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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~
ver.4.2-107 怒りというのは不気味な冷静さも
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…強制的なバニー装備。
黒き女神第二形態のバトルクロスと言えるドレスが、見事にバニーの衣服に変えられてしまい、黒き女神から黒きバニーへと変貌させられていた。
幸いなことに、あくまでも見た目の装備を戦闘中の間だけ変化させるというもののようで、実質的な装備の性能としては変わっていない。
だがしかし、それでも無理やり変えられた事実は変わらず、個人的なプライドをべきっと踏みにじられるような真似をされて黙っていることはできない。
「まずその前に、全力で記憶ごと焼却処分と思ったけど…思った以上に、火の耐性があったか」
「ひぇぇぇぇぇぇ!!万が一に備えて防火処理をしていたけれども、ファデボのボディが7割消失したのじゃぁぁぁ!!」
「えげつない破壊力なんだけど!!ちょっとかすっただけでも爆発炎上かよ!!」
激怒していたが多少動いて発散したことで、少しだけ冷静な思考が戻る。
アリスの黒い炎を、ネアの妖精糸に炎上させて巻き付けたり、マリーの毒ガスに着火して爆破したりと行ったが、欲望戦隊の切り札でもあるらしい巨大な木の巨人の全身を焼き尽くしきるまでにはいかなかったようである。
まぁ、それでも大部分が真っ黒になっており、右手左足を吹っ飛ばしたが…残念ながら内部にいる欲望戦隊はまだダメージが通っていないらしい。
「そろそろ3分経つけど、マッチョン準備は良いか!!」
【ブモモモモォ!!】
どうやら残っていた左腕のほうに、マッチョンが搭乗していたらしく、欠けた木の隙間にその姿を捉える。
やけに不気味な赤い光がじわりじわりと蓄えられていたが…ああ、そうか。
そう言えば以前、欲望戦隊の大半が防御よりの職業になっていたが、マッチョンのほうは逆に攻撃を高めた種族へ変わっていったということがあったか。
あの時はマッチョンを集団で守り、力を蓄えてからすさまじいエネルギーで薙ぎ払う攻撃を見せていたが、その戦法をこの木の巨人でもやるようだ。
「エネルギー充填120%!!目標黒き女神!!」
「どのぐらい効くかわからないし、そもそも当たるのかが不安だが!」
「子供と奥さんの前で恥をかかないように、全力でやって当てて見せろ!!」
【ブモオオオオオオ!!】
ガバンッと左腕の一部が開き、既に全力で力をためている状態のマッチョンが姿を現す。
赤い光からなんとなく予想していたが、その手には巨大なバズーカ砲のようなものが構えられており、その砲口はこちらを向いている。
やる気をたぎらせ、意地でも充てる気満々なマッチョン。ファデボのボディの大半がぼろぼろになりつつも彼のいた位置は守られていたらしく、ダメージを受けている様子はない。
「この一撃に全てをかけて、3分の間にやるだけやったか…」
そろそろ活動限界だったらしい木の巨人自身が崩壊を始めつつも、マッチョンの足場だけは最後まで守る気のようだ。
こちらを確実に仕留めきるためだけに、このバニーの格好をさせて怒りの矛先を仕向けたのももしかすると作戦のうちかもしれないが…なんにせよ、アレの直撃はシャレにならないものだと勘が警鐘を鳴らす。
黒き女神のスキルで変わり、なおかつ公式による開催ということでかなりパワーアップもしているが、この第二形態の状態で警鐘を鳴り響かせるとはマッチョンの実力は恐るべきものなのかもしれない。
その分、なんでそれだけの力を持つのにあの欲望戦隊のもとに居るんだと言いたくもなるが…それはそれで、マッチョンなりの考えがあるのかもしれない。
なんにせよ、直撃は不味いものだと理解しているのだが…鬼気迫りつつ、良いところを見せたいマッチョンの気持ちとしてはどこか理解できるかもしれない。
むしろ、あの欲望戦隊のお守りをしているようなものだし、戦隊内で唯一の良心というべきような彼に対して、多少の褒美はあったほうが良いだろう。
