アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.0-25 どこかで誰かの胃が悲鳴を上げている

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…神というものは、何なのか。
 様々な回答が存在しており、詳しくやると確実にややこしいというか面倒なことになりやすいもの。

 でも、確実な回答というものが存在しておらず、それはつまり多くの可能性を秘めた存在だとも解釈することが出来るだろう。

 平和と豊穣を授けるのであれば、戦乱と飢餓を授けるもの。
 善性と創造を与えるのであれば、悪性と破壊を与えるもの。
 祝福と栄光をもたらすのであれば、呪いと破滅をもたらすもの。

 対極のように見えるものでも表裏一体であり、混ざり合うことが無くても溶けあい、数多くの側面を見ることが出来るだろう。


 それでは今、この場にいる神々は何なのか。

 かたや、変態の中の変態を極め、変態としての頂点の座をこれでもかとむさぼり、自身そのものが変態の領域に位置する変態の神、変態神。

 かたや、人の身であるはずなのに、何故か…いいや、持って生まれた天性のものだったのか、女神の性質を持ち、己の力を他のモノから借りることによって何倍にも、何乗にも高めることが出来る、黒き混沌を背負いし女神、黒き女神。

 お互いに神としての格を持ちつつ、その存在の意義は異なるもの。
 けれども混ざりものに近いものとしては似たようなもの。

 本来はアルケディア・オンラインの世界において顕現するものだったが…何をどうしてか今、この瞬間、二柱は共に現実の世界に顕現していた。




「「…」」

 この現実の世界に顕現しながらも、その姿は見えていない。
 距離や壁の隔たり、立ち込める土煙などによって視界が遮られており、直接見えない。

 だが、お互いに異なる存在とはいえ、神の名を有する存在。
 視認できずとも神としての感覚が捉えており、見えずとも感じ取れてしまう…それが、非常に最悪だった。

「ヴェッ…」
「ど、どうしたんじゃ黒き女神よ…」

 聞いたことが無いほどの、不快な感情をあからさまに出した声。
 相当な負担があったのか、その顔色はよくない様子にアティは黒き女神へ問いかける。

「感性的に…まともに捉えて…すっごい、気持ち悪い…うぅ」

 どうやら変態神の姿が見えずとも、その鋭敏な感覚で捉えてしまったことで、おぞましいまでの変態さを理解してしまったらしい。
 メンタル面から直接ダメージを与えるような、神でさえも不快感を与えるほどのものをもつ変態神は、ある意味凄まじい神というべきなのか。

 そんなことはさておき、今回は黒き女神にとって初の現実世界での神同士での戦闘になるだろう。
 もっと荘厳な、それこそ本当に神と言えるような相手との戦闘が出来れば望ましかっただろうが、出てきた相手が変態の神というのは最悪としか言えない。
 
 強大な力がぶつかり合う前に、精神的に大きなダメージを負ったのは痛手だろう。



 とはいえそれは、そこまで影響を与えるものではない。
 ここで探りあった時点で、お互いの神としての格の違いを確認し…神格の上下をはっきりと理解する。

「先手こそ取られたが…僕/私の方が上か」

 瞬時に女神としての力を発揮し、相手を葬るだけの技を放つ。

「『アビス・ブリザード』!!」

 猛烈な黒い吹雪が解き放たれ、封印の間の内部へなだれ込む。
 ただの吹雪のスキルを使用したわけではなく、女神としての力を混ぜ込んだことによって絶対零度よりもはるかに上回るほどの極寒となる。
 先ほどの攻撃によって、内部ではバニー以上の何かしら変態としての姿になっているだろうが、少なくとも布面積が減っている可能性はある。
 そこに、これだけの猛烈な吹雪を与えればどれほどのダメージを負うのだろうか。


 いや、ダメージを与えたところで、変態の極みというべき変態の神ゆえに、与える攻撃が原動力と快楽につながって、回復してしまうだろう。
 しかし、その対策をしていないわけではない。

 直接、変態神そのものにダメージを与えられなくていい。
 この世界に顕現するには、何かしらの媒体を利用している可能性があるからこそ、その媒体自体が駄目になるようなもので良いのだ。

 そして、この世界に顕現した変態神が媒体にしたものとは…

「「「「「おっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
「のじゃ!?今の、変態戦隊の…まさか」
「…感じ取った通りか。媒体に、変態共の欲望を利用したな」

 封印の間から響き渡るのは、先ほどまで反応はあれども声すら上げていなかった変態戦隊。
 それが何故、今の吹雪によって叫びだしたのか、その理由を女神は理解している。

「変態の欲望を利用したじゃと?」
「そうだな…あの変態神、名が付くだけあって自身の欲望が途切れることない、あふれ出す源泉として変態共を糧として、顕現したのだろう。変態の神だけあって変態を媒体にして飛び出すのは間違っていない。そして、顕現して一緒に封じ込めたつもりだろうが…彼らには、つながりができていて取り込む結果になったようだ」

