アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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Ver.2.0 ~広がる大海原の世界~

ver.2.1-34 大乱闘前の、ほんのひと時

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「…‥‥うぉぉぉぉぉ!!いよいよレイドバトルイベントだぁぁぁぁあl!!」
「おー、珍しく張り切っているのデース弟よ。そんなにこのイベントが楽しみだったのデースか?」
「当たり前だ!!ここ最近はそんなに動けなかったからなぁぁぁぁ!!」

 異様にやる気を出す中三病に対して、ティラリアが問いかけると元気のいい返答がくる。いや、元気の良さというよりも、貯まっていたストレス全てを吐き出そうというように勢いが良いだけなのかもしれない。
 無理もない、今もなお絵面としては、大きなウツボカズラのような食虫植物に半分飲み込まれた形でいるのだから。

「とは言え、ハルさんと合流できないのはちょっと残念か。このイベント、参加者が出ることはできても告知された3体のうち、誰か一体としか戦えないようだからな…‥‥」
「んー、彼の可愛いテイムモンスターたちとふれあいたいのに残念デース」

 それでも、やる気がそがれることはない。戦力が増えてくれた方が嬉しいのだが、レイドバトルには全力を尽くそうと決めているのだから。

「何にしても、問題ないのデース!!こちらもテイムモンスターの中で、制限の5体として選抜した戦士たちがいるのデース!!」
【【【【【ガゴォォォォォォォォォ!!】】】】】

 ティラリアの言葉に対して、同意の意思を叫ぶテイムモンスターたち。その容姿はそれぞれ白亜紀やカンブリア紀にいたような、古代生物のような見た目をしつつ凶悪なハンターたち。
 それぞれが鋭い牙を、爪を、頭を輝かせ、やる気は十分高ぶっているようだ。

‥‥‥なお、現在進行形でもぐもぐと中三病を食っているのは彼のテイムモンスターではない。状態異常『寄生捕食』を引き起こしているモンスターなのだが、このどさくさに紛れて相手の攻撃で葬れないかと言う企みもあって、この場にいるだけである。

 何にしても、こちらの陣営はこれはこれでレイドバトルに対しての意気込みを十分に持っているようであった。

「しかし、この絵面は絵面で壮観だが…‥‥相手の中に、怪獣ってのがあるのが気になるんだよなぁ。これ、下手すると大怪獣バトルのような絵面になるのだろうか?」
「望むところデース!!真の怪獣女王はどちらなのか決めてやるのデース!!」

 正直、どっちが女王になっても絵面としては変わらないような気がしなくもない。








 そして一方で、また別の高ぶりを見せる一団も存在していた。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!絶対に黒き女神さまと出会い、全力で勝負するのじゃぁぁあ!!」
「レイドボスとは言え、告知から察しても素敵な女性なのは間違いない!!」
「だからこそ、この機会にお近づきになって親しくなるのだぁぁぁ!!」
「ロリはいないように見えて、このレーダーに反応がある!!絶対に存在すると!!」
【‥‥‥ブモォウ!!】

 欲望戦隊ミセタインジャーの一団は、その戦隊のような衣装の時点で既に目立っていたのだが、立ち上る欲望の渦を見て周囲のプレイヤーたちは一歩下がっていた。
 やる気が十分あるのは良いのだが、感じてしまう邪すぎる思いに近寄りがたく、ちょっと距離を取ってしまうのである。

 けれども、そんな事を彼らが気にすることはないだろう。今の想いとしては、レイドボスの一体に出てくる黒き女神へ向けられているのだから。他の者たちは眼中になく、狙うのであれば彼女一人であると最初から決めており、より一層欲望の湖があふれ出していく。

 ちなみに、彼らの中で唯一の常識人枠に入っているマッチョンもやる気を出しているが、こちらは純粋に欲望よりも、オークの種族としての本能なのか単純に戦意が向上しているだけであったりする。異性を狙う種類もいるのだが、インテリジェンス・オークへと、そしてさらなる進化の兆しも最近見せ始めているようで、理性の方が強く出つつ戦う道も選んでいるのだ。

「しかし、ミートン。そちらの奥方は大丈夫だろうか?」
「大丈夫だタローン。今日はうちの奥さんは女子会とやらで孫娘たちと別パーティを組んでおるからのぅ。わざわざ離れた場所でログインしておるし、そう簡単に出くわすことも無いじゃろう」
「先日のあの島ひとつが吹き飛びかねない怒りは恐ろしかったが‥‥‥」
「それでも喉元過ぎれば熱さを忘れる、あの怒りがこちらに向かないように、バレなければいいだけの話なのだ」

 この間叱られたばかりだというのに、彼らの精神はめげる事を知らないらしい。いや、むしろ限界を突破するほどの欲望ゆえに、恐怖というものを忘れ去っているのかもしれない。

「個人的にはハルさんたちも交えて戦いたいのじゃがのぅ。絵面としては、正義の戦隊と悪の組織の協力戦線として物凄く燃えそうな場面になりそうなのじゃが」
「無理かもね。今回のレイドバトルは、誰がどこに飛ばされて、誰の相手になるのかも分からないランダムなレイドバトル」
「パーティメンバーがバラバラになるのは仕方がないが‥‥‥事前情報だと、テイムモンスターはテイムしている人と一緒なのは変わらないらしいし、誰かが混ざって来ることも無いようだ」
「残念無念‥‥‥彼らの中には、我々がテイムし損ねたロリ巨乳モン娘がいたというのに…‥‥」
「「「非常に惜しい事だ…‥‥」」」