「…そっちがその気なら、あえて避けることはしないでおこう」
回避行動をとることはできるが、本気を見せたマッチョンの狙いは相当鋭いものになっている。
避けきれるかどうか、まずその破壊の規模がどのぐらいなのか予想付かない以上、ここはあえて正面からぶつかることを選択する。
ただし、何もせずに受け止める気はない。
「---欲望戦隊、その砲撃を行おうとしているマッチョンとやら!!その攻撃に対する覚悟のほど、その様子から読み取った!!私はあえて回避はしない!!」
【ブモッ!?】
「だが、無抵抗というわけにもいかない!!そこでだ、お前のその本気の思いをくみ取って、私のほうも真っ向から攻撃をぶつけよう!!」
【…ブモモモモモッ!!】
叫び、伝え、マッチョンが理解する。
男気を見せて最大の一撃を出そうとする相手ならば、こちらも男として…いや、今は女神だからこそ、神の立場としてその一撃を見せてもらうが、正面からぶつからせてももらう。
「バニーの姿なので少々格好がつかないが…女神の一撃とそちらの最大の砲撃!!ぶつけ合うとしよう!!」
【ブモオオオオオオオオオオオオ!!】
瞬時にこちらもエネルギーを充填し、対抗できるだけのものを発動させる。
相手が強力なエネルギーの攻撃で来るのであれば、神槍…違うな、アレはアレで物理的なもので、ちょっと相性が悪いだろう。
ならば、目には目を、歯には歯を。エネルギー攻撃が予想できるのであれば、こちらもエネルギー攻撃をぶつける。
マッチョン側がこちらに狙いを定めているその射線上に乗るようにして手を構えてぶつかり合うように、短い間に素早く調整して…お互いに、同時に解き放つ!!
【ブモモモモモ、ブモモオォォォォォォ!!(『孤高なる豚皇帝の咆哮』、発射ぁぁぁ!!)】
「『黒き女神の威光』、照射!!」
マッチョン側からからから、赤黒さを持った極太の光線が。
黒き女神側からは、闇夜よりも漆黒の光線が。
どちらも直線状に撃ちだされて、真正面からぶつかりあ…
ドチュイン!!
【ブ】
「あ」
…ぶつかり合うはずが、懸念していなかったことが起きた。
お互いにかなり強い力をぶつけあったわけだが…いかんせん、強力すぎるが故の弊害が生じてしまった。
強い力というのは、ちょっとやそっとで動くものではないが、その周囲は動かされる。
それは空間でさえも例外ではなく、多少の学説とかで話になることがあるだろう。
そして何よりも、ここはアルケディア・オンラインの世界…ゲームの中とはいえ、その物理法則などは現実に近いものが設定されており、その力によるゆがみも例外なく設定されていた。
つまり、何が起きたのかといえば…お互いの攻撃が持つ力が強すぎて、周辺の空間まで歪んでしまったらしく、一直線にぶつかり合う予定がその軌道が狙いは定まれども間に立たされる空間までは耐えられずに少々歪んでしまい、ぶつかり合うかと思えばお互いに少しだけ軌道がずれ、かすめただけにとどまってしまったのだ。
一応、そのぶつかり合う間の空間だけが過剰な力の衝突に耐え切れなかっただけであり、すぐにお互いの狙いの方向へ軌道が修正されるのだが…その矛先が、撃ちだしたもの同士。
そう、黒き女神とマッチョンに…直撃する結果を、生み出した。
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「「「「うおおおおおおおおおおおい!?二人に直撃しちゃったあああああああああああああああ!!いや、黒き女神に当たるのはまだいいけど、これはこれでダメな奴だろぉおおおおお!!」」」」
ある意味正しい攻撃の結果だが、お互いのぶつかり合いを予想していた周辺のプレイヤーたちは思わずツッコミを入れる。
どちらの攻撃も着弾した地点に大爆発が起き、煙が覆い隠していたが…最初にその煙が晴れたのはマッチョン側の方だった。
【ブ…ブモモ!!】
「…が、ガチでやばかった…」
「ぜ、全員HPぎりぎりになっているが…」
「攻撃のカウンターを予想して…」
「我々は、全員で防御できるようにしていたのだぁ!!」
