上 下
279 / 718
Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.1-67 うそぉぉん、と叫びたくもなる

しおりを挟む
(最悪だな…)

 せっかく久しぶりに親の仕事も片付き、別の便を使って違う場所に母は向かうが、自分は故郷への帰国ついでに従兄の春との再会を楽しみにしていた本日、花帝ミントは最悪な状況に巻き込まれていた。
 この国は基本的に諸外国に比べて安全だという話があるが、それはあくまでも国内の話。
 国外からやってきたものが安全であるというのはなく…どこかでチェックが甘ければ、ぬるりと入ってきてしまうこともあったようだ。

 そう、今まさに目の前で、ハイジャックが起きてしまったことがその最たる例になるだろう。
 

「全員、おとなしくしているがよい」
「安心しろ、我々の目的が達成されてしまえば、諸君らは無事に解放することを約束しよう」
「交渉している政府関係者側が破れば、命の保証はないがな」

 そう口々に言いつつ、銃口を向けるハイジャック犯たち。
 着陸し、ようやく大地を踏めると思っていた中で、突然動かれてしまい、全員なすすべなく人質として囚われてしまったのは最悪だろう。

(…犯人は10人ほど、全員にわかるように話しているけれども、イントネーションの訛りが見えるところから、どこの国か推測もできるか)

 母の仕事に付き合って、一緒に諸外国を見て回っていたこともあり、大体の人の話す癖に関しては理解していた。
 だからこそ、彼らがどこの国出身なのか分かるが、その情報だけでは意味がない。

 自分一人だけが人質であれば、問題ないのだが…いかんせん、ここは機内の中であり、人質と一緒に囚われている状態。
 多少の犠牲を覚悟するならば動けるかもしれないが、うまくいかなかったときのリスクを考えると不味いだろう。仮に助けられる人がいたとしても、行動を起こしたことで犠牲を出した人として叫ぶ者もいるだろうし、自ら動くメリットもない。

「お、お前たちの目的はなんだ…なぜ、我々を人質にとるんだ!!」
(そこ、確かに気になるよね)

 考えていると、人質の一人が恐怖を忘れたいのか、出ていた疑問を叫ぶ。
 彼らはこの機体をハイジャックしたが、何を目的にしているのかは確かに気になるところだ。
 それに、空の上にいる時ならばまだしも…陸についてからのハイジャックというのも何か意図があるのだろうか。

「ふむ…諸君らが疑問に思うのも無理はないだろう。今、外と交渉しているが、せっかくだから我我々の目的も話しておくか」
「我々はただのハイジャック犯ではない!!目的あるテロリスト『政治蚊取り線香』だ!!」
「ここで人質を取り、交渉している目的は4つ!!まずは、過去に捕まっている我々の仲間たちの釈放だ!!」
「次に、今世の中にいる政治家全員の総辞職(退職金無し、天下り無し)!!」
「続けて腐った世の中へ活を与えるため、緊迫感溢れる世の中にするため、全世界の発電所を爆破するための爆弾の調達!!」
「そして最後には…世の中の美男美女の基準を今一度まっ平にするために、全人類統一のっぺらぼう整形手術を施すための資金もしくは技術の確保である!!」

「「「…テロという割には、やろうとしていることが意味不明なんだけど!?」」」

 ハイジャック犯改め、テロリスト政治蚊取り線香の人たちの主張に対して、人質全員の心と声が一つになる。
 一つ目、二つ目はまだ理解できるだろう。三つ目も一応、テロリストという名称を使っているのであれば、やらかすものとしては確かにおかしくはないのかもしれない。
 だが最後のはどうなのか…全員統一されたのっぺらぼうになるとは、面白味がないというか、違った意味での平和になるような気がしなくもないが、意味不明すぎる目的である。人質を取っても実行できなさそうな無理難題にしか思えないだろう。

「そもそもなぜ、そんな名称に…」
「飛んで火にいる夏の虫という言葉を、聞いてな…欲望という名の破滅の業火に導かれて自ら燃える道を突き進む虫もとい人々をイメージできたから、この名が付いたのだ」
「蚊と政治家の家の読み方を合わせたのもあるが…まぁ、別に政治家だけを狙うものでもない。欲望には隔たりがないからな。正直、2つ目に関しては政治家だけではなく、企業の社長なども当てはめることができたが、まずはできるところからコツコツと進めようと思い、狙う標的をこっちに定めただけなのだ」
 
 くだらない結成名理由も聞こえて、呆れるしかない。
 こんな人たちに、私たちが捕まっているのか…なんだろう、ちょっと情けなく思えてきた。

「ふふふ、だが諸君、安心したまえ。別に全部をかなえろと、今回のハイジャックで要求しているわけではない」
「流石に全部をやるには厳しいが…難易度を考えると、1つ目の解放のほうが望みが高いからな。あえて難しいものを混ぜることで、相手に選ばせて確実にできそうなものからやるのだ」
「本当はすべてやってほしいが…とりあえず、1つでも達成されたら我々はすぐに逃走予定だ。その時は諸君らを解放しよう」

 意外にも考えていたようだが、そううまくいくものだろうか。
 こんなことを言っているが、仮に達成してここで助かったとしても、また後で同じような騒ぎを起こす可能性が目に見えるだろう。
 かといって、私自身が動けるわけではないし…どうしたものか。ああ、従兄に会いに来たというのに、なんでこんな目に遭うのか…ここに春がいたら、もっとうまいツッコミを入れていたかもしれない。

 そんなことを思いつつも、何か手立てがないか私はおとなしく捕まるふりをしながら、行動を起こす機会がないか探り始めるのであった…


「…あのー、質問なんですがいいでしょうか」
「暇つぶし程度になるなら良いだろう。何かあるか?」
「一番最後ののっぺらぼう、皆さんそこまで顔が悪いとは思えないのですが…」
「「「…」」」

「…そうなんだよ。いっそひらきなおった不細工、ブスなんかだったらまだ説得力があっただろう」
「我々は確かにそこまでではないのだが…そう、漫画やアニメで例えるならばモブ顔でちょっと上というような類だというのを理解していてな」
「それでも世の中にはびこるイケメン・美女との差を見せつけられるから、滅茶苦茶むかついているんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

…何名か涙を流しているし、血の涙まで出している人がいるのはちょっと怖いかもしれない。

「おおぉぉん!ガルンさんバルンさん!!見事にフラれた苦い記憶がぁぁぁ!!」
「ナポリタン君ハバネロ君肉団子マシュマロ君に、好みじゃないといわれたあの悲しみがぁぁぁぁ!!」
「オンラインゲームをプロポーズしようとしていた人とやっていたけど、ぽっと出てきた女神の信者になってちょっとムカついたから悪く言ったら激怒されてビンタされた傷がぁぁぁぁ!!」


しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...