 血涙を流しつつうなだれる者に、一同はうんうんと同じく涙を流して深く頷き合う。

 絵面としては敗北した戦隊なのだが、その中身が酷いので、妙な違和感しか周囲は抱かないだろう。


「とにもかくにも、やるからには全力を!!全員バラバラになって違う相手と戦う可能性はあれども!!」
「この人数ならば誰かが黒き女神様とお手合わせをする確率は非常に高い!!」
「だからこそ、しっかりと引き当てれば画像もたっぷり撮りまくり!!」
「後でゆっくり、全員で鑑賞会を行うのだぁぁぁ!!」
【ブモゥ】

 やる気の溢れる面々を見て、一応混ざっておくマッチョン。冷静だからこそこの面子の呆れるほどの欲望を理解できるが、その分放置しておけばもっと不味いかなと思い、離れることはない。でも、念のために後でしっかり報告したほうが良いかなと思い、記録は取っておくのである。

‥‥‥実は何気に、ミートンの孫娘がテイムしているモンスターの一体と仲良くなっており、この中で勝ち組に入っているという事実が後で判明するのだが、それはまた別の話である。








 そしてさらに一方で、こちらはこちらでレイドバトルに対して少々思うところがある面子も存在していた。

「むぅ‥‥‥大怪獣、機械、そして黒き女神‥‥‥前者二名は一応心当たりがあるが、最後の一名に思いっきり誰かを想像できてしまうのは何故だろうか」
「そりゃ、こちらが知っているような人しかないと思うからだぜーよ」
「プレイヤーがレイドボス側になる可能性なんて、無いと思いたいのだけれど、ありえなくもないのが怖いのよねぇ」
「何にしても、戦う相手になるかもしれないというのは、きちんと心しておくべきだべさ」

 ぽっけねこ含め、以前ハルと共に白黒の塔へ挑んだギターマン、オハナ、グランプ。それぞれ黒き女神に関しての情報を知っているだけに、今回のレイドボスに出てくる情報を聞いて色々と考えてしまう。
 しっかりと秘密は守っているのだが、それでもこうやって大々的に出てきたところを見て、ちょっと疑問を抱かないわけがないのだ。

「彼が隠していたからね‥‥‥それでもこうやって人前に出る可能性を考えると、何か裏もありそうだよねぇ」
「本人たちを模した、コンピューターによる人工物の可能性もあるのだぜーよ」
「でもねぇ、何か褒美とかあるかもしれないよねぇ」

 攻略・前線組のトップにいるからこそ、レイドボスに関しての情報もより多く集めたい。

 なので一応、ハルに対しても聞いてみたが、こちらはこちらでややはぐらかされるような内容が多くて、つかみどころがない。

「まぁ、秘匿すべきだとかそういう考えがあるかもしれないけれども、気になることは気になるし、戦えた時に色々と知っておこうか」
「そうだべな。何事もその時にならねば分からないこともあるべ。だからこそここは、しっかり心構えを持って、全力で相手を出来るようにするべきだべ」

 とは言え、前回のダンジョン攻略に一緒になっていた時からソコソコ時間も経っているので、以前とは実力が異なる可能性もある。いや、レイドボスになっている可能性を考えると、さらに強化されている恐れすらあるのだ。

「それに、最近の話だとテイムモンスターも最大の5体になったようだし…‥‥こちらはこちらで要注意かな?」
「人数が多く、種類も豊富な分、攻撃手段も増えるものねぇ」

 連携攻撃によって、新しい攻撃手段やスキルが出てきやすく、脅威度がますます増すことを彼らは良く理解しており、ハルもテイムモンスターたちと良く連携が取れているので、更に脅威が強まっているのを確信できるのだ。

「しかもレイドボスと考えると、特殊な仕様が追加される可能性もあるよね」
「よくありがちなのは、仲間と一緒に出てきて数が減るほどパワーアップ…‥‥ありえそうなのがこわいのだぜーよ」
「それでもやらなければいけないわ。攻略のためにも、常に情報を最前線で集めなければいけないの!」
「そうだべな、恐れては何も進まないべ!!」


 団結しつつ、お互いバラバラになっても死力を尽くして徹底的に挑もうと気合いを入れる。

 それぞれの思惑が入り混じりつつ、もう間もなく開始されるイベント最終日のレイドバトル。

 それがどのようなものになるのかは想像できないが、プレイヤーたちが一致して思うのは、一生懸命楽しむことなのであった‥‥‥‥



「‥‥‥のじゃぁ、プレイヤーたちばかりズルイのぅ。楽しみたいのじゃ」
「無理、私達NPCだから、参加できない」
「むぅ‥‥‥じゃったら誰か、代打でも呼ぶかのぅ?NPCが無理なら、プレイヤーに現場中継…‥‥いや、いっその事、運営と交渉して誰かを代わりに出してほしいのぅ…‥‥」
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