アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
98 / 718
Ver.2.0 ~広がる大海原の世界~

ver.2.1-37 体育座りは、どこでも基本なのか

しおりを挟む
‥‥‥レイドボスとして、存分に暴れるのは中々無い体験だろう。
 全力で相手を薙ぎ払い、蹴り飛ばし、可燃性の毒の霧を出してそこに黒い炎を当てて爆発させたりと、何かと普段やる戦法がさらに強力なものになってプレイヤーたちを吹き飛ばす光景は、ちょっとした無双状態ともいえるかもしれない。

 だがしかし、プレイヤーたちとてただで倒れることも無く、しっかりと事前に運営からの告知から弱点武器屋属性なども調べ尽くしているようで、こちらの攻撃を耐えてから反撃を仕掛けてくるなど、油断はできず、けれどもそれはそれで白熱した戦いが楽しめるので面白くもある。

 そう、できればその戦いに集中させてほしいところなのだが…‥‥世の中うまいこと行かないものである。


「「「「ひっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 ドォォォン、ドッカァァンっと爆発し、ふっ飛ばされているのは欲望戦隊ミセタインジャー。悲鳴を、涙を出しまくるもその弾幕は収まることはなく、さらに激しいものになっていく。


『‥‥‥でも、こっちの出したものじゃないんだよね』

 レイドボスとして参戦しているせいか声がやや加工されている状態でつぶやくが、その言葉に周囲にいた他のプレイヤーたちもうんうんと頷く。

 無理もないだろう。レイドボスでもないのに、レイドボスがやるようなド派手な攻撃を2人のプレイヤーがやっているのだから。
 正義の戦隊もののを被った欲望渦巻く者たちに対して、制裁を下している光景は何か間違っているようなそうでもないような空気を生み出し、全員同じ気分になるだろう。


「ひぇぇぇぇ!!やめてくれえぇ!!ルーン、ラサーダ!!今はレイドバトル中で、全員と協力せねばいけない場面じゃぞ!!」
「お願いしますよお孫さんに姉御ぉぉぉ!!」
「こちらも酷い目に、合うんですけどぉォォ!!」
「家族構成に含まれていないのに、巻き添えを喰らうんだが!?ロリッコの攻撃ならともかく、圏外レベルのと、」

ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

「だまらっしゃい!!最初から心の声が駄々洩れだから、すっかり全部聞こえていたんだよ!!」
「お爺ちゃんたち、まーだそんなことを言っているの?もぎ取らなければいけないの?」

 強烈な爆発でふっ飛ばしているのは、背丈が小さなお婆ちゃんと、しっかり重装備の鎧を着こなした女騎士のようだが、何者なのかはここまでのふっ飛ばしで既に誰もが理解しているのだろう。
 そう、あのお婆ちゃんこそがミートンの奥さんにしてこのアルケディア・オンライン内ではプレイヤー名をラサーダと名乗り、女騎士の方が孫娘のルーンさんらしい。

 どうも戦士と魔法使い、その上級職の立場にあるようなのだが攻撃力を見る限りではラサーダさんの方がはるかに上を行くようで、そこそこレベルが高いはずの欲望戦隊を赤子の手をひねるように、いや、さらにねじり切っていくような様を見せ付けてくる。あ、本当にぶちぃぐしゃぁっとねじり切った。


『あのー、レイドバトル中にボスを務めている自分が言うのもなんですが、喧嘩はできればよそでやってくれないでしょうか?』
「あらあら?済まないわねぇ、お邪魔してしまって。でもね、それは無理よ。この男たち、この場から去ることが出来ればすぐさま逃亡するのが目に見えているもの!!」

 戦場が少々士気を吹き飛ばされたので、いったん中断させて注意を告げると、ミンチになったミートンを手にもちながら、穏やかに笑ってそう告げるラサーダさん。

 うん、確かにそうかもしれない。

 一応、この場は戦闘領域としてプレイヤーたちが強制的に転移させられており、逃げることができないようになっている。
 だがしかし、戦闘領域から退散して出てしまえば、通常プレイと同様に逃走を図る事も可能であり、彼らがこの場から逃げたらすぐさま世界の果てまで逃げそうなのは目に見えているだろう。


‥‥‥ならばログアウトして現実でやりあってほしいと思うのだが、それはそれでできないらしい。

「すみません、黒き女神様。お婆ちゃんは一度怒ると、本当に血を見る様な争いを見せかねないんですよ。お爺ちゃんは道場の頂点に立っていても、武術ではお婆ちゃんの方がはるかに強くて、過去に何度救急車にお世話になった事やら…‥‥でも、あんな人たちだからそれでもどうにか生きているんですけれども、万が一という事もありますからね」

 心配しているようにルーンさんが代わりに説明してくれたが、確かにゲーム内で無いと本当に刃傷沙汰になりかねないらしい。それだったらむしろ警察にお世話になってくれたほうが良いような気がしなくもないが、そこまで大事にもしたくないそうだ。
 それはちょっとした家庭内DVになるではないかとも思えるが、ほとんどの原因はミートンさんたちがやらかすことのようで、それに対してラサーダさんが激怒するそうな。


 何にしても、暴れまわるのは流石にこちらが目立たなくなるというか、レイド戦の障害になりかねないので一旦戦いの場を治め、運営側に連絡する。

 すると、流石にこの騒ぎが長時間出ると支障がでると判断してくれたのか、特別な一室を用意してくれるそうで、そちらに移動させてから再開できそうである。

【ブモゥ、ブモォォゥ】
「よしよし、マッチョン。お爺ちゃんたちへ沙汰が下されるまで、ちょっとこっちで遊ぼうね」
【ブモゥ】

 体育座りをしながら巻き添えに遭わないようにマッチョンが待機していた。このオーク、状況を冷静に判断して、いつの間にか避難していたようで、中々状況を読む力が高い様子。いや、そもそもこんな状況を味わっていたら、否応なく適応するのかもしれない。

 そして10分後、無事に欲望戦隊及びその奥方や孫たちがその場から去った。

「よぉぉぉし!!今の休み時間でたっぷり休憩ができた!!」
「黒き女神様、気を取り直して挑ませてください!!」
『言われずとも、こちらも全力を出させてもらおう!!』


…‥‥正直言って、あの夫婦喧嘩を見たせいで何とも言えない空気が漂い、その場にいる全プレイヤーたちはその雰囲気を吹き飛ばすために、レイドボス戦へ集中し始めるのであった。

 ちょっと残っていた赤いもの?そちらは再開する前に、しっかり全員で掃除しておいたよ。プレイヤーたちも一緒になってやっていたが、誰だって汚くなるというか凄まじい戦場跡地だとやりにくいからね。
しおりを挟む
感想 3,603

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...