アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-96 いくら馬鹿でも、気が付くもの

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「…一人で何をしようか考えて、釣りでもしようかと思ったけど…これ、どうしよう」

 びちびちと目の前ではねて動く巨大魚を見て、春は今、悩まされていた。

 ミントと分かれてプライベートな時間を過ごす方法何かと思案し、とりあえずぼけっと過ごせるようなものをやればいいかと思い、釣りを選択した。
 気軽にできるように手ごろな店で安い釣竿を買って、近くの川で気ままな釣りを楽しみ、ちょっとした小物が連れたら今晩のおかずにでもと思ったのだが…結果として連れたのは、巨大な魚だった。

「鯉とか外来種のブラックバスとかならまだわかるけど、なんでこの川にアリゲーターガーなんていうるんだよ!!どうりで釣り上げるまでメッチャ苦労したけど、どうやって持って帰れと!!」

 近所の川に、こんな巨大魚がいるとは思いたくなかった。
 確か、一応食べれないことはないらしいが、それでも小さな魚を入れられる程度のクーラーボックスしか買ってないので、このサイズのものを持ち帰るのは厳しいところ。
 かといってリリースしようにも、外来種なので帰すこともできず、放置すればカラスやラナンやらが来て問題になるのが目に見えているので、どうしようもない。

 どうしたものかと頭が痛くなる問題だが…そんな悩みまくっている中、ふとあることに気が付いた。

「ん?」

 
 なんだろうか、この嫌な感じの気配は。
 なんとなく感じた嫌な予感がした方向を見れば、そこにはいつの間にかコスプレ集団のような人たちがいた。
 いや、コスプレをたしなむ人たちというよりも、なんかこう、変な色合いのローブを着こなして姿を隠しているようで、ちょっとした何かの宗教集団にも見えなくもないだろう。

『おい、気が付かれたようだがどうする?』
『構うものか。我々をどう思おうとも、邪悪なるものに魅入られし眷属であれば、ここで滅するのが良いだろう』
『悪しき真祖はあちらで封じられるだろうが、対抗できるだけの力がないこちらは、弱きものを潰すしかないからな』

 何やらごにょごにょと聞き取れない外国語でしゃべっているようだが、こちらを見ている気配はわかるだろう。
 この手の集団、近寄らないほうが良いのだろうが…そう思っていても、向こうの方から距離を詰めてきているようだった。

『なんにせよ、やらねばなるまい。仮に眷属であろうともなかろうとも、やつに魅入られているのであればここで滅せよ』
『できねば万が一に備え、人質にする手もできそうだが』
『やめておけ。ああいうのは人質を奪い返す手段が乏しいものには聞くが、邪悪なる者には効果は薄いだろう』
『さて、無駄話もやめておこう。さっさと仕事を終えて…我らが主のために、奴を葬るか』

「?…っ!!」

 何かを話し込んでいた様子だったが、こちらの方に改めて顔を向けた次の瞬間、頭の中に強い警鐘が響き渡る。
 第六感か、あるいは野生の勘か、それとも生存本能が働いたのかはわからないが、その警鐘に身を任せて慌てて後方に下がったとたん、先ほどまでいた足場に銃弾が降りかかった。

バババババン!!

 あと数秒遅れていたら、あわや銃弾の雨あられに降られて命を落としていただろう。
 幸い、足元にいた巨大魚がその身に浴びたので余計にグロテスクな光景になりつつも、何とか跳弾とかがやってくるのは避けられたようだ。

「うっそ、実弾撃ってきた!?何、テロなのヤクザなの!?前者はともかく、後者の方はちょっと心当たりがあるから何とも言えないが!!」
『おいおいおいおい!?なんか避けられたんだが!?』
『あの距離でかわすとは、やはりただの人間にあらず奴の眷属か!!』
『ならば問答無用で、全ての力をもってして奴を屠ろうぞ!!』

 避けられたことが意外だったのか、謎の集団は驚愕していたようだが、気持ちを切り替えて再度襲撃をかけてくる気配へと切り替わる。
 間違いない。ただのコスプレ集団とかじゃなくて、明らかにもっとやばい別の集団。
 何気のない日常にバイオレンス要素を無理やりねじ込んでくるような、非日常の世界に常に身を置いていそうな、危険な集団だろう。

