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Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~
ver.5.0-35 心の底からの衝動は
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…深夜、誰もが寝静まったころ。
部屋の隅に置かれていた棺桶がガタガタと揺れ動き、中から人の手が這い出ようとしていたが…途中まで出たところで、動きを止めた。
「ううっ…に、肉体が戻ってもまだ、メンタルダメージが…」
灰の状態から復活し、元に戻ったミント。
肉体は再生されたとはいえ、精神的な部分の修復はまだ進んでいない。
無理もないだろう。フロンの手によって、自身の恥ずかしい映像がどばっと春の前に公開されてしまったことで、羞恥心をこれでもかというほど貫かれたのだから。
どれだけの精神ダメージを受けたのかは計り知れず、先日の騒動で死にかけていた時よりもさらに死にかけているような、そんな気さえしていた。
だがしかし、いつまでも引きこもっているわけにはいかないだろう。
何もしなければ状況が変わることもなく、自身の受けたダメージが癒されるわけではない。
何とかして乗り越えなければいけないことだということで、どうにか一歩進みたいのだが…心では思っていてもそう都合よく体が動かせない。
なんとか手だけでも外に出るのだが、這い出るにはまだ足りない。
「どうすれば…ん?この香りは…」
がたがたと棺桶の中でどうにかしようと模索する中、ふと外のある香りに気が付いた。
濃厚な香りというか、事件性はないようだが…何だろうかと思い、蓋をずらして探ってみる。
室内は暗くなっていたが、真祖である彼女にはそんなことは関係ない。
こんな状態でもはっきりと視認することが出来て、その香りの正体を見つけだす。
手紙も一緒に添えられている、机の上のなみなみと赤い液体が入った透明な注射器のようなもの。
なんとかずるりと棺桶から這い出て近づき、まずは手紙の方に目を通した。
「…なるほど、これ春の血液か」
置かれていたのは、どうやらフロンの手によって作られた道具を使って、春が自らの血を抜いてそのままにしたものらしい。
再生には相当力を消耗することを告げられていたようで、その回復薬代わりに用意してくれたらしく、心遣いにほんのりと胸が暖かくなる。
だがしかし、それと同時にやばい欲求も出てきてしまう。
「これを飲めば、確かに回復するけど…この量を飲んで、私のほうが無事で済むのかな」
春の血液を以前飲んだ時は、相当凄まじい衝動が襲ってきたことを覚えている。
消耗から回復してもすぐに自身が暴走しかねないのではないかという不安を抱えてしまうのは、どれほどのものなのか身をもって体験している。
けれども、せっかく用意してくれた春の心遣いを無駄にはしたくはなく、ほんのわずかな量だけで済ませればいいかと思うのだが、全部飲み干したいという欲求もうずく。
「ぐぅ…ほんのちょっとだけ、それだけと制しても無理そうな…でも、春が用意してくれたものを全く手を付けなかったらそれはそれで…うぐぐぐ…」
葛藤するミント。
吸血鬼のはるか上位に位置する存在である真祖が、たかが一人の血のためにここまで悩むことがあっただろうか。
断言する、絶対になかったと。
しかし今、この瞬間ばかりは自身の本能と理性の大戦争が起こり…そして、どうにか理性のほうが勝つことに賭けて、彼女は思い切って飲んだ。
ちょっとずつ飲んでも、どこかで抑えられなくなるのは明白。
ならば、強い酒を一気飲みして急性アルコール中毒のようにぶっ倒れることのように、同じようにして一気に飲み干すことで、気を失ってどうにかやり過ごすことが出来るのではないかと思ったのだ。
そして思い切って飲んで数秒後…全身に、その効能がいきわたる。
目論見通り、刺激が強すぎる血を一気に摂取したことにより、ほんのわずかだけ意識が飛ぼうとした。
…しかしながら、それでも回復による覚醒の効果が強かったのか、失うことが出来ない。
それどころか、ギンギラギンと目が輝くように、思いっきり目が覚めてしまう。
でも、そうなる可能性はしっかりと見越していたのか、全身の血が煮えたぎるようになったその瞬間…
ドバァァァァ!!
