アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
444 / 718
Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.0-33 話を聞くなら年長者に

しおりを挟む
…春たちは家に帰ってきた。
 後始末を色々つけ、後はもうゆっくりと家で過ごすだけだ。

 いや、それだけで終わってくれればよかったのだが、それでもまだすべてではない。
 何故、春がこの現実の世界で黒き女神の姿になれたのか、という大きな謎が残っているからだ。

「それを聞くために、休んでから電話をかけようと思っていたのに…」
「まさか、家の扉を開けてくぐった瞬間に、落とし穴が用意されていて落ちたと思えば…」

「「…その先に、何でいるのフロンおばあ、」」
「ん?」
「「…お姉さん!!」」
「…大丈夫ね、ええ、お久しぶりね二人とも」

 家に帰ったはずが、なぜか用意されていた落とし穴。
 そしてその落とし穴の落ちた先に設けられていた地下空間のような場所に、フロンおばあもといフロンお姉さんがお茶を飲んで座って待っていた。

 その横には留守番を任せていたはずのロロがいるのだが、明らかに物凄く距離を取っている様子。
 僕やミーちゃんは何回かあっているが、彼女のほうは初対面なはずだが…何故だろう、何かしらの事情があるようで、避けているようにも見えなくもない。

「というかそもそも、家に帰って早々に落とし穴に落とすってどういうことなの!?」
「だって春、貴方は私に何か用事があるのでしょ。だったら、さっさと来てもらったほうが良いかなと思って…直通の通路を掘ってもらったのよ」
「つながっているようで何かがずれている感じの回答なんだけど!!」


 ぶっ飛び過ぎて、意味が分からない。
 確かに、話を聞こうと考えてはいたが、まさか先回りされるとはだれが想像できただろうか。

 いや、この人ならば容易にやっていてもおかしくはないか。
 




 とにもかくにも色々とツッコミを入れつつも、これ以上言っても無駄だと二人は悟る、
 だてに昔からフロンと交流していたわけではなく、本能的ツッコミ属性に、この人超ボケ属性をまともに相手にしては心的疲労が大きすぎると判断したのだ。
 大いなる存在究極のボケに、矮小な人々微量のツッコミでは対応できない。


「さてと、それじゃさっさと本題に入ろうか…春、お前が聞きたいのは、その女神の姿になれた理由だな」
「えっと、あ、はい」

 まだ聞きたかったことを言ってもないのに、既に知られているようだ。
 いったいどこから情報収集を行ってくるのか、これだから少しだけフロンお…姉ちゃんが怖い時がある。

「その理由だが、物凄くあっさりしたものだよ」
「というと?」
「単純明快に、先祖に女神がいて、お前がそれで先祖返りしただけさ」
「へぇ、先祖に女神が…ん?」

 フロンの言葉に対して、春は一瞬思考が停止する。
 今何か、明らかにおかしなものがあったのだ。

「えっと…女神って、それ本気で言っているの?フロンおば、お姉ちゃん。この科学技術が発展した現代に、そんな眉唾物の様なものが存在できるの?」
「それを言ったら、春、隣にいるミントはどうなんだ?彼女は、真祖だろ」
「…」
「何も言えなくなるよね」

 現実ではありえないような存在にツッコミを入れたいが、思いっきりそれがそばにいる時点で否定できないという事実。
 考えたら以前、ゲームの中にいたはずの妖精女王及び宇宙人が来たことがあったし、不思議な存在というのはこの世の中、案外近いものなのかもしれない。
 目の前のフロンお姉ちゃんもまた、その類っぽい気がするしなぁ…かなりの年齢を言っているはずなのに、その容姿は昔と変わっていない。化粧で大化けしたりする話はそれなりにあるけど、そんなものとは違って本当に歳を取ることが無いように見える。

「…女神の血が流れていることは、納得することにする。でもそれだと、妹や母さんやその他おばあちゃんたちも、流れているってこと?」

 無理やりにだが、否定できない事実だとすれば諦めて受け入れるしかないだろう。
 そう思いつつも、出てきた別の疑問も口にした。

「そうなるな。まぁ、正確に言えば流れ出したのは私の愛したあの人との子供の孫…もうちょっと先だったかしら。そこで、混ざっているから一族全員がというのは違うね」
「そうなの?」
「そうだよ。本当に神の血を私も引いていれば、また違った生き方があったけれども…そうはならなかったからね」
「フロンお姉ちゃんが神の血を引いていたら…」

…それはそれで、また別の厄介事が大量に起きる気がする。

 それはさておき、かくかくしかじかと話を聞けば、どうやら神の血を引いていたとしても、全員が女神になるわけではない。
 長い年月を経ているので、本当にわずかな特殊性ぐらいしか発現しないことが多いらしいのだ。


