アルケディア・オンライン ～のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです～

Ver.4.0 ～星々の輝き、揺らめく境界～

ver.4.1-57 久しぶりの実家帰省

…週末、土日の休みの間はアルケディア・オンライン内でもう少しシアの確認を行いたかったが、トーカ…妹の冬華の誘いもあって、久しぶりに春ハルは日帰りの帰省を行うことにした。
　思えば、就職してからずっと帰省することがなかったが、仕事が忙しかったことやオンラインにのめりこんでいたのもあったし、たまにはこういう息抜きがあってもいいだろう。

「でも、冬華のメールを見て帰ってきたわけだけど…本当なのか、父さんがTVに出ようとしたら腰をやっちゃったていう話」
「うん、間違いないよ。お父さん宛てに、世界筋肉協会から話があったんだって」

　そんな字面だけでどういう協会なのかツッコミどころ満載なところもあるが、それはさておき、まさかの身内のTVデビュー話となれば他人事ではないだろう。
　
「それで、収録日まであと数日ほどなんだけど…ぎっくり腰になったんだよね」
「あの病気や怪我を負うことがなさそうな、筋肉魔人と言っていいような父さんがぎっくり腰で倒れるって…」

　ぎっくり腰って軽いものとかでも起きたりすることもあり、なってもおかしくはないのかもしれない。
　けれども、あのウルトラ健康筋肉だるま男と言っていいような、ケガや病気と縁がないような父さんがなるとは流石に予想できていなかった。

　そのため、見舞いも兼ねて道中で腰に効くシップもお土産として買ってきたわけだが…効くかな、これ？これがオンラインの中なら薬草で一発で治りそうなのに、現実はそう簡単にいかないのが歯がゆいところだろう。

　そう思いつつも駅で妹に出迎えてもらって一緒に歩き、久しぶりの実家に到着したわけだが…
　


「…なんか、ちょっと大きくなってない？2階建ての普通の一軒家だったはずなのに、なんか1階増えているんだけど」
「オンラインのサービスで執事も雇えるし、それに今度モンスタードールが発売されるからってことで…母さんが金に糸目をつけずに、増築したのよ」
「あー…なるほど」

　親戚の中には大金持ちになっている人もいるようだが、両親にはその感じが見られない。
　でも実は、母さんのほうはいくつかの企業勤めのバリバリのキャリアウーマンだということは聞いており、趣味がその、なんというべきか、ちょっとあれな人だが…無駄に浪費することはなく、稼ぎもあるのでやってもおかしくはないだろう。
　ただ、見ない間に上へ伸ばす増築とは…いや、これちょっと違うな。

「まさかとは思うけど、3階建てにしただけじゃなくて、地下室も作ってないか？」
「いや、そっちは母さん関係ないよ。父さんがまだ腰に異状なかった時に、建築士さんたちと相談して、自分で作った地下室が追加されたぐらいなのよ」
「関係なくともどっちにしろ増えているじゃん…」

　何はともあれ、久しぶりに玄関に踏み入れると…以前は見なかったものが、出迎えてくれた。

【おかえりなさいませ、お嬢様と…ご子息様。到着予定時間ぴったりでしたナ】
「…えっと、どなたでしょうか」
【おお、これは失礼をいたしましタ。わたくしは、主様に使える使用人セバスティアンでございマス。アルケディア・オンラインの使用人サービスで、執事の仕事を請け負っておりマス】

　出迎えてきたのは、まさかのナイスミドルな見た目の執事セバスティアン。
　どうやら母さんがオンラインのほうで雇っている執事のようで、現実でも使える使用人用のボディを購入していたらしい。

「残念ながら、私のほうのシーサーはいないのよ。まだ中三の私には、早いって言って買ってくれなかったのよ」
「まぁ、普通に考えたら男女同棲になるようなものだしなぁ…」

　妹の使用人の執事のシーサーは知っているから、間違うようなことはないとは思う。
　というかそもそも、アルケディア・オンラインの使用人自体が何か間違いを起こすようなことは無しないとは思うのだが、それでも年齢を考えるとちょっと制限したのだろう。
　いや、母さんの私利私欲的なところも見えるが…そういえば、オンライン内で両親の姿を見ることはないな？やっている時間帯が違うのもあるかもしれないが、どれだけやっているのだろうか。

　そこも気になりつつも中に入っていけば…


「おー！！息子よ、久しぶりに帰ってきたなぁ！！」
「あらあら、お帰りなさい。そしてあなた、喜ぶ前に安静にして寝てなさい」
ドグゥ！！
「ぐぶっ！！」

「…久しぶりに見たなぁ、このやり取り。見て帰ってきたって感じがするよ」
「起きようとしたお父さんを肘で寝かせるお母さんの光景で思うのは、どうなのかと思う時もあるけれどね…」

　妹のツッコミは聞かなかったことにする。仕方がないだろ、家を出る前までこういうやりとりは何かと日常茶飯事だったんだから。
　両親ともに今もなおラブラブカップルと言っていいのだが…少々肉体言語的なものが混じっているのは普通の光景だと思い込みたい。
　そう、目の前で口から魂がひょわぁっと出かけて気絶しているような父の青葉巌いわおと、その父を一撃で沈めた母の青葉美見みみのやりとりは、何の変哲もないことだと思い込みたい、
　重要なことだから、2回思い込みたいとつぶやいた。

　とにもかくにも、久しぶりの実家に今、ようやく帰省してきたんだと実感するのであった…



【いや、これが普通なのはおかしいとは思いますヨ】

…なんだろう。家のほうに留守番を頼んできたロロのツッコミが聞こえてきたような気がするぞ。