アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.3.0 ~動き始める大きな世界~

ver.3.2-67 一応、アウトの可能性はあったらしい

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【あの、ご主人様。ミントは虫よけの効能のもあるので、モンスターとは言え虫が嫌う可能性の高いものになってましたヨ】
「え、本当!?全然知らなかったんだが!!」

‥‥‥ハウスシステム内の一室にて、ロロにそう告げられて驚かされた。
 彼女曰く、どうやらミントはハッカなどの名称があるようだがその類は虫よけの効能もあるらしく、虫系統のモンスターに対しては忌避剤の役目も果たしかねないものだったらしい。
 だがしかし、偶然というか今回テイムできたプチワームのネアはミントに対しての耐性を持っていたどころか好物になっていたようで、ギリギリセーフだったようだ。

【---♪】
【むしゃむしゃと、原料のミントの葉‥‥‥アルケディア・オンラインでは『虫よけスプレー:小型のサイズまでなら対応可能』なアイテムの素材になったりするのですが、美味しそうに食べてますネ】

 ネアはそんな効能も無視できるようで、美味しそうに食べているようだ。

 テイム後、ちょっと用事があるそうなのでログアウトしたアルスさんたちとお別れした後に、せっかくおやつの一つを出したのだから、皆で何かおやつパーティでもしようかなと思ってハウスシステム内に来たわけなのだが、こうも美味しそうに食べる様子は中々微笑ましいものがある。
 でも何だろう、この感じ。絵面としては与えた餌を食べてくれてほっとしたような‥‥‥あ、これ虫の飼育日記を書いている感覚に近いかもしれん。

 そう思いつつも見ると、まだまだ食べ続けているようだ。

「‥‥‥あれ?ネアに効果が無いというけど、耐性があるからってことで良いんだよね?」
【そうなりますネ】
「となると、耐性がある大型の虫のモンスターが襲ってくるようなところだと、虫よけスプレーがわりになるような物ってできなかったのだろうか」
【現状、無いデス。小型・中型ならまだしも大型の方が基本的に各種攻撃に対しての耐性がある傾向が見られますからネ。虫だから安直に火を使えばいいじゃんと思って攻撃して、被害に遭った報告を他の使用人から聞いてますヨ】

 既に被害に遭った人がいるようだ。
 まぁ、無理もないだろう。大抵のゲームってそのあたりの弱点をしっかり出しているけど、このアルケディア・オンラインでは常識が通用しないことがあるからね。
 いや、しないことがあるというよりもほとんどないというべきか‥‥‥むぅ、何とも言えない。

【シャゲシャゲ、シャゲェ】
「そう言えば、ミントの葉を食事した際の進化先って何があるんだろうね?」

 もぐもぐと本日のおやつ『ミントクッキー』を食べながら疑問の声を上げたマリーに同意して、僕もそう口にした。

【そこは不明ですネ。こういう食事によって先が変わる系統は読みづらいところがありますからネ。使用人ネットワークでも調べましたが、プチワームをテイムし、進化させた例を聞きましたがバラバラでシタ】

 ロロ曰く、実はすでにプチワームに関してはその糸を出してくれる性質を知ってテイムしている糸使いの職業になったプレイヤーたちがいるそうで、共同研究のような形になっているところもあるらしい。

【ALを食べさせてみたところもあるようで、進化した結果ALは流石に出ませんでしたが、黄金の糸を出すようになったものもあるようデス】
「そんなやつもいたのか‥‥‥」

 というか、割と何でも食べているような気がする。テイム条件から考えると常識的なものをあげようと考える人も多いそうだが、中にはぶっ飛んだものにする人もいるようだ。
 まずこの世界の通貨でもあるALを与えようとする発想はどうなのかと思うが…‥‥あれか、なんかこう歴史の教科書で見る様な、お札に火をつけて明かりを取る成金のようなプレイヤーでもいるのだろうか。

 なお、そのプレイヤーに関しては後に黄金の糸の価値に目がくらみ過ぎて色々と欲深くなってしまい、結果として相当やらかしてテイムモンスター全員が逃げ出したうえに、テイムが二度とできなくなる称号が付いてしまったというオマケの話も合った。酷い末路だ。


「何にしても、こっちはこっちでどうなるんだろうなぁ。香り付きの糸にでもなるのだろうか?」
【ガウガウ、ガウゥ】
【バルルルゥ】
【それはそれで良いですよネ。衣服に使えれば中々良さそうです】

 ミントの香りは爽やかだし、涼しげな感じがする。
 熱い場所に向かう時に使えれば、気分だけでも非常にいい効果をもたらすだろう。

「でも、そんなにないんだよなぁミントの葉。代わりになるものって何かないかな?」
【これ、一応モンスターからのドロップ品ですからネ。NPCの店でも売ってますが、栽培は不味い類なのデス】
「というと?」
【これ、花壇系の栽培アイテムでは使用禁止設定がされているのデス。現実世界のものと類似させているのですガ、いらない部分までしっかり再現していたようで、きちんと万が一に備えて対処もしているようなデス】

 何にしても、代わりの餌も考える必要があるようだ。
 テイムしたとはいえ、出来ればそこまで不自由なく自由に過ごしてもらい、糸をしっかり出してもらえればいいのだが、こういう場合は誰に相談するべきなのだろうか。





