上 下
435 / 718
Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.0-25 どこかで誰かの胃が悲鳴を上げている

しおりを挟む
…神というものは、何なのか。
 様々な回答が存在しており、詳しくやると確実にややこしいというか面倒なことになりやすいもの。

 でも、確実な回答というものが存在しておらず、それはつまり多くの可能性を秘めた存在だとも解釈することが出来るだろう。

 平和と豊穣を授けるのであれば、戦乱と飢餓を授けるもの。
 善性と創造を与えるのであれば、悪性と破壊を与えるもの。
 祝福と栄光をもたらすのであれば、呪いと破滅をもたらすもの。

 対極のように見えるものでも表裏一体であり、混ざり合うことが無くても溶けあい、数多くの側面を見ることが出来るだろう。


 それでは今、この場にいる神々は何なのか。

 かたや、変態の中の変態を極め、変態としての頂点の座をこれでもかとむさぼり、自身そのものが変態の領域に位置する変態の神、変態神。

 かたや、人の身であるはずなのに、何故か…いいや、持って生まれた天性のものだったのか、女神の性質を持ち、己の力を他のモノから借りることによって何倍にも、何乗にも高めることが出来る、黒き混沌を背負いし女神、黒き女神。

 お互いに神としての格を持ちつつ、その存在の意義は異なるもの。
 けれども混ざりものに近いものとしては似たようなもの。

 本来はアルケディア・オンラインの世界において顕現するものだったが…何をどうしてか今、この瞬間、二柱は共に現実の世界に顕現していた。




「「…」」

 この現実の世界に顕現しながらも、その姿は見えていない。
 距離や壁の隔たり、立ち込める土煙などによって視界が遮られており、直接見えない。

 だが、お互いに異なる存在とはいえ、神の名を有する存在。
 視認できずとも神としての感覚が捉えており、見えずとも感じ取れてしまう…それが、非常に最悪だった。

「ヴェッ…」
「ど、どうしたんじゃ黒き女神よ…」

 聞いたことが無いほどの、不快な感情をあからさまに出した声。
 相当な負担があったのか、その顔色はよくない様子にアティは黒き女神へ問いかける。

「感性的に…まともに捉えて…すっごい、気持ち悪い…うぅ」

 どうやら変態神の姿が見えずとも、その鋭敏な感覚で捉えてしまったことで、おぞましいまでの変態さを理解してしまったらしい。
 メンタル面から直接ダメージを与えるような、神でさえも不快感を与えるほどのものをもつ変態神は、ある意味凄まじい神というべきなのか。

 そんなことはさておき、今回は黒き女神にとって初の現実世界での神同士での戦闘になるだろう。
 もっと荘厳な、それこそ本当に神と言えるような相手との戦闘が出来れば望ましかっただろうが、出てきた相手が変態の神というのは最悪としか言えない。
 
 強大な力がぶつかり合う前に、精神的に大きなダメージを負ったのは痛手だろう。



 とはいえそれは、そこまで影響を与えるものではない。
 ここで探りあった時点で、お互いの神としての格の違いを確認し…神格の上下をはっきりと理解する。

「先手こそ取られたが…僕/私の方が上か」

 瞬時に女神としての力を発揮し、相手を葬るだけの技を放つ。

「『アビス・ブリザード』!!」

 猛烈な黒い吹雪が解き放たれ、封印の間の内部へなだれ込む。
 ただの吹雪のスキルを使用したわけではなく、女神としての力を混ぜ込んだことによって絶対零度よりもはるかに上回るほどの極寒となる。
 先ほどの攻撃によって、内部ではバニー以上の何かしら変態としての姿になっているだろうが、少なくとも布面積が減っている可能性はある。
 そこに、これだけの猛烈な吹雪を与えればどれほどのダメージを負うのだろうか。


 いや、ダメージを与えたところで、変態の極みというべき変態の神ゆえに、与える攻撃が原動力と快楽につながって、回復してしまうだろう。
 しかし、その対策をしていないわけではない。

 直接、変態神そのものにダメージを与えられなくていい。
 この世界に顕現するには、何かしらの媒体を利用している可能性があるからこそ、その媒体自体が駄目になるようなもので良いのだ。

 そして、この世界に顕現した変態神が媒体にしたものとは…

「「「「「おっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
「のじゃ!?今の、変態戦隊の…まさか」
「…感じ取った通りか。媒体に、変態共の欲望を利用したな」

 封印の間から響き渡るのは、先ほどまで反応はあれども声すら上げていなかった変態戦隊。
 それが何故、今の吹雪によって叫びだしたのか、その理由を女神は理解している。

「変態の欲望を利用したじゃと?」
「そうだな…あの変態神、名が付くだけあって自身の欲望が途切れることない、あふれ出す源泉として変態共を糧として、顕現したのだろう。変態の神だけあって変態を媒体にして飛び出すのは間違っていない。そして、顕現して一緒に封じ込めたつもりだろうが…彼らには、つながりができていて取り込む結果になったようだ」

