上 下
148 / 718
Ver.3.0 ~動き始める大きな世界~

ver.3.0-19 妖精来るなら、他もあり得そう

しおりを挟む
カランコロン♪
『ワー客ダー!!』
『イラッシャイマセ、選ンデチョーダイ!!』
『早ク願イヲドウゾ!!』

‥‥‥天界にある妖精瓶詰の店『タルモン妖精店』。
 店内はここの話を聞きつけたプレイヤーたちでにぎわい、入ってきたお客に反応して瓶の中にいる様々な妖精たちが声を上げ、更に賑わいを増していく。

「うわぁ、事前に情報を得ていたとはいえ、こうやって実際に見ると凄いなぁ。店一面、あちこちの瓶の中に妖精がいるね」
「ううっ、一つしか購入できないのが、非常に惜しいかも!!」

 瓶の中を動く妖精たちの姿は、小さな小人や獣のようになっていたり、何処かのゆるキャラのようにデフォルメに近い姿になっていたりなど多種多様だが、基本的な共通点としてはどれもこれも可愛らしい姿をしているのがほとんどのようだ。

 プレイヤー一人につき一つしか買えない点をトーカは嘆いているが、この可愛らしい光景を見ると多く買いたくなる気持ちは分からなくもない。
 また、購入して10分以内に願いをしないと消えてしまう制限があるのもあって、一つだけの貴重品ならば記念になるようなものにしたいと悩みまくっている人たちにも共感できるだろう。なお、サイトの噂ではログアウトせずに現実で3日ぐらい徹夜した状態で悩んでいた人もいるようだ。
 そこにさらに悩ませるように、妖精たちは早くい願いを叶えたいのか自分を選んでほしそうにアピールしまくるので恐ろしく悶えている人も目にする。

「ふむ、こういう場所があるのじゃなぁ。森の中暮らしが基本じゃから新鮮でもあるのじゃが‥‥‥できれば、解放されて自由な状態で見たいのぅ」
「だーめ。そしたら絶対に逃げるでしょ?」
「逃げないと約束してもかのぅ?」
「うん!」

 即決され、もうだいぶ諦めた表情になりつつ拘束されているのじゃロリ。他のプレイヤーたちが誰なのかすぐに理解しているようだが、関わらないことを決め込んだのかすぐに場を離れていく。

…‥‥あ、ちょっとだけ今、ネットの掲示板に目を通したら『厄災振りまきのじゃロリエルフ、年貢の納め時か!?』という記事も作られているな。どんなことをしでかせば、こんなものが作られるのやら。


 とにもかくにも妖精の瓶詰店で少し悩みつつも、周囲で悩み過ぎて倒れている人も目にするので迷いを捨て、直感で僕らは選んだ。

『ワーイ!お買イ上ゲアリガトウゴザイマース!!』
『願イ、今スグニデモ叶エルヨー!!』

「ううっ、叶えた後にいなくなるのが非常に惜しい‥‥‥そうだ!!ずっと一緒にいて欲しいけど、そのお願いは駄目なのかな?」
『ダメダヨー!!』
『残念ダケド、コレハ決マリナノデス!!叶エタアトハ自由ノ旅ヲスルモノ!!』

 ずっと一緒にいて欲しいなどの願い事をした人がいた例はあるようだが、生憎その類は無理のようだ。
 妖精は少々飽き性なところもあって、同じ人の側に居続けるのも面倒になって来るし、そもそも願いを叶えるのは義務のようなもので、終えた後はさっさと自由に遊びに行きたくなるようだ。
 だったら普通に友達になって自由に遊びに来てという願い事もありかもしれないが、アルケディア・オンラインの世界は広大でもあるため、巡り合わなくなる可能性も大きいので、その類も無理らしい。

 何かと融通が利かないのはちょっと惜しいが…‥‥それでも、願いを叶えるという仕様のためには仕方がない犠牲なのかもしれない。



「だったら、初心貫徹でこのお願いにするの!!『可愛いものに遭遇する確率』を上げてください!!」
『遭遇率ノ上昇?ソレデイイノ?』
「うん!!」
『ワカッター!!叶エテアゲルヨ!!ヨーセーヨーセ♪ポポポンポン!』