「というわけで、虫なら虫に聞けという事で相談しに来ました。カイザーシルクワームさん」
【なるほど、確かに最適な回答ではあるな。虫なことは虫だからな】

 久しぶりにというか、あの鏡面のじゃロリ騒動序盤で出くわしていた巨大蚕‥‥‥カイザーシルクワームさんのところに僕らは来ていた。
 なお、近くにのじゃロリ&その妹もいたりするのだが、そちらは今何やら大樹の村での祭事が近く開催されるようでその準備に追われているらしく、挨拶はできなかった。ただ、鏡面のじゃロリにとられたままの身体に関してはそろそろめどがつくそうで、そちらの方の準備もしているらしい。


【---?】
【ふむ、プチワームか。種族は違えども、同じ虫。良いアドバイスなら可能だ】
「本当ですか?」
【ああ、間違いなくな。そもそもそうでなければ、皇帝の名を持つモンスターにもなっておらぬわ】

 カイザーシルクワームさん曰く、自称孤高の皇帝なども名乗っておきながら、実は同じような虫のモンスターの育成問題に取り組んでいたりするそうだ。

【何しろ、幼き幼虫時代を持つ者たちにとって、餌は死活問題にもなりうるからな。わがままな者ほど食べられる餌は限られてしまい、十分に栄養を取れずそのまま天に召されてしまうものもいるのだ】

 虫のモンスター、特に幼虫の過程を持つ者たちにとって餌は非常に重大な問題になることがあるらしい。
 大抵の場合はきちんとその種族にとって好物になるような場所に産まれるようになっているそうだが、時として受け付けることができないものたちもいるらしい。

【その為、各虫モンスターによって色々と模索し‥‥‥代用品の餌となりうる葉を用意することが出来た】

 そう言いながらカイザーシルクワームさんはごそごそと部屋にあったタンスを探り、何かを取り出した。

「何ですか、これ?」
【これは我々の餌問題を解決する魔法の粉。ああ、怪しい薬物とかではなく、きちんと巫女たちの許可も得て作り上げた『世界樹の粉末』だ】

―――――
『世界樹の粉末』
制作評価:15
効果:ファンタジーでは王道のような世界樹と呼ばれるような木々から作られた、特殊な飼料。
様々な薬剤と枝葉を混ぜ合わせ、特殊な工程を経て作られたものであり、これをその辺の葉っぱに振りかけるだけでも、多種多様な幼虫たちにとって食用可能な代物に変える事が出来る。
―――――

「なんかとんでもないものが出てきたんですが!?」
【驚くことでもあるまい。プレイヤーやNPCと呼ばれる者たちがアイテムを作るのであれば、モンスターに造れぬ道理はない。材料がいささか貴重すぎるので量産はできぬが…‥‥ふむ、お主らの特殊な事情は先日の騒動でも知っておるし、譲るのにも問題はないだろう】

 くははと笑うように体を震わせる巨大な蚕。そんな貴重なものを出してくれていいのだろうかと思ってしまう。

―――――
>カイザーシルクワームより、取引が持ちかけられました。
>『世界樹の粉末』を受け取りますか?
―――――

「あの取引と出ましたけど、こちらから何か対価も出しましょうか?」
【いや、いらぬ。種族は違えども同じ同胞を育てる手助けになるのであれば、それで良いのだ。ただし、あえて対価というか条件を付けるのであれば、確実に育てよ。途中で放棄したのであれば…‥‥その時は、蟲地獄が待っていると思え】

 気になったので問いかけてみれば、雰囲気を切り替えてそう忠告するカイザーシルクワームさん。
 そこはしっかりとやってもらいたいそうで、ご丁寧に内容に関してもログに表示された。

―――――
『蟲地獄』
蟲毒と呼ばれる呪術に似た方法で、その環境に放り込まれるお仕置き。
なお、プレイヤーに対しては通常行われることがなく、確実にトラウマを刻み込むことになる。
この地獄に入り込むには、相当なやらかし…‥‥例えば、全ての森の放火などの悪逆非道をやらかした場合に限られており、今まで3人程度しか入ったことが無いとされている。

>取引内容として、『育児放棄をしない約束』を差し出すことになります。破られた場合、放り込まれます。
>よろしいでしょうか?

>‥受諾されました。これにより取引が成立しました。
―――――

 ちょっと考え込んだが、放棄するような真似は絶対にしない。
 しっかりと命を持ったのであれば、最後まで責任を持つ必要があるのは当然のことだろう。

 とりあえずは、当分の間この粉を貰いつつ、プチワームの育成に集中することになりそうであった‥‥‥

【ついでだ、巨大甲虫王者にも会っておくか?ちょうどこの後、一緒にお茶会をする約束をしているのだ。好きなものは意外に多いと聞くからな】
「あれ?皇帝の名がつくのに他にも王が付くのもいるのか?」
【いるとも。そもそも我が名はカイザーシルクワームであり…‥‥シルクワームの中の皇帝ともいえるが、他の虫の王の名を持つ者もいる。海には巨大ダンゴムシ王者もいるからな】

 それはそれで何だろうと疑問を持つ。ダンゴムシに近いならダイオウグソクムシってのがいると聞くんだけど‥‥‥何か違うのだろうか?








…‥‥一方その頃、とある島の浜辺に流れ着いた者たちがいた。
 片や、恐怖の女帝政治から逃げのび、片や目的地を目指す壊れかけている自覚のないもの。
 その両者は海に出たのはいいのだが、嵐に巻き込まれてしまい、その砂浜に流れ着いたのである。

「おううう‥‥‥凄まじい、嵐だった」
「うぐぐぐ‥‥‥お主の方も、同じものに巻き込まれたのかのぅ」

 お互いに知らないのだが、それでもどうやら同じものに巻き込まれたのだと理解し合い、無事でいる事を喜び合う。
 今ここに、新しくおかしなコンビが結成されようとしているのであった…‥‥
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