アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.1-21話 非常に苦労が、伺えまして

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「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…‥‥こ、この間の逃走劇ぶりに、疲れた‥‥‥」
【シャゲ、シャゲェ…‥‥】
【ガウガウ‥‥‥】
「す、すまないな、ハルさんとその仲間たち」
「いやいや中三病さん、体を張って止めていてくれなければ、今頃そこら中の犠牲者と同じ目に合ってましたよ」

 全力疾走逃亡劇を30分近く繰り広げつつ、ようやくあのデースデース女騎士がログアウトして、僕らはようやく安堵の息を吐いた。
 考えたら速攻でログアウトによる逃走をしておけば良かったかもしれないが、恐怖というのは時として人から冷静な判断を奪うようで、無駄に体力を消耗してしまったのである。マリーにリンも流石に疲れ果てているようで、ぐったりと倒れているしね。

「それと中三病さん、顔面大丈夫ですか?潰れたアンパン状態なんですが」
「ははは、前が見にくいがこの程度大丈夫だ。‥‥‥PvPとかでないと普通は他のプレイヤーにダメージを与えられないとは思うのだが、あの姉はその壁を越えて精神・物理的なダメージを与えてくるがな‥‥‥」

 どうやら恐怖女騎士は、中三病さんの姉らしい。現実でのプレイヤーの素顔は暗黙の了解で誰も聞くことは無いのだが、この程度ならば話してくれるそうだ。
 いわく、中三病さんは色々と家庭の事情が複雑らしくて、姉と言っているけれども正確に言えば腹違いの姉に当たるらしく、先日までは国外で過ごしていたそうだ。
 だがしかし、人事異動とやらで動かされたそうで、中三病さんのところへ舞い戻り、そこでこのアルケディア・オンラインの事を知ってプレイし始めたそうである。

「それでな、自由度が高いゲームゆえに、Atkとか設定されているけれども、現実での運動神経もある程度関連するからこそ、あの姉はバケモノじみた強さを発揮したんだ」

 村の中にあったドワーフの喫茶店に場所を移して落ち着きつつ、話は続く。

「化け物じみた強さって、先ほどの抱きしめ潰しですか?」
「そうだ。何を隠そうというか、隠すつもりもないが、他のNPCがどさくさに紛れて怪力ゴリラとか言っていただろう?実はあの姉は、女子プロレスにボクシング、柔道、テコンドー、空手に合気道‥‥とにかく鍛えるのが趣味であり、現実でもチートかよと言える仕上がりを見せてしまっているんだよ」

 どんな姉だそれは。そうツッコミを入れたいが、中三病さんの顔を見る限り相当苦労しているのがうかがえる。暴君の姉らしくて、それでいて本当にティラノザウルスとかも好んでいるそうで、そこから名前をちょっともらってここでのプレイヤー名は『ティラリア』…‥‥暴君恐竜進撃の姉って、怖くない?
 なお、他の知り合いの姉弟な人たちは普通に良い人が多かったりするので、中三病さんのところが稀な例外だと思いたい。喧嘩をするところもあるらしいけれども、それでも力関係が極端すぎるのは相違ないはずである、多分。なお、暴君に近いが仁義はあるようで、古いもので言い表すならばスケバンとかが当てはまるらしく、悪人ではない‥‥‥と、一応言っているそうだ。

 
 何にしても今回、中三病さんがこのドワーフたちの村にいるのも、ティラリアさんに一緒に来いと言われて、仕方がなく同行させられているらしい。
 本当なら前線組としてエルフの村の方へ行きたかったそうだけれども、他のパーティメンバーに問いかけたら生贄として捧げられたそうだ。見捨てたとも言えるか。
 そしてドワーフたちが暇つぶしのつもりで始めていた腕相撲大会に参加して、現在に至るらしい。

「‥‥‥本当に、苦労してきたんですね中三病さん」
「ああ、本当に、本当に、ほんっとぅっにぃ‥‥‥ぐうう」

 凄まじい苦労があったようで、うぐぐすぅっと泣きそうになっている中三病さん。相当な苦労が見えるようで、物凄く同情させられるのであった。






 話が重くなってきたのでここは一旦切り上げ、ひとまず何か新しい話題にした。

「そう言えばハルさん、今こうやって見せてもらっているが、彼女達もテイムモンスターなのか?容姿からして、多分ハルさんがテイムしていた蛇と豹が進化した姿だと思うが‥‥‥」」
「ああ、そうだよ。種族はそれぞれ『パールナーガ』に『ヒューマンレオパルド』。説明を見る限り、多分野生のモンスターでも出る可能性がある」
「なるほど。進化条件とかは分からないか?」
「あー‥いや、どうなのかな。色々と重なっているんだろうけれども、細かい部分まではね」

