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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-141 生きている以上、悩みというのはどこにでも出るものなのさぁ

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【…亡くしたものを思い出し、ひどく苦しくなったが…まさか、この惑星全体私自身を乾燥させられ、かぴかぴに干からびる苦しみのほうが勝るとは…人生ならぬモンスター生というのはよくわからないものだな…】
「あー…本当にすみません。干上がらせっちゃって」
「こちらも、トラウマを刺激してすまなかった…大丈夫だろうか」
【もう、良い。一時、死線をさまよえばどうでもよくなるものだ…】

 ぶしゃぶしゃと放水を受け、何とか生き返った惑星ルカドンの話せる部位…色々とややこしいところがあるからルカドンとその名前でくくるが、なんとか乾燥ワカメが水を得たかのように復活してくれて、僕らは安堵していた。

 

 黒き女神の手によって、惑星全土を大乾燥させて海を干上がらせて見つける手段を取ったが、その代償にルカドンの触覚はスルメイカのごとく、干からびてしまっていた。
 何とかグレイ号の放水機能によって復活してくれたとはいえ、結構危ない状態だっただろう。

【だが、おかげで二度と会えぬはずであった、我が友の姿を幻の様な姿で再び見ることはできたのは嬉しかった。何故か、干上がった大地のはずなのに水を湛えた美しい花畑と一緒の川の向こうで、滅茶苦茶焦って叫んでいたが…ふふふ、奴の焦る姿を見たのは久しぶりだな】
「それ、臨死体験しているのでは…」
「三途の川を見ちゃったのか…」

 何とはともあれ、トラウマによって刺激されて深く沈みこんでいたルカドンだったが、この大乾燥で死線をさまよった結果、二度と会えないはずの友人、ルカドンをかつてテイムした人に幻視のような形とはいえ再び会えたことで、トラウマが多少癒えたらしい。

 結果オーライというべきか、良い方向に旨い事転んで行った…大転倒しすぎたような気がしなくもないが、いつの間にか惑星が最終的に爆発する緊急クエストが消え失せていたので、亡くなる道は消えたようだ。
 その代わり、ちょっと荒療治すぎたせいなのかクエスト達成ということにもならず、クエストの自然消滅という形になってしまったようで、達成報酬とかも失われていた。

 まぁ、女神の力が無茶苦茶すぎたからなぁ…大きすぎる力の代償というべきか、使いどころかが難しすぎたのもあるのだろう。これもまたいい経験として考えるべきか。




 とにもかくにも、三途の川を渡りかけるというやばめの体験をやってしまったが、そのおかげで過去に失った友人に再び会うことができて、トラウマは癒された。
 いつの間にか空にたくさん浮かんでいた太陽も消え失せたが、あの恐ろしいほどの大嵐は起こることもなく、不思議とどこからともなく海がまた戻ってきて、再び海王惑星は潤った。

【そもそもの話が、我を呼び出したものの宴の中を見て、トラウマを思い出したのが原因だからな…こちらのほうが、すまなかったと思う】

 海からひょっこりと出るようにして、着水したグレイ号の甲板へ身を乗り出して乗りかかるルカドン。
 既にもう瀕死状態から回復しきったついでに、憑き物が落ちたかのようにすっきりしているようにも見えるだろう。

…もしや、惑星そのものだったからか乾燥が思いもがけない刺激になったのか?
 ありとあらゆる星々の海があるルカドンだが、毒の海も当然あり、それが気が付かないうちに惑星自身も侵していたのではないだろうか。
 フグや百足は自分の毒に侵されないが…ルカドンは厳密にいえば海のほうではなく、中身の惑星であれば、毒の海があればやられていた可能性も否定できない。
 それが今回の大干ばつ状態で、毒素も一緒に蒸発していたのであれば…ありえなくもないだろう。

