上 下
368 / 718
Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-11 ミステリートレイン in 目的地

しおりを挟む
…太陽が昇り始め、日光が窓から入り込み、室内をゆっくりと照らしていく。
 この島の日の出の方角や光の強さが計算されてこの宿泊所は建築されており、少し顔にかかったとしても眩しさは感じないように細工が施されている。

 少しづつ室内が明るくなる中、設置されている無重力ベッド上で春とミントはぐっすりと寝ていた。

「んん…ふぁ…あ、ようやくミミック解けた」

 先に目を覚ましたのはミント。
 昨日は変身ドリンクを飲んでミミックの姿になっていたが、個人差もあったせいか少しだけ早く効果が切れていたようで、気が付いたら体を覆う箱のようなボディは消え失せていた。

 ぷかぷかと浮かぶ無重力ベッドの上で軽く手足を動かし、異常がないことを確認する。
 体への影響はさほどないとは思われるが、それでも箱のボディを得ていた以上、何か副作用があったら怖いからだ。

「うん…この様子なら、大丈夫かな。すっかり元に戻っているね」

 異常はなく、むしろこの無重力ベッドの寝心地の良さのせいか、体が軽いほどである。
 浮いているからではなく、なんとなく気分的にも体調的にも調子が良いほどだ。


 無重力ベッドのふよふよ浮かぶ感触は、どちらかといえば長時間使用すると筋力が落ちそうな印象もあったが、備え付けられていた説明書によると正確には宇宙空間での無重力を再現しただけのもので、まったくの別物。
 寝ている間に血行促進やこりほぐしの、睡眠に支障が出ない程度の微細な振動が与えられているようで、使用者の体調を良くする機能があるらしい。

「マッサージ器と快適な安眠道具が合体して生まれたような道具か…こういうのも良いね」

 調子がいいので、本日春と一緒に勝負を挑んだ時に、物凄く良い結果が出せそうな気がした。

 ふと見れば、春はまだ爆睡しているようで、浮きながらもぐっすりとした寝顔を見せている。

「…ふふふ、そうだ、今日の勝負はこれにしようかな?」

 昨日の雪辱を晴らすために、最凶の女装をさせる道具を春に使わせたいなと思っていたが、それではまた昨日の必死過ぎる彼の努力によって覆されるのが目に言えている。
 普通の勝負で一緒に楽しむのは良いが、鬼気迫る勝負だと勝率がかなり下がるだろう。

 ならば、どうすればいいのか。
 影響を与えず、お互いに面白くかつ、そこまで圧倒的な差にならないようなものを考えればいい。
 普通の勝負で良いのだ。無茶苦茶な勝負ほど、面倒なことになりかねないのだから。

「そういえば春は、ちょっと手先が器用だったし私も同じぐらいだよね。だったら、それを活かして…」







「…それで、本日やる勝負は3本勝負になったと?」
「そうだよ!!一回の勝負じゃ時間も短いし、このファンタジックアイランドの様々な道具を楽しむのならば、活用しまくらないと!!だからこそ、さくっと読み込んだこの島のパンフレットから、いくつか勝負するポイントを選んだの!!」

 勝負を一回で終わらせるのも良いのだが、ここは普段の生活ではお目にかかれないような面白い道具が多々あるファンタジックアイランド。
 将来的には市場に流れてくるそうだが、それまで使えないものも多くあるため、それらを思いっきり使えるような勝負をここでやりまくればいい。

「というわけで、一回戦は玩具コーナーの『スーパーロボットプラモ』の制作対決!!様々なパーツを揃えて組み立てて、特設リングで戦うことができる!!基本ベースは同じらしいから、後は作成者の腕前と創意工夫次第なものだよ!!」
「おお…それはそれで面白そうかも!!というか、戦うことができるってことは、動かせるのか」
「そうみたい。あ、でもプラモはちゃんと小さいもので、シミュレーターのような装置にセットして動かすみたい」

 流石に巨大なロボットだと組み立てが難しいし、暴れたときの周辺の被害を考慮するとやりにくかったらしい。
 一応、原寸大サイズ…10mぐらいのものも販売予定らしいが…推定市場価格が億を超えているので、お金持ちの玩具にはなりそう。

 普通に小さい方はまだお手頃価格で、自分で作ったものに乗り込んで操縦できるのもこれはこれでロマンがあるし面白いだろう。

「よし、その勝負で良いよ。ミーちゃんには絶対負けないものを作るからね」
「こっちだって、春に負けないのを作るからね!あ、色塗りとかは思考読み取り型全自動スプレーで簡単にできるから、デザインからこだわることもできるみたい」
「マスキングテープ無しで、塗り分けもできるのか…ああ、しかも難しかったら専用機械を使用して自動でやってくれるのもあるのか」

 デザインや組み合わせなどその人のセンスが問われそうな勝負だが、お互いにそこそこの腕前があることぐらいは理解しあっている。
 だからこそ、負けることがない様に様々な対策も予想して上を行くような仕掛けも組み込み、作成していくのであった…

「んーでもロマンの追及もしたくなるんだよなぁ…」
「やるならば、そこを隙と捉えて攻められるようなものにしたほうが良いのかな?春の好みを考えると、絶対にこれとか…」










…勝負に対して春たちが力を注いでいたそのころ。

 ファンタジックアイランドの地下…そこに作られた空間に、集結するものたちがいた。

『結局、生き残れたのはこれだけか…』
『もう少し多く見積もりたかったが…事前の予想よりもはるかに下回ったな』

 生き残っている駒の数は、もうだいぶ少なくなっている。
 このままでは予定している作戦に必要な人数を失う可能性も多くあり、下手をすればそのまま全滅という可能性もあるだろう。

『防衛手段が多かったが…それでも、ここまで残ったことを喜ぶしかないな』

 彼らが得たデータによれば、海底で起きた襲撃はここの技術によるものではない。
 どうやらアルケディア・オンライン上に存在するとされていた存在が、どういうわけかこの世界に一部だけ姿を現したことによるものらしい。

 たった一部、されどもその秘めたる力は科学を上回り、人知を超えた存在だったのだろう。
 なぜ、奴らの味方をしたのかは不明だったが…この様子では協力関係にあるとみていいだろう。

『だが、引き返せない。我らに進む道は死か栄光あるのみ』


 帰るまでにも障害はあるだろう。
 けれども、もはや引き換えない場所まで来てしまったので、ここからは進むしかない。
 その先がたとえ茨の道だろうとも…もう、やるしかないのだ。


『紅い月を、手にするのみ』

 どうして狙うのか、なぜ必要なのかまではわからない。
 ただ、彼らを動かすのは自身の命を守るため…投降や降伏でも伸びそうなものなのだが、その選択は与えられないようにされているため、先へ向かうのであった…
しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...