 大体予想は付いているのだが、あまり言いたくはない。『女体化』スキルが大体の元凶だと思うけれども、このスキルがあるのはねぇ。

「残念、分かればこちらの前線組でも共有したかったのだがな。特に知り合いが、モンスター娘や獣娘、あるいは何かと擬人化された類が好きだったので、教えれたのだがな」
「前線組に、そんな人が?」
「そうそう、かなり濃い奴も多い。ほら、始まりの街で教鞭を振るうゴリラマンさんがいただろう?あの人にあこがれて、ゴリラ装備で固める奴や、あるいは装備品全部無しの裸一貫で挑む奴なんかもいるからな」

 前線組、もしかして単純に濃い人しかないのでは?そう言えば、ぽっけねこさんも某猫ロボ風な姿を好んでいたし、何かと特徴が多い人だらけなのだろう。
 そう考えると、中三病さんはまだ薄い方に…‥‥いや、そうでもないか。タトゥーのようなものをつけているけれども、ゴリゴリに派手な絵柄だしね。

 人の趣味嗜好はさておき、何かとこの新アップデートで出て来た要素について軽く盛り上がる。このドワーフの村だと鍛冶の制作評価が上がりやすいとか、メールなどで見る限りエルフの村の方では魔法とはまた違った要素があったり、テイムモンスターとはちょっと異なるものが存在するって話も出ているようで、これはこれで興味深い。

「っと、話しているだけだと時間がもったいないか。ここは手っ取り早く、あちこち探検してもっと隠された要素などがないか探しに行かないか?」
「それも良いですね。あ、でもすぐにではなくちょっと待ってくれませんか?クエストを今やっているんですよ」
「ほぅ?どんなのだ?」
「鍛冶師の親方からもらった手紙を届けるもので…‥‥」













‥‥‥ハルたちが新しい要素の話題で盛り上がっている丁度その頃。今回のアップデートで追加されたうちの一つ、大樹の村でも盛り上がりを見せていた。
 エルフという種族は基本的に美男美女が多く、大勢のプレイヤーたちはその光景に心から目の保養を楽しんでいた。中には声をかけて友好関係を築こうとする者や、ナンパを試みる者もいるだろう。一応、不埒な輩の対策としてか、きちんとそのあたりを見張る衛兵たちも巡回しており、連行される者たちもいた。

 そんな中で、大樹の村の奥深くに存在する大樹の祠の中で、巫女たちは舞を踊っていた。
 プレイヤーたちもある程度の見学可能な領域もあるのだが、この場所は不可侵の領域であり、尊小佐野一族以外は入ってはいけない場所で、その舞は行われていた。

「のじゃぁ、かれこれ3時間の舞も疲れるのぅ…‥‥父上ぇ、そろそろ出てもいいかの?」
「ダメだ、お前はこの間運営に怒られ、厳しい処罰を受けただろうが。精神的にはまだまだ懲りぬ様子があるからこそ、より激しい『春風の剣舞』を踊り続けて完成させねば許さん」
「のじゃぁぁ‥‥‥」

 うううっと泣くふりをするのじゃロリ‥‥‥もとい、ようやく今回のアップデートで正式な名称を与えられたレティアは嘆く。目の前に立つだいぶいい歳なのにダンディといえるような容姿の自身の父親でもある長に対して訴えようにも、全然聞く耳を持ってくれないようだ。
 先日のポイズンクラブやその他諸々自由にしていた時にやらかしたことに関して、厳しいお仕置きを受けており、どうやら父親の方も事態をしっかりと重く見ているらしい。
 できればもうそろそろ許してほしいとは思うのだが、簡単にはいかないようである。

「そもそものぅ、父上。わらわは遊んでいただけじゃぞ?それなのに、勝手に他の輩が襲ってくるのは不可抗力じゃろ」
「それはそうだろう。だがな、自由奔放にし過ぎると痛い目に遭う事があるから慎重に動けと言ったのに、その言葉を守らずに好き勝手していたのはどこの馬鹿娘だ?」
「の、のじゃぁ…‥‥」