 変態の神がこの世界に現れた原因は、呼び込むだけの能力を持った者たち。
 その中でも、欲望戦隊は非常に都合の良い媒体となり、利用して出てきたのかもしれない。

 封印の間に入れるまで、戦闘を行っていただろうから、彼らの意志にはないことだったのだろうが…類は友を呼ぶというか、変態は変態を呼び込んだ。
 封印の間に閉じ込めたついでに、これ幸いと己がこの世界に顕現し続けるために、変態共を取り込んで一体化することで、自動的に変態力をどんどん蓄え続ける存在になっていたのだろう。


 だからこそ、あの黒き女神フィギュアでの攻撃を受けても、消えることなく変態性とその沸き上がる欲望によって、顕現し続けることが出来た。
 主な要因は前者のほうが強いが…多少は、後者も影響しているはずである。


「だが、今の攻撃は神への攻撃ではなく、その内部への攻撃…取り込まれた変態たちに向けたものだ。ああ、もちろん命を奪うような類ではない」

 凍らせて、その活動を止めよう。
 命を奪うまではいかずとも、仮死状態に近い状態にまで留めればいい。
 いくら変態力が凄まじいとしても、生きた人間なのには変わりはなく、だからこそ彼らの無敵の生命力をこれまでの経験から嫌でも信じることができて、ぎりぎりを攻められる。

 神を直接攻撃できずとも、媒体を凍らせて活動できないようにすればいい。

 その考えは当たっていたのか、だんだん悲鳴すらも凍り付いたようになっていく中で、変態神の存在が失われていく。



「でも、奴らが原因で顕現したのなら、一時的に退去させても再び出てくる可能性があるのじゃないのかのぅ?」
「それは、十分あり得る。ここで媒体を潰したとしても、第二第三の変態の手によって出てくる可能性は否定できない…だからこそ、ここで同時にこの世界との縁を断ち切る」

 そう言いながら、黒い吹雪を生み出す合間に女神の周囲に武器を顕現させる。

 それは、いつもならばセレアから借りた力が原因なのか、槍だったはずのモノ。
 でも今は異なっており…出てきたのは、カイニスが持つような、とても大きな金棒。

「槍じゃダメだ。綺麗に貫きすぎて、治りやすい。だからこそ、ここは…金棒で、力の限り粉砕して修復できないようにする」

 金棒の柄を握り締め、ぶぉんぶぉんと試すように降り、そして力を溜める。
 女神としての力を注ぎこみ、黒い雷を纏い、少し動かすだけでも周囲の空間がひび割れるかのように悲鳴を上げる。


「神槌、轟雷装填。剛力充填完了」

 バチバチと周囲の空間に放電しつつ、大きく金棒を持ち上げ振り下ろす姿勢へ移行する黒き女神。
 封印の間に入り込み、周囲が凍てついて氷の世界となっている場所で、姿を見ずに位置だけを補足して勢いよく変態神のみへ振り下ろす。

「ここは、/僕のいる世界。貴様のようなものは、ここにいていいものではない!!粉砕玉砕、神堕とし!!『黒雷こくらい大破壊の一撃』!!」


 ズッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 雷が落ちたかのような、大きな音を響かせて変態神の脳天に金棒が振り下ろされる。
 ただの物理攻撃ではなく、暴虐的に暴れ狂った黒き女神の力を乗せた、神の身のみに与えるだけのもの。
 それは、媒体を失いつつある変態神にとってはトドメの一撃に等しく、喰らったその瞬間にその姿は瞬時に消え失せる。

 ただその場所から消えたのではない。オンラインの世界に送還されただけはない。
 神としての概念そのものを打ち砕く大きな一撃を浴びせられ、崩壊したのだ。


 同時に放たれた雷が放電され、周囲一帯に鳴り響く。
 そして、雷の熱によって凍り付いていた封印の間は解凍され、仮死状態に近くなっていた欲望戦隊も同じく息を吹き返し、穏やかな呼吸をして横たわっている。


「の、のじゃぁ…今の一撃、凄かったのぅ…」

 恐る恐る部屋に入り、変態神が消えたことを確認しに来たアティはそうつぶやく。
 一時的敵対した時期があった身からすれば、この攻撃は本能的に確実にやばいものだと理解させられており、本当に喰らわなくてよかったと心の底から安堵の息を吐く。

「ところで、もう終わったのじゃが…ん?あれ?」

 そこでふと、あることに彼女は気が付いた。

「のぅ、もう終わったのじゃろう?何故、もとに戻らぬのじゃ?」

 事が済み、これでもうここでの用事は終わったはずである。
 変態共に悟られぬ前にさっさと元のフィギュアサイズに戻って本体の元へ変えればいいはずなのに、何故か黒き女神は第三形態の原寸大のまま、部屋に立っていた。


「…」
「いや、黙っているだけじゃ何もわからぬが…あ」

…答えを返されず、改めてその眼を見て、アティは悟った。

 先ほどの攻撃までは、確かにまだ黒き女神としての力が強く顕現しつつも、ハルの意識はあったとは思うのだが…今、彼女を見ている眼を見れば、そうではないことが分かる。

 そう、そこにいたのは…彼の意識ではなく、女神としての意識。
 混ざったようなものというよりも、顕現しきった黒き女神そのもの。


 神は確かに、一柱この世界から退去させられただろう。
 だが、それと同時に顕現していた神が、その中身が浮き出てきたようであった…

しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...