上 下
370 / 718
Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-13 ミステリートレイン in--------?

しおりを挟む
―――っ…あれ、私は…

『紅い月、意識の覚醒を確認。対真祖用強力麻酔の効果が切れた模様』
『対処、変りなし。ここからの脱出へ向け、厳重保管のままにしておけ』

(…厳重保管?いや、どういう状況…?)

 目を覚まし、外から聞こえてきた音に対して疑問を抱くミント。
 確か、さっきまではトイレでいったん用を足してから勝負の2回戦へ動こうとしていたはずだが…そのあたりからの記憶がない。

 何者かに襲われたか?
 怪しい気配は確かに少し感じていたが、そうすぐに手が出せるような場所にはなかった。
 警戒はしていたが、直接やってくるまでには時間がかかるだろうとは思っていたのだが…油断していたのかもしれない。

 いや、今はそんなことよりもどうなっているのか確認を行う必要がある。
 意識は戻ったが、体が動かず、周囲が真っ暗な状態…違うな。

(なるほど…首から下の感覚がない。麻酔を打たれてまだ覚醒していないというよりも頭だけで運ばれている状態か)

 自身の体はどこに行ったのかは不明だが、感覚から生首の状態で運ばれている可能性がある。
 常人ならば切断されている時点で死亡しただろうが、真祖ゆえに死亡には至らず…それを利用して、何か小さな箱のようなものに入れられて運ばれている気配がする。

 一人分をまとめて運ぶより、分割して運ぶ気なのだろうか。
 そんな切断する労力があるならまとめてやった方が楽だとは思うのだが…相手としては、こうやってバラバラにして運んだほうが利点があるのかもしれない。

(しかし、まいったな。これじゃ、何もできないや)

 気が付いたが、頭だけになっても油断しないようにしているのか、周囲を覆うのは吸血鬼やその他闇夜に住まう者たちが苦手としている素材…聖水やら銀やら色々と詰め込んでいるようで、容易く動くことができない状態。
 頭だけにされて暴れようとしても、暴れられない状態になっている。

『このまま輸送続行。目を潜り抜け、全体そろって脱出できるようにせよ』
『優先順位として頭を確実に運べ。その他の部位が撃墜されても、生き残っていけ』
(人の体が撃墜とか、そんな話はやめてほしいんだけど!!)

 さらっとやばいことを言われたので思わずツッコミを入れるが、残念ながらその声は届かない。
 
 このままだと、運んでいる相手の目的は不明だが、その行先にたどり着く前に全部なくなってしまう可能性もあってシャレにならない事態になるだろう。

 そもそもの話、何故自身ミントを狙うのか?
 真祖を狙って何がしたいのか…相手の目的が見えてこない。


 吸血鬼以上の強大な存在を討ち取ることによる、名声を求めてか?
 人ならざる存在ゆえに、何かの研究材料として求めているのか?
 
 他にも様々な理由が考えられるが、そんなことを考えていても状況が好転するわけではない。

(ああ、どうしてこんなことになったのか…とりあえず、目的地とやらにたどり着けばわかることなのかな…)
『ファンタジックアイランドとやらのセキュリティフル稼働を確認!!現在凄まじい数の追跡が行われているようです!!』
『各部隊消息を次々絶っています!!』
『ちぃ、想定以上に早く…いや、ここに入ってくるまでの時点でわかっていたことだが、それでもつらいところだ』
『場合によっては、頭だけを無理やり射出装置に組み込んで砲撃しなければ…』
(人の頭を砲弾代わりにするなぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 物騒すぎる方法で運ばれかねない状況。
 相手の目的が自分だとしても、そんな乱暴すぎるやり方はやめてほしい。

(誰か、頭が吹っ飛ばされる前に助けてぇぇぇぇ!!)

 自身の頭が大砲の玉のように吹っ飛ばされる未来を想像し、ミントがそう叫んだ…その瞬間だった。

『緊急伝達!!頭輸送部隊へ!!』
『どうした!!』
『先ほど、島外より飛翔したものが着地した地点から、高速で接近するものがあり!!』
『詳細は!!』
『不明ですが、セキュリティシステム外のもののようで、そのままそちらに着弾予定です!!』

『姿を確認!!超音速移動によるブレで目測しにくいものの…アレは!!不味い!!緊急事態コード【ダークネス】です!!』
『な、』

チュドォォォォォォォォォォォォォォン!!
『『『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』』』

 何かを示しているのか、そのコード名が流れてすぐに、何かが着弾したかのような轟音と悲鳴が響き渡る。

(うわぁぁぁぁぁ!?)

 ミントが入れられているらしい箱も宙を舞ったようで、ぐるぐると回転する感覚を味わされる。

ぼすっ
「っと…事情はもう分かっているけど…この中かな」
(…この声は)

 何かに受け止められて、聞こえる声。
 箱のふたが開かれて、姿が見えたのは…

「は、春…いや、黒き女神の姿!?というかそれって!!」
「ああ、そうだよミーちゃん。前にも使った『ゴッドアバタードール』!!もう事情はこれを運んできてくれたジェッターに聞いているから、何が起きているのかわかっているよ」

 小さい人形のような、それでいて前にも見た姿。

 そう、その姿は…黒き女神。しかも、使用されているこのサイズのものは、以前の騒ぎにも目にしたことがあるものだ。

「把握したけれども…実際にこうして目にすると…ミーちゃんをばらしたのか、あいつらは…」

 ミントの今の姿は生首状態だが、それをすでに把握していたのか驚くことはない様子。
 だが、彼女は見た。その人形の目の奥底で、燃え上がる怒りの炎の姿を。

「…ミーちゃん、勝負中だったけど一旦中断させてね。楽しいミステリートレインのツアーだったのに…その邪魔をして、その上ミーちゃんをこんな目に遭わせたやつらを…許せないから」
「は、春…」

 心配してくれたのは嬉しくは思う。けれども、その中から見える怒りが強すぎる。
 平静を装っているように見えて、彼の中身は今、凄くぶち切れている状態だ。
 
(これは…相手、終わったかも)

 自身をばらばらにしてきた相手に同情する気はないのだが、ここまで彼を激怒させてしまったのは、相手にとって最悪の愚策だっただろう。
 彼らは知らないのだ。彼が、本気で怒ったときのことを。

 今まで喧嘩等で怒ったことはあったが、それもまだ常識の範囲内の事。

 その常識の枠を超えるようなことになれば…ああ、本当に相手は詰んだのかもしれない。

「とりあえず、今は他の体もつなげるかわかんないけど…全部取り返してからにしようか」
「えっと、できるの?」
「うん、アルケディア・オンライン内ほどの性能はないはずだけど…不思議と今なら、第3形態レベルまで全力で引き出せそうな感覚があるから…それも、超えそうなほど…」

 これは本当に、相手の人生は終了したのかもしれない。
 触れてはいけない逆鱗に触れ、彼らは眠れる龍を起こしてしまった。
 
 バラバラにされて感覚がないはずなのだが、不思議と物凄い冷や汗が背中から流れていそうなほど、圧倒的な威圧感にミントは何も言えなくなってしまうのであった…

「さてと…それじゃ、返してもらおうか。ミーちゃんの体。そして、やらかしてくれた相手は…うん、ただ消すだけじゃダメだね…はははははははは」

…黒き女神の姿で笑うと、普通は綺麗とか美しいと言われるかもしれない。
 でも今だけは、本気で世界を滅ぼしかねない邪神のような雰囲気を纏っているような気がしなくもない…







 
しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...