崩れ落ち、地上に落とされた木の腕。
そこから立ちこめていた煙が晴れると同時に出てきたのは、マッチョンの前にかばうかのように欲望戦隊の面々が立っていた。
そう、彼らは一応、万が一の可能性も考え、自分たちの唯一の攻撃の要になる者を守れるようにしており、今回それが役に立ったのだ。
黒き女神の攻撃が着弾するそのコンマ0.0001秒にも満たない様な短い間に…全力でタンクマン系の最終防御スキルと言って良い様なスキル『神鉄の身代わり壁』を使用したのである。
―――
『神鉄の身代わり壁』
・他者へのダメージを、同時にこのスキルを発動させた者同士で引きうけることができる防御用のスキル。
・自分のHPだけでは足りない分を、同時に発動させた者同士の合計×1000倍まで耐えることが可能であるが、2人以上で発動かつその条件で出る受けられる分の代償というべきか、一戦闘に一回だけ、次回発動まで現実時間で1か月を要する。
・耐えきれない分のダメージが出た場合は、かばった者のHPも一緒に追加することになるが、破格の鉄壁スキルでもある。
―――
「耐えきれない分が今回出たので、マッチョンもぎりぎりだが…なんとか、全員こらえきったか」
「良かったのぅ…」
既に戦闘不能と言っていいほど削られてしまったが、マッチョンをかばいきり、満身創痍でありつつも全員何とか生き残っていた。
その光景にプレイヤーたちはあの欲望戦隊が割とまともなことをしていることに驚愕を覚える。
「まぁ、自分は死にかけなんじゃけどな…うっぷ、発動できぬ職業ゆえにかばう対象に設定されたのじゃが、こっちもズタボロじゃ」
「まぁまぁ、何とか生き残ったが…あ、でもダメっぽい」
「「「…あちゃぁ」」」
攻撃をかばいきり、欲望戦隊の面々はかろうじて立っている。
だが、その目の前のほう…黒き女神側のほうをみて、タローンの言葉に対して全員がその方向を見て悟った。
ゴウウウウウウウウウウウウ!!
「「「「おいおいおいおいおい…」」」」
見た瞬間、黒き女神側の煙が一瞬にして変色し、竜巻のように渦を巻き始め、他のプレイヤーたちも同時に理解してしまった。
これは…今の攻撃で、やることができなかったと。
そして、思い出す。この戦闘が始まる前に、彼女が言っていたことを。
『---ダメージ量、規定値を突破。形態、次の段階へ移行』
『…今の攻撃は効いたけど…生き残っていたことに、内心ほっとしている自分がいるだろう』
『だが、これでやってしまうのもどうかと思うが…まぁ、良い。お礼として、言っていたことを実行してやろう』
天に届くほど高く渦巻く漆黒の煙の中、聞こえてきた女神の声。
あの攻撃で打ち取ることはかなわず、どうやら有言実行…戦いが始まる前に言っていたことを、ここで行うようだ。
『引き出すことができれば、お披露目しよう。そう口約束をしたのならば、ここで出さねばな…さぁ、絶望の饗宴をここで開催の宣言を行おう!!』
『黒き女神、第二形態から…第三形態『アビススタイル』を解放!!』
そう声が聞こえてきた次の瞬間、巻きあがっていた渦が瞬時に消え失せ、その姿を大衆の前にさらけ出した。
黒き女神の着ていた衣服は、バニー服なのは残念ながら変わっていなかった。
形態が変化しても、どうやらその戦闘中の間として課せられていた制約までは、変態の執念によって生み出されたスキルの力までは、流石に祓い清めることはできなかったらしい。
しかし、それ以外の部分…今回はバニー服ゆえに衣装までは変え切れていなかったが、その他の部分は変わっていた。
黒き女神のサイズが色々と大きくなっており、それに合わせて体のほうも少女から大人の女性への姿へ切り替わり、妖艶な雰囲気を醸し出している。
その周囲にはいくつかの色合いの異なる輝く槍が浮かんでおり、その矛先は全て戦闘に参加しているプレイヤーたちの元へ向けられている。
それだけではなく、バニー服ゆえに少々零れ落ちそうな双丘と首の間にギラリと輝くこぶし大ほどの宝石が鎮座しており、怪しい光をそこから周囲へ漏らし、女神の体に光が羽衣のように纏うようになっていた。
