アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-137 やらかしは大津波となって

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【進路異常なし、自動航行状態良好、大嵐の中でもバランサー作動…今のところ、無事に進めているようデス】
「天変地異と言っていいほどのすさまじい大嵐の中だというのに、よく進めるなぁこの船」

 安全のため、一時的に艦橋の窓全体にシャッターが下りてガードしている状態だが、外部の状況はカメラによってモニターに映し出されている状態。
 外に出たらあっという間にその辺の人ならば吹っ飛ばされそうな災害の中、グレイ号は何のそのというように嵐の中を突き進むことができていた。

 元が海を行く大海賊の海賊船だったからこそ、大嵐の中を突き進むだけの経験があるのだろう。
 自分で操縦するよりも、船自身の判断に任せての航海は信頼がおけていた。

「まぁ、その間にできるだけ情報を集めてみたけど…惑星全体が酷い状況だな」
【惑星の軌道そのものにずれが生じ、星々の間のバランスが崩れたことにより、外が未曽有の大災害のようになっているのでショウ。惑星自体が無事にバランスを取り戻せれば、収まるとは思うのですが…それでもここまでの状態だと、再生までに時間がかかりそうですネ】

 本当に何をしでかしてしまったのだろうか、中三病さん。
 わかっているだけでも、昨日までの平穏が果てのない旅路に出てしまったかのような状況にしてしまうって、何をどうやってこうしてしまったのだろうか。

 疑問が浮かびつつ、中三病さんにメールで事情聴取を行ってみているのだが、ログインしているはずなのに返信がなかなか来ない。
 場所は移動していないからその場にとどまっているのだろうが、この災害の中で動けなくなっているのだろうか。

「本当に何をどうしてこうなったのやら…穏やかに済めばよかったのに、多くに大迷惑をこうむっているな」
【でも、ネット上では何かの前触れではと盛り上がっているようデス】

 思ったよりもたくましい思考の持ち主が多かったプレイヤーたち。
 確かに、昨日まで何もなかったはずの惑星で何かあれば、大規模なイベントの前触れかもと思ってもおかしくはないだろう。

 


 そうこうしているうちに、中三病さんのいると思われる場所が近づいてきた。
 見れば海王惑星の濃硫酸海域に浮かぶ、溶けない島にいるようだが…


「反応は?」
【ありました、北北西部分に…あそこですネ】

 探知してみたところ、あっさりと中三病さんの細かい位置が確認できた。
 見ればどうも、何かカプセル状の物体が波間に漂っており、その中に中三病さんの反応があるらしい。

 しかし、濃硫酸たっぷりな海の中を、荒れ狂う波にもまれまくっているため、回収が少々難しい状況だ。

【流石に、アレを確保するのは厳しいですネ。第3艦橋に備え付けているアームを伸ばしても、硫酸にやられて確保できない可能性がありマス】
「厄介な場所にいるからなぁ…あ、そうだ。磁力とかで引き寄せられないかな?」
【ふむ…磁力ですカ。機械惑星での電磁データを利用して、対策用にしていた磁界シールドの電磁方向性を変えて…】

 かたかたと何やら打ち込むと、船全体に薄い膜のようなものが出来上がった。
 船を守る防壁の一種のようで、機械惑星の磁力を参考にして、船の内部に一時的な電磁石を作成し、強力な磁界を生み出すようだが…その磁力の方向性をちょっと変えた次の瞬間。


ググッ、ギュン!!

 引き寄せられたようで、中三病さんが乗っていると思われるカプセルのようなものが、一気に宙を飛んできた。

「お、成功したかな?」
【磁力を向けて引き寄せ成功デス。もちろん、接近してアームの届く範囲に来れば解除し、激突を避け…ア】
「どうしたの?」
【…思ったよりも磁力が強すぎて、勢いついてマス。キャッチできなければ、艦底部に激突、爆発四散しますネ】

…やっちゃった感、あるなぁ。

 ただ、一応ギリギリのところで磁力を反転させて、今度は反発によって減速させて、無事に爆発四散を免れることはできた。
 しかし、乗っていた中三病さんいわく、急加速と急停止がすさまじすぎて、HPがぎりぎりになったらしい…なんか、ごめん。








 ひとまず、中三病さんのHPを回復させつつ、ようやく僕らはこの惑星で何が起きたのかという情報を聞くことができた。

 どうやらあの扇を渡した後、中三病さんは念入りに準備を行い、無事に舞を踊ってルカドンを…見た目は水龍の様なものを呼び寄せることができたらしい。

「そこまでは成功したんだ」
「そうだ。舞に男女限定があったら不味かったが、制限はなかったようだ。荒ぶる海王の舞は踊るのがかなり難しかったが…それでも、なんとか踊りきって、ルカドンの姿を拝むことまではうまくいった」

 そこから先、テイムするにはある一定の儀式を行って条件をクリアする必要があったらしい。

「でもなぁ…そこでうっかり、やらかしてしまったんだ」
「この惑星の大惨事を見ればやらかしたのはわかるけど、何をどうしたの?」

 中三病さんいわく、途中まではうまくいっていたようだ。
 ルカドンの出てきた水龍部分が、実はこの惑星の触覚の様なもので、本当は本体が星そのものなのことも既に情報収集済みだったようで、テイム後のことまでしっかり考えて用意をしていたようだったのだが…テイム条件の一つに、「ルカドンの機嫌を損ねない」というものがあったが、失敗してしまったらしい。