「ひっぎ、つめたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
【…なるほど、フロン様の予想通りですネ。がっつり本能で動くのが目に見えているが制御したい心遣いもあるので、適切に冷やせということで用意しておいたものが役立ったのデス】
物凄く冷たい水を浴びせられ、瞬時に冷却するミント。
その光景を作り上げたらしいロロがいつの間にか傍に立っており、呆れたような声を出していた。
「ろ、ロロ何を、ふぇくしゅ!!」
【フロン様が配慮されて、自身の本能のままに暴走しかねないミント様を止めるようにとして、用意していたのデス。どんな吸血鬼も一瞬でクールダウンできる、聖水50%と遭難者100%の雪山からとってきた霊水の冷水を混ぜた冷却材ですが…十分、身に染みたでしょうカ】
「芯まで冷えて冷静になれたのは礼を言うけど、もっと他に良い方法がなかったのかな!?」
【一介の使用人に過ぎない私では、真祖の貴女様の暴走を止めるのは難しいですからネ】
がくがくぶるぶると震える羽目になったが、それでもどうにか暴走するのは避けられたことは喜ばしいことなのだろうか。
止めてくれたのは良いのだが、もう少しどうにかいい方法がなかったのかとミントはロロに対して問いただしまくりたくなる。
【それと、フロン様よりご伝言ですが…『将来的なことを考えると、許可はできる。でも、まずは欲望を制御できるようにならないと、(放送禁止用語)レベルの映像、春に見せるわね☆』との事デス】
「さらっと死を宣告するレベルのことを告げてきた!?」
…悲しいかな、まだまだ先は長そうである。
急速冷却されて落ち着いたが、それと同時に鋭いいばらの道も見えてしまったミントであった…
部屋の隅に置かれていた棺桶がガタガタと揺れ動き、中から人の手が這い出ようとしていたが…途中まで出たところで、動きを止めた。
「ううっ…に、肉体が戻ってもまだ、メンタルダメージが…」
灰の状態から復活し、元に戻ったミント。
肉体は再生されたとはいえ、精神的な部分の修復はまだ進んでいない。
無理もないだろう。フロンの手によって、自身の恥ずかしい映像がどばっと春の前に公開されてしまったことで、羞恥心をこれでもかというほど貫かれたのだから。
どれだけの精神ダメージを受けたのかは計り知れず、先日の騒動で死にかけていた時よりもさらに死にかけているような、そんな気さえしていた。
だがしかし、いつまでも引きこもっているわけにはいかないだろう。
何もしなければ状況が変わることもなく、自身の受けたダメージが癒されるわけではない。
何とかして乗り越えなければいけないことだということで、どうにか一歩進みたいのだが…心では思っていてもそう都合よく体が動かせない。
なんとか手だけでも外に出るのだが、這い出るにはまだ足りない。
「どうすれば…ん?この香りは…」
がたがたと棺桶の中でどうにかしようと模索する中、ふと外のある香りに気が付いた。
濃厚な香りというか、事件性はないようだが…何だろうかと思い、蓋をずらして探ってみる。
室内は暗くなっていたが、真祖である彼女にはそんなことは関係ない。
こんな状態でもはっきりと視認することが出来て、その香りの正体を見つけだす。
手紙も一緒に添えられている、机の上のなみなみと赤い液体が入った透明な注射器のようなもの。
なんとかずるりと棺桶から這い出て近づき、まずは手紙の方に目を通した。
「…なるほど、これ春の血液か」
置かれていたのは、どうやらフロンの手によって作られた道具を使って、春が自らの血を抜いてそのままにしたものらしい。
再生には相当力を消耗することを告げられていたようで、その回復薬代わりに用意してくれたらしく、心遣いにほんのりと胸が暖かくなる。
だがしかし、それと同時にやばい欲求も出てきてしまう。
「これを飲めば、確かに回復するけど…この量を飲んで、私のほうが無事で済むのかな」
春の血液を以前飲んだ時は、相当凄まじい衝動が襲ってきたことを覚えている。
消耗から回復してもすぐに自身が暴走しかねないのではないかという不安を抱えてしまうのは、どれほどのものなのか身をもって体験している。
けれども、せっかく用意してくれた春の心遣いを無駄にはしたくはなく、ほんのわずかな量だけで済ませればいいかと思うのだが、全部飲み干したいという欲求もうずく。
「ぐぅ…ほんのちょっとだけ、それだけと制しても無理そうな…でも、春が用意してくれたものを全く手を付けなかったらそれはそれで…うぐぐぐ…」
葛藤するミント。
吸血鬼のはるか上位に位置する存在である真祖が、たかが一人の血のためにここまで悩むことがあっただろうか。
断言する、絶対になかったと。
しかし今、この瞬間ばかりは自身の本能と理性の大戦争が起こり…そして、どうにか理性のほうが勝つことに賭けて、彼女は思い切って飲んだ。
ちょっとずつ飲んでも、どこかで抑えられなくなるのは明白。
ならば、強い酒を一気飲みして急性アルコール中毒のようにぶっ倒れることのように、同じようにして一気に飲み干すことで、気を失ってどうにかやり過ごすことが出来るのではないかと思ったのだ。
そして思い切って飲んで数秒後…全身に、その効能がいきわたる。
目論見通り、刺激が強すぎる血を一気に摂取したことにより、ほんのわずかだけ意識が飛ぼうとした。
…しかしながら、それでも回復による覚醒の効果が強かったのか、失うことが出来ない。
それどころか、ギンギラギンと目が輝くように、思いっきり目が覚めてしまう。
でも、そうなる可能性はしっかりと見越していたのか、全身の血が煮えたぎるようになったその瞬間…
ドバァァァァ!!
「ひっぎ、つめたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
【…なるほど、フロン様の予想通りですネ。がっつり本能で動くのが目に見えているが制御したい心遣いもあるので、適切に冷やせということで用意しておいたものが役立ったのデス】
物凄く冷たい水を浴びせられ、瞬時に冷却するミント。
その光景を作り上げたらしいロロがいつの間にか傍に立っており、呆れたような声を出していた。
「ろ、ロロ何を、ふぇくしゅ!!」
【フロン様が配慮されて、自身の本能のままに暴走しかねないミント様を止めるようにとして、用意していたのデス。どんな吸血鬼も一瞬でクールダウンできる、聖水50%と遭難者100%の雪山からとってきた霊水の冷水を混ぜた冷却材ですが…十分、身に染みたでしょうカ】
「芯まで冷えて冷静になれたのは礼を言うけど、もっと他に良い方法がなかったのかな!?」
【一介の使用人に過ぎない私では、真祖の貴女様の暴走を止めるのは難しいですからネ】
がくがくぶるぶると震える羽目になったが、それでもどうにか暴走するのは避けられたことは喜ばしいことなのだろうか。
止めてくれたのは良いのだが、もう少しどうにかいい方法がなかったのかとミントはロロに対して問いただしまくりたくなる。
【それと、フロン様よりご伝言ですが…『将来的なことを考えると、許可はできる。でも、まずは欲望を制御できるようにならないと、(放送禁止用語)レベルの映像、春に見せるわね☆』との事デス】
「さらっと死を宣告するレベルのことを告げてきた!?」
…悲しいかな、まだまだ先は長そうである。
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