「わかりやすく言えば、石油を簡単に掘り当てたり、怪獣のようなものが仲間になりやすかったり、あるいは人知を超えたやつらの相手をしやすかったり…他の人とは異なるようなものがちょっとだけ出るぐらいなのさ」
「石油掘り当てる時点で、ちょっとなのだろうか」
「そういえば、親戚でマッコウクジラやダイオウイカばかりを釣り上げる人や、宝くじを買えば的中しすぎて山に逃げた人もいたような…」
「そのぐらい、先祖のほうにいた女神がぶっ飛び過ぎて、薄れてもなおも強烈になりやすいのもあるのかもね」

 元となった女神が何なのか、それぞれの特殊性を考えると恐ろしい。
 しかも一代流れるだけで相当薄まるようで、他は常人と変わらないようだ。


 しかし…そこに、例外が生まれてしまった。

「その例外と言えるのが、お前だよ、春。一族の中で、基本女系の中で…生まれた、男の子。それなのに何故か、一番女神の血が色濃く…いや、女神そのものと言って良いものが、お前の中にあったのさ」
「それならの何故、最初からそんなものが出なかったの?」
「女神だからだよ。女神の文字の通り、お前がもしも女の子なら、最初から女神の力が覚醒していたのかもしれない。けれども、男の子ゆえに女神の部分が生かされず…それで、長い間、血は眠っていたはずなのさ」

 女神の血を引き、それその者だと言えるようなものだとしても、女神の枠は女神に限られるのか、発現することはなかった。
 そのまま何もなければ、何に持っていない平凡な一般人として生涯を終えただろうが…女神の血を引いていたとしても、運命の神のいたずらには抗えないというべきだったのだろうか。


「アルケディア・オンライン…特に、作られた特殊なNPCのいたずらが、その眠っていたものを起こしちまったのさ」
「NPCの…まさか、のじゃロリに与えられたスキル『女体化』か!?」
「そうなるねぇ」


 男の体のままであれば、特に何もなかったはず。
 だがしかし、オンラインの世界とは言え実際に体感できる世界にて、与えられた女の子の体。
 それゆえに、女神の血が反応し…じわりじわりと、永い眠りについていたものがゆっくりと起床したようだ。

「そのスキルに今度はセットされた神々のいたずらも入って…黒き女神へ。そして、何度も何度も使用される間に、他の力もいろいろ取り込み、目覚めていったのさ」

 黒き女神の力、それは他の力を取り込み自身の力にすることが出来る女神の力。
 ゆえに、一人でも強大な力を持つが、取り込む力があればあるほどより力を増すことができる。
 力が何度も何度も揺り動かされ、テイムモンスターたちの数も増えて充実していき、女神の目覚めは早まった。

「それに、現実の世界の方でもフィギュアの使用によってより実感しやすくなったし…あとは、肉体的な部分の目覚めも必要だっただろう」

 そういう強大な力に限って、目覚めるにはそれ相応のきっかけが必要になる。
 そもそも、のんびりぐうたら平和ボケできるこの世の中では、女神に頼るようなことも少ない。

 覚醒することが出来るきっかけがなければ、ゲームの中で多少は形成されていたとしても、表面へ浮かび上がれない。

 だが…それでも、一度でもひっかる土壌ができてしまえば、それを足掛かりにして一気に目を覚ますことが出来る。

「…ミント、お前隠しているだろ」
「っ」
「え?」

 フロンお姉ちゃんが鋭く眼光を光らせると、ミーちゃんがびくっと体を震わせる。

「な、何も隠してもいませんよ」
「嘘をつかなくても良いよ。詳細な映像は、既に獲得しているからね」
「え”」
「そうだねぇ、今正直に言わなかった罰として本邦初公開、ちょっと姿が戻ってきたところにあるけれども、衝撃的なシーンをお見せしようか」
「あ、ちょっとまって、フロンお婆ちゃん!?まさかまさかまさか!!」
「あ」


…慌て過ぎたがゆえに、うっかり口を滑らせたミーちゃん。
 NGワードを堂々と言ってしまったことに気が付き、紅色へ変化できる彼女のすべてが即座に真っ青に、青色を通り越して白色になったが、やらかしてしまった事実は変えられない。

「…そうだね、その映像ついでに他の映像恥ずかしいものもだそうか」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


―――その後に一つ、今回の件に関わる映像を見たが、その他の映像も流された方が衝撃的だった。

 あえて言うのであれば、視聴し終えた後…ミーちゃんは日光を浴びた吸血鬼のように、灰になっていたのであった。

「み、ミーちゃん!?文字通りに灰になっているけど逝ってないよねコレ!?」
「大丈夫だよ、春。このぐらいでくたばるようじゃ、この子は真祖をやっていないからね。復活する方法もあるし、意識もしっかり残っているが…そうだね、何も言わないついでに他も暴露しようか」

…鬼か、フロンお姉ちゃん。
 いや、眷属にカイニスがいるけど、それよりもさらに鬼畜かもしれない。





しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...