいであろう月の上に、ハルたちは漂着していたようである。

【いやいや、流石におかしいよね。ゲームの中からの緊急ワープ先が、現実世界の月の上なんて…ここってゲームの中の、地球に似た星とその衛星って可能性も…あったらよかったんだけどなぁ…】
【残念ながら、否定できる要素が無いようデス。主様から頂いたデータをもとに、座標やその他情報を確認してみましたが…間違いなく、現実世界の月の上のようデス】
「現実の、月の上…いやはや、本当にどうしてこんなことになったのやら」

 グレイ号へ帰還し、獲得したデータをもとに何か一つでも否定できる要素がないかと探してみたのだが、悲しいことに黒き女神の特殊形態『エレクトロニック・デストラクション』で獲得した内容は正確だったようであり、否定できる要素が一切ない。
 むしろ、周辺の環境やグレイ号から測定できる情報の正確性を上げてしまっており、否応でもここは現実世界の月の上だということを理解させられてしまう。

【流石に月の表面に、宇宙戦艦が不時着している光景がみられると不味いので、周辺の岩石を張り付けて、大きな岩の塊に偽装させましたが…いつバレるとも限らないのデス】
【宇宙戦艦が見られた時点で、相当ヤバいだろう】

 そんなもの、見つかった日には世界中で大ニュースになりかねない。
 いや、逆に見られては不味いと、どこかの政府機関が情報統制をかけて、自分だけでも情報を得ようと動き、月にやってくる可能性も無きにしも非ず。
 表面上が平和でいようねと手をつないでいても、中身は恐ろしいほど真っ黒なのは、ありえなくもない話だ。



 一応、岩石偽装によってバレるまでの時間稼ぎはできているだろうが、厄介事がやってくる前にどうにかして元の世界に…この現実世界も元の世界といえばそうなのだが、ゲームの中に戻らなければいけないだろう。

「そもそも何で、グレイ号がここに出られたんだろうね?ゲームの中のものが、現実に出られるってそうそうない様な…」
【それが普通だよなぁ…でもなぜか、前例があるから不思議な話ともいえないのが怖いところか】
【あー…主様、可能性としては一つ、あれが原因かと思われマス】
【ん?何か、心当たりがあるのか?】
【緊急ワープ前にありました、莫大なエネルギー波デス】

 考え込んでいると、ロロが一つの可能性を提示してきた。
 普通、この現実世界にゲームの中のものが出てくるというのは、ありえない話。
 だがしかし、モンスタードールや使用人人形、フィギュアなどの引き出す道具があるように、元々ちょっとした可能性というのはちりばめられていた。

 その可能性の中で、今回のことを引き出してしまったのが…あの緊急ワープのきっかけになったエネルギー波だというのだ。


【強い力というのは、そこにあるだけで周囲に影響を与え…場合によっては、空間を捻じ曲げマス。あのエネルギー波も例外ではなく、その異常な強さゆえに周辺の空間をゆがめる反応が計測されていまシタ】
【それが、どうかしたのか?】
【緊急ワープは、設定されていない適当な、出来るだけ遠方の場所へ跳躍する航法のこと。通常のワープ航法とは違う原理が使用されているのですが、空間を利用するのは変わらず…その利用する空間が、エネルギー波によって捻じ曲げられた可能性がありマス】

 よくある例えなのかもしれないが、緊急ワープは紙を折り曲げてその端と端をくっつけて跳躍するようなものに近い。
 だが、その強い力によって捻じ曲げられた場合、あらぬ方向にくっつく場所が変わってしまい…今回はそれが、アルケディア・オンラインの宇宙空間のどこかにつながるはずが、捻じ曲げられて現実世界のこの月の上に来てしまったようだ。

【そうなると、帰還する方法はないのか?】
【いえ、ありますヨ。これは、一応極秘情報の類なのですが…事態が事態ですし、特殊航法が可能なルートがありますので、それを利用すれば帰還できるでしょウ】
「そんなのがあるの?」
【いや、あるといえばあるのか…考えたら以前、妖精女王が何をどうやってかこの世界に来たことがあったけど、その方法が分かれば、利用できるのかも】
【その通りデス。本来、一般人向けには解放されていないのですが…うーん、主様方は一般人というにはほど遠くなってきているので、恐らく問題はないでしょウ】

【「…」】

 ロロのその言葉に、春とミントは黙り込んだ。
 自分たちは、何の変哲もないただの一般人だと言いたい。

 だがしかし、女神に真祖と、明らかに一般人の範疇に収まらないものを持っていると自覚しているため、言い返すことが出来なかった。

 ただの一般人…その肩書は、一体いつから失われてしまったのだろうか。

 失ったものに悲しみを覚えつつも、まずは動くためにグレイ号の修理を進めることにして、気持ちを切り替えるのであった…



「一般人かぁ…おかしいね、私たちはいつから、それを失ったのだろうか」
【さぁ…でも、こうやって突きつけられると、物凄く悲しくなるよね…】

…ふふふと、お互いに物悲しい笑みが浮かぶが、何事もどうしようもないことはある。
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