 この惑星に住んでいたNPCからすれば神のような存在ともいえるようで、崇められているのはわかっている。
 だからこそ、出現後に条件をこなしつつ、おもてなしをしまくって機嫌を損ねないように注意を払っていたのだが、そのおもてなしの中で出した酒が不味かったそうだ。

「味の良し悪しじゃなくて…かつてルカドンをテイムして滅亡した人の記録があったが、その原因につながるのがお酒だったようだ」
「酒で滅亡?何をどうしてそうなるの?」

 中三病曰く、残されていた記録からしてルカドンは大の酒好きだった過去が存在していた。
 過去にテイムされていた時も、テイムされた人とはたびたび仲よく酒を飲みかわし、楽しんでいたという記録もあったし、不興を買うことはないだろうと予想していたらしい。

 だが、記録というのは完全ではなく、滅亡に関してはあやふやな部分が抜けていたのだが…その滅亡に関わったのがお酒だったようだ。

「ルカドンをテイムしていた人と、それはそれは仲良く過ごせていたらしい。そんなある日、この海王惑星のどこかの島国にあった国王と酒を飲む機会があったようだが…」

 海王惑星、今でこそあちこちの海域に宇宙中の海があり、中にはやばいエリアもいくつか存在している。
 けれども、大昔は危険な部分が少なく、いくつかの島国も存在していたらしい。
 そしてその島国の一つで、ルカドンとテイムしていた人が招待されて、酒宴の席で笑いあっていたそうだが…それが罠だったそうだ。

 ルカドン、見た目こそ水龍に近いが、正体はこの惑星の触覚のようなもの。
 その存在一つでこの海王惑星を掌握できるようなものであり、相当な力を持っていた。
 テイムしていた人は力の悪用はせず、どちらかといえば酒飲み友達的なノリでテイムされていたようだが…それでも、この世界は清廉潔白というわけではなく、中にはどうしようもない悪党も出てくる。

 主演の席でにぎわっていたが、その島国の王は実はルカドンを狙っていた。
 その力を手中に収め、島に収まらずにこの惑星そのものの王になろうとしていたのだ。

 しかし、そのためにはルカドンをテイムしている人が邪魔であり、まだ仲間に誘うようなことができればよかったのだが、そんなことには手を出すことはないだろうと思っていた。
 そこで手っ取り早く、テイムした人がいなくなればテイムモンスターはフリーになるだろうから、そのフリーになったときに自分でテイムすればいいと考えたそうだ。

「その手段としては割と単純な方法…毒殺を選んだようだ。テイムしていた人の酒の中に遅効性の猛毒を仕込み…酒宴の席の翌朝には亡くなっていたらしい」

 それであっさりとフリーになって、その隙を狙えばと思っていたようだが、残念ながらその計画は破綻した。
 ルカドンはこの惑星の触覚…つまり、惑星自体が本体であり、本体の上のことは見通していた。
 その中で、島国の王が、テイムしていた人を毒殺する計画を見つけてしまったそうだ。

 最初からその全てを理解していれば、その悲劇が防げただろう。
 だが、ルカドンとしては惑星全体をいちいち見るのは大変で、酒宴の席では酒に酔っていたのもあり、企みに気が付かなかった。

 そして…気が付いたその後に、その島国は跡形もなくなったようである。


「…そのせいで、どうも酒が当時の悲劇を思い出させるようで…トラウマスイッチ的なものが入ったらしい。あの時酒がなければ、起きることがなかった悲劇ということでひどく悲しんでいるようだ」

 惑星そのものが本体と言えるからこそ、その心情が思いっきり星に出てしまうらしい。
 泣き叫び、嘆き、悲しむ心がこの大嵐となり、今もなおルカドンの心は癒えていないようなのだ。

「トラウマになっていて、そのきっかけを見ちゃったからこその惨状か…」

 見事にやらかしたようなものなのだが、今の語った内容はルカドンが泣き叫びながら話した内容で、記録に残されているものではなかった。
 無いものに気が付かずにやってしまったので、中三病さんを責めることはできないだろう。

 だが、この天変地異みたいな大嵐は、早くやまないと相当ヤバいことになるだろう。

「トラウマを癒せれば、元に戻せそうだけど…どうにかならないの?」
「触覚の水龍部分、海の中に引っ込んでな…また舞を踊っても、しばらくでないだろう」

 直接対話できるのが触覚部分だが、そこが出てこなければ話にもならない。
 状況的に、どこかでトラウマから立ち直れば元の惑星に戻りそうだが…この様子だと、早期回復は難しいと思われる。

「トラウマをなくせるようなアイテムでもあればいいんだけどなぁ。ロロ、何かないかな?」
【そんな便利なポケット扱いされても、ないですネ】

 某青猫ロボよりも直接ポケット単品か…いやまぁ、間違ってないようなそうでもないような。

 どうしたものかと悩んでいると…ふと、ログに動きがあった。

ティロリン♪
「「ん?」」
―――――
>特殊クエスト『涙のルカドン』が発生しました!!
>このクエストは制限時間が決められています!!
>ルカドンのトラウマを癒す方法を、探ってください!!クエストの制限時間は、現実時間の3時間以内です!!

>制限時間以内にクエスト達成できなかった場合、ルカドン自身が自らのトラウマで深く嘆き悲しみまくった結果、惑星そのものが大爆発を起こします!!
―――――

「中三病さんのトラウマ刺激によって、惑星滅亡の危機がやってきたんだけどぉおおおおおおおお!?」
「嘘ぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 まさかまさかの、海王惑星そのものの危機。
 一人のプレイヤーによるテイム失敗の代償が、惑星爆発とはどういうことなのか、ツッコミを入れてしまいたくなるのであった…
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