アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
295 / 718
Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.1-83 なかったことに、見せかける

しおりを挟む
「…ん、ふわぁ…ここは…」

 暖かい何かに包まれるような夢から覚め、僕は目を覚ます。
 起きたばかりでまだ頭がぼうっとしてはっきりしていないのだが、周囲を見ればまだ薄暗い部屋の中のようで、壁に掛けてある時計を見れば深夜3時ごろ…

「って…あれ?なんで帰宅して…いや、そもそもなんかやられたような…うっ」

 ずきっと頭が痛むような感じがしたが、はっきりと覚えていない。
 確か、今日はミーちゃんと一緒に祭りへ向かって、それで何か変な声が聞こえて、向かった先でミーちゃんが大暴れをして…

「そこからどうなったんだっけ…ああ、確か酒飲み勝負・・・・・でもしたっけか」

 何か間違っているような気がするが、この頭の痛みを考えるのであれば二日酔いによるものなのだろうか。
 確かそこでお互いに飲みまくって、結構ふらふらになって帰宅したんだっけ。

 流石に、飲みすぎでの急性アルコール中毒とかは勘弁だからね…わきまえてここで引き分けで良いかってことにしたんだったか。
 
 ずきずきと痛むが、感覚的にはだいぶ収まってきたような気がする。
 二日酔いはたぶん、もうちょっとぐっすり眠れば回復するだろう。

…でも、本当にそうだったか?酒ってそんなに飲めなかったような…いや、気にしなくていいか。こういう頭痛がするときは、しっかり寝て英気を養って、遊ぶまでゆっくりと休めばいいのだから。
 そう考えるとふわぁっとあくびが出てきて、眠気がやってくる。
 おかしいような記憶だが、これでいいのならば問題ないかと思い、改めて眠りにつくのであった…











「ふぅ…良し、記憶の改竄が成功していたか」

 すやぁすやぁっと寝息を立て始めた春の様子を見て、こっそりとドアの隙間からのぞき込んでいたミントはほっと安どの息を吐く。
 
 あの祭りの中で起きた、サイボーグ襲撃事件。
 もう二度と、目の前に現れることはないだろう相手だが、あの騒動で大けがを負った彼には、そんな記憶は持っていてほしくないと思い、別の記憶として改竄したが、怪しまれることはなかったらしい。

 正直言うと、こういう手の技術は少々自分の手では厳しいところもあるが…

「協力してくれて、ありがとうロロさん」
【私としても、主様に辛い記憶などあってほしくはないので良かったのデス】

 春のほうで雇っている使用人、ロロの手助けがあってこそ、都合よく改竄ができた。
 一人でやれば穴だらけの怪しいものになっただろうが、これで当分の間思い出すこともなくなるだろうし、いつしか改竄前の記憶も風化するはずである。

【それでも…私としては主様に対して起きたことに関して、やらかしたきっかけになる人には文句を言いたいのですがネ】
「うっ…」

 今回の騒動、全員をぶん殴っていく前にさっさと逃走のほうを選べば、余計な傷を負うことはなかっただろう。
 だが、深入りしすぎてしまったので…結果としては助かったのは良いのだが、それでもやらかしたことは事実なので、痛いところを突かれてミントはうなだれる。

「本当にごめんって…私としても、春に深手を負わせたくはなかったけど…」
【言い訳は無用デス】
「はい」

 強くきっぱりと言われてしまえば、どうしようもない。
 色々とやれる手があるとはいえ、自分が悪いことは悪いのだ。

「朝にはもうオンラインログインできるから…お詫びに、牧場の最高級品セットを贈るよ」
【…なら、この話はここまでにしておきましょう】

 話を切り替えて、叱られる未来はどうにか回避できたらしい。
 自分でしでかしたこともあるとはいえ、長々話されるのもつらいものがらある。

【それと一つ、お聞きしますが…朝食後にオンラインの予定のようですが大丈夫ですカ?】
「何が?」
衝動・・。…主様のそばにいる人の事情、調べていたのですが…数年前から音信不通だった理由は、それも関係していますよネ】
「…まぁ、あと一、二週間ぐらいならいいかな。ちょっと怒りでぶちまけた分、短くなったけど、今はだいぶ落ち着くための薬とかもあるしね」

 ロロの指摘を受け、少し考えこんだミントだが、自分の体のことは自分でよく理解している。
 ちょっとばかり激怒して解放したことによって、抑えられる期間が短くなったが、それでも一緒に楽しめるだけの時間がある。

「それに…遅かれ早かれ、覚悟ができたら春に告げるつもりだったし、彼が受け入れてくれるなら別に大丈夫だと思うよ。…怖いのは、ソレをしって彼が私から離れようとすることだけど」

 隠し事のつもりだが、それでもずっと隠せるわけではないのはわかっている。
 だからこそ、ばれたらばれたでその時だし、そうなる前に話すことも覚悟ができたらやれるだろう。

 ただ、それでも彼女は怖いのだ。その秘密を知って、彼が自分に対して恐怖を抱き、離れて逝ってしまうかもしれないことを。

 少しだけそのあるかもしれないことに関してミントが体を震わせたのを見て、ロロはぼそっと口をこぼす。

【ですが…たぶん、主様なら大丈夫だと思いますけれどネ。そもそもの話というか、あれだけのものに囲まれて今さらな感じがありそうですが…どうなりますかネ】

 彼はおそらく、彼女の秘密を知っても大丈夫だとロロは思う。
 使用人として仕えて主を見ているからこそ、なんとなくそうなるだろうと思って言えるのだ。

 なんにしてもすべては春の受け取り方次第であり、ここでどういう結果が出るのかは推測でしかない。
 そう思いながら、彼女たちはそれぞれ話題を切り替え、寝床へ移動するのであった…


【ところで、改竄の手助けをした程度なのですが、まだ未熟な感じがしますがどこで身に付けたのですカ?】
「えっと、これ。母さんから各国回っている中で受講させられた『今日からあなたもできる、記憶改変マスターへの道』っていう通信講座。自称凄腕スパイを自称している母さんだけど、覚えた技術で、自分のことがばれないようにしていたりするっていうから習っていたんだよ」
【そんな通信講座が普通にあってほしくないのですが…あ、講師がこの方ですカ】
「知り合いなの?」
【まぁ、少々。使用人一同…とはちょっと関係性が薄いですが、上のほうで確かあったと。今のご時世、改竄技術がないと後始末も面倒ですからネ】

…とはいえ、通信講座の枠内にあるせいで、本来のレベルよりもかなり下になっているようなのは、ある程度自重したのだろう。
 そんな誰にでも扱えるレベルにまでやり過ぎると、危険なことにもなりかねないので、しっかり受講前に審査もうけさせられるらしい。

 それはそれで、この手の通信講座を主に身につけてもらうほうが何かといいのではないかと、ロロは思いつくのであった…
しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...