上 下
151 / 718
Ver.3.0 ~動き始める大きな世界~

ver.3.0-22 口は禍の元と、誰が言ったのか

しおりを挟む
 妖精郷に突然起きた緊急クエストによって、滞在していたプレイヤーたちはすぐに動き出す。

 どう考えても放置できないクエストではあるし、何事なのかという情報も速くつかみたいのだ。

「とはいえ、妖精郷外部との連絡とも取れないし、ここでは自力でやっていくしかなそうだけど‥‥‥ふむ、結界と言うのはあれかな?」

 こういう大掛かりな結界なんてものは、プレイヤーでは張れそうにはない。
 周囲にバフやデバフをかける陣みたいなものは開発されており、扱える人もいるようだけれども、全体を覆うような類はできなかったはずである。

 だがしかし、張れずとも仕掛け自体は単純なもののようで、クエストをよく読むと結界石という道具が必要であり、見方を変えれば特定の位置に置くことで発動する罠のようなものでもある。
 罠ならば、ソロプレイで色々と張ってきた経験があるので、大体の見当がつきやすく‥‥‥思い切って経験便りで進んでみれば、案の定結界石の一つが置かれている場所にたどり着けた。

「でも、あれは聞いてないなぁ」

 ただ単純に石を壊して達成できるのであれば、妖精郷中のプレイヤー全部を集わせる必要はない。それなのに、こうやって読んできているという時点で嫌な予感はしていたが、どうやら的中してしまったようだ。

【グルルルルルクァァァ!!】
【ワオワオオオオオオオン!!】

‥‥‥流石に妖精郷のイメージを壊す気はないのか、ある程度の巨大な毛の塊が頑張って鳴いているようにしか見えない光景。
 結界石の周囲には巨大なポメラニアンのようなモンスターが数頭ほどうろついているようで、どう見てもあの石を守る番人、いや、番犬として置かれているようだ。

 こちらから攻撃しなければ襲ってくることは無さそうだが、妖精女王が直々に設置した番犬となれば、あの容姿からは想像しにくいような強さを持っている可能性がある。
 なので、ここで下手に挑めば確実にやられるだろうが…‥‥あくまでも正攻法・・・でやった場合の話だ。


「他のプレイヤーと挑むのも良いけど、ここに来れる条件を考えると人数が少々心もとないし、減らすためなら仕方がないよね」

 相手が犬ならば、思いっきり取れる手段はある。





―――――
※特別翻訳【犬語】

【グォォォン!!(妖精女王様の命令とは言え、ここを襲撃するものがでるまで待つのは暇だな)】
【キャンキャン、キャン!!(てやんでい、役目を果たすまで気は抜けないでっせやろ!!】
【ワンワンアーン(でもまぁ、やってきたとしても、このポメラフェンリル、チワワンワニ、ザッシュツインヘッズがいれば、何も心配ないでしょ。他にはプードルケルベロスなんかもいるしね)】
【【グォンキャンワン((それもそうだな))】】

 うんうんと頷き合い、念のために油断せずに周囲を警戒する犬たち。

 妖精女王のしもべとして働いている面々だが、こういう時程度しか戦う機会はないので、これはこれで新鮮なのでしっかりと役目を果たそうというやる気はみなぎっていた。

【ワオーン(それにしても、さっき誰か近くまで来ていたけど、何だったのかな?引き換えしたっぽいよ?)】
【キャンキャン、キャー(仲間で呼びに行ったんやろうなぁ。この面子に一人で挑む阿呆なんてそうそういないやろ)】
【グォォォン、グォォォン(ま、来たら返りうちにして見せよう!!そして我らが妖精女王様が、封鎖してまでやってみせた今回の企みが成功するのを祈るのだ!!)】
【キャンキャン(成功するかは不明やけどな。あの面子、魅了とかも効かないし、時間かかりそうやなぁ)】
【ワンワンワーン(かかってもいいから、できれば楽になってほしいかも‥‥‥おや?)】

 話していると、ふとポメラフェンリルが何かに気が付いた。

【キャン?(どうしたんや?)】
【ワンワン、ワーン(なんかあっちの方、良い匂いがするよー!)】
【グォォン(あ、おいこら待て!!)】

 すたこらさっさとかけ始めた犬を追いかけ、他の面子もすぐに追う。
 結界石の側を離れるのは不味いと思っていたが、どうやらそこまで遠くもなかったようで、直ぐにその匂いの源にたどり着いた。



【ワンワン、ワォォォン!!(あ、見つけたよ!!あれだ、あれ凄い良い匂いするよ!!)】
【グォォォォン(む、確かにするが‥‥‥何だ、あのでっかい肉?)】
【キャンキャン(あからさますぎる怪しさが罠っぽいのやけど。いや、でもここまで堂々たる罠があるんやろうか?】

 彼らが辿り着いたところにあったのは、巨大な漫画肉のような肉が鎮座していた。
 しかも一つだけではなく、いくつも用意されており、順番になっているかのように大量にあった。

【ワンワーン!!(いっただきまーす!!)】
【キャン!(おい待てやこののんき野郎!!)】

 止める間もなく、あっさりとバクンと肉に食いつくポメラフェンリル。
 罠っぽいからやめろと他の者たちは止めるが…‥‥どういう訳か、何も仕掛けられていなかった。

【ワオワオワオーーン!!(なにこれ美味しい!!うめぇめうめぇ!!)】
【グォグォォォン‥?(わ、罠ではないのか?全然何もないんだが)】
【キャンキャン?(仕掛け忘れているとかなんやろうか?)】