 こっそりとロロに探ってみてもらったのだが、ルカドン全体の海の割合で、改めて探ってみたら毒の海部分の面積が狭まっているらしいし、否定できない話だ。
 そう考えると、またしばらく経って毒に侵されて同じようなことになりかねないというのもあるが…そこはもう、今後の話なので今の僕らが同行できる話ではない。

【そうだ、思い出したがそこのもの…ああ、女神のものではないそちらの男。確か、我をテイムしようとしていたな】
「ん?」
「ああ、そういえば中三病さんはそもそもルカドンをテイムしようとしていたんだっけ」

 ふと、思い出したかのようにルカドンがそうつぶやき、中三病さんのほうに顔を向けた。

【…残念ながら、テイム条件は満たされていたが、我はもう二度とあの友以外のものと契りを交わす気はない。だから、テイム失敗と言いたいところだが…それだけの条件を揃えて、我が勝手にトラウマを思いだして迷惑をかけた責任はある】

 中三病さんにテイムされる気はないらしいが、何か思いついたことがあるようだ。
 いったん海の中に引っ込んだかと思えば、すぐに何かを口の中に入れて戻ってきた。

【もぐぼ…ぼべっ】
ズズウゥン!!
「うわっ!!」
「なにこれ、でかい卵!?」

 中三病さんの前に吐き出されたのは、かなり巨大な卵。
 しかも表面がこう、殻という感じのものではなく、どちらかといえばイカやタコっぽい感じのやつらが生むような卵であり、何やらあちこちに血管が浮き出ており、脈動して生きていることを示していた。

【これは、我が海で産み落とされる命の中で、まともに産まれては生態系が滅茶苦茶になりかねないようなものを、いざという時に使用できないかと思い、保管しているものの一つだ。たしか、宇宙の海を泳ぐ巨大クラゲ…『プラミティブ・スペースジェリーフィッシュ』だったか】
―――――
『プラミティブ・スペースジェリーフィッシュ』
アルケディア・オンラインに実装されているモンスターの中で、特大サイズのモンスターの一つとして数えられる巨大な宇宙クラゲ。
宇宙の海を漂い、気に入った海がある星の卵を産み落とし、旅を続けていく存在。
だが、ただのクラゲのようにふよふよと漂っているわけではなく、サイズによっては星を喰らうこともあるといわれるほどのモンスターである。
―――――

「とんでもないモンスターの卵なんだけど!?」
【うむ、それをやろうというわけだ。我のようなものをテイムしたいという目的があったのであれば、それに近いものであればいいと思ってな…不満か?】
「いえいえいえいえいえ!!とんでもないです!!ありがとうございます!!」

 まさかまさかの、テイム失敗からの新しい強力なモンスターの獲得である。
 イベントで手に入れるようなものではないので、生まれた瞬間にテイムされているわけではないとは思うのだが、ルカドン自身がなんやかんやの力を行使したらしく、既に卵は中三病さんのテイムモンスター枠に収まっていたようだ。

「とんでもないものを、手に入れることができたね中三病さん」
「ああ、ルカドンをテイムできないのは悔しかったが…それでも、得るものがでかすぎだろ!!」

 大きく成長していけば、星を喰らう可能性のあるモンスター。
 そんなものをテイムして、扱っていけるのかが不明だが…シアの元となったボディを作成した執念のように、どうにかしてしまうのだろう。
 しかし、巨大宇宙クラゲか…そういえば、ティラリアさんって星間国家を樹立させたとかいう噂を聞いたことがあるけど、そう考えると星を食べられるようなやつを仲間にできたのは、大幅すぎる戦力の強化ではなかろうか。

 いやっほーいわっふぉーいと喜ぶ中三病さん。
 喜びたくなる気持ちは分かるが…結構重量があるので、早めに中三病さんのハウス内のほうにしまってほしい。船が前のほうに傾いているんだけど。