 変態の神がこの世界に現れた原因は、呼び込むだけの能力を持った者たち。
 その中でも、欲望戦隊は非常に都合の良い媒体となり、利用して出てきたのかもしれない。

 封印の間に入れるまで、戦闘を行っていただろうから、彼らの意志にはないことだったのだろうが…類は友を呼ぶというか、変態は変態を呼び込んだ。
 封印の間に閉じ込めたついでに、これ幸いと己がこの世界に顕現し続けるために、変態共を取り込んで一体化することで、自動的に変態力をどんどん蓄え続ける存在になっていたのだろう。


 だからこそ、あの黒き女神フィギュアでの攻撃を受けても、消えることなく変態性とその沸き上がる欲望によって、顕現し続けることが出来た。
 主な要因は前者のほうが強いが…多少は、後者も影響しているはずである。


「だが、今の攻撃は神への攻撃ではなく、その内部への攻撃…取り込まれた変態たちに向けたものだ。ああ、もちろん命を奪うような類ではない」

 凍らせて、その活動を止めよう。
 命を奪うまではいかずとも、仮死状態に近い状態にまで留めればいい。
 いくら変態力が凄まじいとしても、生きた人間なのには変わりはなく、だからこそ彼らの無敵の生命力をこれまでの経験から嫌でも信じることができて、ぎりぎりを攻められる。

 神を直接攻撃できずとも、媒体を凍らせて活動できないようにすればいい。

 その考えは当たっていたのか、だんだん悲鳴すらも凍り付いたようになっていく中で、変態神の存在が失われていく。



「でも、奴らが原因で顕現したのなら、一時的に退去させても再び出てくる可能性があるのじゃないのかのぅ?」
「それは、十分あり得る。ここで媒体を潰したとしても、第二第三の変態の手によって出てくる可能性は否定できない…だからこそ、ここで同時にこの世界との縁を断ち切る」

 そう言いながら、黒い吹雪を生み出す合間に女神の周囲に武器を顕現させる。

 それは、いつもならばセレアから借りた力が原因なのか、槍だったはずのモノ。
 でも今は異なっており…出てきたのは、カイニスが持つような、とても大きな金棒。

「槍じゃダメだ。綺麗に貫きすぎて、治りやすい。だからこそ、ここは…金棒で、力の限り粉砕して修復できないようにする」

 金棒の柄を握り締め、ぶぉんぶぉんと試すように降り、そして力を溜める。
 女神としての力を注ぎこみ、黒い雷を纏い、少し動かすだけでも周囲の空間がひび割れるかのように悲鳴を上げる。


「神槌、轟雷装填。剛力充填完了」

 バチバチと周囲の空間に放電しつつ、大きく金棒を持ち上げ振り下ろす姿勢へ移行する黒き女神。
 封印の間に入り込み、周囲が凍てついて氷の世界となっている場所で、姿を見ずに位置だけを補足して勢いよく変態神のみへ振り下ろす。

「ここは、/僕のいる世界。貴様のようなものは、ここにいていいものではない!!粉砕玉砕、神堕とし!!『黒雷こくらい大破壊の一撃』!!」


 ズッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 雷が落ちたかのような、大きな音を響かせて変態神の脳天に金棒が振り下ろされる。
 ただの物理攻撃ではなく、暴虐的に暴れ狂った黒き女神の力を乗せた、神の身のみに与えるだけのもの。
 それは、媒体を失いつつある変態神にとってはトドメの一撃に等しく、喰らったその瞬間にその姿は瞬時に消え失せる。

 ただその場所から消えたのではない。オンラインの世界に送還されただけはない。
 神としての概念そのものを打ち砕く大きな一撃を浴びせられ、崩壊したのだ。


 同時に放たれた雷が放電され、周囲一帯に鳴り響く。
 そして、雷の熱によって凍り付いていた封印の間は解凍され、仮死状態に近くなっていた欲望戦隊も同じく息を吹き返し、穏やかな呼吸をして横たわっている。


「の、のじゃぁ…今の一撃、凄かったのぅ…」

 恐る恐る部屋に入り、変態神が消えたことを確認しに来たアティはそうつぶやく。
 一時的敵対した時期があった身からすれば、この攻撃は本能的に確実にやばいものだと理解させられており、本当に喰らわなくてよかったと心の底から安堵の息を吐く。

「ところで、もう終わったのじゃが…ん?あれ?」

 そこでふと、あることに彼女は気が付いた。

「のぅ、もう終わったのじゃろう?何故、もとに戻らぬのじゃ?」

 事が済み、これでもうここでの用事は終わったはずである。
 変態共に悟られぬ前にさっさと元のフィギュアサイズに戻って本体の元へ変えればいいはずなのに、何故か黒き女神は第三形態の原寸大のまま、部屋に立っていた。


「…」
「いや、黙っているだけじゃ何もわからぬが…あ」

…答えを返されず、改めてその眼を見て、アティは悟った。

 先ほどの攻撃までは、確かにまだ黒き女神としての力が強く顕現しつつも、ハルの意識はあったとは思うのだが…今、彼女を見ている眼を見れば、そうではないことが分かる。

 そう、そこにいたのは…彼の意識ではなく、女神としての意識。
 混ざったようなものというよりも、顕現しきった黒き女神そのもの。


 神は確かに、一柱この世界から退去させられただろう。
 だが、それと同時に顕現していた神が、その中身が浮き出てきたようであった…

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