 願い事を受諾したのか、瓶のガラスをすり抜け、トーカの買った妖精が彼女の頭の上を回り、呪文のようなものを唱えた。

―――――
>妖精による、願いの成就が確認されました。
>プレイヤー『トーカ』の『可愛いもの』へのエンカウント率が上昇しました!!
―――――

 願い事を叶えてトーカの買った妖精がどこかへ飛び去った。
 しっかり叶えたことをログにも示され、目を通したトーカの顔に笑顔の花が咲く。

「やったぁぁぁぁ!!これでより一層、可愛いものに出会えるよー!!」
『ウン、間違イナイヨ!!デモ、コレデヨカッタノカナー?』

 ぐるぐると回って小躍りしそうなトーカの横で、僕の買った妖精がそうつぶやいた。

「‥‥‥どういう意味?」
『エンカウント率上昇シタケド、他…‥‥アゲテナイヨ?』
「あ」

…‥‥そう言えば今、遭遇率の上昇だけだったけど、テイムできる可能性とかに関しては全くやっていなかった。
 どうも妖精に願いを叶えてもらうためには、できるだけ詳しくやる必要があるようで、叶えてくれたとしても抜けてしまうことはあるらしい。

 そして今、この願い事に関して考えると、確かに可愛いものに関しての遭遇率は上がったかもしれないが、そもそも定義の部分があやふやだし、遭遇出来ても逃走されたりする可能性がある。
 テイム出来そうでもテイムできず、触れたくても触れられず‥‥‥見ようによっては、地獄になり得るのではなかろうか。

 うん、気が付かなかったことにして、黙っておいたほうが良いかもしれない。あるいは今、兄として妹の幸せを望むなら、テイムできる可能性をこっそり上げてしまったほうが良いかもしれない。

「でもその前に、自分の願い事のほうが良いのかな。妖精さん、僕の面倒事に対する遭遇率を減らすこことってできるかな?エンカウント率上昇の逆だから、いけそうな気がするんだけど」
『ドレドレ‥‥‥ウン、ゴメンナサイ。無理デス』

 やってほしかった願い事を問いかけてみれば、僕をまじまじと見た後謝られてしまった。

 妖精が叶えられる範囲を超えていたのか‥‥‥それにしては申し訳なさそうな顔が気になるが、気にしないほうが良いのだろうか。

「それじゃ、知り合いのどこぞやの変態欲望戦隊を真人間にするのは?」
『モット無理!!』

 ミートン一家やタローンを考えて、まだまともな方向に矯正できないかと持ったが、精神を操る系統は禁忌のようでできないようだ。
 いや、それ以上に元々変えようがないものだからこそ、例え妖精以上の存在がいたとしても確実に無理だろうと言われてしまう。

 救いようのない変態って、何なのか…‥‥考えないことにしようかな。

「それじゃ、トーカのモンスターへテイムできる確率を上げて欲しい。僕の方はもう十分すぎる程いるし、妹がより楽しめるようにしたいからね」
『ソレデイイノー?』
「うん」
『ワカッタ!!ヨーセーヨーセ♪ポポポンポン!』

 先ほどのトーカの方の妖精と同じく、僕の方の妖精も瓶からするりと抜け、トーカの頭の上を舞って呪文を唱える。

―――――
>妖精による、願いの成就が確認されました。
>プレイヤー『トーカ』のテイム確率が上昇しました!!
―――――

ポッペ~ン!!
「ん?」
「え?」

 上昇したことを確認して、トーカが喜ぼうと再び小躍りしかけたところで、変な音が流れた。

―――――
>妖精の願いを他人に使用し、叶えたことを確認!!
>ムリヤリなどではなく、本人の100%善意によるものだと確認!!
>…‥‥おめでとうございます!!『他人への願い事使用ボーナス』が発生しました!!
>プレイヤー『ハル』の善意に対して妖精女王から褒美があります!!
>アイテム『妖精郷の笛』がアイテムとして与えられました!!

「妖精郷の笛」
妖精女王より、目を付けられた人に与えられる特別な笛。
噴きならせばたちどころに願いを叶えた後の妖精たちが時々羽休めとして過ごす妖精郷へ飛び、自由に過ごすことが可能になります。
運が良ければ、妖精女王に謁見できるチャンスもあります。
―――――

「…‥‥ほぇ?」

 まさかの出てきたアイテムに、思わず僕は変な声を出してあっけに取られてしまう。

 純粋な善意がこういう形で帰って来るとは、流石に予想できなかったのであった‥‥‥

「妖精郷!?さっきの妖精みたいなのがたくさんいるの確定じゃん!!お兄ちゃんそこに行けるなんてズルイズルイよー!!私も連れって!!」

―――――
>なお、妖精の笛を使用した人のみで、テイムモンスター及びパーティを組んでいる人であっても向かうことはできません。
―――――

「なんですぐに出ないで、このタイミングで流れるの!!」

…‥‥何ともコメントしづらい状況になってしまったのであった。

「くくく、面白い、面白いのぅ。この結果は流石に愉快じゃな♪」
「トーカ、いけない鬱憤をそののじゃロリで存分に晴らして良いよ」
「言われなくてもやるよ!!ほら、ぎゅうううううううううっと!!」
「ぐべえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 




しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

処理中です...