『…バニー服なままなのは少々…いや、かなり不本意だけれども、これが私の第三形態。女神に挑みし変態よりも、その中で勇気をもって攻撃を放ったものへ敬意を払ってみせたつもりだ』
【ブモモモ…】
「うわぁ、マッチョンのおかげで見れたようなものだけど…」
「変態のひとくくり扱いかぁ…ん?あれちょっと待て!!なんか称号が発生しているぞ!!」
「え?マッチョンのステータスのほうに…マジだ!!『女神へ挑みし勇者』なんて称号が付いているんだけど!?」
「「「うそぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」」」
『え、本当?』
当の女神本人も気が付いていなかったようだが、どうやら今の戦いでマッチョンの功績が称号として昇華されたらしい。
未知の称号に周囲は驚くが…そんなことよりも、今はこの状況がかなり不味いことを否応なく理解させられる。
もう一方の機械神のほうは、こちらはこちらで何か小型の機械の群体みたいなものが襲い掛かっている光景があるが、今はまだレイドバトル中。
驚愕している暇があれば攻撃すればよかったのだが…あいにくながら、この短い間の隙を誰も手を出せていなかった。
『その称号は私の方も気になるが…それは後にしよう。今は…そうだな、第三形態の恐ろしさを、その絶望を、ゆっくりと味わってほしい』
そう言いながらにっこりと笑みを浮かべる、黒き女神。
先ほどまでの激怒していた状態と違って、だいぶ精神的にすっきりしたようだが…冷静さを完全に取り戻してしまったことでもあり、隙を失ってしまったということもである。
『さて、長話もなんだし、まだレイドバトルの時間もあるが…ここから先は、ダメージを与えられるかどうか、頑張ってみてね』
ぱちんと指を鳴らした次の瞬間、黒き女神の周囲に浮いていた輝く槍がすべて彼女から離れ、すさまじい勢いでプレイヤーたちめがけて飛翔していく。
また、胸元に有った宝石も瞬時に怪しく輝き…そこから、その色と同じ光線が撃ちだされて、一気に周囲が薙ぎ払われ始めるのであった…
チュドォォォォォォォォォォォン!!
「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?」」」」
「明らかにさっきよりも数倍、いや、数十数百倍以上にやばいもんになっているぅぅぅぅ!」
「HPがかなり削れているはずだけど、攻めれなくなってないかこれ!?」
「今なら少し、あの某蟲の大群の気持ちが分かるかもぉおおおおおおおおおお!!」
…阿鼻叫喚の地獄だが、これはまだ始まったばかりである。
黒き女神第二形態のバトルクロスと言えるドレスが、見事にバニーの衣服に変えられてしまい、黒き女神から黒きバニーへと変貌させられていた。
幸いなことに、あくまでも見た目の装備を戦闘中の間だけ変化させるというもののようで、実質的な装備の性能としては変わっていない。
だがしかし、それでも無理やり変えられた事実は変わらず、個人的なプライドをべきっと踏みにじられるような真似をされて黙っていることはできない。
「まずその前に、全力で記憶ごと焼却処分と思ったけど…思った以上に、火の耐性があったか」
「ひぇぇぇぇぇぇ!!万が一に備えて防火処理をしていたけれども、ファデボのボディが7割消失したのじゃぁぁぁ!!」
「えげつない破壊力なんだけど!!ちょっとかすっただけでも爆発炎上かよ!!」
激怒していたが多少動いて発散したことで、少しだけ冷静な思考が戻る。
アリスの黒い炎を、ネアの妖精糸に炎上させて巻き付けたり、マリーの毒ガスに着火して爆破したりと行ったが、欲望戦隊の切り札でもあるらしい巨大な木の巨人の全身を焼き尽くしきるまでにはいかなかったようである。
まぁ、それでも大部分が真っ黒になっており、右手左足を吹っ飛ばしたが…残念ながら内部にいる欲望戦隊はまだダメージが通っていないらしい。
「そろそろ3分経つけど、マッチョン準備は良いか!!」
【ブモモモモォ!!】
どうやら残っていた左腕のほうに、マッチョンが搭乗していたらしく、欠けた木の隙間にその姿を捉える。
やけに不気味な赤い光がじわりじわりと蓄えられていたが…ああ、そうか。