 なんというか、このただの一般人に向けて、昼間から堂々と銃をぶっ放してくるとは驚かされたが、驚愕してばかりでは命に関わるだろう。


 銃を持つ危険人物たちから、ただの一般人が身を逃れるすべはほとんどないだろうが…こんなこともあろうかと、実はちょっと持ってきていたものもあった。

「煙幕玉!!」
ボウン!!
『何っ!?目くらましだと!!』
『オーウ!?ジャパニーズニンジャとでもいうのか!!』
『驚愕している場合か!!逃げられるぞ!!』

 このご時世、テロリストとかが出るぐらいだったので、ちょっとばかり警戒して実は、煙幕玉をもってきていた。
 何でこんなものを素人が持っているのかといえば、この間実家に帰省した際に、昔ミーちゃんと忍者ごっこして遊んでた時に使ったやつを見つけて、ちょっと護身術代わりに使えるかなと思って、持ち帰っていたのである。

 作ってからそこそこ年月が経過していたが、そこそこ効果は発揮できたらしく、相手の視界を奪って距離を稼ぐことはできただろう。
 ついでに言えば、あれただの煙幕じゃなくて、ちょっと忍者っぽい煙に近くなかったので、ミーちゃんと試行錯誤をして…

『ぎょわああああああああああああああああああああああああ!!目がいでぇぇぇぇ!!』
『ごえっふぼえっぶ!なんだこれ毒なのか!?』
『辛い痛い辛い痛い!!赤い煙だと思ったが、これ唐辛子とか胡椒をたっぷり混ぜられているぞ!!』

 わからない外国語なので何を言っているのかは不明だが、苦しんでいる声が聞こえる。
 試行錯誤した結果、普通の煙幕だといまいちの煙だったので、もっとド派手にかつより効果的になるようにと思って…たっぷり煙っぽくなりつつ相手が苦しむようなものを配合したものなのである。
 まぁ、作ったは良いんだけれども、流石にこれで遊ぶのは危険すぎないかと思って、封印していたのを思い出したけどね。今になって役に立つとは、世の中分からないものだろう。

「とりあえず、時間と距離を稼いで、さっさと警察へ連絡と家に向かって…!!」

 足止めできたとはいえ、それでも少しの間だけだろう。
 子供のころ作ったものなので、持続時間も期待できないし、むしろ相手を怒らせただけになりかねない。
 なのでここは、大人の守る方法として警察への素早い連絡と、家にある女神人形を使った自衛手段が一番早いと思い、逃げながら携帯を手に取って警察へ電話を行う。

「もしもし警察ですか!!今、明らかに銃刀法違反しまくっている変質者に襲われています!!」

 こういう時に緊急ダイヤルは便利で、携帯のパスワードを解除するよりも早く連絡ができる。
 走りながら状況を説明するのは大変だが、必死になって要点をつかみながら説明したことで、聞こえる息遣いなどから相手も嘘の電話ではないと判断してくれたらしい。

「よし、あとは警察が来るまで逃げきれれば!!」

 ここから家までそこそこかかるが、命がけで走ればなんとかなるだろう。
 火事場の馬鹿力やアドレナリンなどがどぶどぶ出ているのか、後で絶対に辛くなりそうだけどこのまま何とかなりそうだと思っていた…その時だった。


バァン!!
「いっだああああああああああああああああああああああああ!?」

 銃声が響いた後、足に感じた激痛で盛大に春はすっころんだ。
 ゴロゴロと転がりつつ、状況をすぐに判断してみると、どうやら後方で追ってきていたやつらが銃で足を打ち抜いたようだ。
 アキレス腱とかは外れたようだが、それでも両足ともそれぞれ違う箇所を撃たれたようで、色々と脳内物質が出ているんだろうけれども見たことで現実を受け入れさせられ、激痛が走る。
 
 相手は逃す気もなく、まずは足を奪ってから仕留める気なのだろうか。
 でも、足を潰されてそうたやすく終わる気もない。こちとら何年、ミーちゃんお転婆女王と付き合って遊んでいたと思うのか。


「秘儀、逆立ち走り!!」
トットット、トテテテテテテテテテテ!!
『何あれ!?動きがキモっ!?』
『うっそだろ足が撃たれてダメなら手ならって、発想は単純だけどとっさにできる動きじゃないだろ!!』
『明らかにやつの邪悪なる眷属だと思うけど、より邪悪な何かにしか思えんぞ!!』

 言っていることはわからないが、何を思ったのかぐらいはなんとなく察せる。
 一度足を骨折して動けなくなったときに、動かせる手でどうにか移動できないかと、昔そんなことを考えてこの見た目だけならド阿保すぎる手段を思いついて身に付けてしまった黒歴史があったが、それがまさかこんな時に役に立つとは思わなかった。

 見るなら見よ、この足と変わらぬ脚力もとい腕力を!!
 編み出してミーちゃんと対決したら、エクソシスト走りで負けたので、全然役に立たない走りだと思ったが、これはこれでそこそこ早い!!