 父のギロリと睨んでくるすさまじい威圧を兼ね備えた目力に、思わず怯むのじゃロリもといレティア。普段は優しい親なはずだが、運営からの伝えられたやらかし具合に怒っているようで、まだまだ解放されることは無いと悟らされる。

「まったく、運営から与えられていた自由な期間で研鑽を積むと思っていたが、やらかしまくる旅路とはな‥‥‥とは言え、勧善懲悪などは評価するべきだろう」
「のじゃ!じゃったら、」
「だが、それとこれとは別だ。お前のせいで迷惑を被ったという話の方が多いからな」
「あ、上げて落とすじゃと…‥‥!?」

 一瞬の希望の光が、瞬時に潰されて絶望の顔になるレティア。自分の蒔いた種が見事に芽吹き、自身に襲い掛かっているという自業自得ではあるので、当り前だと他の人達も頷いてしまうだろう。

「さてと、あと1時間ほど舞をしておけ。今日はそのあたりで許すが、2日ほどまだまだ続くからな」
「のじゃぁぁぁぁぁ!!それは流石に辛いのじゃ、児童虐待などで訴えてやるのじゃ!!」

 のじゃのじゃのじゃぁぁっと憤慨するレティアではあるが、残念ながらその訴えは意味をなさないだろう。児童というにしても、実は見た目以上にしっかりと年齢を彼女はとっているからだ。


「はぁ、自由気ままに育てすぎたか…‥‥とは言え、あれで悪い事の分補うかのように善行もしているから、どう扱うべきか難しい所だ」

 祠から出て、レティアの父はそうつぶやきながら家の方へ向かう。
 自身にとって大事な娘の一人だが、多少自由にさせ過ぎた自覚はあるので、叱ることはするけれども内心少々罪悪感が無いわけでもない。
 けれども、あまりにもやり過ぎた部分もあるので、償わせないといけない部分もあり、父としては子にどの程度の呵責をすればいいのか、迷うところもある。

「あれで次期長なのだからなぁ…‥‥もう少し、しっかりしてくれないと次に進めぬ。子育てとは、本当に難しいものだ」

 親として心配したり、長としてある程度の規律を守らせたりとするので、娘との付き合い方が中々難しい。下手にやるわけにいかず、かと言って押さえないわけにもいかない。
 父親として思う心はあるのだが、もう少し大人しくなってほしいなぁと思うのであった。

「帰ったぞー、あと1時間後には舞を終わらせるから夕飯は休憩も考えて少し後の方にしてくれ」
「あらあらあなた、早いお帰りね。レティアちゃんの反省は?」

 家に帰ると、長の妻が出迎えてくる。

「まだもうちょっとかかる。今は舞で精神を鍛えているが、難しいなぁ‥‥‥ん?そう言えばロティはどうした?あいつは確か、そろそろ舞を終えて帰宅する頃合いだろ」
「あらぁ、今朝の話を聞いていなかったのかしら?人の話をしっかり聞くようにって娘にもいっているのに、あなたも抜けているのね。親としては、手本を見せないと」
「うっ、痛いところを‥‥‥‥だが、話とは何だ?」
「言っていたじゃない、ロティちゃんが舞に使っていた扇の新調をするって。新しい素材が手に入って、より良い舞ができそうだから、震えよ我らが咆哮の村のお得意様に作ってもらうそうよ」
「そうか‥‥‥むぅ、だが娘の一人旅も心配なのだがな。確か、あの村にもプレイヤーとやらが入れるようになったのだろう?変な男性プレイヤーとやらが狙わなければいいのだが」
「大丈夫よ、あの子はあの子で見る目はあるもの。あとはわたし譲りの、しっかりした護身用の舞もマスターしているわ」
「…‥‥アレ、かぁ…‥‥」

…‥‥かつて長は、目の前の妻に対して求婚した際に、勢いを付け過ぎて少々不審な行動をとってしまったことがある。そして、その行動が襲うように見られたらしく、その護身用の舞を見事に喰らい、地に伏したことがあるのだ。
 当時の経験を思い出し、恐怖で身を震わせる長。この大樹の村の長という役目を背負っておきながらも、そのトラウマのせいで妻には全く頭が上がらない人になっていたのであった‥‥‥‥
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