そう言えば以前、欲望戦隊の大半が防御よりの職業になっていたが、マッチョンのほうは逆に攻撃を高めた種族へ変わっていったということがあったか。
あの時はマッチョンを集団で守り、力を蓄えてからすさまじいエネルギーで薙ぎ払う攻撃を見せていたが、その戦法をこの木の巨人でもやるようだ。
「エネルギー充填120%!!目標黒き女神!!」
「どのぐらい効くかわからないし、そもそも当たるのかが不安だが!」
「子供と奥さんの前で恥をかかないように、全力でやって当てて見せろ!!」
【ブモオオオオオオ!!】
ガバンッと左腕の一部が開き、既に全力で力をためている状態のマッチョンが姿を現す。
赤い光からなんとなく予想していたが、その手には巨大なバズーカ砲のようなものが構えられており、その砲口はこちらを向いている。
やる気をたぎらせ、意地でも充てる気満々なマッチョン。ファデボのボディの大半がぼろぼろになりつつも彼のいた位置は守られていたらしく、ダメージを受けている様子はない。
「この一撃に全てをかけて、3分の間にやるだけやったか…」
そろそろ活動限界だったらしい木の巨人自身が崩壊を始めつつも、マッチョンの足場だけは最後まで守る気のようだ。
こちらを確実に仕留めきるためだけに、このバニーの格好をさせて怒りの矛先を仕向けたのももしかすると作戦のうちかもしれないが…なんにせよ、アレの直撃はシャレにならないものだと勘が警鐘を鳴らす。
黒き女神のスキルで変わり、なおかつ公式による開催ということでかなりパワーアップもしているが、この第二形態の状態で警鐘を鳴り響かせるとはマッチョンの実力は恐るべきものなのかもしれない。
その分、なんでそれだけの力を持つのにあの欲望戦隊のもとに居るんだと言いたくもなるが…それはそれで、マッチョンなりの考えがあるのかもしれない。
なんにせよ、直撃は不味いものだと理解しているのだが…鬼気迫りつつ、良いところを見せたいマッチョンの気持ちとしてはどこか理解できるかもしれない。
むしろ、あの欲望戦隊のお守りをしているようなものだし、戦隊内で唯一の良心というべきような彼に対して、多少の褒美はあったほうが良いだろう。
「…そっちがその気なら、あえて避けることはしないでおこう」
回避行動をとることはできるが、本気を見せたマッチョンの狙いは相当鋭いものになっている。
避けきれるかどうか、まずその破壊の規模がどのぐらいなのか予想付かない以上、ここはあえて正面からぶつかることを選択する。
ただし、何もせずに受け止める気はない。
「---欲望戦隊、その砲撃を行おうとしているマッチョンとやら!!その攻撃に対する覚悟のほど、その様子から読み取った!!私はあえて回避はしない!!」
【ブモッ!?】
「だが、無抵抗というわけにもいかない!!そこでだ、お前のその本気の思いをくみ取って、私のほうも真っ向から攻撃をぶつけよう!!」
【…ブモモモモモッ!!】
叫び、伝え、マッチョンが理解する。
男気を見せて最大の一撃を出そうとする相手ならば、こちらも男として…いや、今は女神だからこそ、神の立場としてその一撃を見せてもらうが、正面からぶつからせてももらう。
「バニーの姿なので少々格好がつかないが…女神の一撃とそちらの最大の砲撃!!ぶつけ合うとしよう!!」
【ブモオオオオオオオオオオオオ!!】
瞬時にこちらもエネルギーを充填し、対抗できるだけのものを発動させる。
相手が強力なエネルギーの攻撃で来るのであれば、神槍…違うな、アレはアレで物理的なもので、ちょっと相性が悪いだろう。
ならば、目には目を、歯には歯を。エネルギー攻撃が予想できるのであれば、こちらもエネルギー攻撃をぶつける。
マッチョン側がこちらに狙いを定めているその射線上に乗るようにして手を構えてぶつかり合うように、短い間に素早く調整して…お互いに、同時に解き放つ!!
【ブモモモモモ、ブモモオォォォォォォ!!(『孤高なる豚皇帝の咆哮』、発射ぁぁぁ!!)】
「『黒き女神の威光』、照射!!」
マッチョン側からからから、赤黒さを持った極太の光線が。
黒き女神側からは、闇夜よりも漆黒の光線が。
どちらも直線状に撃ちだされて、真正面からぶつかりあ…
ドチュイン!!
