アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.1-77 腹がすいては何も出来ぬ

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 ゲームセンターで春とミントはお互いに勝負しあい、熱中していた。
 だが、オンライン内とは違ってかなり現実のほうの肉体を動かしていたのもあって…


ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
きゅるるるぅぅぅぅぅ
「「…お腹、減った」」

 ぐぅと鳴らす腹の音と共に、二人の体の力が抜ける。
 思い出したように時間を見れば、いつの間にか12時半を過ぎており、とっくの前にお昼に突撃していたようだ。

「どうしようかな…これ、今更だけど動き過ぎて帰って家でのご飯までの気力がないかも…」
「激しく熱中したからね…シューティングゲーム、てぇてぇの達人、ダンスでタンスなどのゲームで動きまくったせいで、お腹ペコペコだよー」
「こうなると、どこかの店で腹ごしらえをしないとなぁ…近所に良い店、あったかな」

 こういう時に、スマホをもってマップで検索できるのは非常にありがたい。
 近隣の都合の良い飲食店情報を検索してみると、一軒の店があることが確認できた。
 




 ゲームセンターから歩いて10分ほどの割と近い場所。この立地にあったのはファストフード店『マッキョンダック』だった。
 ただ、ファストフード店といっても、一般的に見るようなポテトやハンバーガーを扱うような店ではない。

『ジョゲェェ』
『ボゲェェェ』
『ギュゲェェェ』

「…それがこの、何故か叫ぶ生物のようなものでできているようにしか見えない『深淵の叫びセット』かぁ」
「見た目がちょっとあれなのに、食べると意外にもうまい…かな?」

 うねうねとうごめいたりぎょろぎょろと目玉のように動くゆで卵が添えられている、この店のメインレシピ『深淵の叫びセット』。
 これ、むしろ宇宙的なものか黒魔術的なものか、はたまたはもっとやばいものが使用されているのではないかと思えるようなゲテモノっぽい見た目なのだが、味自体は悪くはない。
 ぶよぶよとしていそうな見た目なのにサクサクとした触感だし、しょうゆベースで香りを立てつつ塩気が程よい具合に調整されており、あっさりと食べやすい。絵面が最悪すぎること以外はまともな味の食事であり、食べられないことはないだろう。

 それと昼時なのもあるせいなのか、意外にも人気があるせいなのか人もそこそこ店内で並んだりしており、あちこちで食材の叫びが聞こえる光景となっている。
 新鮮な食材が使われていますとあるが、その食材がこのうごめくものそのまま使っているとかないよね…あ、厨房のほうが見えるようになっているけど、ちゃんと料理されているな。なんかよりえげつない原材料を魔女鍋のようにしているけど。



 とにもかくにも、見た目は少々あれだったが味は良いし、お腹もいっぱいになった。
 
「さてと、午後はどうしようかな。流石にゲーセンで本日予定していた分をオーバーしかけているし…」
「なら、午後は腹ごなしも兼ねて公園のほうで体を動かさない?もしくはこことか」
「あー…室内プール?室内だから年間を通して営業中…うーん、こっちは明日かな?今日は公園のほうに行こうか」

 距離から見ると公園のほうも近いのもある。プールのほうも泳ぎたくはあるが、こちらは明日のほうに…あれ?

「あ、でも明日プールのほうにしても、水着あったっけ?」
「ふふふ、問題ないよ!こんなこともあろうかと、実は水着も持ってきているんだよ!!」
「準備良いね」
「うん!まぁ、流石に買い換えるのがちょっと面倒だったから、中学の授業で使ったやつだけどね!まだ使えるでしょ!」
「ごめん、訂正。公園行く前に、先に買い変えたほうが良いと思うよ」
 
 ちょっと準備の良さに感心しかけた思いを返してほしい。
 というか、中学の時ってそれ結構前なんじゃ…僕ら、成人しているから、既にいろいろヤバいとは思うよ?成長しているからなぁ…たぶん。自分の身長に対して目をそらしているわけじゃない。