『落ち着け!!足が駄目なら腕を狙えばいいだろうが!!』
バァン!!
「ぎゃっ!!」

…言っていることはわからないが、やられたことで察した。うん、ごもっとも。

 まさか白昼堂々発砲してくる集団がいるとは、この状況自体に対応しきれなかったが、相手は念入りに用意していたのか人気も見当たらないし、おそらく何か周辺に細工をしているのだろう。
 四肢を撃たれ背中から倒れこんで身を打ち付け、満足に動けなくなりつつも、相手のほうに顔を向けて行動を見る。

 完全にやる気のようで、相手の銃口が頭を狙ってきたのが目に見えるだろう。

『足や手が狙えるなら、最初から頭を撃てばいいだろうと思うが…』
『馬鹿め、これで頭が偽物で胴体や尻から顔が生えてきたらどうする?一つずつ潰すのが良いだろう』
『そんなゲームで復活してくるラスボスボディではないとは思うが…まぁ、入念に潰していけばいいのは同意するよ』

 何かを言っているようだが、全然わからない。
 手足がずきずきと痛む中、相手が引き金に指をかけ、一斉に掃射してくるのが目に見えてくる。

 ああ、これが人生の最後か。銃弾が素早く飛んできているはずなのに、ゆっくり見えてくるだろう。

 あと少しで、その全てが撃ちぬいてミンチが一つ出来上がろうと…





―――バババババン!!
「『『『…え?』』』」

 銃声が重なり、跳弾した後、相手と僕の声が不思議と重なった。
 驚愕が一緒になったようだが…それには理由がある。


 たった今、僕の目の前に何かが降り立ち、かっさらったのだから。
 妙な浮遊感を覚えてみれば、どうやらお姫様抱っこのような形で持たれているが…持っている相手の姿を見て、違うはずなのになぜか彼女だと理解した。

「み…ミーちゃん?」
「…」

 色合いが違う。彼女の髪色や目が深紅に染まっており、口元には少し見えるが長く伸びた犬歯のような牙が見える。
 その背中には翼が生えているが、天使のようなものでもなくかと言って悪魔よりでもなく…影のような実体を感じさせないものがあるだろう。

 だが、そんな姿の違いがあれども、僕には分かる。彼女はミーちゃんだと。
 そしてもう一つ、理解させられるとすれば…今、その眼の奥には激しい怒りの炎が燃え滾っており、襲ってきたやつらの末路をなんとなく理解させられた。

『ば、馬鹿な真祖だと!?奴らが相手をしているのでは!!』
『確実に仕留めようと用意していたのに、それが破られただと!!』
『ま、不味い!!これは確実に命の危機が…!!』

 襲撃者たちは慌てふためいたようだが、それは遅すぎる。
 
 彼らは知らないのだ、激怒したミーちゃんがどれだけやばいのか。

…まぁ、こんな姿が変わるようなものは見たことがないが、幸いなことといえばギリギリ生かされることぐらいか。


「…春を傷つけた、許さない」

 そうぽつりと彼女はつぶやき、一瞬だけその身がぶれたような気がした。
 違う、春を抱えたまま、ミントが素早く動き、その場から動いただけのことを。

 そのわずかな間に、奴らの間を何もなかったかのように通り抜け…足を止めた次の瞬間、悲鳴は聞こえずとも奴らの絶叫が響き渡る。
 聞こえないのに、何故聞こえるのか。
 それは、奴らが纏っていた空気そのものが瞬時に転じ、その苦しみようがありありと伝わらせたからだ。

 何が起きたのかと思ってみれば…一応、生きてはいるのだろうが、明らかに人としては終わったなというような凄惨な光景になっていたのであった…



「…あの、ミーちゃん。その姿が何なのかとか、どうしたのか色々と聞きたいことがあるけど…一ついいかな」
「何?」
「さっき、警察呼んだけど、この光景をどう説明すればいいの」
「あ」

…やっちまった、という顔をしたのは変わらないだろう。
 でも、そんな顔をされても、この後の警察への説明がすごく難関なものになるからね?場合によってはやらかしたミーちゃんが犯人と確実に疑われかねないんだけど。
 しかも逃げようと思っても、ようやく警察が来てしまったようで、サイレンが聞こえてきたんだが…本当にどうしよう。誰か、今からでもいいからすぐに対応できる、口がうますぎて綺麗にごまかしが可能な人、急募できないだろうか…
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