【ブ】
「あ」
…ぶつかり合うはずが、懸念していなかったことが起きた。
お互いにかなり強い力をぶつけあったわけだが…いかんせん、強力すぎるが故の弊害が生じてしまった。
強い力というのは、ちょっとやそっとで動くものではないが、その周囲は動かされる。
それは空間でさえも例外ではなく、多少の学説とかで話になることがあるだろう。
そして何よりも、ここはアルケディア・オンラインの世界…ゲームの中とはいえ、その物理法則などは現実に近いものが設定されており、その力によるゆがみも例外なく設定されていた。
つまり、何が起きたのかといえば…お互いの攻撃が持つ力が強すぎて、周辺の空間まで歪んでしまったらしく、一直線にぶつかり合う予定がその軌道が狙いは定まれども間に立たされる空間までは耐えられずに少々歪んでしまい、ぶつかり合うかと思えばお互いに少しだけ軌道がずれ、かすめただけにとどまってしまったのだ。
一応、そのぶつかり合う間の空間だけが過剰な力の衝突に耐え切れなかっただけであり、すぐにお互いの狙いの方向へ軌道が修正されるのだが…その矛先が、撃ちだしたもの同士。
そう、黒き女神とマッチョンに…直撃する結果を、生み出した。
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「「「「うおおおおおおおおおおおい!?二人に直撃しちゃったあああああああああああああああ!!いや、黒き女神に当たるのはまだいいけど、これはこれでダメな奴だろぉおおおおお!!」」」」
ある意味正しい攻撃の結果だが、お互いのぶつかり合いを予想していた周辺のプレイヤーたちは思わずツッコミを入れる。
どちらの攻撃も着弾した地点に大爆発が起き、煙が覆い隠していたが…最初にその煙が晴れたのはマッチョン側の方だった。
【ブ…ブモモ!!】
「…が、ガチでやばかった…」
「ぜ、全員HPぎりぎりになっているが…」
「攻撃のカウンターを予想して…」
「我々は、全員で防御できるようにしていたのだぁ!!」
崩れ落ち、地上に落とされた木の腕。
そこから立ちこめていた煙が晴れると同時に出てきたのは、マッチョンの前にかばうかのように欲望戦隊の面々が立っていた。
そう、彼らは一応、万が一の可能性も考え、自分たちの唯一の攻撃の要になる者を守れるようにしており、今回それが役に立ったのだ。
黒き女神の攻撃が着弾するそのコンマ0.0001秒にも満たない様な短い間に…全力でタンクマン系の最終防御スキルと言って良い様なスキル『神鉄の身代わり壁』を使用したのである。
―――
『神鉄の身代わり壁』
・他者へのダメージを、同時にこのスキルを発動させた者同士で引きうけることができる防御用のスキル。
・自分のHPだけでは足りない分を、同時に発動させた者同士の合計×1000倍まで耐えることが可能であるが、2人以上で発動かつその条件で出る受けられる分の代償というべきか、一戦闘に一回だけ、次回発動まで現実時間で1か月を要する。
・耐えきれない分のダメージが出た場合は、かばった者のHPも一緒に追加することになるが、破格の鉄壁スキルでもある。
―――
「耐えきれない分が今回出たので、マッチョンもぎりぎりだが…なんとか、全員こらえきったか」
「良かったのぅ…」
既に戦闘不能と言っていいほど削られてしまったが、マッチョンをかばいきり、満身創痍でありつつも全員何とか生き残っていた。
その光景にプレイヤーたちはあの欲望戦隊が割とまともなことをしていることに驚愕を覚える。
「まぁ、自分は死にかけなんじゃけどな…うっぷ、発動できぬ職業ゆえにかばう対象に設定されたのじゃが、こっちもズタボロじゃ」
「まぁまぁ、何とか生き残ったが…あ、でもダメっぽい」
「「「…あちゃぁ」」」
攻撃をかばいきり、欲望戦隊の面々はかろうじて立っている。
だが、その目の前のほう…黒き女神側のほうをみて、タローンの言葉に対して全員がその方向を見て悟った。
ゴウウウウウウウウウウウウ!!