 そんなことも思いつつも、公園へ寄る前に先に買い物を済ませようとするのであった…

「室内プールだし、昔一緒に行った海の時のようにはならないのは唯一の救いか…」
「ああ、あの柄杓クレクレと船の上でしつこく言い寄ってきた謎の手の人に、柄杓じゃなくてバケツを上げたら沈没させられそうになったあの事件だっけ。あれ、ゴムボードに乗っていて起きた事件だけど、流石に室内ならそんなのいないでしょ」

…あれ、小さい時は単純に不審者かと現実にいるのかはわからないけど。
 でも、あの沈没しかけたときに、沖合に泳いでいた父さんが全筋力を使って駆けつけて吹っ飛ばしたんだっけ。僕らごと…巻き添えにされて、そろって大空を舞ったなぁ…










 昔の出来事を思い出して、少々遠い目を春がしていたそのころ。
 その後方から物陰に隠れつつも、二人を追っている者たちがいた。

「まさか、攫えると思っていたゲームセンター内で一気に人手が失われるとは…中々痛いな」
「彼女を狙う他の組織も巻き添えにできたから、敵対しているところにも損害が行きましたが、我々のほうも痛いですな…」
「この残り人数から言うと、もうラストチャンスがその買い物中の時しかないな」

 まともに攫おうと企んだものたちは、気が付いたらゲームセンターの中でいつの間にか消息を絶っており、失敗していることがうかがえた。
 どのようにして始末されたかはつかめないが、連絡が付かずにミントだけ無事に出てきた時点で、既にその末路は決まったものだと思えばいいだろう。


「聞こえてくる会話からすると…公園までの道中にある商店街の、服屋で水着を調達する気か」
「ふむ…流石に、試着したりしている最中にであれば、相手はすぐに動けないのではないか?」
「いや、それはないだろう。聞いた話では、前にある旅館の女湯でゆったり浸かっているところへ襲撃を仕掛けた者たちが、翌日には全員全裸で警察署の前で踊り狂っているところを捕まったと聞くからな…羞恥心とかはあるだろうが、そのせいで余計にやばい目に遭う可能性が否定できん」
「…そいつら、本当に何をどうしてそんなことになった?」
「わからねぇよ」

 ツッコミがどこからすればいいのかわからないが、試着中に襲うのは愚策かもしれない。
 むしろ、やるのであれば…

「…彼女と親しくしている、あの従兄のほうを狙うのはどうだ?人質にすれば行けるとは思うが」
「…いや、それも不味いだろう。一見、何の変哲もない一般人だが…どういうわけか、奴のほうを狙おうと思うと嫌な警鐘が鳴り響いている気がする」

 古典的な手段だが人質を使えばいい。
 そう思い、提案したものもいたのだが、彼らのリーダーの立場にいるものは静止させる、

「そういうのなら、狙わないほうが良いのか…?だが、警鐘とは」
「わからん。だが、そちらを選ぶのはさらなる愚策になるとどこかで叫ぶ声が聞こえてくる」
「ならば、人質は無しか…やるならば、公園のほうで動くべきか」
「そうしたほうが良いだろうな」

 試着室という無防備な場、人質という手段などが出たが、こうなれば一日の終わりで油断しているであろう公園のほうが良いと判断を行う。
 ある意味、それはそれで彼らにとって実はかなりの英断だったのだが英断だったのだが…そんなことを、彼らが知る由もないのであった。


「水着か…ターゲットの水着姿は、それはそれで気になるな」
「おい、何を考えている。下手に覗くなよ?仕事でやるのでないならば、うかつにやらないほうが良い。我々の仕事は盗撮を行うことではないからな」
「でも、それだけ相手に関しての情報を調べ上げている方が、よりやばい行為では?」
「………」

 正論を言えるぐらいなら、まずこの仕事に就くな。
 そう叫びたい者たちが多かったが、それを認めると今の自分たちは何をしているのかと思わず考え込みたくなるために、誰も何も言えなかったのであった…



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