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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.1-76 企みごとは、コバエのように

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「ABAB右左上の『バクシンストライク』!!」
「左上右下3連打Aの『どろどろボンバー』!!」

 お互いにコマンドを打ち終え、操作していたキャラの最後の一撃が解き放たれる。
 何度もぶつかり、相殺し、隙を見て一撃をとやっていたが、どちらもぎりぎりの状態まで勝負が拮抗していた。

 この一撃で、勝負が決まるかと思ったが…

『両者・勝負あり!!同時消滅により引き分け!!』
「「あああああああああああああああ!!相打ちで終わったぁぁぁぁ!!」」

 残念ながら、世の中勝利の女神というのはそうたやすく微笑むことはなかったようで、まさかの引き分けになってしまうのであった。



「はぁ、せっかく良いところまで行ったけど、引き分けかぁ…」
「うーん、負けなかったのは良いけど、勝ってもないのが微妙なところだよね…」

 熱中していたのでお互いにのどが渇き、適当のゲーセン内の休憩所で腰を掛けながら自販機で買った飲み物を飲んで喉を潤させる。
 久しぶりに対戦したので、できれば勝ちたかったが、お互いにちょっとブランクがあり過ぎたのかもしれない。昔だったらもっと早く勝負がついていたけど、拮抗しすぎたせいで相殺が多発して、削りがなかなか入らなかったのだ。

「あともうちょっとだけ余裕があったら、もっと強い一撃が入ったんだけどな」
「まぁ、うだうだ言っても仕方がないよ。勝負はついたからね」

 ぐぐっと前のめりで入力していたのでちょっと凝り固まった体をほぐしつつ伸ばすと、ミントも同じように手足を回してコリをほぐす。
 お互いに勝負に熱中できただけ、得られるものはあったと思えばいいか。
 しかし、できれば勝利をつかみたかったなぁ…普段そこまで勝ち負けにこだわることはないけど、彼女に負けたくないと思うところがあるので、ちょっと欲を出したのだ。

 その結果が引き分けとは…うーん、そう都合よく行かないのは残念だ。

「でもまだここには別の格ゲーもあるし、他の対戦ゲームもあるか」
「ダンシングバトル、てぇてぇの達人、ウニ叩き…色々あるし、勝負は他でも付けられるはず」
「それでどっちがより多く勝てるか、勝負しようか!」
「そうしよう!!…あ、春ちょっとまって。お花摘み行きたい」
「花?花壇とかは…ああ、待ってるよ」

 一瞬ありがちなボケが出たが、どうやらトイレのようだ。
 少し待つことにして、その間に春は次に勝負するゲームを定め始めるのであった…

「ミーちゃんと対戦して勝てそうなのはどれかな?普通に肉体を使うやつだと彼女に軍配が上がるし。できればさっきの格ゲーみたいなものとか、運要素的なもので…」








「…さてと、そろそろ良いかな」

 女子トイレに入り、用を足して手洗いをしながら、ミントはそうつぶやく。
 彼は気が付いていないだろう。昔から鈍感なところがあるが、こういうものを感じなくていいとは思う。
 
「どこの国のものかはわからないけど…今、あなたたちは私を襲おうとしているでしょう?または、もっとやばめの眠り薬でも使う気かな?」
「「「…」」」

 ミントの言葉が投げかけられる場所には、誰もいないように見えるだろう。
 だが、彼女はわかっている。既に、ここにいろいろな者たちがやってきているということを。


「でも、残念。私は今日、春と一緒にいっぱい遊ぶからね。その時間を割く気はないんだよ」
「「「…!!」」」

 気が付かれているのであれば、姿を隠し気配を隠す意味もない。
 ボーイッシュな令嬢に見えるが、所詮は一人であり、多勢に無勢のはずである。
 用意していた薬もいくつかあるので、これだけの手を持っていれば多少の犠牲が出るかもしれないが、それでもどうにかなると思った者たちが動いたが…



―――パチン









「うーん、さっきの対戦のほうがよっぽど歯ごたえがあったけど、こっちはないね。まぁ、このまま倒れていても迷惑になるだけだし、ちょっとは片づけておくよ」

 彼らの耳に入ったのは、邪魔なごみを片付けるだけのような何の気にも留めていない軽い言葉。
 何が起きたのかすぐに理解はできないが、全員既に地に伏せているということだけはわからされてしまう。

「私はね、こう見えてもいろいろやっているから、狙ってくる人たちがいるのはわかっているけど、せっかくの彼との遊び…いや、デートかな?せっかくだからこの機会に色々と距離を詰めていきたいけど、邪魔をするなら、それ相応の代償をお願いするね」

 最後に聞こえたのは、襲撃対象が何かもっとやばいものだということを本能的に理解させられるような意図が見える言葉。
 だが、倒れてしまった彼らに抗うすべはなく、その場で代償を支払われてしまう、
 襲う覚悟は確かにしていたのだろう。けれども、その覚悟は今、全てが無に帰された。



「ごめんごめん、春、待ったかな?」
「いや、待ってないよ。ほんの数分程度だったからね。それよりも今は、次に対戦するゲームで遊ぼうか」
「うん!!今度は私が完全勝利をつかみ取るよ!!」
「いや、僕のほうが今度は勝つからね!!」

 お互いに撥っと火花を散らしつつも、楽しむように笑いながら、次のゲームへ向けて歩みだす。
 その後方では、失われた者たちがいたのだが…誰一人として、気が付かれることはなかったのであった…



「さて次は、こっちのてぇてぇの達人で勝負!!」
「定番のリズムゲームみたいだけど、負けないよ!!音感は良いからすぐに対応できるよ!!」
「…ミーちゃん、音感良かったっけ?良かったら昔のあの悲劇、今もなお母校で語り継がれているという『ヘルゲリラの悲劇』は起きなかったと思うんだけど」
「歌唱力とリズムを感じ取る力はまた別だよ!!というか、語り継がれているって初耳なんだけど!?」
「この間、帰省した際の帰り道であのガキ大将だった奴にあってさ、語り継がれているって聞いたんだよ」
「あいつか…うーん、間違いを訂正してもらうために、今度襲撃こほん押しかけて披露しようかな?」
「それ、絶対にやめてね。確実に巻き込まれるから、ふりじゃなくて、本気でやらないで」
「は、春…目がちょっとマジになっているんだけど…」

…しいていうのであれば、彼女の歌を聞いていたほうが、まだ幸せな末路だったのかもしれないと思う者たちがいるぐらいだろうか。
 いや、これはこれで地獄だと叫ぶ者もいるだろうが…とりあえず、何でもできそうなミーちゃんでも、完ぺきではないものは存在しているのであった。
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