【それとだな…女神のものだったか。あ、いや、この感じは…ふむ、そなたにも何かあったほうが良いか?】

 ズンドコと喜びの舞を踊る中三病さんを見ていると、ふと、ルカドンがそう僕に問いかけてきた。

「んー…いや、別に良いかな?僕のほうはルカドンの姿は見て見たいかもと思ったけど、テイムする気はないよ。そもそも、惑星を干上がらせるような真似をしちゃったしね…」
【ううむ…だが、嵐を収めるために、我を干上がらせるほどの行動を見せたのだからな…下手をすればこの星にいるもの全てを巻き込んで無に帰ろうとしていた我を、干し魚のようにさせたようだが、止めるだけの偉業を成しえたのだからな。何もないというのもなんだが…そうだな…ああ、そうだ、ならばこれがいいか】

 また何かを思いついたかのように海の中にもぐり、再び口の中に入れて運んできた。

 甲板に吐き出してもらうと、中三病さんと違って今度は卵ではない。

「何、これ?」
【かつて、我をあがめていた民たちが使っていた道具の一つ、『ルカドンの大斧』と我が名を付けられている業物だ】

 吐き出したのは、かなり大きなバトルアックスの類だが、もってみると見た目ほどの重量はなく、振り回しやすいもの。
 基本的に糸使いと錬金術で戦闘するので、扱う機会はそうそうないとは思うのだが…サブウェポンとしては、これはこれで悪くはないか?

「基本ステータス10%上昇と、水属性に対する耐性が30%上昇し、液体に関する属性攻撃なら色々と可能になる…か。へぇ、ルカドンの名が付くだけあって、様々な海の力も扱えるようになるって、すごい武器かも」

 その気になれば毒の海を纏って猛毒攻撃に変えたり、癒しの海の力を纏って切りかかった相手を回復させるなど、臨機応変に対応しやすいもののようである。
 その便利性ゆえに、一度海の力を切り替えると、次に別の海のものに変えるには20分ほどの長めのクールタイムが存在するようだが、状況によっては重宝するかもしれない。

 先日の不死鳥との戦闘時に欲しかったかもなぁ…でもまぁ、過ぎたことだし、今後扱う機会は増えるかもしれない。

「あ、これプレイヤー限定装備じゃなくてテイムモンスターにも装備できるのか」

 場合によっては他の皆に手渡して、扱ってもらうのもありだろう。ただ、バトルアックスだし技量とか体格を考えると、セレアとかシア、あるいはコユキの雪兵召喚で呼び出した兵士たちに扱ってもらうって手もあるか。

 今後の戦略も増えたし、僕らは無事にルカドンに別れを告げて、去ることができたのであった…



「…あ、しまった。ミーちゃんと改めて楽しめないかと思ったのに、自然と惑星を出て解散してしまった」
【また行けばいいのではないでしょうカ?】
「分かれてすぐに戻るのもなぁ…仕方がない、現実のほうでミステリートレインに誘おうかな」

 何のために、あの武闘大会を勝ち抜いたと思うのか。
 こういう時に使えるし、今回のルカドンでの騒動は振り返ってみると、そう悪いものではなかったと思えるのであった。

【あ、そういえば主様。これ見ましたカ?】
「え?…おいおいおいおいおいおいおい!?なにこれ、黒き女神奇跡のグラビアって何!?武闘大会会場って一応、撮影禁止エリアとか設けられていたって聞くんだけど!?」
【どうやらすれすれの範囲で潜り込み、撮影した輩がいたようですネ。主様がマントで覆い隠していた部分がありましたが、それでも激しい動きの中で見える部分を根性で撮影した様子がうかがえマス】
「きわどそうな格好になっているのもあるんだが!!こんなわずか数秒レベルでしかないようなポーズで撮られているみたいだし、誰が出したんだこれぇぇぇぇ!!すぐに運営に通報してぇぇぇぇぇぇ!!」

…前言撤回。悪いものしかなかった。

 
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