 用意された怪しいお肉に疑問を抱くも、何も異常のないポメラウルフを見てごくりと肉に対して他の犬たちも唾をのむ。
 そして恐る恐る、かぶりつき始め、直ぐに何もないとわかると食べ始めた。

【グォォン!!グォォォン!!(なんだこれ、すっげぇぇぇうめぇぇぇ!!)】
【キャンキャンキャン!!(ほんまや!!罠でもなさそうやし、天の恵みやんけぇぇぇ!!)】
【ワオワオーン!!(みんなの日ごろの行いが良いからかなぁ!!)】

 ガブガブバグバグと勢いよく食べまくり、次々に用意されていた肉は喰いつくされていく。

 そして数分後には、その場にはさらに巨大な毛の塊と化した犬たちがいるのであった。


【ワオォ、ゲップ(おっと、食べ過ぎた‥‥‥)】
【グォォン(美味かった‥‥‥日頃の行いが良いと、こんなこともあるんだな)】
【キャンキャンキャン(っと、いかんいかん、役目を守るためにさっさと持ち場にもどるで)】

 毒や眠り薬が仕込まれていたとかはないようで、満腹になったお腹をさすりつつ立ち上がった時、ふと一頭はある事に気が付いた。

【キャン?(ん?ポメラ、そんなに毛深かったっけ?)】
【ワオ?ワオワオワオ(あれ?他のも、そんなにモフモフだっけ?)】
【グォォォン(おい、よく見ると全員‥‥‥増毛しているんだが。しかもなんか伸び続けてないか!?】
【【【!?】】】

 ふと気が付いた異常に目を見開くも、時すでに遅し。一瞬のうちにぐんぐんと体中の毛が伸びまくり、超巨大な毛の塊へと化していく。

【【【キャイィィィィィィン!!(((やっぱり罠だったぁぁぁぁぁぁ!!)))】】】

 後悔しても、やってしまったことはやり直しようがない。

 食べた時間よりもさらに短い時間で、あっと言う間に超巨大なケセランパセランのような姿へと成り果て、彼らは自分達の伸びすぎた毛によって身動きが取れなくなるのであった…‥‥

―――――


「‥‥‥良し、毒とかそういう類なら匂いで見分ける可能性もあったし、使って良かったかもね」

 時間が少々かかったが、それでも作戦が成功したことに僕はぐっとこぶしを握り締め、笑みを浮かべていた。

 罠にかける手段は考えていたが、よく訓練された犬は毒なんかもすぐに見分ける可能性あがり、そうやすやすと都合が良い薬は使用しづらい。
 だがしかし、体の害になるような類でなければ、判断するまでに少しかかる可能性もあり、なおかつ気が付かせるまで時間がかかるような時間稼ぎをするのであればと思い‥‥‥錬金術の中で、うっかり失敗して作った『超増毛薬』を仕込んだのだ。

 効果は読んで字のごとく、物凄く毛が伸びる薬。ただし、増毛とは言え頭髪限定ではなく、鼻毛やまつ毛、体のありとあらゆる毛が爆発的に増加するので使い物にはならず、懐にしまっておいた。
 捨てておくのももったいなかったし、何かに使えないかなと思っていたが‥‥‥まさか、こういう形で役立つとは思わなかった。

 まぁ、本当に作りたかったのは増毛ではなく高身長薬なんだけど‥‥‥この少年のような見た目のアバターよりも、できれば現実の方の大人の身体に成れるような薬を目当てに考えていた奴の失敗作だったとはいえ、モノは使いようだった。

 何にしても罠に使えるかもしれないと思って、仕込んでみたら見事にかかってくれたのはありがたい。あの漫画肉のようなものは見た目がまさにそれだったので、面白そうだと思って購入していたことがあり、時間があれば切り分けてロロに調理し直してもらおうかなと思っていたが、これはこれで薬に気が付かせないように都合のいい時間稼ぎになってくれたようである。


「さて後は、守りが無い結界石を砕くだけっと」

 懐から鉱石を砕く用のハンマーを取り出し、軽くたたいて見れば、あっけなく結界石が砕け散った。

―――――
>プレイヤーの働きにより、結界石の一つが消滅しました!!

結界石:4/5
―――――

 どうやらログの表示を見る限り、あと4個は同じようなものが点在していると見て良いようだ。

「他にも同じような番犬やらなんやらがいるかもだけど…‥‥他のプレイヤーと協力しつつ、罠にもはめてやってやろうか」

 ここ最近は女神になったり魔法少女になったりすることばかりだったが、久し振りにゆっくりと自分のやりたいように行動出来て結構楽しくなってきた。
 とりあえず今は、クエストをクリアするためにも様々なトラップを用意することにしたのであった‥‥‥



「‥‥‥それにしても、まともに戦うのは大変そうな相手を配置するとは、妖精女王とやらも本気なのかな?でも、悪魔と堕天使に対して、何で使ったんだ?」

 文字面を見ると、相手を追い返すためにならまだわかるのだが、ここに捕縛するためと言うのは本当にどういうことなんだろうか‥‥‥?

しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...