「「「「おいおいおいおいおい…」」」」
見た瞬間、黒き女神側の煙が一瞬にして変色し、竜巻のように渦を巻き始め、他のプレイヤーたちも同時に理解してしまった。
これは…今の攻撃で、やることができなかったと。
そして、思い出す。この戦闘が始まる前に、彼女が言っていたことを。
『---ダメージ量、規定値を突破。形態、次の段階へ移行』
『…今の攻撃は効いたけど…生き残っていたことに、内心ほっとしている自分がいるだろう』
『だが、これでやってしまうのもどうかと思うが…まぁ、良い。お礼として、言っていたことを実行してやろう』
天に届くほど高く渦巻く漆黒の煙の中、聞こえてきた女神の声。
あの攻撃で打ち取ることはかなわず、どうやら有言実行…戦いが始まる前に言っていたことを、ここで行うようだ。
『引き出すことができれば、お披露目しよう。そう口約束をしたのならば、ここで出さねばな…さぁ、絶望の饗宴をここで開催の宣言を行おう!!』
『黒き女神、第二形態から…第三形態『アビススタイル』を解放!!』
そう声が聞こえてきた次の瞬間、巻きあがっていた渦が瞬時に消え失せ、その姿を大衆の前にさらけ出した。
黒き女神の着ていた衣服は、バニー服なのは残念ながら変わっていなかった。
形態が変化しても、どうやらその戦闘中の間として課せられていた制約までは、変態の執念によって生み出されたスキルの力までは、流石に祓い清めることはできなかったらしい。
しかし、それ以外の部分…今回はバニー服ゆえに衣装までは変え切れていなかったが、その他の部分は変わっていた。
黒き女神のサイズが色々と大きくなっており、それに合わせて体のほうも少女から大人の女性への姿へ切り替わり、妖艶な雰囲気を醸し出している。
その周囲にはいくつかの色合いの異なる輝く槍が浮かんでおり、その矛先は全て戦闘に参加しているプレイヤーたちの元へ向けられている。
それだけではなく、バニー服ゆえに少々零れ落ちそうな双丘と首の間にギラリと輝くこぶし大ほどの宝石が鎮座しており、怪しい光をそこから周囲へ漏らし、女神の体に光が羽衣のように纏うようになっていた。
『…バニー服なままなのは少々…いや、かなり不本意だけれども、これが私の第三形態。女神に挑みし変態よりも、その中で勇気をもって攻撃を放ったものへ敬意を払ってみせたつもりだ』
【ブモモモ…】
「うわぁ、マッチョンのおかげで見れたようなものだけど…」
「変態のひとくくり扱いかぁ…ん?あれちょっと待て!!なんか称号が発生しているぞ!!」
「え?マッチョンのステータスのほうに…マジだ!!『女神へ挑みし勇者』なんて称号が付いているんだけど!?」
「「「うそぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」」」
『え、本当?』
当の女神本人も気が付いていなかったようだが、どうやら今の戦いでマッチョンの功績が称号として昇華されたらしい。
未知の称号に周囲は驚くが…そんなことよりも、今はこの状況がかなり不味いことを否応なく理解させられる。
もう一方の機械神のほうは、こちらはこちらで何か小型の機械の群体みたいなものが襲い掛かっている光景があるが、今はまだレイドバトル中。
驚愕している暇があれば攻撃すればよかったのだが…あいにくながら、この短い間の隙を誰も手を出せていなかった。
『その称号は私の方も気になるが…それは後にしよう。今は…そうだな、第三形態の恐ろしさを、その絶望を、ゆっくりと味わってほしい』
そう言いながらにっこりと笑みを浮かべる、黒き女神。
先ほどまでの激怒していた状態と違って、だいぶ精神的にすっきりしたようだが…冷静さを完全に取り戻してしまったことでもあり、隙を失ってしまったということもである。
『さて、長話もなんだし、まだレイドバトルの時間もあるが…ここから先は、ダメージを与えられるかどうか、頑張ってみてね』
ぱちんと指を鳴らした次の瞬間、黒き女神の周囲に浮いていた輝く槍がすべて彼女から離れ、すさまじい勢いでプレイヤーたちめがけて飛翔していく。
また、胸元に有った宝石も瞬時に怪しく輝き…そこから、その色と同じ光線が撃ちだされて、一気に周囲が薙ぎ払われ始めるのであった…
チュドォォォォォォォォォォォン!!
「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?」」」」
「明らかにさっきよりも数倍、いや、数十数百倍以上にやばいもんになっているぅぅぅぅ!」
「HPがかなり削れているはずだけど、攻めれなくなってないかこれ!?」
「今なら少し、あの某蟲の大群の気持ちが分かるかもぉおおおおおおおおおお!!」
…阿鼻叫喚の地獄だが、これはまだ始まったばかりである。
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『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
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しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
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10歳になると、誰もがもらえるスキル。
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偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大賢者の弟子ステファニー
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この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
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主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
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【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
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昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
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ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
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小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
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